このページではシグマ「50mm F2 DG DN 」のレビューを掲載しています。
50mm F2 DG DN のレビュー一覧
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビュー完全版 2023年6月5日
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編 2023年5月28日
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビューVol.5 諸収差編 2023年5月23日
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビューVol.4 ボケ編 2023年5月14日
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビューVol.3 近距離解像チャート編 2023年5月5日
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビューVol.2 遠景解像編 2023年5月4日
- シグマ 50mm F2 DG DN レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編 2023年4月23日
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | やや高めだが価値はある | |
サイズ | 程よいサイズ | |
重量 | 程よい重量 | |
操作性 | ベストではないが良好 | |
AF性能 | 画角変化以外は良好 | |
解像性能 | 優れた遠景解像 | |
ボケ | 広い範囲で滑らかな後ボケ | |
色収差 | まずまず良好な補正状態 | |
歪曲収差 | 穏やかな樽型 | |
コマ収差・非点収差 | 良好な補正状態 | |
周辺減光 | 穏やかな影響 | |
逆光耐性 | とても良好 | |
満足度 | 同クラスでベストな選択肢 |
評価:
最高の50mm F2
優れた作りの鏡筒に優れた光学性能の光学系を備えた最高の50mm F2。パーフェクトな光学性能ではないものの、それが程よい「味(個性)」として活きてくる面白いレンズ。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 滑らかなボケ | |
子供・動物 | 高速AFが役に立つ | |
風景 | フレーム全体で高解像 | |
星景・夜景 | 収差の補正状態が良好 | |
旅行 | 携帯性が良く高性能 | |
マクロ | 撮影倍率が低く、接写時に性能低下 | |
建築物 | 歪曲収差の補正が良好 |
Index
まえがき
2023年4月発売のソニーE・ライカLマウント用の標準単焦点レンズ。シグマ「I Series」に属するレンズで、標準域をカバーするレンズとしては「45mm F2.8 DG DN」に次いで2本目。同シリーズはフードを含めて総金属製のハイクオリティな鏡筒が特徴で、光学系はContemporaryラインらしい(多目的性・携行性に優れた)光学系となっています。
概要 | |||
---|---|---|---|
レンズの仕様 | |||
発売日 | 2023年4月21日 | 希望小売価格 | 110,000円 |
マウント | E / L | 最短撮影距離 | 0.45m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 1:6.9 |
焦点距離 | 50mm | フィルター径 | 58mm |
レンズ構成 | 9群11枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F2 | テレコン | - |
最小絞り | F22 | コーティング | SMC |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ65.8×76.9mm | 防塵防滴 | 簡易 |
重量 | 340g | AF | STM |
その他 | 絞りリング | ||
付属品 | |||
マグネット式キャップ・フード |
50mm F2クラスのレンズとしては力の入ったサイズ・重量・レンズ構成。そのぶん価格設定も高めですが、光学性能には期待できそう。最短撮影距離や撮影倍率は平凡で、これといって寄りやすいレンズではありません。
価格のチェック
売り出し価格は8.9万円。50mm F2クラスのAFレンズとしては決して安い価格設定とは言えず、むしろ最も高価な選択肢となっています。レンズの作りを見ると分からないでもない価格設定ですが、光学設計が価格に見合うパフォーマンスを備えているかどうか、今後のレビューでチェックしていきたいと思います。
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
SGV(Sigma Globa Vision)シリーズらしい、白と黒をベースにしたシンプルなデザイン。レンズ名やフィルターサイズ、対応マウントや付属品などの情報をスタイリッシュに表示しています。右上に表示されている3桁の数字はエディションナンバーであり、リリースした西暦下三桁の数字を使用しています。(このレンズは2023年発売のため「023」)
間仕切りには段ボールを使用し、緩衝材はなし。Art・Sportsラインではないので、シグマ謹製のレンズケースは付属しません。
