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Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビュー完全版

このページではの交換レンズ「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」のレビューを掲載しています。

おことわり

今回は2ndFocusより無償貸与の「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」を使用してレビューしています。提供にあたりレビュー内容の指示や報酬の受け取りはありません。従来通りのレビューを心がけますが、無意識にバイアスがかかることは否定できません。また、従来よりも使用期間が短く、短期間に集中して試写・テストを実施ています。そのあたりをご理解のうえで以下を読み進めてください。

Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.のレビュー一覧

管理人の評価

ポイント 評価 コメント
価格 高いだけのことはある
サイズ 適度なサイズ
重量 適度な重量
操作性 極上に近い操作性
解像性能 絞れば非常に良好
ボケ 少し絞る必要あり
色収差 このクラスでは優れた性能
歪曲収差 無視できる程度
コマ収差・非点収差 絞る必要あり
周辺減光 補正が必要かもしれない
逆光耐性 良好
満足度 パンチのあるピント面が強み

評価:

パンチのある描写

謎の新興レンズメーカーながら全体的に優れた光学性能。球面収差やコマ収差など指摘する部分があるものの、絞りによって調整しやすく、使い勝手は良好。Simeraのコンセプトである高解像・高コントラスト・低色収差の売り文句に嘘偽りなく、パンチのある描写を楽しめる一本。

Excellent optical performance overall despite being from a mysterious new lens manufacturer. Although there are some areas to be pointed out, such as spherical aberration and coma aberration, the lens is easy to adjust by aperture, making it easy to use and enjoy the punchy image quality of Simera's concept of high resolution, high contrast, and low chromatic aberration.

被写体の適正

被写体 適正 備考
人物 引きの撮影ではボケが荒れ気味
子供・動物 MFで動体を追いかけるのは難しい
風景 絞れば全体的にシャープ
星景・夜景 コマ収差と周辺減光が厳しい
旅行 小型軽量で高性能
マクロ 比較的寄りやすい35mm
建築物 ほぼゼロ歪曲で絞れば高解像

まえがき

2023年9月にPhotopia Hamburgで発表。
Thypochは「Thy」「epoch」で構成された造語で、写真による自己表現を重要視。また、レンズ名の「Simera」はギリシャ語で「今日」を意味しており、現在の一瞬を記録することを追求しているようです。このコンセプトのもと、高解像・高コントラスト・低色収差を特徴とした「Thypoch Simera 28mm f/1.4 ASPH.」「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」が登場。今回は35mm F1.4をお借りしてレビューしています。

  • 公式
  • 2ndFocus
  • データベース
  • 管理人のFlickr
  • 発売日:2024.1.3
  • 初値:128,700円
  • マウント:M
  • フォーマット:フルサイズ
  • 焦点距離:35mm
  • レンズ構成:5群9枚
  • 開放絞り:F1.4
  • 最小絞り:F16
  • 絞り羽根:14枚
  • 最短撮影距離:0.45m
  • 最大撮影倍率:不明
  • フィルター径:49mm
  • 手ぶれ補正:-
  • テレコン:-
  • コーティング:不明
  • サイズ:54×100mm
  • 重量:353g
  • 防塵防滴:-
  • AF:MF限定
  • その他:
  • 付属品:レンズフード

レンズ構成や構成枚数はライカ「Summilux 35mm F1.4 FLE」とよく似ています。非球面レンズの位置も同じ。ただし、ライカと比べて最短撮影距離が若干長く(40cm:45cm)、フローティングエレメントの構成がやや異なっているようです。とは言え、全体の構成はよく似ているので、ライカと同じような写りを期待できるのではないでしょうか。実際にどのような結果が得られるのかはテストで明らかにしていきたいと思います。

価格のチェック

国内では2ndFocus直営ECサイトにて128,700円。Summilux 35mm F1.4 FLEと比べると遥かに安いものの、謎のレンズメーカーの35mm F1.4 MFレンズとしてはやや高め。

Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.
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2ndFocus B&H    

レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

外箱は白を基調としたシンプルなデザイン。カバーが若干汚れているように見えますが、あくまでも雰囲気づくりのデザインであり、実際に汚れている訳ではありません。「SIMERA」を中心としてレンズ名が印字されています。箱を開けるレンズとフード、説明書が綺麗に収納されています。日本のレンズメーカーと比べると高級感を優先したデザイン。賛否はあるかもしれませんが、個人的には好み。レンズ本体のほか、付属品は金属製の前後キャップとレンズフード、およびフード用のキャップがあります。

外観

外装はアルマイト処理されたアルミニウム合金の総金属製。絞り値やピント距離の表示はプリントではなく、エッチング加工のうえに色塗りされています。10万円以上の高価なMFレンズですが、少なくともレンズの作りは価格に見合うものと言えそうです。
また、マクロスイターを彷彿とさせる被写界深度指標など、ヴィンテージ風でレンジファインダーと調和するデザインもGood。

前玉・後玉

凹タイプの前玉の周囲は反射を抑えるための切込みとマットブラックの塗装が施されています。レンズ銘やシリアルナンバーが印字されたプレートは光沢があるものの、フィルターソケットに近い位置のため反射光が邪魔になる可能性は低いはず。

レンズは防塵防滴仕様でなければ、前玉の防汚コーティングもありません。汚れやダメージが予想されるシーンではフィルターを装着しておいたほうが良いでしょう。F1.4と大口径のレンズであるため、日中にシャッタースピードが対応しきれない場合はNDフィルターが必要となります。

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金属製のレンズマウントは4本のビスで固定されています。最後尾のレンズは鏡筒ギリギリに配置されています。取り扱いに注意。フォーカシングでレンズ後群が前後します(前玉は動かない)。

フォーカスリング

レンズマウント付近の金属製フォーカスリングは約90度のストロークで0.45m~∞で動作します。適度な抵抗で滑らかに回転。回転時の抵抗感は一貫しており、不快な感触はありません。0.7mのところにクリック感があり、レンズを確認せずとも距離計が連動する範囲を認識することが可能。便利な機能ですが、0.7m前後でピント合わせをする場合はクリックの妙な抵抗感が少し邪魔と感じる場合あり。フォーカスリングは湾曲したグリップのほか、無限遠に固定できるフォーカシングレバーを搭載。無限遠のロックはしっかりと固定されるため、力を入れて回転しても解除することはできません。解除する場合はノブを押しながらリングを回転させる必要があります。レンズ鏡筒には絞り値を操作することでドット表示が変化するマクロスイターライクな被写界深度指標を搭載。これが実用的と感じるかどうかは個人差があると思うものの、視覚的・機構的に面白いデザイン。

絞りリング

F1.4からF16まで操作できる金属製絞りリングを搭載。F1.4からF4.0までは3段刻み、F4からF8.0までは1/2段刻み、以降は1段刻みのクリック感あり。適度なクリック感と抵抗で、滑らかに回転するので気持ちよく操作することが可能。絞りリングにはクリックの有無を切り替えることができるスイッチを搭載しています。クリックありと比べると少し緩めですが、動画撮影には適しているかもしれません。

レンズフード

レンズには金属製の角形フードが付属。本体と同じく金属製のしっかりとした作りで、内側は反射防止用の切込みとマットブラックの塗装が施されています。左上にレンジファインダー用の覗き穴あり。バヨネット式で滑らかに装着可能ですが、固定部分のバネが弱く、軽い力で緩みやすいのがマイナス。レンズ本体用の丸形キャップに加え、フード用の角形キャップも用意されています。どちらも金属製。

装着例

M型ライカを所有していないので、アダプター経由でニコンZ fに装着。借りたレンズがシルバーカラーのため浮いてしまっていますが、これがブラックモデルだったら見栄えの良い外観だったかもしれません。

 

AF・MF

フォーカススピード

フォーカスリングは約90度のストロークで素早く操作可能。微調整もしやすい程度の抵抗感があり、使い勝手は良好です。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。

スライドショーには JavaScript が必要です。

ピント位置によって画角が大きく変化。変化する量はリニアで、フォーカスリングの操作速度によっては目立たない程度に、緩やかに画角が変化します。

精度

前述したとおり、使い勝手の良いフォーカスリングでピント合わせは簡単です。0.7m付近と無限遠近くはクリック・ロック機構によって抵抗が変化するため、少し難しい。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:Nikon Z 8
  • 交換レンズ:Thypoch Simera 35mm F1.4 ASPH.
  • パール光学工業株式会社
    【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 100 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

