このページでは「AstrHori 50mm F1.4」のレビューを掲載しています。
おことわり
今回は2ndFocusより無償貸与の「AstrHori 50mm F1.4」を使用してレビューしています。提供にあたりレビュー内容の指示や報酬の受け取りはありません。従来通りのレビューを心がけますが、無意識にバイアスがかかることは否定できません。そのあたりをご理解のうえで以下を読み進めてください。
AstrHori 50mm F1.4のレビュー一覧
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビュー 完全版
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビューVol.6 遠景解像編
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビューVol.5 諸収差編
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビューVol.4 周辺減光・逆光編
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビューVol.3 ボケ編
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビューVol.2 近距離解像編
- 岩石星 AstrHori 50mm F1.4 レンズレビューVol.1 外観・操作編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 大口径ティルトとして安い | |
サイズ | このタイプとしては小型 | |
重量 | 金属製のためか軽くはない | |
操作性 | ティルト部の操作は要確認 | |
MF性能 | 滑らかで適度なストローク | |
解像性能 | 絞れば隅まで良好 | |
ボケ | 接写時は良好 | |
色収差 | 完璧ではないが適度 | |
歪曲収差 | 穏やかな樽型 | |
コマ収差・非点収差 | かなり絞る必要あり | |
周辺減光 | まずまず良好 | |
逆光耐性 | TTArtisanよりも良好 | |
満足度 | スナップ撮影のティルトレンズ |
評価:
素早く操作できるティルトレンズ
操作性に癖があるものの、素早く操作できるのでシャッターチャンスに強いティルトレンズ。ダブルガウスタイプと思われる安定感のある50mm F1.4 光学系を使用しているので、絞りによる操作で解像性能やボケを調整しやすい。ティルトの傾きや向きの微調整が重要な撮影には適していないものの、スナップ撮影にティルトを混ぜていきたい場合は面白い選択肢。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 離れるとボケが騒がしい可能性あり | |
子供・動物 | ストロークの長いMFリングは動体に不向き | |
風景 | しっかり絞れば隅まで良好 | |
星景・夜景 | コマ収差やティルトの構造上厳しい | |
旅行 | 小型で持ち歩きやすいが防塵防滴は非対応 | |
マクロ | 接写性能は平凡 | |
建築物 | 歪曲収差が穏やか |
Index
まえがき
ティルト撮影に対応した珍しい大口径レンズ。一般的なティルトレンズとは異なり、自由雲台のようなハーフボールを操作して角度や方向を自由に調整することが出来ます。ティルト部分の構造はレンズベビーのコンポーザープロとよく似ていますが、光学系はより本格的な構成の大口径レンズとなっています。
- 公式ウェブサイト
- 販売価格:¥39,220
- フォーマット:フルサイズ
- マウント:RF / E / L / Z / X / MFT
- 焦点距離:50mm
- 絞り値:F1.4 ~ F16
- 絞り羽根:12枚
- レンズ構成:6群7枚
- 最短撮影距離:0.5m
- 最大撮影倍率:1:7.5
- フィルター径:46mm
- サイズ:φ53×70mm
- 重量:320g
- 防塵防滴:-
- AF:MF限定
- 手ぶれ補正:-
- 特徴:
・電子接点なし
・ティルト機能
6群7枚構成の50mm F1.4。レンズ構成は不明ですが、テスト中に分かった特性からするとダブルガウスタイプのレンズじゃないのかなと予想。対応するフォーマットはフルサイズですが、APS-C用のXマウントや4/3型センサーのマイクロフォーサーズ用もラインアップされています。
価格のチェック
販売価格は2ndFocusのAmazon店で
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
黒を基調とした非常にシンプルなデザインで、外観からはどのような製品なのか全くわかりません。箱の隅に「岩石星」とブランド名がプリントされているのみ。付属品は前後のレンズキャップのみ。
外観
