このページではニコン「NIKKOR Z 35mm f/1.4」のレビューを掲載しています。
NIKKOR Z 35mm f/1.4のレビュー一覧
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビュー完全版
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビューVol.5 諸収差編
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビューVol.4 ボケ編
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビューVol.3 解像チャート編
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビューVol.2 遠景解像編
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 純正品としては手頃 | |
サイズ | F1.4としては小型 | |
重量 | F1.4としては軽量 | |
操作性 | A/Mスイッチなし | |
AF性能 | 爆速ではない・周辺部使用で精度低下 | |
解像性能 | 遠景で絞れば良好 | |
ボケ | 中距離以降の開放で粗が目立つ | |
色収差 | やや目立つ | |
歪曲収差 | 補正必須 | |
コマ収差・非点収差 | やや目立つ | |
周辺減光 | 非常に目立つため補正必須 | |
逆光耐性 | 問題無し | |
満足度 | 小型軽量だが癖の強いF1.4レンズ |
評価:
小型軽量だが癖の強いF1.4レンズ
残存する収差が多く、絞り開放付近における癖が強いレンズ。「F1.4」をハイスピードレンズとして使いたい人にとって相性が悪いレンズであり、コマ収差や周辺減光、解像性能に注意が必要。特に周辺や隅がソフトであるため、AFの精度が良くない。F1.4はおまけで、F2付近を軸にとして使うのが良さそう。その一方、小型軽量で取り回しが良く、常用できる35mm F1.4としては貴重な存在。
This lens has a lot of residual aberrations, and has strong characteristics near the maximum aperture. For those who want to use the F1.4 as a high-speed lens, this lens is not a good match and requires attention to coma aberration, vignetting, and resolution performance, especially in the periphery and corners. The F1.4 is an added bonus and should be used around the F2 range as a main lens. On the other hand, it is compact and lightweight, easy to handle, and valuable as a 35mm F1.4 lens that can be used regularly.
Index
まえがき
2024年7月発売のニコンZマウント用単焦点レンズ。NIKKOR Zレンズロードマップにおける最後の未発表レンズ「35mm S-Line」かと思いきや、無印の廉価版35mmであり、しかもNIKKOR Z初となるF1.4の大口径レンズ。世の中のZマウントユーザーを驚かせた1本。非S-LineのF1.4レンズをシリーズ化するのか今のところ不明ですが、大口径で適度なサイズと価格は訴求力が高いように見えます。
- プレスリリース
- 商品ページ
- 仕様表
- 公式サンプル
- ニコン NIKKOR Z 35mm f/1.4 最新情報まとめ
- 発売日:2024年7月19日
- ニコンダイレクト:104,500円(税込)
- 初値:94,050円
- フォーマット:フルサイズ
- マウント:ニコン Z マウント
- 焦点距離:35mm
- 絞り値:F1.4-F16
- 絞り羽根:9枚(円形絞り)
- レンズ構成:9群11枚(非球面レンズ2枚)
- 最短撮影距離:0.27m
- 最大撮影倍率:0.18倍
- フィルター径:62mm
- サイズ:φ約74.5mm×86.5mm
- 重量:約415g
- 防塵防滴:対応
