このページではシグマ「17mm F4 DG DN」のレビューを掲載しています。
17mm F4 DG DNのレビュー一覧
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビュー完全版 2023年6月12日
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編 2023年6月2日
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビューVol.5 諸収差編 2023年5月29日
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビューVol.4 ボケ編 2023年5月12日
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビューVol.3 解像チャート編 2023年5月9日
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビューVol.2 遠景解像編 2023年5月3日
- シグマ 17mm F4 DG DN レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編 2023年4月25日
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 競合製品と比べると高め | |
サイズ | 非常にコンパクト | |
重量 | 非常に軽量 | |
操作性 | 小型ながら機能的 | |
AF性能 | 速度遅め・画角変化小 | |
解像性能 | ピント全域で非常に良好 | |
ボケ | 滑らかな後ボケ | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | 補正必須 | |
コマ収差・非点収差 | まずまず良好 | |
周辺減光 | 補正必須 | |
逆光耐性 | 非常に良好 | |
満足度 | 携帯性の良い高性能17mm |
評価:
I Seriesらしからぬ光学性能
I Seriesと言えば接写時にパフォーマンス低下が目立つモデルが多いものの、このレンズは接写時でも全体的に良好な光学性能を備えています。色収差などの補正状態も良く、電子補正込みで使えば目立つ欠点はありません。価格は少し高めですが、それだけの価値がある一本。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 画角・F値から難しい | |
子供・動物 | AF速度に妥協できれば良好 | |
風景 | 優れた解像性能と逆光耐性 | |
星景・夜景 | 点像再現性は完璧ではない | |
旅行 | 妥協ない性能で携帯性が良好 | |
マクロ | 比較的良好 | |
建築物 | 歪曲収差の補正必須 |
Index
まえがき
2023年4月発売のソニーE・ライカLマウント用の広角単焦点レンズ。現時点でI Seriesをはじめ、シグマ DG DNシリーズの単焦点レンズとして最も焦点距離が短く、広い画角をカバーしています。さらに、ソニーE・ライカLどちらのマウントでも超広角のコンパクトなAFレンズは珍しく、競合するレンズは非常に少ない。
概要 | |||
---|---|---|---|
レンズの仕様 | |||
発売日 | 2023年4月21日 | 希望小売価格 | 97,900円 |
マウント | E / L | 最短撮影距離 | 0.12m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 1:3.6 |
焦点距離 | 17mm | フィルター径 | 55mm |
レンズ構成 | 8群9枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F4 | テレコン | - |
最小絞り | F22 | コーティング | SMC |
絞り羽根 | 7枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ64.0×48.8mm | 防塵防滴 | 簡易 |
重量 | 225g | AF | STM |
その他 | 絞りリング・AF/MFスイッチ | ||
付属品 | |||
マグネット式メタルキャップ・フード |
競合する主なAFレンズはサムヤン「AF 18mm F2.8 FE」とパナソニック「LUMIX S 18mm F1.8」の2本。どちらもシグマより大口径を実現していますが、全長は最も短く、堅牢な外装を実現しつつ重量も抑えられています。さらに最短撮影距離が短く、撮影倍率も高いため、超広角レンズながら小さな被写体のクローズアップに適しているのが強みと言えるでしょう。
