このページではシグマ「16mm F1.4 DC DN」富士フイルムXマウントのレビューを掲載しています。
16mm F1.4 DC DN X-mountのレビュー一覧
- シグマ 16mm F1.4 DC DN X-mount 徹底レビュー 完全版
- シグマ 16mm F1.4 DC DN X-mount 徹底レビュー Vol.5 ボケ編
- シグマ 16mm F1.4 DC DN X-mount 徹底レビュー Vol.4 諸収差編
- シグマ 16mm F1.4 DC DN X-mount 徹底レビュー Vol.2 解像チャート編
- シグマ 16mm F1.4 DC DN X-mount 徹底レビュー Vol.1 外観・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 非常に手ごろな価格 | |
サイズ | 少し長い | |
重量 | 軽くは無い | |
操作性 | 非常にシンプル | |
AF性能 | 十分なAF速度 | |
解像性能 | 絞ると周辺まで良好 | |
ボケ | 接写時の後ボケは滑らか | |
色収差 | 軸上色収差が少し目立つ | |
歪曲収差 | 穏やかな樽型 | |
コマ収差・非点収差 | 予想よりも目立つ | |
周辺減光 | 無評価 | 自動補正 |
逆光耐性 | 正面からの光源に弱い | |
満足度 | コスパ良好の大口径レンズ |
評価:
コスパ良好の明るい広角レンズ
「16mm F1.4」ながら4万円前半で購入できる非常にリーズナブルな大口径広角レンズ。価格を考慮すると立派なレンズの作りで、光学性能もまずまず良好。いくつかの点で妥協は必要だが、同価格帯に競合レンズは存在せず、明るい広角レンズを体験してみるには面白い選択肢だ。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 全身ではボケが騒がしい | |
子供・動物 | 許容範囲内だがカメラ次第 | |
風景 | 絞れば実用的 | |
星景・夜景 | 絞り開放の点像再現性は低い | |
旅行 | まずまずの携帯性で広角F1.4 | |
マクロ | 寄れない&接写で性能低下 | |
建築物 | 十分に絞る必要あり |
Index
レンズのおさらい
ソニーEマウント用として2017年11月に登場したAPS-C用の大口径広角レンズ。当時からコストパフォーマンスの高いレンズとして定評を得て、さらに4年以上の時を経て、ついに富士フイルムXマウント用が発売した。
概要 | |||
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レンズの仕様 | |||
マウント | X | 最短撮影距離 | 0.25m |
フォーマット | APS-C | 最大撮影倍率 | 1:9.9 |
焦点距離 | 16mm | フィルター径 | 67mm |
レンズ構成 | 13群16枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F1.4 | テレコン | - |
最小絞り | F16 | コーティング | SMC |
絞り羽根 | 9 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ72.2×92.6mm | 防塵防滴 | 簡易 |
重量 | 405g | AF | STM |
その他 | |||
付属品 | |||
レンズフード |
APS-C専用設計でフルサイズ用の「24mm F1.4」と比べると小型軽量なレンズである(24mm F2と比べると同程度)。13群16枚のレンズ構成中にFLDガラスを3枚、SLDガラスを2枚使用し、さらに非球面レンズも2枚使用した贅沢な作りである。レンズの販売価格を考慮すると驚くほど特殊ガラスが多い。大口径広角レンズとしては高度な色収差補正を期待できそうだ。
今のところ、Xマウントで競合するレンズは富士フイルム「XF16mmF1.4 R WR」のみ。
比較して撮影倍率が小さく、小さな被写体に寄りにくい点が欠点となる。また、絞りリング非搭載で、フォーカスクラッチ構造にも対応していないシンプルな作りだ。完全な防塵防滴仕様でも無いので、汎用性・機能性を考慮するといくつか制限を感じるかもしれない。
価格のチェック
汎用性や機能性には制限があるものの、富士フイルム純正レンズとの価格差は見逃せない。このシグマ製レンズは同じ「16mm F1.4」ながら価格は富士フイルムの半値以下だ。買い方次第では3倍近くになる。もしも前述した欠点が気にならないのであれば、コストパフォーマンスの高いレンズになると思う。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
SIGMA GLOBAL VISIONシリーズらしい白と黒を基調としたシンプルなデザインの小さな箱。右上の「017」はエディションナンバーであり、発売された西暦の下三桁を表示。このレンズはもともとEマウント/MFTマウント用として2018年に発売したものであり、2022年に登場したXマウント用も「017」と表示されている。
