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タムロン 50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD レンズレビュー完全版

このページではタムロン「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」のレビューを掲載しています。

50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXDのレビュー一覧

管理人の評価

ポイント 評価 コメント
価格 競合なし
サイズ 高倍率ながら普通
重量 やや重いが許容範囲内
操作性 必要最低限
AF性能 VXDで高速かつ静か
解像性能 接写時の周辺部が低下
ボケ 滑らかな後ボケ・口径食大
色収差 倍率色収差が若干ある
歪曲収差 比較的穏やか
コマ収差・非点収差 大きな問題なし
周辺減光 特に望遠側で目立つ
逆光耐性 正面以外は問題なし
満足度 便利な300mmズームレンズ

評価:

便利な300mmズームレンズ

望遠ズームに10万円前後出す余裕があり、特にこだわりがないのであればコレを買っておけばOKという選択肢。50mm始まりの広い画角、高速AF、高倍率ながら安定感のある画質、USB-C経由のカスタマイズ、ハーフマクロにも対応する接写性能などなど。オールラウンドに活躍できる望遠ズームに仕上がっています。

If you can afford to spend around 100,000 yen for a telephoto zoom and have no particular preference, this is a good choice. 50mm wide angle of view, high-speed AF, stable image quality despite high magnification, customization via USB-C, and close-up performance that supports half-macro shooting, etc. It is a telephoto zoom lens that can be used for all-round activities.

まえがき

2024年夏に発表したタムロンのあたらしい望遠ズームレンズ。従来の「70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD」と同じ開放F値を備えつつ、広角側の焦点距離が「50mm」まで拡張。「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」と比べると望遠側の焦点距離が短いものの、小型軽量で携帯性の良い便利ズームに仕上がっています。

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  • 発売日:2024年6月27日
  • 予約開始日:2024年6月6日
  • 希望小売価格:154,000円 (税込)
  • カメラのキタムラ:118,800円
  • マウント:ソニーE
  • フォーマット:フルサイズ
  • 焦点距離:50-300mm
  • レンズ構成:14群19枚
    ・XLDレンズ 2枚
    ・LDレンズ 2枚
  • 開放絞り:F4.5-6.3
  • 最小絞り:F22-32
  • 絞り羽根:9枚 (円形絞り)
  • 最短撮影距離:0.22m (WIDE) / 0.9m (TELE)
  • 最大撮影倍率:1:2 (WIDE) / 1:3.1 (TELE)
  • フィルター径:Φ67mm
  • 手ぶれ補正:搭載
  • テレコン:-
  • コーティング:BBAR-G2・防汚
  • サイズ:Φ78mm×150mm
  • 重量:665g
  • 防塵防滴:対応
  • AF:VXD
  • 手ぶれ補正:搭載
  • その他機能:
    ・AFボタン
    ・Tamron Lens Utility

レンズサイズは同社の70-300mmや70-180mm G2と同程度。50-400mmと比べると一回り小さく、軽く、携帯性・収納性に優れた望遠ズームレンズ。三脚リングや三脚座には対応していませんが、必要ない程度の重量と言えるでしょう。70-300mmと同程度でありながら、50mmを利用可能なうえ、VXD駆動による高速AFや光学手振れ補正の安定性を実現しています。

価格のチェック

汎用性の高い300mmズームとして魅力的ですが、70-300RXDと比べて販売価格はほぼ2倍。衝動買いするには高すぎ、70-180mm F2.8 G2に近い値付けとなっています。サイズが問題なければ、数万円足すことで50-400mmも視野に入ってきます。悩ましい価格帯のレンズですが、携帯性と利便性を考慮すると替えの利かない選択肢に違いなし。

  • 希望小売価格:154,000円 (税込)
  • カメラのキタムラ:118,800円

レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

タムロンらしい白を基調としたデザインの箱。マウント部と同じように箱の底面にルミナスゴールドのカラーを採用。レンズ本体は段ボールの仕切りで前後を固定された状態で梱包。レンズ本体の他に花形レンズフードと説明書、保証書、シリアルナンバー記載のシールが付属しています。

外観

ぱっと見た外観は一眼レフ用のSPシリーズとよく似ていますが、他のタムロンDi IIIシリーズと同じくプラスチック製の外装を採用。ミラーレス用レンズは競合他社もプラスチック製の外装を採用するメーカーが多く、特に違和感はありません。安っぽさは感じず、しっかりとした質感に加えて、旧デザイン「70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD」と比べて傷や指紋に強くなっているように見えます。