価格のチェック
売り出し価格は7.9万円。サムヤンと比べると遥かに高価ですが、2段明るいパナソニックと比べると少し安い。携帯性の良い超広角17mmとして、そして価格に見合う光学性能を備えているかがポイントとなりそうです。
17mm F4 DG DN Sony E | |||
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17mm F4 DG DN Leica L | |||
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
SGV(Sigma Globa Vision)シリーズらしい、白と黒をベースにしたシンプルなデザイン。レンズ名やフィルターサイズ、対応マウントや付属品などの情報をスタイリッシュに表示しています。右上に表示されている3桁の数字はエディションナンバーであり、リリースした西暦下三桁の数字を使用しています。(このレンズは2023年発売のため「023」)
間仕切りには段ボールを使用し、緩衝材はなし。Art・Sportsラインではないので、シグマ謹製のレンズケースは付属しません。
レンズ本体の他に、金属製のレンズフード、レンズキャップ、マグネット式金属製キャップが付属。
外観
Contemporaryラインに属するレンズですが、I Seriesらしく総金属製で質感が高い外装を採用。絞り・フォーカスリングを含めて金属パーツを使用しており、プラスチックパーツはごく一部。ソニーのZAレンズほどすっきりとしたデザインではありませんが、これはこれでアリ。光沢感のある中央のリングはデコレーションパーツで、特に意味はありません。しかし、ファインダー越しに確かな触感が得られるので、フォーカスリングや絞りリングを触りたくない時に左手を添えるポイントとしては役に立ちます。
外装の表示は一見するとプリントされたように見えますが、手で触ってみると僅かな凹凸で刻印されているように感じます。製造国(日本)やエディションナンバー、シリアルナンバーなどの情報あり。
ハンズオン
フルサイズ対応の超広角レンズとしては驚くほどコンパクトで軽量。にもかかわらず、金属製のしっかりとした鏡筒で、適度な質量感が得られ「所有する喜び」を刺激される作り。レンズのデザインは好みが分かれるかもしれませんが、個人的にはアリ。外装はマットな塗装が施され、傷や指紋や付きにくくなっています。比較的大口径のI Seriesに導入している光沢のあるデコレーションリングはありません。
前玉・後玉
レンズ前面も金属パーツを採用。専用のマグネット式金属キャップに適合するための独特な形状。他社は前面にレンズ名やフィルターサイズをプリントすることもありますが、シグマレンズの前面はシンプル。白字プリントは光りを反射することもあるので、シグマのデザインが好ましいと考えています。フィルターサイズは55mm径に対応。大口径のI Seriesはフィルター径に統一感が無いものの、コンパクトなI Seriesは55mm径を採用しているレンズが多い。(24mm F3.5・45mm F2.8・90mm F2.8)また、APS-C用レンズでも55mm径を使用するレンズもあるので、使いわましやすいフィルター径と言えるでしょう。
真鍮製レンズマウントは4本のビスで固定されています。周囲には簡易防塵防滴用のシーリングあり。カメラへの装着はシーリングの摩擦でやや固め。最後尾のレンズ周辺は反射防止のために黒塗りされ、不要な光を反射するパーツは無いように見えます。
フォーカスリング
金属製のフォーカスリングをレンズ先端に配置。緩めのソニー純正レンズと比べると抵抗感のある操作性で、ぬるっと操作できる感覚はパナソニックLUMIX Sレンズに近い。
ソニーEマウント版はノンリニアレスポンスのみ対応。ライカLマウントは対応カメラと組み合わせることでリニアとノンリニアの切替が可能。リニア時は120度から720度の範囲で30度刻みの調整が可能(LUMIX S5II)。ノンリニア時は素早く回転すると90度、ゆっくり回転しても180度未満で操作可能。
絞りリング
しっかりとした抵抗感のあるクリック付き絞りリングを搭載。フォーカスリングよりも回転動作に力が必要で、誤操作の心配はなし。静止画用としては気持ちの良い使い勝手です。ただし、Artシリーズやソニー純正レンズと異なりクリックを解除することは出来ません。クリックの抵抗感が強いので、動画撮影中に絞りリングを操作するとフレームがずれたり、操作音が発生する可能性が高い。
レンズフード