レンズ本体の他に、レンズフード、説明書、保証書が付属。Artシリーズのようなレンズケースは付属していない。
外観
APS-C用の大口径レンズながら、手のひらに収まるコンパクトサイズ。Contemporaryラインながら、外装は金属パーツとプラスチックパーツを組み合わせたしっかりとした作りだ。手ごろな価格だが、安っぽさは全く感じられない。価格を考慮すると質感は非常に良好だが、同価格帯のVILTROXが総金属製の外装を採用しているので、質感のみを比較すると分が悪い。
コントロールは幅広のゴム製フォーカスリングのみ。
マウント付近の外装にはレンズ名やSIGMAのロゴの他、ピント範囲がプリントされている。製造国はもちろん日本だ。
ハンズオン
全長92.6mm、重量405gと適度なサイズ・重量の大口径レンズだ。シグマF1.4 DC DNシリーズの中では最も大きく重いレンズだが、大きすぎるとは感じない。カメラに装着して一日中持ち歩いたとしても、レンズの重量が苦になることは無い。とは言え、X-E4などグリップが無いカメラと組み合わせるとアンバランスと感じるかもしれない。
前玉・後玉
前玉の周囲には反射を抑えた黒の塗装でレンズ名やフィルターサイズ、製造国(もちろん製造国は日本、さらに言えば会津製)が印字されている。フィルター装着時に白文字のプリントは反射で写りこみやすいので、黒のプリントはフィルターワークに配慮していると感じる。
使用するとフィルター径は67mmだ。このレンズの他に「XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR」「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD」などで使用する。
シグマらしく真鍮製レンズマウントを採用。周囲には簡易防塵防滴用のシーリングが施されている。後玉周辺は適切な反射防止対策が施されているように見える。
フォーカスリング
ゴム製フォーカスリングは適度なトルクで滑らかに回転する。ピントの移動量はカメラ(X-S10)側でリニア・ノンリニアに対応している。リニアの場合、無限遠から最短撮影距離まで180度ほどで操作可能だ。ノンリニアで素早く回転しても180度ほど必要だが、ゆっくり回すと高精度な操作が可能となる。
レンズフード
プラスチック製の花形レンズフードが付属する。光沢を抑えたマットな塗装に加え、内面には切り込み加工で反射を抑えている。さらに外面はグリップを高めるためのゴムコーティングが施された立派なクオリティのフードだ。この価格帯のレンズに付属するフードとしてはトップクラスである。
装着例
X-S10に装着。バランスは良好で、F1.4大口径レンズながら長時間の撮影でも苦にならない組み合わせだと感じる。ただ、単焦点レンズの中では大きめとなっているので、収納性や携帯性は少し悪い。純正レンズやVILTROX・Tokinaレンズのような絞りリングを搭載していないが、X-S10の操作性であれば特に苦にならないと思われる。(シャッタースピード・ISO感度ダイヤルを搭載するXシリーズは操作性のギャップを感じるかもしれない)
AF・MF
フォーカススピード
このレンズのAFはステッピングモーターで動作する。X-S10最新ファームウェアとの組み合わせで近距離から遠景まで静かで高速なフォーカスを実現しているように見える。一部レンズほど電光石火のフォーカス速度とは感じないが、大部分の撮影でストレスフリーだ。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
このレンズはフォーカスブリージングがほぼ皆無だ。ピント位置による画角の変化はほとんど無く、動画撮影時に違和感のないフォーカシングを利用できる。動画撮影のみならず、静止画のAFでも不快な画角の変化がないため、優れた撮影体験が得られる。
精度
X-S10との組み合わせで特に大きな問題は見られない。フォーカスシフトや像面湾曲の影響も最小限に抑えられているので、絞り値によらず快適に使うことが出来た。
MF
適度なストロークを備えているのでフルマニュアルで操作する場合も問題は見られない。富士フイルム側の改善点となるが、カメラの拡大倍率が小さく、拡大しながらピントの山を掴むのが難しい。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:FUJIFILM X-S10
- 交換レンズ:SIGMA 16mm F1.4 DC DN X-mount
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 160 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
