Dustin Abbottがシグマ「fp L」プリプロダクションモデルのレビューを公開。小型軽量ながら超高画素センサーを搭載していることを評価しつつ、良さを活かせるのは非常にニッチな層であると言及しています。
Dustin Abbott:Sigma FP-L Mirrorless Camera Review
カメラの紹介:
- シグマといえば、レンズメーカーとしてのイメージが強い。しかし、実は以前からちょっと変わったカメラを開発している。 その多くは、シグマ独自のSAマウントを採用したカメラであったり、レンズ固定式のAPS-C・APS-Hなどのクロップセンサー機が多い。
- また、カメラのデザインの主流から大きく外れた、ユニークな形状のカメラも多い。 2020年に、シグマはライカLマウントを採用した2400万画素のコンパクトなフルサイズミラーレス「SIGMA fp」を発表した。
- そして2021年、fpの第2弾として登場した「fp L」は、6,100万画素という圧倒的な解像度を誇り、世界で最もコンパクトな高解像度フルサイズカメラとなった。
- レンズに関しても、最近のシグマはソニーα7Cやfp、fp L、SL2-Sなどの小型カメラとの組み合わせを意識している。優れた光学性能やビルドの良さを追求しつつ、より小さく、よりコンパクトなレンズを探している人たちの市場に焦点を当てているようだ。
- このような解像度を持つカメラとしては小型軽量かつ低価格だ。しかし、小型化のために当たり前のように使っている基本的な機能が省略されている点には注意が必要だ。ファインダーとグリップを追加すると、ソニーα7R IVよりも大きくて高価なカメラとなってしまう。それに、ホットシューを使いたい場合はファインダーを利用することが出来ない。
- これらは控えめに言っても型破りなアプローチであり、一部のニッチな層には好まれるかもしれないが、多くの人にとっては意味をなさないかと思う。シグマはそれで良いと思っているかもしれないが…。
ビルド・外観:
- 実にシグマらしいカメラだ。斬新な要素もあれば、単純に機能が劣っているだけの要素もある。
- 外装には堅牢性と熱伝導性に優れたアルミダイキャストを採用している。シグマはコンパクトなミラーレスカメラの基本的な欠点が放熱であることを認識していることには好感が持てる。最近のキヤノンやソニーのカメラは、高精細な映像を撮影・処理すると熱が発生し、オーバーヒートしてしまう問題で世間から批判を浴びることがあった。シグマはこの問題を解決するために、四方にヒートシンクを設けている。
- これにより、内部記録で最大2時間、外付けSSDに記録すればさらに長時間の4K動画を記録することが可能だ。
- ヒートシンクのあるカメラは耐候性の懸念があるものの、シグマは「42点のシーリングで防塵・防滴構造を実現し、あらゆる環境下で長時間使用するのに最適」と主張している。
- カメラの左側にはポートがあり、そのうちの2つはポートカバーで覆われている。持ち上げることはできるが外すことはできない。真ん中のポートカバーは、サイドアクセサリーを取り付ける場合は外す必要がある。
- このゴム製のカバーは、ホットシューやEVFアタッチメントに収納できるようになっているが、このカバーを無くしてしまう人は結構いると思う。ポートカバーをなくしてしまうと、カメラの耐候性が損なわれてしまうことは言うまでもないだろう。
- 左側面には4つの接続端子があり、底面にはマイク入力、中央の収納部にはマイクロHDMIと通信用ピン、そして上部にはUSB-C接続端子がある。
- カメラはUSBで充電でき(大きな出力は必要ない)、外部から電力を供給することで長時間の撮影にも対応している。
- カメラにヘッドホン出力端子がないものの、EVF-11経由で利用可能だ。EVF-11はさらに外部SSD出力用のUSB-Cポートを備えている。
- SDカードの収納場所は私が最も苦手とする場所、カメラ底面にあるバッテリー収納部にある。 三脚やジンバルで作業をしているときにカードに素早くアクセスするには最も不便な場所だ。幸いにも、ボトムプレートのデザインは他のカメラよりも若干優れており、標準サイズのプレートを垂直に取り付けたり、小型のピークデザインプレートを取り付けても、カバーを開けることができる。