- AF:STM
- 手ぶれ補正:-
- その他機能:
・コントロールリング
レンズサイズは口径が小さなS-Lineレンズ「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」とほぼ同じ。価格も似ているので、絞り開放の光学性能を重視する場合にはF1.8 S、ボケ重視で開放の切れ味にこだわらなければF1.4と言ったところ。MTFを見る限りでは、中央・周辺ともにF1.8 Sよりも見劣りします。しかし、ボケ質など実際にどのような描写となるのかはMTFでは分かりません。そのあたりは今後のレビューでチェックしていきたいと思います。
価格のチェック
売り出し価格は94,050円。奇しくも値上げ前の「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」とよく似ています。絶対的に見ると安価なレンズではないものの、純正品としてのF1.4大口径レンズとしては手頃な価格と言えるでしょう。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
NIKKOR Zらしい、黒と黄色を基調としたデザインの箱。2018年のZシステム始動時から変化はありません。35mmのコンパクトな単焦点レンズとしては箱のサイズが少し大きめ。35mm F1.8 S-Lineと同程度。レンズ本体のほかに、レンズフードと通常のつまみ式キャップ、説明書・保証書が付属します。
外観
外装は全体的にプラスチックパーツが多めで、フォーカスリングのみゴム製カバーを装着。表面は光沢を抑え、少しざらつきのある塗装が施されています。触った際の質感に安っぽさは無く、しっかりとした作り。ただし、S-Lineのような高級感もありません。
コントロールはフォーカスリング・コントロールリングのみ。L-FnボタンやAF/MFスイッチはありません。シンプルなデザインですが、35mm F1.8 S-Lineすらないコントロールリングを搭載しています。外装の表示はほぼプリントで、加工は施されていません。「NIKKOR」のロゴのみ加工あり。製造国は中国。
ハンズオン
他社が気合の入りすぎている35mm F1.4ばかりのため、同じクラスのレンズとしては驚くほど小型軽量。35mm F1.8 Sや50mm F1.8 Sとほぼ同じサイズ・重量を実現しています。絶対的に見るとコンパクトでも軽くもないレンズですが、35mm F1.4をこのサイズで扱うことが出来るのは嬉しい。
前玉・後玉
前面は62mm径のねじ込み式フィルターに対応。フルサイズでは比較的珍しいフィルター径のため、このまま他のレンズとフィルターを共有しにくいのが悩ましいところ。レンズ前面はフッ素コーティング対応のため、過度にプロテクトフィルターを装着する必要はありません。しかし、C-PLやNDフィルターで光線や光量を調整したい場合は活用したほうが良いでしょう。
レンズ最後尾は大口径Zマウントらしい大きな後玉を搭載。レンズマウントは金属製かつ4本のビスで固定されています。
フォーカスリング
ゴム製カバーの幅広いフォーカスリングを搭載。適度なトルクと滑らかさはS-Lineとほぼ同じ。応答性は良好で、細部のピント合わせでも滑らかな動作で合わせやすい。フォーカスリングはノンリニアレスポンスで、回転速度に応じて移動が制限されます。ピント全域のストロークは素早く回転して約90度、ゆっくり回転すると約180度くらいになる。どちらも適度なストロークで微調整は容易。
コントロールリング
プラスチック製のコントロールリングを搭載。フォーカスリングと比べて抵抗が強く、回転時に少しざらつく感触があります。従来通りクリックはありません。誤操作を防ぐには適切。コントロールリングの機能はカメラ側でカスタマイズ可能。
装着例
Z 8に装着。50mm F1.8 Sや35mm F1.8とほぼ同じ。バランスを崩すことなく、片手持ちで撮影することが出来ます。Z 7など比較的小さなミラーレスでも利用でき、APS-Cカメラに装着しても違和感ありません。
AF・MF
フォーカススピード
フォーカスは2基のステッピングモーターユニットがそれぞれのフォーカスレンズを駆動します(マルチフォーカス)。この方式のレンズはAF速度が高速化する傾向がありますが、このレンズは特に高速には見えません。ストレスを感じない十分なフォーカス速度ではあるものの、近距離で素早い被写体を追いかける場合は力不足となる可能性あり。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