レンズ本体の他に、金属製のレンズフード、レンズキャップ、マグネット式金属製キャップが付属。
外観
Contemporaryラインに属するレンズですが、I Seriesらしく総金属製で質感が高い外装を採用。絞り・フォーカスリングを含めて金属パーツを使用しており、プラスチックパーツはごく一部。ソニーのZAレンズほどすっきりとしたデザインではありませんが、これはこれでアリ。光沢感のある中央のリングはデコレーションパーツで、特に意味はありません。しかし、ファインダー越しに確かな触感が得られるので、フォーカスリングや絞りリングを触りたくない時に左手を添えるポイントとしては役に立ちます。
外装の表示は一見するとプリントされたように見えますが、手で触ってみると僅かな凹凸で刻印されているように感じます。製造国(日本)やエディションナンバー、シリアルナンバーなどの情報あり。
ハンズオン
50mm F2クラスのレンズとしては大きめ・重めですが許容範囲内。適度な質量感が得られ「所有する喜び」を刺激されるものとなっています。レンズのデザインは好みが分かれるかもしれませんが、個人的にはアリ。外装はマットな塗装が施され、傷や指紋や付きにくくなっています。ただし、光沢のあるデコレーションリングの部分は指紋が付きやすい。
前玉・後玉
レンズ前面も金属パーツを採用。専用のマグネット式金属キャップに適合するための独特な形状。他社は前面にレンズ名やフィルターサイズをプリントすることもありますが、シグマレンズの前面はシンプル。白字プリントは光りを反射することもあるので、シグマのデザインが好ましいと考えています。
フィルターサイズは58mm径に対応。Eマウントレンズ数あれど、58mm径は少ないです。I Seriesでも58mm径を採用しているのは35mm F2のみ。C-PLやNDフィルターは個別に揃えるか、ステップアップリングで対応する必要あり。
真鍮製レンズマウントは4本のビスで固定されています。周囲には簡易防塵防滴用のシーリングあり。カメラへの装着はシーリングの摩擦でやや固め。最後尾のレンズ周辺は反射防止のために黒塗りされ、不要な光を反射するパーツは無いように見えます。
フォーカスリング
金属製のフォーカスリングをレンズ先端に配置。ソニー純正レンズと比べると抵抗感のある操作性で、パナソニックLUMIX Sレンズに近い印象。ソニーEマウントにおけるレスポンスは「ノンリニア」で、回転速度に応じてピント移動距離が変化。それでも、素早く回転した場合に全域を操作するストロークは約180度と長め。ゆっくり回転すると2~3回転以上のストロークで微調整が可能。
絞りリング
しっかりとした抵抗感のあるクリック付き絞りリングを搭載。フォーカスリングよりも回転動作に力が必要で、誤操作の心配はなし。静止画用としては気持ちの良い使い勝手です。ただし、Artシリーズやソニー純正レンズと異なりクリックを解除することは出来ません。クリックの抵抗感が強いので、動画撮影中に絞りリングを操作するとフレームがずれたり、操作音が発生する可能性が高い。
スイッチ類
左側面にはAF/MF切り替えスイッチを搭載。一般的に切り替えスイッチは光軸に対して平行(前後スライド)ですが、このレンズは上下に切り替えるデザインを採用しています。AF時は空白部分が白色表示される効果的なデザイン。左手親指で操作しやすい位置・抵抗感となっています。
レンズフード
本体に負けず劣らずの質感が得られる金属製レンズフードが付属。ソニーZAレンズのようなスタイリッシュな印象ではありませんが、本体のデザインや自社製カメラ(fp)のデザインを考慮するとこれが最適解なのかもしれません。レンズフードは逆さ付けに対応しているものの、フォーカスリングへのアクセスができません。
装着例
α7R Vに装着。50mm F2としては大きめですが、バランスは良好。フロントヘビーではなく、片手での保持も簡単です。グリップとレンズの間には十分な空間があり、撮影時の体勢でフォーカスリングや絞りの操作も容易。良質な撮影体験が得られるレンズです。
AF・MF
フォーカススピード
フォーカスレンズの駆動にはステッピングモーターを採用。十分に高速と言える程度のフォーカス速度で動作します。サードパーティー製レンズらしく、AF-SとAF-Cで動作速度が異なり、瞬発力を重視する場合はAF-Cがおススメ。また、動画撮影にも適した滑らかで静かなAFを実現しています。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
標準レンズの多くが目立つフォーカスブリージングであり、このレンズも例外ではありません。最短撮影距離と無限遠で画角の変化が目立ちます。ソニー純正レンズと異なりフォーカスブリージング補正に対応していないので、画角の変化に対応するのは難しい。
精度
α7R Vやα7 IVと組み合わせた限りでは問題なし。
MF
前述したとおり、ストロークの長いフォーカスリングで精度の高いマニュアルフォーカスが可能です。一方で、スナップ撮影のように素早いピント操作が求められるシーンには不向き。そのような用途ではAFに切り替える必要があります。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:α7R V
- 交換レンズ:50mm F2 DG DN|Contemporary
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・レンズプロファイルオフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