テスト結果

絞り開放から抜群の解像性能とはいかないものの、中央から隅まで均質性の高い結果が得られています。小型軽量な35mm F1.4としては予想していたよりも良く、フローティング方式のフォーカスが功を奏しているのでしょうか。絞ると全体的に、そして徐々に改善します。F5.6のピークはフレーム隅でも4000本に近い、とても良好な結果が得られています。現代的で大きく重い35mm F1.4ほぼの性能ではありませんが、このようなMFレンズとしては十分な性能。

中央

絞り開放のF1.4は残存する球面収差でわずかにソフトな画質。そして軸上色収差の影響もわずかに確認できます。F2.0からF2.8にかけて諸収差が収束し、F4に向かってシャープネスとコントラストが向上しているように見えます。最低限の画質で明るさやボケを優先する場合はF2~F2.8を、解像を重視するならF4~F5.6まで絞るのがおススメ。

周辺

F1.4は中央と同じく、少しソフトな結果。ただし非点収差やコマ収差、倍率色収差と言った軸外収差の顕著な影響はなく、思っていたよりも安定感のある結果。F2.8まで絞ると中央と同じか、それ以上の結果が得られているように見えます。F4まで絞るとさらにシャープな結果で、倍率色収差はごく僅か。

四隅

周辺部と比べて顕著な差はありません。倍率色収差はやや強くなっているものの、(修正時)画質に影響を与えない程度に抑えられているように見えます。F2.8~F4まで絞った段階でシャープな結果が得られているものの、ピークを迎えるのはF5.6あたり。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F1.4 2931 2681 2681
F2.0 3212 2915 3290
F2.8 3866 4169 3436
F4.0 4293 4207 3614
F5.6 4520 4161 3972
F8.0 4438 3880 3614
F11 4234 3922 3426
F16 3662 3364 3102

実写確認

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2023年12月28日 晴れ 微風
  • カメラ:Nikon Z 8
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
  • 露出:ISO 100 絞り優先AE
  • RAW:Adobe Lightroom Classic CC
    ・シャープネスオフ
    ・ノイズ補正オフ
    ・レンズ補正オフ
    ・その他 初期設定
  • フォーカス:絞り値ごとに中央ピント合わせ

テスト結果

F1.4の絞り開放から軸上色収差がまずまず良好に補正で、シャープネスを重視しなければ実用的な画質。解像性能は中央がF1.4から良好となっているものの、隅に向かってコマ収差と思われるコントラストの低下が見られます。F2.8まで絞ると広い範囲で高解像・高コントラストとなり、F4まで絞るとフレーム隅まで非常にシャープな結果を得ることができます。倍率色収差も少なく、非常に快適。

中央

F1.4から実用的な画質ですが、絞りによる改善効果が大きい。F4まで絞ると高解像・高コントラストな結果を得ることができます。4500万画素の高解像センサーでも余裕を感じる解像性能です。

周辺

中央と比べると軸外収差の影響を受けているように見えますが、絞ると徐々に収束します。F2.8まで絞ると良好と言っていいくらいに改善し、F4~F5.6でさらに切れ味が増す。

四隅

諸収差編で紹介しますが、絞り開放付近はコマ収差が残存しています。点光源が変形するのはもちろんのこと、日中でもフレーム隅のコントラストや解像性能に影響しているようです。これは絞ることで徐々に改善し、F4まで絞ると画質が大幅に向上。色収差も良く抑えられているので、追加の補正は必要ないように見えます。小型軽量な35mm F1.4としては満足のいく結果。

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。

ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。

参考:ニコン 収差とは

実写で確認

ピントを合わせる位置を変えても影響はほとんどありません。像面湾曲は無視できる程度に抑えられているようです。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。

参考:ニコン 収差とは

実写で確認

レンズ補正無しの状態でも良好な結果。ごく僅かに残存していますが、基本的には無視できる範囲内に抑えられています。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。