同じテスト環境で撮影した同社の56mm F1.4 DC DNほど絞り開放の性能が良好ではなく、均質性もあまり良くない。ただし、絞ると徐々に性能が向上する。F4まで絞ると中央と広い範囲の周辺部で優れたパフォーマンスを発揮し、隅もF5.6以降で良好な結果を期待できる。
広角レンズは定型チャートに接近して撮影する必要があり、必然的に隅のパフォーマンスが低下しやすい点に留意する必要がある。この辺りは遠景解像テストの結果も併せて確認して欲しい。
絞った際に周辺部や隅のパフォーマンスが良好となるものの、この際の解像性能は「18-50mm F2.8 DC DN」と比べて大きな違いはない(注意:Eマウント版の2600万画素テスト)。もしも、単純に近距離の解像性能が必要なだけであれば便利なズームレンズ(18mmはじまりだが)を選ぶのも一つの手である。
中央
絞り開放からまずまずシャープだが、細部を確認してみると僅かにコントラストが低い。これはF4のピークに向かって絞ると徐々に改善する。F4をピークとして、その後は回折の影響で徐々に性能が低下する。最終的にF16の解像性能はF1.4と同程度となる。
周辺
絞り開放は中央とよく似たパフォーマンスを発揮するが、絞って画質が改善し始めるのが遅い。F2.8までは同程度の結果が続き、F4まで絞ることで解像性能が向上する。画質のピークはF5.6で、この際は中央と非常に良く似た結果を得ることが可能だ。その後は回折の影響で徐々に低下するが、F16でも絞り開放付近の性能より良好な結果を得ることが出来る。
四隅
中央や周辺と比べて、驚くほどの画質低下は無い。数値を抜きにしてみると、16mm F1.4の隅としては安定した結果を得ることができる。ただし周辺部と同じく、少し絞っても画質は改善しない。F2.8以降はF8のピークに向かって徐々に改善する。F8まで絞ると中央や周辺部に近い非常に良好な結果を得ることが可能である。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.4 | 2965 | 2731 | 2386 |
F2.0 | 3410 | 2675 | 2117 |
F2.8 | 3420 | 2727 | 2195 |
F4 | 3719 | 3229 | 2578 |
F5.6 | 3678 | 3494 | 2934 |
F8 | 3481 | 3428 | 3207 |
F11 | 3267 | 3351 | 3235 |
F16 | 2903 | 2889 | 2633 |
実写確認
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2022-05-06 晴天 微風
- カメラ:X-S10
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:Leofoto G4
- 露出:絞り優先AE ISO160
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC 現像
・シャープネスオフ
・レンズプロファイルオフ
テスト結果
中央は絞り開放からシャープで絞りによる改善はほとんど見られない。敢えて言えばF1.4で僅かにコントラストが低いくらいだ。周辺部も中央と同じくらいシャープだが、コントラストが改善するのはF4周辺とやや遅めである。ベストを尽くすのであればF5.6~F8まで絞りたい。隅は周辺減光の影響を除けば、まずまず安定した結果をF1.4から得ることができる。ただし、解像性能やコントラストを追求するのであれば、やはりF5.6~F8まで絞ったほうが良好な結果を期待できる。全体的にF11まで良好な結果となり、F16で回折の影響が強くなる。
中央
F1.4で僅かなコントラスト低下があるものの、基本的にはほぼピークの性能が得られる。F2まで絞ると僅かに残っていた軸上色収差が解消してピークを迎える。その後はF8付近までほぼ同じ結果を得ることが可能だ。よく見るとF4~F5.6付近にピークの山があるように見えるが、少なくとも2600万画素のX-S10で違いは目立たない。F11~F16で回折の影響により少しずつ性能が低下する。
周辺
中央とほぼ同じ画質だが、F1.4付近は周辺減光の影響が少し暗く写る。絞ると軸上色収差の影響は改善するが、僅かに残る倍率色収差は残る。細部のコントラストがしっかりするのはF4前後で、絞れるのであればF5.6~F8まで絞ったほうが良好な結果を期待できる。
四隅
周辺減光でF1.4の結果がかなり暗くなるが、像の流れは目立たず、16mm F1.4の隅としては良好な結果と言える。絞ると画質が徐々に向上し、F5.6付近でピークを迎える。中央や周辺部ほど良くないが、まずまず良好な結果だ。倍率色収差の影響も目立たないように見えるが、これはLightroomでオフに出来ない自動補正が効いているようだ(RAW Therapeeで現像する少し目に付く)。
撮影倍率
