パナソニック「LUMIX S9」のレビュー第三弾を公開。今回は大幅に強化されたLUT関連について。粗削り感のあったS5IIやG9IIの同機能と比べて、遥かに使いやすく、面白い機能となっています。
簡単なまとめ
RAW現像ほどの柔軟性ではありませんが、個性的なLUTを作ったり、使ったりすることが出来るカメラ。
LUMIX S5IIやG9IIのリアルタイムLUT機能は粗削りだったものの、LUMIX S9ではカメラの機能が強化され、専用アプリとの連携で洗練された使い勝手となっています。
また、LUTは39もの登録枠があるうえ、スマートフォンから出し入れは無制限。さらに、LUTの合成や濃度の調整を施したマイフォトスタイルを最大120も登録することが可能で、個性的な絵作りを目指すことができます。LUTに関しては類を見ない機能を備えたカメラ。
今のところ同じような機能を利用可能なのはLUMIX GH7のみ。今後の新機種では、この機能があたりまえになっていくことでしょう。将来的にLUMIX S9の強みとは言えなくなるかもしれませんが、この先進的で面白い機能を早く使ってみたいのであれば、LUMIX S9を買う価値があります。
While not as flexible as RAW development, it is possible to create and use unique LUTs, and while the LUMIX S5II and G9II's real-time LUT functions were crude, the LUMIX S9 is more sophisticated with its camera features and dedicated apps.
There are as many as 39 registered frames, and the number of frames that can be taken in and out of the camera from a smartphone is unlimited. You can also register up to 120 My Photo Styles with LUT composition and density adjustments. Although it is a full-size mirrorless camera in a compact body, it seems to be a camera with unparalleled functionality when it comes to LUTs.
So far, only LUMIX GH7 is available with the same functionality. This is expected to become the norm for new LUMIX models in the future. This may not be a strength of the LUMIX S9 in the future, but if you want to use this advanced and interesting feature as soon as possible, it is worth buying the LUMIX S9.
Index
LUMIX S9のレビュー一覧
- パナソニック LUMIX S9 レビュー Vol.5 メニュー編
- パナソニック LUMIX S9 レビュー Vol.4 ドライブ編
- パナソニック LUMIX S9 レビュー Vol.3 LUT編
- パナソニック LUMIX S9 レビュー Vol.2 ダイナミックレンジ編
- パナソニック LUMIX S9 レビューVol.1 ハイブリッド・クロップズーム編
- パナソニック LUMIX S9 ハンズオンレビュー 外観や操作性の確認
LUT
LUTとは
LUT(Look up table ルックアップテーブル)とは「入力された値に対して、出力する値を割り当てる」テーブルを指しています。細かい話は省きますが「元の画像」の情報を基に、色や明るさを設定した数値を一括で反映するプリセットのようなもの。
JPEGや動画に適用するため、RAW現像ほど幅広い編集はできません。主にダイナミックレンジの広い記録モードである「ログ」に適用することを想定して作られています。ログモードとは後処理の柔軟性を最優先したRAW以外の静止画・動画ファイルみたいなもの。LUMIXで言うと「V-log」、他社では「S-log」「Canon Log」「N-Log」「F-Log」など様々なログがあります。また、それぞれに対応するLUTが存在しており、他社用のLUTは適切に機能しません。
リアルタイムLUTが実装されたLUMIXカメラはこの限りではなく、様々なLUTを様々なフォトスタイルに適用・作成することが可能。フォトスタイルのみをカスタマイズするよりも圧倒的に幅広い調整が可能で、気軽にカメラに適用できるのが強み。
RAW現像がメインの人にとって全く関係のない話ですが、それでも一度使ってみると面白さに気が付くかもしれません。「RAW現像せずにLUTでいいな」という人もいるはず。
LUTライブラリ
LUMIX S5IIからカメラ内部に外部のLUTを保存可能。LUMIX S9では従来機で「10」枠まだったLUTライブラリが「39」枠まで大幅に拡張。様々なLUTをカメラにストックできるほか、スマートフォンアプリ「LUMIX Lab」との連携で大量のLUTを出し入れ・管理することが可能となっています(後述)。少し手間ですが、SDカード経由で自作・配布されているLUTをカメラに登録することも可能。