ズームリングとフォーカスリングはどちらもゴム製カバーを装着。リング表面に粘性は感じず、ゴミの付着は少ないと思われます。外装の文字は全てプリントで、エッチングなど芸が細かい加工は無し。この辺りはタムロンらしく割り切った感があります。ちなみに「設計 日本」「製造 ベトナム」と記載を確認。
Di IIIシリーズの新世代らしく、USB-Cポートを搭載。パソコンやスマートフォンと接続することで、レンズのファームウェアを更新したり、カスタマイズすることが可能です。ただし、カスタムスイッチは搭載していないので、できることは限られています。ズーム操作で伸びる内筒もプラスチック製。継ぎ目が目立たない綺麗な作り。内筒を伸ばした際のがたつきは全くありません。

ハンズオン

70-300mm RXDと比べると重いですが、出来ることを考慮すると許容範囲内に収まっています。やはり50-400mm VXDよりも一回り小さいため、日常的に使う望遠ズームレンズとして最適。質感は安っぽくないものの、プラスチック感は否めません。三脚リングに対応しないため、レンズ先端からマウント付近まで外装はプラスチックパーツを使用しています。

前玉・後玉

前玉は防汚コート処理されているので水滴や油汚れが付着した際にメンテナンスが(比較的)容易。とは言え、何らかのダメージが予想できるシーンでは保護フィルターを装着するのも一つの手。フィルター径は従来通り67mm径を採用しているので、タムロンDi IIIシリーズを揃えているのであれば所有している人も多いはず。他のレンズとND・C-PLフィルターを使いまわしやすいのもGood。

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金属製のレンズマウントは4本のビスで固定。後玉は固定されておらず、ズーム操作によって前後に移動します。望遠側へズームすると、連動して後玉が前方へ繰り出します。マウント周囲は防塵防滴用のゴムシーリングあり。

フォーカスリング

ゴム製フォーカスリングをマウント側に搭載。タムロンDi IIIシリーズは前方にズームリング、後方にフォーカスリングを配置する製品が多く、ソニー純正と異なる配置なので慣れが必要。リングは適度な抵抗で滑らかに回転します。ソニー純正のゆるゆる過ぎるリングと比べると僅かに重め。

フォーカス操作のストロークは初期設定でノンリニア(回転速度に応じて変化する)ですが、ゆっくり回転しても全域のストロークが180度未満で、素早く回転すると45度程度とストロークが非常に短い。この状態で正確なMFは難しいと思われるので「TAMRON Lens Utility」を使用して「リニア 90/180/270/360」のいずれかに設定変更するのがおススメ。

ズームリング

フォーカスリングと比べると、少し幅の広いゴム製ズームリングを搭載。適度な抵抗で滑らかに回転します。初動から引っかかるようなポイントは無く、90度未満のストロークで素早く滑らかに操作可能。

レンズフード

プラスチック製のシンプルなレンズフードが付属。しっかりとした作りですが、フィルター操作窓やボタンを使用したロック構造などはありません。逆さ付けも可能。

装着例

α7R Vに装着。広角・標準ズームと比べると大きめですが、それでも望遠ズームの中では比較的小型軽量。50mm始まりの便利なズームレンズであることを考慮すると、許容範囲内。

 

AF・MF

フォーカススピード

最近のタムロンレンズらしく、VXD駆動のAFを利用可能。最短撮影距離から無限遠まで電光石火の合焦速度を実現しています。RXD駆動のレンズと比べても違いを体感しやすいはず。特にAF-C時にとても高速。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・0.5倍(0.33m)・無限遠で撮影した結果が以下の通り。

作例はまだありませんが、広角側でわずかに目立ち、望遠側は良く抑えられているように見えます。

精度

α7R Vとの組み合わせで問題ありません。

MF

前述したように、初期設定ではフォーカスストロークが非常に短いので微調整が難しいです。

撮影倍率

撮影倍率は50mmの広角端で最も大きくなり、200mm付近で最も小さい。50mmのハーフマクロは便利と感じるものの、この際は像面湾曲が非常に強く、F16まで絞ってもピント面がフラットとなりません。ハーフマクロとはいかないまでも、ズーム全域で良好な撮影倍率を維持しているように見えます。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:α7R V
  • 交換レンズ:50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD
  • パール光学工業株式会社
    【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 100 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

50mm

中央は絞り開放から非常に良好ですが、周辺や隅で大幅に低下。遠景解像テストで全体的に良好だったことを考慮すると、近距離時にパフォーマンスが低下していると思われます。どの程度の撮影距離から低下するのか正確には確認していませんが、実際の撮影体験からすると最短撮影距離に近い場合のみ影響が大きくなるように見えます。