最短撮影距離は0.25mで、この際の撮影倍率は1:9.9だ。「XF16mmF1.4 R WR」が0.15mの0.21倍をカバーしていることを考慮すると寄りやすいレンズとは言えない。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。
実写で確認
以下は遠景解像テスト(F1.4)の際にピント位置を中央・隅と分けて撮影した結果の隅をクロップしたものだ。
ご覧のようにピント位置に関わらず結果は一定のように見える。像面湾曲は良く抑えられ、実写で大きな影響はない。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。
実写で確認
基本的にX-S10出力のRAWは純正現像ソフトやLightroomなどメジャーな社外製ソフトで倍率色収差が自動的に補正される。今回はRAW Therapeeを使用して自動補正が適用されないように現像したのが上に掲載した結果となる。御覧のように、倍率色収差は僅かながらハッキリと現れており、これは高コントラストな状況で実写にも影響がある。
幸いにも補正が簡単な収差であり、基本的に問題視する必要は無い。ただし、色収差を補正すると細部のコントラストが僅かに低下しているように見え、解像感の低下に繋がっているのは確か。と言っても影響は軽微で個人的には問題を感じない。ちなみに以下はLightroomで現像した結果である。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。
軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。
実写で確認
完璧な補正状態とは言えず、F1.4やF2でいくらか残存している。特に絞り開放でコントラストが高い領域では目立つかもしれない。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。
実写で確認
後ボケは少し柔らかい描写であるのに対し、前ボケは少し硬い描写となっている。極端な描写の違いではないが、滑らかな背景ボケを実現するには十分な描写の違いに見える。ボケが大きくなると描写の違いは分からなくなるが、どちらも僅かに残存する軸上色収差の色付きが見られる。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。
実写で確認
広角の大口径レンズとしては口径食が少なく、(影響はゼロではないが)絞り開放から隅まで良好な形状を維持している。絞る必要性は感じないが、数段絞っても良好な形状を維持している。玉ボケの内側は滑らかな描写だ。ただし、僅かに玉ねぎボケの兆候が見られ、状況によっては目立つかもしれない。また、軸上色収差の補正が完璧とは言えず、高コントラストな状況ではボケの縁に色づきが目立つ可能性あり。
ボケ実写
接写
16mmの広角レンズながら、接写時にF1.4を使用することで十分なボケ量を得ることができる。この際のボケは滑らかで、ピント面前後は滲むように柔らかな描写となる。口径食の影響も少なく、全体的に肯定的なボケに見える。被写界深度を得るために数段絞っても良好なボケだ。
近距離
撮影距離が長くなっても中央付近は良好なボケを維持している。ただし、周辺部やフレーム隅に向かってボケが硬調で騒がしい描写となっている。少し騒がしいと感じたら、1~2段絞ると改善するが、フレーム隅の騒がしい描写は残る。
遠距離
撮影距離が2m近く離れると、ボケがかなり小さくなってしまう。よく見るとかなり騒がしいボケとなるが、ウェブや小さなプリントサイズであれば特に目立たない。絞り開放を使うくらいであれば、1~2段絞って使った方が見栄えが良い。
撮影距離
全高170cmの三脚を人に見立てて、F1.4を使って撮影したのが下の写真だ。フレームに全身を入れても何とか背景をぼかすことが出来る。しかし、描写は粗く、積極的に使いたいとは思わない。上半身くらいまで近寄ると少し改善するが、まだ騒がしく見える。良好となるのはバストアップくらいで、さらに近寄るとベストな描写となる。
球面収差
前後のボケ質には明確な違いがあり、球面収差の補正状態が完璧では無いことが分かる。後ボケは縁取りが弱く、前ボケは少し強めだ。このレンズは軸上色収差の影響が残っており、特にボケの縁取りが強い前ボケで色収差の影響が目立つ。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。
比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。
実写で確認
倍率色収差と同じく、純正ソフトやメジャーな社外製ソフトでは歪曲収差が自動補正される。ここでも敢えて補正をオフにする方法で現像すると、陣笠状の歪みを伴る樽型歪曲が残っていることが分かる。それでもミラーレス用の広角レンズとしては影響が軽微であり、補正による極端な画質低下は無いと思われる。ただし、陣笠状のため手動での完璧な補正は難しい。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