リアルタイムLUT
S9の強化ポイント
- LUTボタンで素早くLUT切り替えが可能
- カメラでライブビューで効果を確認しながらLUT変更可能
- フォトスタイルがV-log固定ではない
(ただし、LUTが指定するフォトスタイルから変更はできない) - LUT濃度の設定項目追加
カメラ背面にあるボタン「LUT」に初期設定で登録されている機能。登録したLUTは「リアルタイムLUT」機能を使用することですぐに呼び出すことが可能。従来機はフォトスタイルの一部となっており、登録したLUTを切り替えるのにひと手間必要でした。
LUMIX S9ではLUTボタンを押して左右カーソルでLUTを選ぶだけで使用可能。気軽に使うことができる水準の機能となっています。
ライブビューで効果を確認できる
従来機(S5II・G9II)は背面モニターやファインダーでLUT切り替え時のライブビューを使うことが出来ません。しかし、S9ではLUTの効果を確認しながら素早く切り替えることが可能となっています。使い勝手はフォトスタイルとほぼ同じ。
フォトスタイル V-log固定ではなくなった
従来機(S5II・G9II)はリアルタイムLUT使用時のフォトスタイルが「V-log」固定で、他のフォトスタイルに切り替えることはできません。スチル向けLUT(ベースがV-log以外)はマイフォトスタイルに登録する必要がありました。しかし、LUMIX S9ではLUTのベースフォトスタイルへ自動的に切り替わる仕組みを採用。カメラにLUTをアップロードしてから使い始めるまでの手間が一切ありません。
注意点として、リアルタイムLUT上でベースフォトスタイルを変更することはできません。LUTを適用するフォトスタイルを変更したい場合はマイフォトスタイルへの登録が必要。また、LUMIX Lab アプリ以外でアップロードしたLUTがV-log以外を選べるかどうかは未確認。
追記:アプリ以外のアップロードでもベース設定が可能
自作したLUTファイル(「.cube」形式のみ)には、ベースフォトスタイルの情報を付与できます。LUTファイルをテキストエディターで開き、タイトル行の下にフォトスタイル情報を挿入してください。(UTF-8)
フォトスタイル情報 一覧
- #LUMIXPHOTOSTYLE STD:スタンダード
- #LUMIXPHOTOSTYLE VIVD:ヴィヴィッド
- #LUMIXPHOTOSTYLE NAT:ナチュラル
- #LUMIXPHOTOSTYLE LCLASN:L.クラシックネオ
- #LUMIXPHOTOSTYLE FLAT:フラット
- #LUMIXPHOTOSTYLE LAND:風景
- #LUMIXPHOTOSTYLE PORT:人物
- #LUMIXPHOTOSTYLE MONO:モノクローム
- #LUMIXPHOTOSTYLE LMONO:L.モノクローム
- #LUMIXPHOTOSTYLE LMONOD:L.モノクロームD
- #LUMIXPHOTOSTYLE LMONOS :L.モノクロームS
- #LUMIXPHOTOSTYLE LEICAMONO:LEICAモノクローム
- #LUMIXPHOTOSTYLE CNED2:シネライク D2
- #LUMIXPHOTOSTYLE CNEV2:シネライク V2
- #LUMIXPHOTOSTYLE 709L:709ライク
- #LUMIXPHOTOSTYLE 2100HLG:2100ライク(HLG)
- #LUMIXPHOTOSTYLE 2100HLGF:2100ライク(HLG) フルレンジ
- #LUMIXPHOTOSTYLE VLOG:V-Log
LUT濃度
LUMIX S9の新機能として、LUTの適用度(濃度)を0~100%の10刻みで調整が可能。従来はベースフォトスタイル以外で癖が強くなるLUTでしたが、そんな時は濃度を低くすることで癖を弱めることが可能。
例えばモノクロになるだけのLUT(色を抜いただけの調整)を用意しておき、濃度の調整で彩度をモノクロから通常(ベースフォトスタイル)までの振れ幅で設定することが出来ます。後述するマイフォトスタイルでは他のLUTと組み合わせることも可能。
マイフォトスタイル
従来機からの変更点・特徴
- 登録枠は従来通り10枠
(ただし、カスタムモードごとに登録が可能「10枠×12モード」) - ベースとなるフォトスタイルを変更可能
- 2つのLUTを登録可能
- 2つのLUT濃度をそれぞれ設定可能
前述したように、リアルタイムLUTのベースフォトスタイルがV-log固定ではなくなったことで、マイフォトスタイルを使用する必要性が大幅に低下しています。その一方、「LUT合成(2つのLUTを適用する)」という新機能を実装しているため、合成を中心として活用することになるでしょう。また、適用するフォトスタイルの変更は従来通り可能。
フォトスタイルを変更可能
リアルタイムLUTは設定されているベースフォトスタイルから変更することが出来ないものの、マイフォトスタイルでは自由に設定変更が可能。かなり癖の強い組み合わせもありますが、前述した濃度設定によりマイルドな描写に調整することが出来ます。
LUTの合成
マイフォトスタイルでは「LUT1」「LUT2」にそれぞれ別のLUTを適用することができ、それぞれ濃度の調整が可能。組み合わせによっては予想もしていなかった結果が得られる場合もあり、色々と試してみるのがおススメ。