本体に負けず劣らずの質感が得られる金属製レンズフードが付属。ソニーZAレンズのようなスタイリッシュな印象ではありませんが、本体のデザインや自社製カメラ(fp)のデザインを考慮するとこれが最適解なのかもしれません。レンズフードは逆さ付けに対応しているものの、フォーカスリングへのアクセスがほぼできません。
装着例
LUMIX S5IIに装着。小型軽量なレンズのため、重心が前方へ過度に移動することもなく、バランスよく保持することができます。片手でカメラを保持することも容易。特に超広角レンズは様々なアングルで撮影したいと思う画角であり、片手持ちでローアングルやハイアングルの姿勢を維持しやすいのは強み。グリップとレンズ間の空間には余裕があり、左手によるフォーカスリングや絞りリングの操作も違和感なし。
AF・MF
フォーカススピード
このレンズはステッピングモーター駆動のインナーフォーカス仕様。滑らかで程よく高速なAF。問題ないAF速度ですが、超広角レンズとしては少しゆっくり動作しているようにも見えます。ソニーEマウントではさらに高速AFとなるのか不明。後述しますが、フォーカスブリージングがほとんど発生しないため、ピント移動がとても自然に見えます。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
画角の変化がゼロとは言えませんが、最短撮影距離が短めのレンズとしては良く抑えられています。画角の変化が小さいので、クローズアップ時にも広い画角を維持したダイナミックな撮影が可能。
精度
レンズ側のAF精度に問題はないと感じるものの、カメラ側(LUMIX S5II)の誤検出によりピントを外した状態で合焦。特に失敗が許されない状況では注意が必要と感じました。
MF
ノンリニアレスポンスの場合は微調整用のストロークが短いと感じる場合あり。ただし、最短撮影距離や無限遠は他のピント位置よりもストロークが長めに設定されています。個人的にはリニアレスポンスで180度前後の設定が程よい。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:
- 交換レンズ:
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 64 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
I Seriesのレンズは接写時に球面収差などが増大して解像性能が低下する傾向があります。このレンズもフレーム隅はそのような傾向が見られるものの、他のレンズと比較して画質低下が穏やか。少なくとも2400万画素のLUMIX S5IIではF4から全体的に良好な結果を得ることができます。
9600万画素相当のハイレゾモードでは、F4から解像チャートの上限に突き当たるほど良好な結果が得られます。フレーム隅の数値がないのは歪曲収差の影響。検出用の楔形が変形してしまい正常に測定できなかったため空白です。
中央 96MP
F4から高コントラストでシャープな結果を得ることができます。少なくとも解像チャートの上限値である4800本を分解可能で、絞っても大きな変化はありません。4500万画素や6100万画素の高解像センサーを搭載したカメラにも耐用できる解像性能に見えます。
周辺 96MP
F4は若干のコントラスト低下が見られるものの、解像性能は非常に良好。さらにF5.6まで絞るとコントラストが改善して中央に近い結果を得ることができます。
四隅 96MP
F4では周辺部よりもソフトな描写ですが、楔形は良いところまで解像しているように見えます。さらにF8のピークに向かって、絞るごとにコントラストが向上。目視では4000~4500本と言ったところでしょうか。
数値確認
24MP
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F4 | 3733 | 3054 | 3114 |
F5.6 | 3813 | 3567 | 3753 |
F8 | 3707 | 3386 | 3786 |
F11 | 3520 | 3507 | 3315 |
F16 | 3520 | 3265 | 3186 |
F22 | 2880 | 2873 | 2602 |
96MP
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F4 | 4773 | 4699 | |
F5.6 | 4744 | 5049 | |
F8 | 4758 | 5046 | |
F11 | 4773 | 4760 |
実写確認 24MP
競合レンズ比較