全体的に金属パーツを使用した頑丈な作り。絞りとフォーカスリング、ティルトロックリングはそれぞれ同じ意匠のローレット加工が施されています。外装にはピント距離指標や絞り値のほか、前面にフィルター径と「50/1.4」の記載あり。
「AstrHori」を示すブランドのロゴは無し。ただし、「Rockstar(岩石星)」の頭文字である「R」が前面にプリントされています。
レンズのフォーカスは全群繰り出し式。無限遠側で全長が最も短くなり、最短撮影距離の「0.5m」に合わせると内筒が少し伸びます。
ハンズオン
ティルト撮影に対応した50mm F1.4としては比較的コンパクト。ただし、金属製の外装であるため、重量感はそれなり。軽いレンズではありませんが、金属とガラスの塊感があり、安っぽさは無し。
前玉・後玉
46mm径のねじ込み式フィルターに対応。フルサイズ用レンズとしては小さな径となっています。フッ素コーティングなどは施されていないため、前面へのダメージ(傷・汚れ)などが想定される場合は保護フィルターを装着するのがおススメ。
低価格ながら絞り羽根は12枚と多め。このため、絞り全域で円形を維持しており、玉ボケが角ばりにくい構造となっています。金属製レンズマウントは3本のビスで固定されています。当然ながら電子接点はありません。鏡筒内部は不要な光の反射を防止するために黒塗りされ、さらに切込み加工まで施されています。
フォーカスリング
ローレット加工が施された金属製フォーカスリングを搭載。ピント全域のストロークは90度を少し超える程度で、素早い操作と正確な操作のバランスが取れています。滑らかに回転しますが、個人的な好みよりも少し緩め。感触が絞りリングと同じと言うこともあり、誤操作することが多かったです。
絞りリング
フォーカスリングと同じローレット加工が施された金属製絞りリングを搭載。F1.4からF16まで無段階で操作可能。クリック付きの操作に切り替えることはできません。
ティルトロックリング
レンズマウント付近のローレット加工は意匠ではなく、ティルト部分の構造を固定したり緩めたりするリングとなっています。完全に緩めるとレンズの自重でティルト部分が自由に動きますが、完全に締めると”ほぼ”動かなくなります(力を入れて操作すると動かないこともない)。
自由雲台と同じく、狙った角度にピタッと合わせる調整には不向きですが、スナップ撮影などで素早くティルトを取り込みたい場合には便利な構造と言えるでしょう。
ティルト部分の可動範囲は広めで、競合するTTArtisan Tilt 50mm F1.4よりも大きく傾けることが可能(つまり±8度以上)。ティルト撮影をしない場合、ハーフボールにプリントされた白いラインに合わせて固定します。ただし、完全にフラットな像面を得るのは難しく、微妙に傾いた状態となってしまう可能性が高い。絞れば問題ありませんが……。
ケラレ耐性
大きく傾けることができるティルト構造ですが、イメージサークルはそれに対応していません。ケラレを気にしながらティルトを微調整するのは難しいので、APS-Cクロップを利用するか、撮影後にクロップする前提でフレーミングするのがおススメです。
装着例
α7R Vに装着。TTArtisanの競合レンズと比べるとコンパクトで取り回しやすく、バランスは良好。ティルトレンズながら操作するのは絞り・フォーカス・ティルトロックの3種類のみとシンプルで、取っつきやすいのもGood。ただし、前述したように微調整には不向きなデザインです。
TTArtisanTilt 50mm F1.4は方向が固定されたティルト軸と、向きを変える場合に使うリボルビング軸の可動に対応。AstrHoriの方式と比べると手間ですが、角度や向きの微調整は遥かに簡単。
フォーカス
フォーカススピード
90度ちょっとストロークを持ち、素早く操作することが可能。滑らかで正確な操作が可能となるものの、少し緩めで誤操作によるピントのズレが発生しやすいのが悩ましいところ。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
全群繰り出し式フォーカスらしく、ピント位置によって画角が大きく変化します。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:α7R V
- 交換レンズ:AstrHori 50mm F1.4
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
中央から広い範囲はF1.4から(色滲みでコントラストは低下しますが)まずまず良好な結果を得ることが可能。隅はF1.4-F2.0で解析ソフトでエラーとなったものの、極端に不安定な描写ではありません(下部の作例を参照)。絞るとダブルガウスっぽさのある傾向が見られ、F5.6-8にかけてフレーム全域でピークの結果。
中央