接写時でも絞ることにより若干の改善が期待できます。ただし、改善速度が遅く、周辺はF11付近、隅はF16まで絞らないと中央に近い数値となりません。

数値確認
中央 周辺部 四隅
F4.5 4532 2425 2074
F5.6 4632 2801 2385
F8.0 4667 3349 2215
F11 4161 3762 2855
F16 3890 3729 3096
F22 2834 2944 2855
実写確認 中央

実写確認 隅

70mm

中央は50mmと同じく非常に良好。周辺や隅は50mmと比べると使いやすい画質となっています。とはいえ、中央との画質差は依然として大きく、絞っても改善する幅には限界がある模様。数値では中央に追い付いていませんが、F8まで絞れば良像と言えるくらいには解像しているように見えます。ただし細部の解像はイマイチ。

数値確認
中央 周辺部 四隅
F5.0 4544 3092 2443
F5.6 4822 3734 2492
F8.0 4752 3798 3491
F11 4247 3706 3634
F16 3768 3728 3500
F22 3034 2870 2789
実写確認 中央

実写確認 隅

100mm

全体的に70mmと同じ傾向。引き続き中央は絞り開放からとても良好です。周辺や隅はソフトですが、周辺はF5.0から実用的。隅はF8まで絞ると実用的な画質。

数値確認
中央 周辺部 四隅
F5.0 4750 2954 測定不能
F5.6 4713 3515 2375
F8.0 4770 3790 3189
F11 4338 3597 3445
F16 3718 3299 3547
F22 2862 2762 2886
実写確認 中央

実写確認 隅

135mm

中央と周辺は100mmと同程度ですが、隅のパフォーマンスが上昇傾向。絞り開放こそ若干ソフトですが、F8まで絞ると実用できる画質まで改善します。ただしピークはF11付近。

数値確認
中央 周辺部 四隅
F5.6 4860 2987 2434
F8.0 4842 3366 3126
F11 4002 3601 3493
F16 4089 3114 2923
F22 3098 2576 2730
実写確認 中央

実写確認 隅

200mm

全体的に絞り開放から実用的な画質。中央と隅の画質差は埋まることがないものの、全体的に許容範囲内に収まっているように見えます。絞りの広い範囲で画質は一定で、大幅な改善は期待できません。

数値確認
中央 周辺部 四隅
F5.6 4575 3701 2853
F8.0 4801 3800 3100
F11 4405 3718 3246
F16 3949 3102 2924
F22 3030 2687 2631
実写確認 中央

実写確認 隅

300mm

他のズーム域と比べて中央の性能が低下傾向。それでも良好な画質ですが、状況によっては少し見劣りするかもしれません。周辺や隅も200mmと比べて少し低下傾向。悪くない結果ですが、高級レンズと比べると明らかに見劣りします。

数値確認
中央 周辺部 四隅
F6.3 4110 2975 2407
F8.0 3958 3472 2708
F11 3711 3366 2940
F16 3349 2673 3128
F22 2938 2801 2626
実写確認 中央

実写確認 隅

競合製品との比較

70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD」はニコンZでのテスト(4500万画素)のため、ピークの数値は50-300mmが有利で当然。そのあたりを前提として見ると、特に広角側の周辺・隅の画質が70-300mm RXDよりも良好。中間域や望遠側の中央の伸びが良いように見えます。中央はズーム全域で互角なものの、望遠側でも周辺や隅は50-400mmのほうが良好。価格とサイズの違いは解像性能にも表れているようです。

50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」よりも光学倍率が小さく、設計に無理がかかっていないようにも見えますが、少なくとも近距離時のパフォーマンスは50-400mmのほうが良好。特に広角側の安定感が大幅に異なります。じゃあ50-400mmのサイズを許容できるか?というと別の話ですが…。

ベンチマークとして「FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II」と比較。全体的に中央は健闘していますが、周辺や隅までの安定感は段違い。

遠景解像力

テスト環境

50mm

中央

絞り開放は若干の軸上色収差が発生していますが、少し絞ると改善。F4.5からシャープであり、絞ってもあまり変化はありません。単焦点レンズほど細部のコントラストが高くないものの、十分良好。

周辺

中央よりもわずかに低下しますが、まずまず良好な結果。絞っても大幅な改善はありません。

四隅

フレーム隅でも画質の極端な低下は見られず、フレーム全体で均質的な結果が得られています。絞っても大きな変化はありませんが、F8まで絞ると周辺減光や軸外収差がわずかに改善します。