遠景解像テストではArtやGMに近い優れた結果が得られましたが、接写時はパフォーマンスが大きく低下。特に周辺部や隅がかなりソフトになるので注意が必要です。絞ると徐々に改善しますが、隅が周辺部に追いつくことはありません。
中央
絞り開放は若干ソフトですが、周辺部や隅と比べると良好な結果を得ることができます。絞るとコントラストが改善し、F4からF8でピークとなる。F11以降は回折の影響が急速に低下するので注意が必要。
周辺
中央と比べるとコントラストは維持しているものの解像性能が甘め。絞ると徐々に改善しますが、F8のピークに到達するまで改善速度は遅め。
四隅
周辺部と比較してさらに性能が低下。F2では測定不可となり、F2以降も数値はかなり低め。F5.6以降で少し安定した結果が得られますが、さらに絞っても改善することはありません。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.0 | 3728 | 2084 | |
F2.8 | 4058 | 2507 | 2281 |
F4 | 4804 | 3139 | 1673 |
F5.6 | 4718 | 3795 | 3003 |
F8 | 4787 | 4160 | 3207 |
F11 | 4457 | 3807 | 3191 |
F16 | 3659 | 3194 | 3034 |
F22 | 3098 | 2755 | 2343 |
実写確認
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2023-04-21:曇天・微風
- カメラ:α7R V
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:絞り優先AE ISO 100
- RAW:Adobe Camera RAW
・シャープネスオフ
・ノイズリダクションオフ
・レンズ補正オフ
テスト結果
絞り開放のF2からフレーム全体で良好な解像性能が得られます。周辺部や隅に向かって極端な画質の低下が見られず、コントラストも良好に維持。球面収差や軸上色収差、そして倍率色収差やコマ収差まで光学的に優れた補正状態に見えます。絞ると僅かに残存する軸上色収差が収束し、シャープでコントラストの高い、ピークのパフォーマンスを発揮。F8くらいまで性能を維持し、F11以降は回折の影響で徐々に低下します。
中央
絞り開放のF2では細部のコントラストや色のりが僅かに低下しているものの、解像性能はとても良好。F2.8まで絞るとコントラストが改善し、ほぼピークの性能が得られます。F4でさらに改善しますがごく僅か。ピークの性能はF8まで維持し、F11以降は回折の影響で低下。6100万画素の解像性能を活かすのであれば、F11くらいまでに抑えたほうが良いかなと思います。
周辺
周辺部もF2から中央と同程度の優れた解像性能が得られます。やはりベストを尽くすのであればF2.8~ですが、F2でも十分に良好な結果。
四隅
驚いたことに、フレーム隅でも顕著な画質低下はありません。ダブルガウス型を採用した典型的な50mm F2クラスは周辺部に向かって顕著な落ち込み(主にコマ収差や非点収差)があるものの、このレンズはF2から全く問題なし。F4まで絞るとさらに画質が向上し、周辺部と遜色のない優れた結果を得ることが出来ます。6100万画素のα7R Vを活かせるレンズと言っても過言ではありません。
撮影倍率
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。
実写で確認
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
まずまず良好な補正状態ですが皆無ではありません。絞っても改善する傾向は無し。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
絞り開放のピント面前後にうっすらと色づていることが分かります。一昔前の大口径レンズと比べると収差は穏やかですが、コントラストの高いシチュエーションでは目に付く色づきが発生するかもしれません。F2.8まで絞っても残存収差が目に付くため、気になる場合はF4程度まで絞る必要あり。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
滲むように柔らかい後ボケと、縁取りが硬く2線ボケのような前ボケ。他のI Seriesと同じ傾向であり、重要な後ボケが柔らかくなっているので肯定的に評価。一つ残念な点があるとすれば軸上色収差の影響であり、コントラストが高いシーンではボケに色がつくことで悪目立ちするかもしれません。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
隅に向かって口径食の影響による変形が見られるものの、このクラスとして特に目立つわけでもありません。F2.8まで絞ると口径食の影響はほとんど回避可能。非球面レンズを使用していますが、玉ボケの内側は滑らかで綺麗。同心円状のムラはほとんどありません。
ボケ実写
接写
接写時は球面収差の影響もあってか滲むように滑らかな後ボケが得られます。縁取りが弱く、背景がよけるようにボケるため、「F2.0」の数値以上に背景が溶けているように見えます。
近距離
撮影距離が少し長くなっても滑らかで柔らかい描写が続きます。色収差や非点収差・コマ収差による悪影響も目立たず、全体的な質感は上位の「Art」「G Master」に近い印象。
中距離