- バッテリーパックは1200mAhのシグマBP-51バッテリーだ。 約240枚の撮影が可能と言われており、大きく外れてはいないように見える。 長時間の撮影でも電池切れとならないように、2つ目の予備を購入しておくといいだろう。
グリップ:
- カメラの前面には文字通りグリップがまったく無い。
- 表面加工や滑り止めの素材も前面には施されていない。
- 唯一のグリップ感は、背面のサムレストがわずかに盛り上がっていることだ。
- カメラが手になじむというより、カメラをつまんでいるような感覚だ。
- 小型軽量のレンズであれば問題ないかもしれまおが、重いレンズを装着すると本当の意味でのグリップが必要になる。
操作性:
- 操作はカメラ背面の方向キー/ホイールで行い、メニューの変更は前後のホイールで行い、中央のボタンがOKボタンとなっている。
- ボタンやホイールの感触はとても良く、エルゴノミクスに基づいた適切な配置だ。しかし、露出補正用の専用ダイヤルがないのは残念である。
- エルゴノミクスに問題があるとすれば、ファインダーを装着した状態で電源ボタンを操作し辛いことだ。
- 背面下部にずらりと並んだボタンはシグマならではのデザインだ。 スッキリとしたデザインだが、シグマが動画・静止画を問わず、色やトーンカーブのコントロールを重視していることを示している。 色からコントラストまで、カメラ出力を自在にコントロール可能だ。
- お気に入りの機能は、解像度の高さを活かしてロスレスズームを採用していることだ。 4Kでも最大2.5倍、FullHDでは最大5倍までロスレスズームが可能である。静止画(RAWも含む)の撮影でも同様のことができるのは良い。
- ズーム機能は9.5K(フル解像度)、6.2K、4.8K、UHD、FHDが選択でき、それぞれにクロップ量が設定されている。 これはJPEGも同じだが、RAWでこのような選択肢があるのは珍しい。
手ぶれ補正:
- 高画素でありながら動画撮影にも対応できるカメラとして、ボディ内手ぶれ補正が搭載されていないことも大きな問題だ。
- この問題は、シグマが過去2年間に発売したライカLマウントのDNレンズ10本のうち、OS(光学式手ぶれ補正機構)を内蔵しているのが「100-400mm F5-6.3 OS DN」のみであるという事実が、さらに問題を深刻化する。
- レンズにもカメラにも手ぶれ補正機能が搭載されていないということは、安定した動画を撮影するために、カメラを三脚やジンバルに取り付けなければならないということだ。これでは、「どこにでも行ける」コンパクトカメラとしての汎用性が損なわれてしまう。
- 解像度の低いfpよりもfp Lのほうがブレをを拾いやすい。手ぶれ補正あり・なしの差は大きい。
- シグマが本気でfpのラインナップを「ポケッタブル」にしたいと考えているのであれば、ボディ内手ぶれ補正の開発は非常に重要なステップだと思う。
モニター:
- ヒートシンクのために背面の液晶モニタは固定式となっている。
- 解像度210万ドットで、3:2アスペクト比を備えた3.15型の固定式液晶モニタだ。
- テストチャートの三脚テスト(通常は腰の高さで行う)やジンバルでの撮影など、さまざまな用途で固定画面に限界を感じた。
- 画面のタッチ機能は限られており、フォーカスを合わせたり、フォーカスポイントを移動させたりすることはできる。しかし、メニュー操作はできず、キヤノンや、ソニーの優れたカメラよりも、レスポンスに遅延が見られる。
メニューシステム:
- メニューの見た目はとても気に入っていたので、タッチ操作できないのは残念だ。
- フォントは美しく、とてもすっきりとしている。
- 特にQメニューは、タッチ操作のために作られたように見える。
- シグマは、メニューをCine用とStill用に分ける構成が主流となっており、カメラ天板にあるスイッチでCineを選択すると、動画用のユニークなメニューが表示される。
オートフォーカス:
- fp Lは、fpの49点のコントラストAFを、像面位相差AFとコントラストAFのハイブリッド方式にアップグレードしている。
- AFポイントは49点のままだが、スピードと精度が向上している。
- フォーカスポイントのカバー率はフレームの約80%だ。
- 私は正式発表前のプリプロダクションモデルを使用していたので、最終的なファームウェアではAFがさらに改善されているかもしれない。