70mm

中央

50mmと同じく絞り開放から良好な結果。開放から適度なコントラストで、絞る必要性を感じません。F5.6まで絞ると僅かな色づきが改善する程度。

周辺

引き続き良好な結果を得ることができます。絞りによる画質の変化はほとんどありません。

四隅

細部の描写がわずかにソフトで、F8-F11で少し改善します。50mmと同じく顕著な画質低下はありません。使い勝手のよい描写。

100mm

中央

50mmや70mmと同じく良好な結果。

周辺

中央に引き続き絞り開放から問題ありません。

四隅

細部の描写がソフトですが、F8-F11で僅かに改善します。画質の顕著な低下はありません。

135mm

中央

引き続き絞り開放から良好な結果。

周辺

絞り開放で細部がつぶれていますが、F8-F11で少し改善。

四隅

周辺と同じくF8-11で画質が僅かに向上します。

200mm

中央

望遠側でも目に見える画質低下はありません。絞り開放から実用的な結果が得られます。

周辺

F6.3から大きな問題はありませんが、ベストを尽くすならF8-F11.

四隅

絞り開放付近はややソフトで、F11まで絞ると安定します。

300mm

中央

これまでの焦点距離と比べると、絞り開放でコントラストが僅かに低下傾向。F8まで絞ると改善しますが、それ以降に大きな変化はありません。

周辺

中央と同じくF6.3で僅かにコントラスト低下。F8付近まで絞ったほうが良好な結果が得られます。

四隅

画質の乱れはありませんが、細部はややソフト。絞っても変化が小さい。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。

参考:ニコン 収差とは

50mm

僅かに色づきがあるものの、大きな問題はありません。

100mm

50mmよりも目立ちますが軽微。

200mm

さらに色収差が強くなり、状況によっては色づきが気になる可能性あり。ただし、カメラ側の補正が簡単に修正可能。

300mm

200mmと同程度。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。

参考:ニコン 収差とは

50mm

完璧な補正状態ではなく、絞り開放付近で若干の色収差が発生しています。大部分の状況で無視できる程度の収差であり、特に心配する必要はありません。

135mm

広角端と異なり、色収差は全く発生していません。

300mm

ズーム中間域と同じく全く問題無し。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。

参考:ニコン 収差とは

比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。

実写で確認

このレンズはカメラ側で自動補正され、Adobe Lightroom Classic CC現像でレンズプロファイルが自動的に適用されます。補正オフの状態を目にする機会は少ないと思われます。敢えて補正がオフとなるニコンZマウント装着(アダプター経由)で撮影した作例が以下の通り。

50mmは未補正でも非常に良好。ただし、100mmや300mmでは僅かに目立つ糸巻き型歪曲が発生しています。大きな問題ではありませんが、気になる場合は補正の常時適用がおススメ。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。

参考:ニコン 収差とは

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。

実写で確認

若干の影響は見られるものの、ズーム全域で点光源の顕著な変形はありません。

球面収差

ズーム中間域の接写でフォーカスシフトの影響が見られる以外は問題なし。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。

後ボケ

ニュートラル寄りで滑らかなボケ質。アウトラインが目立ちにくく、心地よい描写に見えます。

前ボケ

極端ではないものの、ニュートラル寄りの少し騒がしい描写。後ボケと比べるとボケの縁取りが硬く、ボケの輪郭が残りやすい。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。

口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。

50mm

ボケの縁取りに僅かな色づき、フレーム端で口径食の影響あり。それ以外に大きな問題は無く、フレームの広い範囲で良好な描写。(そもそも非球面レンズを使用していないため)玉ねぎボケの兆候はありません。

300mm

軸上色収差の影響はないものの、口径食が非常に強い。F11まで絞っても四隅の変形は解消しません。

ボケ実写

50mm

口径食の影響がやや強めですが、優等生的な描写。撮影距離による変化が少なく、当たり障りのないボケが得られます。コントラストが高いシーンで軸上色収差の影響が僅かに強くなる可能性あり。

100mm

口径食の影響が強くなるものの、基本は50mmと同じ傾向。

300mm

他の焦点距離と同じ。滲むような柔らかく滑らかなボケではないものの、ボケの縁取りが弱く、悪目立ちしない描写。口径食が強いため、フレーム隅に少し癖があります。

周辺減光

周辺減光とは?

フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

50mm

ピント位置による大きな変動はないものの、どの撮影距離でも絞り開放で周辺減光が目立ちます。絞ると改善しますが、(フラットな結果を得たい場合)開放付近ではレンズ補正を適用したほうが良いでしょう。

135mm

広角端と比べると撮影距離による変動が大きくなります。無限遠は広角側と同程度で、最短撮影距離における影響が少し改善しています。どちらも3段ほど絞ると問題なし。

300mm

望遠端の無限遠で周辺減光の効果が最も強い。かなり強烈な減光が発生するため、レンズ補正は常時適用がおススメ。最短撮影距離では若干改善するものの、それでもかなり目立つ効果が発生します。300mm無限遠の場合はF16まで絞っても四隅に僅かな減光効果が残ります。

逆光耐性・光条

50mm

14群19枚の複雑な光学設計と言うこともあり、逆光時には不可避のゴーストが発生します。幸いにも強い光源を正面から受けなければ影響は軽微。過度に心配するほどではありません。

300mm

広角側よりも目立ちますが、光源の位置によっては良く抑えられています。狭い画角であることを考慮すると、特に問題は無いように見えます。

光条

最小絞り付近で光条がシャープになるものの、回折の影響は不可避。解像度と光条のバランスを取るのは難しいように見えます。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • 50mmまで利用できる高倍率の300mmズームレンズ
  • 70-300mmと比べてサイズアップなし
  • 防塵防滴
  • TAMRON Lens Utility
  • VXD駆動による高速AF(C-AF)
  • 最大0.5倍の撮影倍率
  • ズーム全域で中央解像性能が良好
  • 軸上色収差が良好な補正状態
  • コマ収差の問題無し
  • 柔らかい後ボケ
  • 逆光耐性

50mmの広い画角を利用できる便利な300mm望遠ズームレンズ。競合するレンズは「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」のみであり、このような便利なズームとしては小型軽量で手頃な価格。解像性能は接写以外できちんとした結果が得られ、ボケは滑らかで諸収差は良く抑えられています。これと言って大きな欠点はありません。VXD駆動のAFは特にAF-Cで非常に速く、50mmを活かした接近戦でも活躍できることでしょう。

悪かったところ

ココに注意

  • 社外製の300mmズームとしてはやや高め
  • 接写時に周辺・隅のパフォーマンス低下
  • ボケの口径食が目立つ
  • 周辺減光が目立つ
  • 光条と解像性能のバランスが取れない

光学的に些細な欠点を除くと、ほとんど欠点はありません。あえて言えば、社外製の300mmズームレンズとしては若干高価であること。50mm始まりの便利なズームレンズと考えると許容範囲内だと思いますが、単純に300mm望遠ズームが欲しいのであれば「70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD」も検討したほうが良いでしょう(性能的には50-300VXDが有利だと思いますが)。

また、社外製レンズの欠点として「AF-S時の合焦速度低下」「ズーム中AF-Cの精度低下」などは注意しておく必要があります。

今回のレビューに手振れ補正の評価軸がないので詳しく説明できませんが、手振れ補正の効果はイマイチと感じています。

結論

満足度は95点。
望遠ズームに10万円前後出す余裕があり、特にこだわりがないのであればコレを買っておけばOKという選択肢。50mm始まりの広い画角、高速AF、高倍率ながら安定感のある画質、USB-C経由のカスタマイズ、ハーフマクロにも対応する接写性能などなど。オールラウンドに活躍できる望遠ズームに仕上がっています。

購入するを悩んでいる人

FE 70-300mm F4.5-5.6 G OSS

使ったことがないので言及は避けますが、スペック的には無難な選択肢。ただし、タムロンと比べて販売価格が1.5倍。純正品としての互換性を重視しない限りは価格が高すぎる印象あり。

FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II

倍の販売価格が問題にならない場合に併せて検討したレンズの一つ。ズーム全域で0.5倍の撮影倍率に対応し、接写時でも解像性能は非常に良好。標準50mmを利用することはできないものの、テレコンバージョンレンズ対応で400mm F8を利用可能となっています(この際は撮影倍率1倍に対応)。

70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD

半値程度で入手できる最も手頃な300mmズームレンズ。AF・光学性能・接写性能は価格なりですが、単純に300mmの望遠ズームで遠くの被写体をクローズアップしたい撮影には十分。50-300mmほどの汎用性が必要ない場合はこちらがおススメ。

50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD

望遠端が400mmまで拡張した兄貴的存在。サイズ・重量・価格が一回り大きくなってしまうものの、主に400mmをメインに使う撮影シーンでは許容範囲内。お散歩レンズとして持ち歩く場合、許容範囲内か個人差があると思います。比較して光学性能はこちらのほうが安定感があります。

購入早見表

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作例

オリジナルデータはFlickrに掲載

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