実写で確認
富士フイルムのRAWは基本的に周辺減光の補正プロファイルが付与され、現像時は自動的に補正が適用される。このため、LightroomでRAWを現像すると上記のように周辺減光の影響がない結果となる。自動補正が適用されないRAW Therapeeでの現像を試みたが、うまく行かなったので今回はLightroomの作例のみ掲載する。海外でのレビューを見る限りではだ周辺部に向かって-1.5EV程度の減光があるようだ。
コマ収差・非点収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。
コマ収差は絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、やはり光学的な補正が重要となる。
実写で確認
予想していたよりも収差の影響が強く、点像再現性が悪い。この影響はAPS-Cフレーム端のみならず、マイクロフォーサーズフレームにも影響があるほどだ。もしも夜景でこのレンズを使う場合は気を付けたいポイントとなる。幸いにもF2まで絞ると状況は大きく改善する。
逆光耐性・光条
中央
フレア・ゴースト共に完璧な状態とは言えず、強い光源をフレームに入れると少なからず影響がある。光源周辺はコントラストが低下し、いくつかのゴーストが対角線上に現れる。絞るとフレアの影響はセンサー面の反射であることが分かり、コントラストの低下は抑えられるがRGB状の写りこみが発生する。また小絞りではゴーストも顕在化し、これを後処理で抑えるのは難しい。褒められた結果ではないが、13群16枚と複雑な光学設計を考慮すると避けられない問題のように見える。
隅
強い光源を中央付近から遠ざけることで、フレアやゴーストの発生をある程度なら避けることが可能。それでも、絞ると光源付近から徐々にゴーストが顕在化し始める。
光条
筋が伸び始めるのはF5.6だが、シャープで明瞭な描写はF11~F16となる。F16まで絞ると回折の影響があるので、バランスが良いのはF11前後か。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 手ごろな価格設定
- しっかりとした外装の作り
- 簡易防塵防滴
- 十分な性能のAF
- フォーカスブリージングがほとんど無い
- F1.4から良好な中央解像
- 十分に絞ると良好な周辺解像
- 接写時の後ボケが滑らか
- スペックを考慮すると綺麗な玉ボケ
- 周辺減光は自動的に補正される
- 歪曲収差は自動的に補正される
「16mm F1.4」の大口径レンズであることを考えると、間違いなく手ごろな価格設定だ。特に富士フイルムXマウントで競合するレンズは「XF16mmF1.4 R WR」のみであり、価格は倍以上になる。これだけでシグマを検討する価値がある。さらに価格を考慮すると外装はしっかりとした作りで、中央の解像性能は絞り開放から良好だ。AFも十分な性能を発揮し、残存する主な収差は自動的に補正される、
少なくとも接写時は後ボケが滑らかで、大口径の広角レンズらしい特徴を十分に味わうことが出来る。接写時でもフォーカスブリージングは良く抑えられているので、広角16mmらしいパースの効いた撮影が可能だ。歪曲収差や周辺減光は光学的には残存しているものの、RAW現像時に自動補正されるので心配する必要は無い。
悪かったところ
ココに注意
- コントロールがフォーカスリングのみ
- 絞りリングがない
- 全長が少し長い
- 絞り開放付近は周辺部が甘い
- 軸上色収差が少し目立つ
- 撮影距離が長い場合に後ボケが騒がしい
- 少し残存する樽型歪曲
- コマ収差が目立つ
- 中央付近の光源でゴーストが発生しやすい
最も気を付けたいのは絞り開放の解像性能だ。「絞り開放から全体的にシャープ」とはいかず、隅や端の解像性能を求める場合は十分に絞る必要がある。風景写真などシャッタースピードが問題とならない場合は絞ることで解決するものの、夜景や星景などF1.4であることが重要なシーンとは相性が悪い。また、コマ収差も目立つので、少なくともF2~F2.8絞って撮影したいところ。
操作面では富士フイルムや競合他社のような絞りリングを搭載しておらず、カメラの操作体系によっては扱い辛く感じるかもしれない。特にコマンドダイヤルが操作し辛い機種では注意が必要だ。
総合評価
満足度は85点。
コストパフォーマンスの高いレンズだが、万能ではない。解像性能を求める場合はしっかりと絞る、綺麗なボケを得たい場合は被写体にしっかりと寄る、絞り操作はカメラ側、などなど、いくつか妥協点が存在する。それでも購入を検討する価値があり、欠点が問題なければおススメしやすいレンズだ。
鏡筒の全長が少し長いので、コンパクトなXマウントボディと組み合わせるとアンバランスと感じるかもしれない。コントロールが絞りしか存在しないのでコントロール面でも不利となる。グリップが大きく、ダイヤル操作が簡単なX-S10やX-H2Sなどと相性が良いレンズだ。