近距離で画角が少し狭く、遠距離で画角が少し広がります。極端に目立つわけではないので、許容範囲内と感じる人が多いと思います。参考までに動画を掲載。
精度
Z 8と組み合わせた状態で中央は良好な精度で、再現性も問題なし。ただし、本レンズは絞り開放付近の周辺・隅がややソフトで、状況によっては収差が目立ちます。コントラストも低く、状況によってはピントの山を外す場合があります。精度の高いAFを期待する場合、中央から像高5割くらいを目安に使うのがおススメ。もしくは、F2~F2.8まで絞ると収差を抑えた状態でAFが可能。
MF
前述したように、使いやすいフォーカスリングを搭載しており、MFによるピントの微調整は容易。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:Z 8
- 交換レンズ:NIKKOR Z 35mm f/1.4
- パール光学工業株式会社
「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」 - オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
今回は数値を測定できたのが中央のみ。周辺や隅は近距離で描写が安定せず、絞っても測定ソフトの誤検出が多かったため除外しました。遠距離では予想よりも良好な結果でしたが、近距離では周辺部が大幅に低下するようです。絞っても劇的な改善がないことから、非点収差が大きいのかもしれません。参考までにカメラのJPEG出力を測定した結果が以下の通り。
周辺部はなんとか測定可能な状態に画像処理されます。ただし、元の画像がソフトなためか、画像処理による改善効果には上限がある模様。絞っても劇的な改善は期待できません。また、隅の絞り開放はJPEGでもややソフトで解析不可。絞っても中央との画質差が大きい。
中央
中央に限って言えば絞り開放から良好な結果が得られます。F1.4ではいくらか低下が見られるものの、F2まで絞ると優れたパフォーマンスを発揮。近距離でも球面収差は良く抑えられているように見えます。
周辺
中央とは打って変わってソフトな描写。特に絞り開放が甘く、F4まで絞っても細部が少し乱れています。F4以降は絞っても大幅な改善が見られず、イマイチな結果。
四隅
周辺よりもさらにソフトな描写ですが、F4まで絞ると周辺とよく似た結果が得られます。
数値確認
中央 | |
F1.4 | 3052 |
F2.0 | 4324 |
F2.8 | 4381 |
F4.0 | 4245 |
F5.6 | 4770 |
F8.0 | 4517 |
F11 | 4057 |
F16 | 3276 |
実写確認
他のレンズと比較
35mmで比較できる製品をリストアップ。(テスト機が異なる場合もあるので参考までに)
安定した35mmのパフォーマンスが欲しい場合はズームレンズのほうが良好。より高価で大きなソニーFE 35mm F1.4 GMは近距離でも隅まで非常に良好な結果が得られています。同価格帯のシグマ35mm F1.4 DG DNもまずまず良好ですが、残念ながらZマウントには非対応。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2024.7.19 曇り 微風
- カメラ:Nikon Z 8
- 三脚:Leofoto LS-365
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 100 絞り優先AE
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネスオフ
・レンズ補正オフ
・ノイズリダクションオフ
テスト結果
軸上色収差やコマ収差によるコントラスト低下が見られるものの、解像性能はF1.4から良好。中央から周辺までシャープな結果が得られています。隅はコマ収差などの影響でソフトな結果ですが、F4~F5.6まで絞ると見違えるように良好な結果となる。隅の画質が必要なければ、F2まで絞ると大部分で非常に良好な結果を得ることができます。F2.8まで絞ると、軸上色収差の影響をほぼ完ぺきに抑えるこが可能。
中央
絞り開放から非常に良好ですが、軸上色収差の影響かハイライトに色ずれが見られます。極端なコントラストではF2まで絞っても色づきがあり、F2.8でほぼ解消。ベストを尽くすのであればF4まで絞ると良いでしょう。
周辺
中央とほぼ同じ結果。像面湾曲の影響は見られず、絞れば目に見えて画質が向上します。F2.8の段階で十分良好ですが、ベストを尽くすのであればF4あたりがピーク。
四隅
