「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」のレビュー第四弾を公開。今回は前後のボケ質差や玉ボケの形状と絞り羽根の影響、撮影距離を変化した場合のボケ質などをチェックしています。
おことわり
今回は2ndFocusより無償貸与の「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」を使用してレビューしています。提供にあたりレビュー内容の指示や報酬の受け取りはありません。従来通りのレビューを心がけますが、無意識にバイアスがかかることは否定できません。また、従来よりも使用期間が短く、短期間に集中して試写・テストを実施ています。そのあたりをご理解のうえで以下を読み進めてください。
Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.のレビュー一覧
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビュー完全版
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.5 諸収差 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.4 ボケ 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.3 解像チャート 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.2 遠景解像 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.1 外観・操作 編
Index
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
前後で大差のないニュートラルな描写に見えますが、わずかに後ボケが柔らかく滑らかな描写。ボケ質について極上とは言えず、高解像・高コントラストらしいレンズの描写かなと。F1.4の絞り開放は軸上色収差の影響が残っており、程よくコントラストを下げて雰囲気のあるボケ味となっているようにも見えます。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響とは
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
非球面レンズを使用していますが、研磨ムラによる同心円状の粗(いわゆる玉ねぎボケ)は目立ちません。よくみると薄っすらムラっぽくなっていますが、コントラストの高いイルミネーションでも目立たないので、実写で心配することはありません。フレーム中心は綺麗な円形ですが、隅に向かって徐々に変形しています。縁取りはやや硬く、軸上色収差や倍率色収差の影響あり。
右下隅のクロップ
隅の口径食と軸上色収差の色づきはF2まで絞るとほぼ改善します。14枚と絞り羽根が多いため、絞っても円形を維持。F2.8-4で隅まで綺麗な円形へと変化します。
ボケ実写
至近距離
最短撮影距離に近い場合、ボケは非常に大きく滑らかな描写。フレーム隅で口径食の影響があるものの、ボケが大きく目立ちません。絞ると口径食や色収差が改善するものの、F2.8まで絞るとボケが小さく、やや硬い描写に見えます。バランスを取るのであればF2.0~F2.5あたりが丁度良いかもしれません。
近距離
撮影距離が長くなると、ボケ縁取りの硬さが強くなる。特に周辺部から隅にかけて、F1.4は荒れやすいので状況に応じて少し絞るのがおススメ。F2.8まで絞ると安定しますが、ボケが小さいと感じる場合はF2~F2.5あたりで妥協点を探すのが良さそう。
中距離
撮影距離がさらに長くなると、縁取りが硬く、隅に向かって見栄えの悪いボケが強くなります。やはりF2.8くらいまで絞ると改善するため、状況に応じて絞りを調整するのがおススメです。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F1.4)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。
フレームに全身を入れても背景を少しぼかして被写体を分離することが可能。ただし、この際のボケ質はお世辞にも綺麗とは言えず、少なくとも1段程度は絞って収差を抑えたほうが見栄えが良い可能性あり。上半身程度まで近寄るとボケ質は改善しますが、それでも少し絞ったほうが良いかもしれません(特にコントラストが強い場合)。バストアップや顔のアップまで近寄ると、F1.4から満足のいく描写を得ることができました。
まとめ
正直に言えば、中央周辺以外はあまり綺麗なボケではありません。ただし、小型軽量な35mm F1.4としては色収差が良く抑えられてるので、無駄に後ボケが悪目立ちすることはありません。上を見なければ悪くない描写です。接写以外の後ボケはやや硬めですが「輪郭を残しつつ背景をぼかす」という意味ではアリ。前述したように色収差の影響は少なく、口径食による変形は強くありません。背景を描写しつつ、被写体を浮き上がらせるという意味では一つの選択肢なのかなと思います。ちょっと癖が強いなと感じた場合、絞りを調整するか、周辺部のボケを見させないようにすることで問題を避けることができます。さらに言えば、このレンズは「ボケで魅せる」と言うよりは「ピント面の力強さで魅せる」タイプの描写なのかなと。
もしもボケを重視するのであれば、ソフト系のフィルターを使うなり、高性能で大きめのレンズを選んだほうが良いかもしれません。
購入早見表
作例
関連レンズ
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