参考:ニコン 収差とは

実写で確認

軸上色収差がゼロとは言えないものの、小型軽量な35mm F1.4としては良好な補正状態です。極端なコントラストの領域では色ずれが発生するものの、それ以外の領域では特に目立ちません。F2.8-4まで絞ると、高コントラストな領域の色収差もほぼ解消します。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。

参考:ニコン 収差とは

比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。

実写で確認

補正無しの場合は陣笠状の歪みの伴う僅かな樽型歪曲。少しの手動補正で修正できますが、フレーム端は過補正となってしまう点に注意。直線的な被写体をフレーム端に配置しなければ無視できる範囲内。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。

参考:ニコン 収差とは

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。

実写で確認

とても良好な光学性能のレンズですが、コマ収差は数少ない欠点の一つ。F1.4の絞り開放で非常に目立ち、F2.0まで絞っても強めの収差が残っています。F2.8-4で解消しますが、大口径を活かした夜景・イルミネーションの撮影には不向きと感じるかもしれません。

球面収差

F1.4

F1.4における球面収差の補正は完璧と言えず、前後のボケ質に差が見られます。と言っても顕著な違いではなく、ボケ質に少し味付けがのる程度。また、前後ともにボケの縁取りが少し硬く、補正しきれていない色収差が少し目立ちます。

F2.0

F2まで絞ると球面収差が収束し、前後の差が少なくなっています。それでも描写に違いが見られ、完璧に抑えるためにはもう少し絞ったほうが良さそう。

F2.8

F2.8まで絞ると前後の質感に大きな違いが無くなります。ここまで絞ると収差は無視できる範囲内。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。

実写で確認

前後で大差のないニュートラルな描写に見えますが、わずかに後ボケが柔らかく滑らかな描写。ボケ質について極上とは言えず、高解像・高コントラストらしいレンズの描写かなと。F1.4の絞り開放は軸上色収差の影響が残っており、程よくコントラストを下げて雰囲気のあるボケ味となっているようにも見えます。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響とは

口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。

口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。

実写で確認

非球面レンズを使用していますが、研磨ムラによる同心円状の粗(いわゆる玉ねぎボケ)は目立ちません。よくみると薄っすらムラっぽくなっていますが、コントラストの高いイルミネーションでも目立たないので、実写で心配することはありません。フレーム中心は綺麗な円形ですが、隅に向かって徐々に変形しています。縁取りはやや硬く、軸上色収差や倍率色収差の影響あり。

右下隅のクロップ

隅の口径食と軸上色収差の色づきはF2まで絞るとほぼ改善します。14枚と絞り羽根が多いため、絞っても円形を維持。F2.8-4で隅まで綺麗な円形へと変化します。

ボケ実写

至近距離

最短撮影距離に近い場合、ボケは非常に大きく滑らかな描写。フレーム隅で口径食の影響があるものの、ボケが大きく目立ちません。絞ると口径食や色収差が改善するものの、F2.8まで絞るとボケが小さく、やや硬い描写に見えます。バランスを取るのであればF2.0~F2.5あたりが丁度良いかもしれません。

 

近距離

撮影距離が長くなると、ボケ縁取りの硬さが強くなる。特に周辺部から隅にかけて、F1.4は荒れやすいので状況に応じて少し絞るのがおススメ。F2.8まで絞ると安定しますが、ボケが小さいと感じる場合はF2~F2.5あたりで妥協点を探すのが良さそう。

 

中距離

撮影距離がさらに長くなると、縁取りが硬く、隅に向かって見栄えの悪いボケが強くなります。やはりF2.8くらいまで絞ると改善するため、状況に応じて絞りを調整するのがおススメです。

 

ポートレート

全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F1.4)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。

フレームに全身を入れても背景を少しぼかして被写体を分離することが可能。ただし、この際のボケ質はお世辞にも綺麗とは言えず、少なくとも1段程度は絞って収差を抑えたほうが見栄えが良い可能性あり。上半身程度まで近寄るとボケ質は改善しますが、それでも少し絞ったほうが良いかもしれません(特にコントラストが強い場合)。バストアップや顔のアップまで近寄ると、F1.4から満足のいく描写を得ることができました。

周辺減光

周辺減光とは?

フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

最短撮影距離

F1.4の絞り開放で四隅に向かって顕著な光量低下が発生。現像ソフトで修正する場合、Lightroomの周辺減光補正でスライダーを+77まで使用する必要があります。絞ると改善しますが、F4まで絞っても解消しません。

無限遠

最短撮影距離よりもさらに影響が強く、Lightroomの補正スライダーを+100まで使っても影響が残ります。もともとコマ収差などの影響で遠景のF1.4撮影には不向きなレンズですが、周辺減光の観点からも適していないと言うことが出来ます。ただし、今回はアダプター経由のLUMIX S5IIでテストしているため、ネイティブMマウントのM型ライカでは違った結果が得られる可能性あり。

逆光耐性・光条

中央

強い光源をフレームに入れてもフレアとゴーストは良く抑えられているようです。完璧ではありませんが、フレーム全体が破綻するようなフレアは発生していません。絞るとゴーストが増えるものの、形や色が自然で悪目立ちしないように見えます。

光源がフレーム隅にある場合はゴーストがほとんど発生しません。露出を上げると影響が顕在化するかもしれませんが、暗部を無理に持ち上げなければ影響は軽微。

光条

F5.6付近から先端が分散する光条が発生しはじめ、F11~F16あたりで先細りする光条に変化します。非常に綺麗でシャープな光条。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • Leica Summilux 35mm F1.4 FLEと似たような構成
  • 最短撮影距離が0.45mと短い
  • 国内の正規代理店あり
  • 立派な箱
  • 総金属製の本体・アクセサリ
  • マクロスイターのようなデザイン
  • 滑らかで使い勝手の良いフォーカスリング
  • クリック解除が可能な絞りリング
  • F1.4から均質性が高い
  • 絞ると全体的にとても良好
  • 像面湾曲の影響が小さい
  • 倍率色収差が少ない
  • 適度な軸上色収差
  • 穏やかな樽型歪曲
  • 玉ねぎボケが目立たない
  • 接写時は滑らかなボケ
  • 光条が綺麗

Thypochが主張している「高解像・高コントラスト・低色収差」は実際そのとおり。F1.4から現代的なレンズに匹敵するとは言えないものの、小型軽量な35mm F1.4としてはとても良好な光学性能。どちらかと言えばピント面におけるパンチのある描写が魅力的なレンズであり、ボケ質は二の次と言った印象。フレアやゴーストも良く抑えられています。限界を超えると、ぶわっとフレアが広がるものの、一般的な撮影で影響を受ける機会は少ないと感じました。最短撮影距離が短いのも使いやすく、ミラーレスのクローズアップ対応アダプターを装着すると、さらに寄りやすくなります。

悪かったところ

ココに注意

  • 謎のメーカーとしてはやや高価
  • フードが緩みやすい
  • フォーカスブリージングが目立つ
  • 絞り開放がソフトな画質
  • やや目立つコマ収差
  • 球面収差の補正が完璧ではない
  • 周辺部の玉ボケは縁取り硬い
  • 中距離以降でF1.4のボケが荒れる
  • 周辺減光が目立つ
  • 状況によってフレアによるコントラスト低下

レンズの描写として気を付けるとしたら、絞り開放付近における球面収差とコマ収差。球面収差はピント面の画質低下と言うよりは後ボケの騒がしさに影響あり。コマ収差は周辺部におけるコントラスト低下や点光源の変形など。どちらも予想できる範囲内の影響であり、絞りを調整することで抑えることが可能。そのほか細かい欠点を挙げることができるものの、ディールブレーカーとなるような致命的な点はありません。

総合評価

満足度は95点。
MFのMマウント用35mm F1.4を探しているのであれば、強くおススメできるレンズ。謎の新興レンズメーカーに10万円も出せないと感じる人もいると思いますが、それだけの価値があるのかなと。特にピント面にパンチのある描写を求めているのであれば検討する価値あり。絞り開放のボケ質重視であれば他のレンズを探したほうが良いでしょう。

購入早見表

Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.
*今のところ2ndFocusでのみ販売を確認
楽天市場 Amazon キタムラ Yahoo
2ndFocus B&H    

作例

オリジナルはFlickrにて公開

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