ボディ内RAW現像ではLUTの適用や濃度の調整が可能なので、想定されるシーンのRAWで組み合わせを確認しておくと良いでしょう。
フォトスタイルの制限
マイフォトスタイルは初期設定で数が限られているものの、フォトスタイル設定の「表示制限」を解除することで最大10枠のマイフォトスタイルを利用可能。必要ない場合は邪魔になるので非表示でOK。
カスタムモード
前述したマイフォトスタイルはカスタムモードごとに登録が可能。つまり、最大10枠のマイフォトスタイルを、カスタムモードごとに割り当てることが出来ます。初期設定の状態だと、カスタムモード5枠×マイフォトスタイル10枠で、最大50枠の登録が可能。
さらにカスタムモード表示の制限を解除することで、カスタムモード枠を12まで拡張可能。つまりカスタムモードだけで最大120種類のマイフォトスタイルを利用可能。そこまで必要か?というと、おそらく大部分の人は必要ないと思いますが…。
参考動画
LUMIX Lab
パナソニックがLUMIX S9と共に発表したスマートフォンアプリ。今のところ対応機種はLUMIX S9とLUMIX GH7のみですが、将来的にS5IIやG9IIにも対応するとのこと。(Google Play / iOS)
「LUMIX Sync」のような遠隔操作・シャッターリモコン機能には非対応。できることは以下の通り。
- 画像転送(RAW/JPEG)
- 自動画像転送
- LUT転送
- LUTのダウンロード
- ギャラリーの閲覧
- ギャラリー画像の再編集とLUT作成
画像転送(RAW/JPEG)
カメラと接続してRAWやJPEGの転送が可能。RAWに対応していますがファイルサイズが大きいぶん転送速度が遅め。アプリでRAWを編集できるわけでもないので、基本はJPEGのみ転送するのがおススメ。接続画面で自動画像転送機能を利用可能。
LUT転送・順番変更
スマートフォンからカメラに作成・ダウンロードしたLUTを転送可能。また、カメラに登録しているLUTをスマートフォンに転送することもできます。スマートフォン側は制限なしですが、大量のLUTを保存すると仕分ける手段がありません。
カメラ側39枠のLUTはアプリから順番を入れ替えることが可能。LUTボタンから素早く使用する場合は一番上に登録したLUTから順番に表示されます。使用頻度の高いLUTを最初や最後の枠に配置しておくのがおススメ(「1」から左ボタンを押すことで「39(または登録最後尾)」が表示されます)。
LUTのダウンロード
「ダウンロード」ではLUMX公式が公開しているLUTのダウンロードが可能。LUMIX baseで公開されているLUTが多く、リアルタイムLUT使用時は対応するフォトスタイルに自動的に切り替わります。LUTを自作せずとも十分に楽しめる豊富なLUTが揃っています。迷ったらひとまずダウンロードしておき、アプリ経由でカメラに出し入れして試してみるのがおススメ。お気に入りのLUTをベースとして、アレンジしたLUTを作ってみるのもアリ。
ギャラリーの閲覧
カメラから転送した画像を登録(スクリーンショット右上の「選択」の左にあるアイコン)することでギャラリーに加えることが出来ます。カメラから転送した画像以外も登録が可能。カメラからの画像は撮影時のフォトスタイルが表示されるので便利。LUT作成時にベースとなるフォトスタイルを指定しやすい。JPEG画像は編集(後述)可能ですが、RAWは閲覧のみ。
ギャラリー画像の再編集とLUT作成
ギャラリーのJPEGは以下の編集が可能。
- 既存LUTの適用
- ライト
- カラー
- HSL
- トーンカーブ
- 明暗別色補正
- ディテール
- 効果
- トリミング
カメラ用のアプリとしては幅広い画像編集に対応しています。あくまでもJPEGの再編集で、LUT作成時もベースとなるのはLUMIXカメラのフォトスタイル。RAW現像よりも柔軟性が低いため、強めのトーンカーブにすると諧調が破綻する可能性があります。大幅な調整を施す場合はV-logが適していますが、調整する方向性がフォトスタイルと同じなら気にする必要はありません。
編集時のパラメータをLUTとして出力することが可能。ベースフォトスタイルを指定したり、作成時に自由な名前の登録が可能。カメラ側で名前を全て表示できるわけではないため、簡潔で分かりやすい名前がおススメ。
まとめ
RAW現像ほどの柔軟性ではありませんが、個性的なLUTを作ったり、使ったりすることが可能。LUMIX S5IIやG9IIのリアルタイムLUT機能は粗削りだったものの、LUMIX S9はカメラの機能や専用アプリとの連携で洗練されたものとなっています。
39もの登録枠があるうえ、スマートフォンから出し入れは無限大。また、LUTの合成や濃度の調整を施したマイフォトスタイルを最大120も登録することが出来ます。コンパクトボディのフルサイズミラーレスですが、ことLUTに関しては類を見ない機能を備えたカメラと言えそうです。
今のところ同じような機能を利用可能なのはLUMIX GH7のみ。今後の新機種ではこれがLUMIXのあたりまえになっていくものと思われます。将来的にLUMIX S9の強みとは言えなくなるかもしれませんが、この先進的で面白い機能を早く使ってみたいのであれば、LUMIX S9を買う価値があると言えるでしょう。
参考情報
購入早見表
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