- オートフォーカスは、初代fpで最も批判された部分であり、今でもカメラで最も嫌いな部分だ。
- 画面上のAFポイントは小さな正方形ではなく、長方形になっている。エリアが広がるので、ピントを思い通りに合わせられないことがあった。
- 全点を使うオートエリアは他社ならば90%ほどの打率でピントを合わせられるところだが、このカメラでは全くピントが合っていない場合もある。
- 瞳AFを使ったときにも同じような問題が発生した。 フレーム内に複数の人物がいると、瞳AFの検出先が常に人から人へと飛び移り、落ち着きがない。瞳AFを無効にして、好きなところにフォーカスポイントを置いた方が、より確実にピントを合わせることができる。
- しかし、1点AFを使ったとしても、ピントは必ずしも完璧では無い。
連写性能・ドライブ:
- SDスロットはUHS-IIに対応しているが、それだけではバッファが足りない。
- このカメラは10fpsまでの連続撮影が可能だが、RAWのバッファ深度は12コマだ。驚いたことに、JPEGでも14コマしか撮影できない。
- 電子シャッターを使用し、メカニカルシャッターを搭載していない。 そのため、ある種の照明(周波数が循環する照明)の下ではバンディングが発生し、ストロボ撮影には大きな制限が発生する。
- フラッシュの同調速度は1/15秒だ。もしあなたがポートレート写真家であれば、自然光や固定照明にこだわり、フラッシュは避ける必要がある。
RAW画質:
- フルサイズカメラとしては最高レベルの解像性能だ。ソニーα7R IVと比べても僅かに高解像である。
- DNGファイルはAdobeの標準規格であり、互換性の高い高品質なロスレス圧縮だ。 私自身もすべてDNGに変換しており、アドビも永続的なサポートを約束している。
- ファイルサイズは平均して85MB程度だ。 確かに大きいが、α7RIVに搭載されている.ARWファイル(平均122MBの非圧縮RAWと61MBの圧縮(非可逆))よりも相対的に優れている。
- DNGファイルフォーマットは素晴らしいと思う。フォーマットを変換する必要がないので、読み込みにかかる時間を短縮できる。
- fp Lが搭載しているローパスフィルターはモアレの除去には役立つが、その代償としてシャープネスが損なわれることがある。
- α7R IIIと見比べてみたところ、コントラストはソニーのほうが少し良好だが、ディテールの情報量はシグマが少し多い。ソニーはモアレが多く、偽色も発生している。
- 以上の結果から、ローパスフィルターの搭載は正解だったと思う。
高感度ISOノイズ:
- ネイティブISO感度は100-25,600で、拡張感度は最低6、最高102,400だ。
- ベースISO感度である100は、コントラストが高く、シャドー部が滑らかでとてもきれいな画像だ。
- ISO1600でも状況はほとんど変わらず、コントラストレベルは同様で、節目では最小限のノイズが見らる。
- ISO6400になると、ノイズパターンが少し粗くなるが、それでも十分に使える結果だ。
- ISO12,800になると、ノイズの中にもムラが見られるようになる。このパターンはISO25,600になるとさらに強まり、画質の劣化が始まる。
- できればISO25,600は避けて、12,800を上限としたいところだ。これは高画素機としてはかなり良い性能だと思う。
ダイナミックレンジ:
- 4段分のシャドー情報を、ほとんど影響を与えることなく簡単に回復することができた。
- しかしその逆の場合、2段分の露出オーバーではいくつかのホットスポットが発生する。3段分の露出補正では多くの情報が失われる。
- ダイナミックレンジは良好だが、総合的な性能ではソニーα7R IVにやや遅れをとっていると言える(おそらく1段分)。 しかし、ほとんどのシーンで十分なダイナミックレンジを得られる。
動画:
- 外部出力でCinema DNG 12Bitの30pを利用可能だ。しかし、SDカードの内部記録は8BitのCinema DNGで25fpsまでしか利用できない。
総評