マウントが異なるものの、似たような2400万画素センサーを搭載しているα7 IIIと組み合わせたタムロン 17-28mm F2.8 Di IIIの広角端と比較。タムロンもズームレンズとしては良好な解像性能ですが、シグマの単焦点と比べると周辺部や隅の解像性能で見劣りします。絞ると差は縮まるものの、隅のパフォーマンスでシグマが有利。携帯性の良い17mmの広角レンズを持ち歩きたいのであれば、17mm F4 DG DNは面白い選択肢になると言えるでしょう。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2023.04.21 曇天 強めの風
- カメラ:LUMIX DC-S5M2
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 100 絞り優先AE
・通常 F4-F22
・ハイレゾ:F4-F11 - RAW:Adobe Camera RAW
・シャープネスオフ
・ノイズリダクションオフ
・レンズ補正オフ
テスト結果(通常撮影)
F4の絞り開放からフレーム端まで良好な結果を得ることができます。絞ると僅かに改善しますが、少なくとも2400万画素のLUMIX S5IIではF4からピークの画質と言えるでしょう。F11付近まで同程度の結果が得られ、F16以降は回折の影響で画質が低下します。
中央(ハイレゾ)
9600万画素のハイレゾモードでもF4から実用的なシャープネス・コントラストが得られます。絞ると僅かにコントラストが高まるものの、基本的にはF4からピーク。
周辺(ハイレゾ)
中央と比べると非点収差のような甘さが見られますが、F5.6-F8まで絞ると中央に近いシャープな結果を得ることが可能。ベストはF8ですが、F5.6でも十分良好。
四隅(ハイレゾ)
周辺減光こそ目立つものの、周辺部と比べて顕著な画質低下はありません。F4から安定感のある結果が得られるものの、絞れるのであればF8まで絞ったほうが良好な結果を期待できます。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
少なくともLUMIX S5IIのRAWをAdobe Camera RAWで現像する分には倍率色収差がよく抑えられているように見えます。補正プロファイルによる強制的な補正が適用されているのかどうかは不明。補正が適用されているのだとしても、細部のコントラストは良好で、大きな問題は無いように見えます。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
F4の絞り開放から軸上色収差に関する問題はまったく目立ちません。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
前ボケが滑らかで綺麗である一方、前ボケは硬調で少し騒がしい印象を受けます。ニュートラルなボケというよりは少し後ボケ重視の傾向。色収差が良く補正されているので、硬調な前ボケでも悪目立ちはしないように見えます。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
超広角F4レンズですが、最短撮影距離が短いので玉ボケを大きくすることが可能。広角レンズとしては滑らかで綺麗な玉ボケです。3枚の非球面レンズを使用しているものの、玉ねぎボケの兆候はなし。口径食の影響はありませんが、隅に向かって放射状に引き延ばされたような形状。絞ると徐々に改善します。
ボケ実写
接写
接写時は遠近感がかなり強いものの、F4で大きなボケを得ることが出来ます。広角レンズとしては滑らかで綺麗な描写であり、特にこれと言って指摘するポイントはありません。玉ねぎボケの兆候もなし。絞るとボケの縁取りが強調されるため、ボケ質を重視するならF4の絞り開放がおススメです。
近距離
撮影距離が長くなるとボケは急速に小さくなります。それでも中央と周辺部は滑らかで綺麗な描写。フレーム周辺部で非点収差・コマ収差のような騒がしさのあるボケ質へと変化しますが、被写体を中央に配置するのであれば特に目立ちません。周辺部が騒がしいと感じた場合は1~2段絞ると良いでしょう。
中距離
撮影距離がさらに長くなると、ボケは非常に小さくなります。ボケ質に言及するほどのサイズではありませんが、中央とその周辺は引き続き滑らかな描写です。フレーム端や隅が荒れるものの、ボケが小さいので目立ちません。
撮影距離
全高170cmの三脚を人物に見立てて、F4の絞り開放で撮影した写真が以下の通り。
フレームに全身を入れようとすると、ボケはほとんど得られません。膝上、上半身くらいまで近寄ることで背景が僅かにボケ始めます。被写体が背景から分離するのはバストアップから顔のクローズアップあたり。接写時は遠近感が強くなるため、このレンズでボケを入れつつ人物撮影は難しいと感じるかもしれません。
球面収差
ピント前後の描写に極端な違いは見られず、球面収差は良好に補正されているようです。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