周辺減光が強いので補正必須。補正したとしても、隅はコマ収差などの影響で中央や周辺と比べてかなりソフトな結果。絞ると徐々に改善しますが、隅の端まで良好な結果を得るにはF4まで絞りたいところ。F5.6で少し改善しますが、以降に大きな変化はありません。倍率色収差の影響が少し残っています。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
像面湾曲はごく僅かで、実写において大きな問題となることは少ないでしょう。また、F1.4における画質は均質性が悪いため、フレーム全体を重視する場合はF4くらいまで絞ったほうが良好。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
Adobe Lightroom Classic CCでオフにできる補正は全てオフにした状態で現像した結果が上の通り。ただし、これはLightroomでオフにできない補正が組み込まれた結果であり、(歪曲収差と共に)補正がオフの状態となるRAW Therapeeで現像した結果は以下の通り。
ご覧のように、Adobe現像と比べると若干の色収差が残っていることがわかります。画質に大きな影響を与えるほどの収差量ではありませんが、フレーム隅における細部のコントラスト低下の一因となる可能性あり。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
極端な収差量ではないものの、高コントラストな状況では絞り開放付近で色収差の影響があります。F2.8-4まで絞るとほぼ改善しますが、F1.4やF2.0では目立つ可能性あり。色収差とは関係ありませんが、ピント固定で絞りを閉じるとフォーカスシフトの影響が僅かに発生しています(近距離での話)。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
カメラ側で歪曲収差の補正をオフにすることはできず、Adobe製品でも歪曲収差は強制的に修正されます。これをRAW Therapee現像で確認してみると、かなり目立つ樽型歪曲が残っていることが分かります。歪曲収差の補正時にフレーム周辺部がトリミングされ、四隅がわずかに引き延ばされている模様。
ショッキングな歪みですが、ミラーレス用の広角レンズとしてはよく見る設計です。このレンズに限った話ではありません。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
絞り開放で収差による点光源の変形が目立つものの、F2まで絞るとほぼ改善します。隅の画質を重視する場合はF1.4レンズではなく、F2レンズと考えて使ったほうが良さそう。「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」を使ったことは無いものの、海外のレビューではF1.8でコマ収差が目立つとあります。35mm F1.4はF2まで絞ることで改善することを考慮すると、夜景にはより適した選択肢となるかもしれません。
球面収差
前後のボケ質に大きな差はありませんが、近距離では前ボケのほうが強い縁取り。ただし、これは点光源との距離やボケの大きさで変わってくる可能性あり。(玉ボケレビューの項目で紹介)
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
後ボケ
ニュートラル寄りの滑らかな描写。僅かな滲みを伴う柔らかい描写ですが、残存する軸上色収差により少し騒がしい印象を受けます。近距離で球面収差が強くなるZ 40mm F2と比べると癖は強くありません。
前ボケ
ニュートラル寄りの少し硬い描写。きつい二線ボケではありませんが、後ボケと比べるとボケの縁取りが残りがち。やはり軸上色収差の影響を受けています。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
中央
玉ねぎボケの兆候が見られない綺麗な描写。縁取りは弱く、悪目立ちする要素は少ない。F2まで絞ると少し角ばるものの、特に問題無し。
隅
中央とは打って変わって縁取りが目立つ騒がしい描写。口径食は中程度ですが、フレーム隅に向かって縁取りが悪目立ちするボケが多い。F2まで絞ると大幅に改善します。
ボケ実写
至近距離
ボケが非常に大きく、四隅の欠点が目立ちません。後ボケは僅かに滲みを伴う柔らかい描写で、ピント面とのバランスは良好。F1.4から快適に利用することができます。被写界深度の調整で1~2段絞っても問題なし。
近距離