撮影距離がさらに長い場合もフレーム隅まで質感が良好。
撮影距離ごと
全高170cmの三脚を人物に見立てて、F2で撮影した写真が以下の通り。
フレームに全身を入れても被写体を背景から分離するくらいにはボケが得られます。この際の微ボケは50mm F2クラスとしては滑らかで綺麗。周辺部の描写は多少荒れるものの、低価格の50mm F1.8と比べると良好です。ArtやG MasterのようなF1.4レンズと比べても中央の描写は健闘。ただし、周辺部は収差の影響が少し強めに出るように見えます。
球面収差
前後のボケに顕著に違いはありませんが、よく見るとボケのアウトラインに差があります。後ボケのほうが少し滑らかで、逆に前ボケはやや硬めの描写。球面収差の補正状態は完璧ではないものの、これが後ボケの滑らかな描写に繋がっていると思われます。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
穏やかな樽型。ミラーレス用レンズは後処理しやすい歪曲収差をソフトで修正する傾向が見られるものの、このレンズの歪曲収差は光学的に良好な補正状態です。未補正でもほぼ問題なく使用可能。必要に応じてボディ内や現像ソフトでプロファイルを使った補正が可能。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
絞り開放で全体的に穏やかな減光効果が発生します。1段絞ると大きく改善するため、気になる場合はF2.8以降を使うと良いでしょう。
無限遠
最短撮影距離と比較して強めの減光が発生。絞ると改善しますが、解消するにはF5.6まで絞りたいところ。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
このクラスのコマ収差補正としては非常に良好。フレーム隅でも点光源の変形はほとんどなく、同価格帯のFE 55mm F1.8 ZAと比べてもさらに良好な結果が得られます。
逆光耐性・光条
中央
強い光源を中央から受けてもフレアとゴーストはよく抑えられています。絞ると隠れていたゴーストが顕在化するものの、ソニー FE 55mm F1.8 ZAと比べて良好。
隅
光源をフレーム隅に配置した場合も良好な逆光耐性。絞り全域でゴーストはよく抑えられています。やはりソニーよりも良好で、フレアが抑えられコントラストが高い。
光条
F2.8から薄っすらと光条が発生し始めていますが、明確になるのはF8以降。F11からF22でシャープとなり、回折とのバランスを考慮するとF11~F16がおススメ。綺麗な光条でFE 55mm F1.8 ZAとほぼ同等。ただし、F8時点での切れ味はソニーZAのほうが優れています。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 総金属製のハイクオリティな鏡筒・フード
- 簡易防塵防滴
- 扱いやすいフォーカスリング・絞りリング
- 十分に高速で静かなAF
- F2から隅まで非常に良好な遠景解像性能
- 穏やかな倍率色収差
- 滑らかな後ボケ
- 長めの撮影距離でもボケが綺麗
- ミラーレス用としては穏やかな樽型歪曲収差
- 許容範囲内の周辺減光
- 良好な補正状態のコマ収差
- 良好な逆光耐性
- 綺麗な光条
50mm F2クラスとしては非常によくまとまった高い光学性能を備えています。遠景ではF2からフレーム全体でシャープな結果をえることができ、コマ収差や倍率色収差も穏やかで、周辺減光の影響も悪目立ちしません。
「優等生」タイプの描写かと思いきや、接写時は(変動により)残存収差による「レンズの味」が残されています。滑らかで柔らかい後ボケが非常に魅力的。色収差や歪曲収差はよく抑えられているので、後処理に依存する部分が少ないのもGood。
悪かったところ
ココに注意
- 絞りリングにクリック解除機能なし
- フォーカスブリージングが目立つ
- 近距離で周辺部や隅の光学性能が顕著に低下
- 軸上色収差の影響が僅かに残っている
- 硬めの前ボケ
- 50mm F2クラスとしてはやや高価
全体的に良好な本レンズですが、接写時は周辺部や隅の解像性能が大幅に低下します。全体的にシャープな結果を得たい場合は絞りで調整する必要あり。最も注意すべき欠点はフォーカス時の大きな画角変化で、サードパーティ製レンズのためカメラ側の補正にも非対応であること。
総合評価
満足度は95点。
優れた光学性能ながら「味」を残した絶妙なバランス。50mm F2クラスのEマウントレンズとしては最も優れた選択肢であり、やや高価ながら検討する価値は十分にあります。I Seriesらしい優れた鏡筒・レンズフードの作りも考慮すると、決して価格設定が高いレンズとは感じ無いはず。
直近のライバルはソニー「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」です。スタイリッシュなデザインに個性的な描写は必見。シグマほど優れた光学性能ではありませんが、ヌケが良くてコントラストの高い、パンチのある結果を得ることができます。
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作例
関連レンズ
- FE 50mm F1.8
- LUMIX S 50mm F1.8
- AF 45mm F1.8 FE
- Batis 2/40 CF
- VILTROX AF 50mm F1.8
- YN50mm F1.8 DF DSM
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