未補正のRAWではやや目立つ樽型の歪曲収差が残存していることが分かります。ミラーレス用の広角レンズではよくあるように、カメラや現像ソフトでの電子的な補正を前提とした光学設計。小型軽量なミラーレス用の超広角レンズとしては予想していたよりも歪曲収差はよく抑えられているように見えます。ただし、陣笠状の歪みを伴っているため、手動での補正は難しいはず。補正用プロファイルを使った修正が必須と思われます。
また、プロファイルによる補正時は綺麗に修正されますが未補正RAWと比べると大幅なクロップが発生する点に注意が必要です。(ただし、公称値の画角は補正後の数値となっているはず)
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
絞り開放で少し目立つ周辺減光が発生し、絞ると改善しますが完璧に抑えることは出来ません。フラットな露出を得たい場合はレンズプロファイルによる補正が必須のように見えます。
無限遠
最短撮影距離と比べてさらに強い減光が発生。絞りによる改善効果は薄く、電子的な補正の必要性が高い。小型軽量な超広角レンズで最も大きな妥協点と言えるでしょう。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
極端に目立つ残存収差ではありませんが、フレーム隅では点光源の変形が見られます。これを抑え込みたい場合はF5.6-F8くらいまで絞る必要あり。遠景テストで隅のコントラストが改善する傾向と一致します。
逆光耐性・光条
中央
強い光源をフレーム中央に配置した場合、フレア・ゴーストは共によく抑えられています。絞っても隠れていたゴーストが顕在化することもなく、良好な状態を維持。
隅
光源をフレーム隅に移動しても良好な状態を維持しています。絞りによる逆光耐性の大きな変化はありません。
光条
優れた逆光耐性を備えていますが、絞りを閉じた際の光条はイマイチ。回折の影響が発生するまでの絞りでは全く発生しないうえ、絞っても先細りする光条にはなりません。無理に絞るくらいであれば、クロスフィルターを装着したほうが良いでしょう。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 総金属製の質感が高い鏡筒・レンズフード
- 簡易防塵防滴
- 使い勝手の良いフォーカスリング
- 使い勝手の良い絞りリング
- フォーカスブリージングがよく抑えられている
- ピント全域で一貫性と均質性の高い解像性能
- 倍率色収差の良好な補正状態
- 軸上色収差の良好な補正状態
- 滑らかな後ボケ
- 優れた逆光耐性
小型軽量ながら優れた光学性能と高いビルドクオリティを備えた超広角レンズ。I Seriesのレンズとしては接写のパフォーマンス低下がよく抑えられ、小さな被写体のクローズアップから無限遠に近い遠景の撮影まで幅広い撮影に対応することが出来ます。
悪かったところ
ココに注意
- 高価
- 絞りリングは無段階操作に非対応
- 高速ではないAF速度
- 目立つ歪曲収差と補正時の大幅なクロップ
- 絞っても改善しない周辺減光
- 絞っても綺麗な光条が発生しない
光学的な欠点は小型軽量な超広角レンズとしては予想できる範囲内に収まっています。補正必須の歪曲収差と周辺減光には注意が必要。期待外れだったのは絞った際にシャープな光条が発生しない点くらいでしょうか。フォーカスブリージングがよく抑えられているので動画撮影にも適していると思われますが、絞りリングが無段階操作に非対応となっているのが残念。あくまでも静止画向けのレンズなのかなと。
競合レンズとなるサムヤン「AF 18mm F2.8」と比べると高価な選択肢ですが、ビルドクオリティと光学性能は圧倒しています。価格差を正当化することもできそう。
総合評価
満足度は99点。
小型軽量で高性能な17mm 超広角レンズ。このようなミラーレス用の広角レンズは選択肢が増えているものの、その中でもビルドクオリティと光学性能がとても良好。そのぶん価格設定は高めとなっていますが、個人的には強くおススメできるレンズの一つ。
ソニーEマウントにおける競合製品はサムヤン「AF 18mm F2.8」のみ。手ごろな価格で小型軽量、さらにシグマよりも開放F値が1段明るくなっています。コスパ良好で魅力的な選択肢ですが、シグマと比べると明らかに見劣るビルドクオリティ(全体的にプラスチックパーツが多く、質感も良くない)には注意が必要。
購入早見表
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作例
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