撮影距離が少し離れると、ボケが小さくなり、四隅の欠点が目立ち始めます。許容範囲内ですが、ハイライトが多いと騒がしい印象を受けるかもしれません。少し気になる場合はF2まで絞ると改善します。
中距離
撮影距離がさらに長くなると、騒がしいと感じる領域が広くなります。中央を除く広い範囲でボケの縁取りが協調されがち。特に像高7割から外側で目立つ。F2まで絞ると描写は大幅に改善します。完璧とは言えませんが、状況に応じてF2まで絞ることは解決策となる可能性あり。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F2.8)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。前述したように、撮影距離が長い場合は全体的に後ボケが騒がしい描写。ただし、フレームに全身を入れるくらいまで離れる場合、ボケが小さくなるため、騒がしい描写も目立ちにくい。膝上や上半身のような撮影距離でボケが騒がしくなる可能性があるものの、顔のクローズアップまで近寄るとほぼ問題なし。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
最短撮影距離でもF1.4で周辺に目立つ減光効果が発生。F2まで絞ると大幅に改善しますが、F1.4でフラットな露出状態を好むのであればヴィネッティング補正が必須。
無限遠
最短撮影距離よりもはるかに目立つ減光効果が発生。ヴィネッティング補正は必須と言っても間違いでは無く、補正「強」を使用してもF1.4では減光が目立ちます。光学的にはF2まで絞ってもかなり目立ち、F4でも四隅に影響が残ります。完全に抑えるためにはF5.6まで絞る必要あり。
逆光耐性・光条
中央
強い光源を正面から受けてもフレアは良く抑えられています。ゴーストは絞り開放で僅かですが、絞ることにより徐々に目立つようになります。
隅
絞り全域でほぼ問題ありません。
光条
F8付近で光条が明瞭になり始め、F11-F16でシャープな結果。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 小型軽量
- 純正 F1.4レンズとしては手頃な価格
- 防塵防滴
- コントロールリング
- フォーカスブリージングが比較的良好
- 絞った際の遠景撮影で解像性能が良好
- 像面湾曲の問題無し
- 接写時に滑らかな後ボケ
- 逆光耐性に大きな問題なし
- 光条が綺麗
ここ最近の35mm F1.4 AFレンズとしては最軽量・最小クラス。さらにカメラメーカー純正品としてのF1.4としては手頃な価格を実現しています。細かい点を気にせず、準広角レンズの大口径レンズを使ってみたいのであれば面白い選択肢となるでしょう。
解像性能にムラがあり、ボケが多少粗いと感じる場合があるものの、絞りを調整することで対応できるシーンが多い。光学的な欠点も多くはカメラ側での補正可能。使い勝手の良いS-Lineレンズよりも描写に個性が欲しいという人におススメ。
悪かったところ
ココに注意
- A/Mスイッチなし
- 近距離の周辺・隅で画質低下
- 軸上色収差が目立つ
- 樽型歪曲が目立つ(補正される)
- コマ収差が目立つ
- 中距離以降で後ボケが騒がしい
- 無限遠側の周辺減光が非常に目立つ(補正しきれない)
S-Lineのレンズと比べると光学性能が低く、レンズの描写に癖があります。これを長所と感じる人もいると思いますが、主張の強いレンズの描写が足を引っ張ると感じる人もいることでしょう。少なくともF1.4に高い光学性能を求める人には不向きなレンズ。安定感のある描写を期待する場合「35mm F2/F2.8」くらいのレンズと考えておくのがおススメ。
結論
満足度は85点。
残存する収差が多く、絞り開放付近における癖が強いレンズ。「F1.4」をハイスピードレンズとして使いたい人にとって相性が悪いレンズであり、コマ収差や周辺減光、解像性能に注意が必要。特に周辺や隅がソフトであるため、AFの精度が良くない。F1.4はおまけで、F2付近を軸にとして使うのが良さそう。その一方、小型軽量で取り回しが良く、常用できる35mm F1.4としては貴重な存在。
購入するを悩んでいる人
NIKKOR Z 35mm f/1.8 S
使用経験がないので正確なところは分かりません。とはいえ、S-Lineのレンズとして、絞り開放の光学性能やより良好なコーティングの恩恵は大きいのだろうと予想しています。安定感のあるF1.8を使用したいのであればコチラを要検討。
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