シグマfp Lは、とても風変わりなカメラだ。高画素機としては驚異的な小型・軽量化を実現している。ただし、モジュラーデザインを採用しているため、一般的なカメラに内蔵されている基本的なアクセサリーを追加した時点で、その優位性は失われてしまう。また価格についても同様で、単純にコストパフォーマンスを認めることはできない。fp L + EVF-11のセットと同じような価格で販売されているソニーα7R IVではなくfp Lを選ぶためには、このカメラが提供するものを本当に欲しいと思わなければならない。
オートフォーカスの問題とボディ内手ぶれ補正の欠如は、私にとって大きな欠点となる。これらはカメラの用途を限定し、"ポケッタブル "や "ラン&ガン "の特性を損なうと感じている。
fp Lには2つの可能性があると考えている。
1つ目は、絶対的に軽量で高性能なカメラを求め、アクセサリーを使う必要のないグループだ。このグループはカメラを素の状態で使用し、軽量でコンパクトなレンズを使用することで、APS-Cサイズのカメラのように扱うことが出来る。そしてより高画質だ。レンズ次第で、バックパッカーや旅行者はこのシナリオを楽しむことができると思う。今回はシグマ24-70mm F2.8 DNと組み合わせたが、このようなカメラにはレンズが大きすぎた。2つ目のグループは、小さくて柔軟性のあるフォームファクターが好きで、ケージなどでアクセサリーをつけることが多いビデオグラファーだ。 外部モニターを使用する場合、固定式モニタは大きな問題ではなく、グリップのない四角いボディも問題とはならないだろう。Arri、Sony、Redなどの他のシネカメラのディレクターズビューファインダーやカスタムフレームとの組み合わせに最適化されている。 カラーバリエーションも豊富で、後からグレーディングをしなくても映像をスタイリッシュに仕上げたい場合に便利だ。
しかし、カメラにすべての機能を求めてきた一般的な市場では、fp Lはあまり注目されないだろう。 モジュール式のデザインは主流と言えず、いくつかの大きな弱点がある。fp Lはニッチなユーザーのためのスペシャルな道具だ。 シグマはあなたがニッチな層であることを望んでいると思うが、例え違っていたとしても、彼らは一風変わったカメラを作り続けるように思える。
長所:
- 最小・最軽量の高解像ミラーレス
- 統合型ヒートシンクによる熱対策
- 長時間録画に対応
- ウェブカメラ機能
- 高品質なビルド
- DNG出力
- ロスレスズーム機能
- USB給電
- 手ごろな基本価格
- 優れたダイナミックレンジとISO感度性能
- 低モアレ
短所:
- 手ぶれ補正なし
- 内蔵ファインダーなし
- グリップがない
- 無意味なフラッシュ同調速度
- モニター固定式
- 安定しないAF
- 信頼性の低い動画AF
- 外付けファインダー装着でfpの良さが損なわれる
- バッファが浅い
とのこと。
初代fpのスタイルを維持しつつ、超高画素CMOSセンサーを搭載したカメラですね。高画素機を活かすためのAF精度と手ぶれ補正が無い点はよく考える必要があるものの、コンパクトサイズで6100万画素を利用できるのは魅力的ですね。6100万画素の高解像を風景写真などで使おうとすると難しいかもしれませんが、Leica Q2のように「クロップズームのための高画素」と割り切れば面白い使い方が出来るかもしれません。それでも手ぶれ補正が無い点は気を付ける必要があると思いますが…。
悩ましいのはAF性能でしょうか?像面位相差AFに対応したものの、精度がイマイチでは安心して撮影できないように感じます。ただし、Dustin Abbott氏が受け取ったfp Lはプリプロダクションモデルであり、製品版ではAFが改善している可能性もあります。他のレビューサイトで、製品版を使ったテスト結果を確認する必要がありそう。
画質はα7R IVと同じく、高解像ながら良好なISO感度・ダイナミックレンジを備えている模様。ローパスフィルターを搭載しているので、クロップしても自然な描写を楽しめそうですね。(α7R IVはクロップし過ぎると偽色が目立つ場合があるので…)
価格はボディで25万円、EVFキットでも30万円以下。6100万画素モデルとしては安いと思いますが、カメラの欠点は理解した上で購入したほうが良さそう。個人的にローパスフィルター搭載の6100万画素は使ってみたいところ。
購入早見表
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