軸上色収差による色滲みがあるものの、球面収差は良く抑えられているように見えます。F1.4からコントラストは良好で、細部がシャープ。F2で色収差が抑えられ、F2.8で解像性能はほぼピーク。周辺部や隅まで視野に入れるのであれば、さらにF4-5.6まで絞るのがおススメです。
周辺
中央と比べると非点収差や倍率色収差など軸外収差が少し目に付きます。解像性能は思いのほか良好ですが、カリッとしたシャープさが欲しければF2.8まで絞ったほうが良いでしょう。F4まで絞ると中央と同等の結果を得ることができます。ただし、倍率色収差が若干残っているので、カメラ側の補正は適用しておくのがおススメ。
四隅
F1.4は周辺部と比べても少しソフトな画質。ピントの芯は確認できる程度には安定した描写ですが、コントラストが低くて解析ソフトが機能しません。倍率色収差も少し目立ちます。周辺部と同じくF2.8まで絞ると画質に改善が見られ、F4まで絞るとコントラストが大幅に向上。ただし倍率色収差が目立つので補正は必須と考えておいた方が良いかも。幸いにも倍率色収差の補正はカメラ側で適用するだけで簡単に修正することが出来ます。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.4 | 3458 | 3057 | |
F2.0 | 3531 | 3325 | |
F2.8 | 4052 | 3762 | 2779 |
F4.0 | 4243 | 4421 | 3332 |
F5.6 | 4371 | 4470 | 3886 |
F8.0 | 4469 | 4521 | 3607 |
F11 | 4468 | 3614 | 3357 |
F16 | 3325 | 2965 | 2665 |
実写確認
競合レンズ比較
主なライバルは銘匠光学「TTArtisan Tilt 50mm F1.4」です。絞り開放の性能はAstrHori 50mm F1.4のほうが遥かに良好で、使い勝手の良い描写が得られます。TTArtisanのF1.4は(接写時に残存する球面収差で)かなりソフトとなるため、ボケ重視なら面白いものの解像性能は期待しないほうが良いでしょう。
F4まで絞ると、どちらもフレーム全体で良好な結果を得ることが可能。この際はTTArtisanのほうが倍率色収差の補正状態が良好となりますが、カメラ側で簡単に補正できることを考えるとAstrHoriの弱点とは言えません。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2023.12.22 快晴 無風
- カメラ:α7R V
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:絞り優先 ISO 100
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネスオフ
・ノイズリダクションオフ
・その他初期設定
ティルト機構に関する注意点
このレンズはティルト部分の影響をゼロにすることが非常に難しい構造となっています。ティルトの影響が残っている場合、特に被写界深度の浅い絞りでパンフォーカスを得るのが非常に難しいです(イメージセンサーに対してピント面が斜めになってしまうため)。
遠景撮影の特性上、テストショットは中央1点のピント合わせで実施しており、像面湾曲やティルトによる像面の傾きは考慮していません。今回のレンズではティルト機構の影響をできるだけゼロに近づけていますが、実際の撮影では影響が皆無とは言えない状態に見えます。このレンズで遠景のパンフォーカスを得たい場合は(ティルトの影響をカバーできるくらい深い被写界深度になる)かなり絞って撮影するのがおススメです。(ティルトの影響をゼロにするには、ボール部の破線を正確に合わせる必要があります)
テスト結果
絞り開放付近は中央でも球面収差によりややソフトな結果。ピント面はシャープですが、コントラストが低め。ダブルガウスタイプのためか像面湾曲の影響は少なく、比較的フラットなピント面に見えます。ただし、隅に向かってコマ収差の影響が強く、フレーム隅ではかなりソフトな結果となります。隅まできちんとした画質を得たいのであれば最低F8まで、ティルトの影響も考慮するとF11-F16まで絞って撮影したいところ。
中央
F1.4の絞り開放からシャープですが、収差によるコントラストの低下が顕著。F2まで絞ると大幅に改善し、F2.8でほぼピークに達します。以降は絞っても劇的に改善しないものの、F8まで改善し続けているように見えます。
周辺
中央と比べるてコントラストがさらに低下。これは球面収差のみならず、コマ収差の強い影響を受けている可能性が高い。中央と同じくD2.8-4.0まで絞ると劇的に改善します。F8までしっかり絞ると非常にシャープ。
四隅
極端な像面湾曲はなく、被写界深度内に収まっているように見えます。とは言え、軸外収差と思われる影響が強く、絞り開放付近は非常にソフトな画質。F4まで絞るとかなり安定しますが、それでも実用的な画質には及びません。前述したように、(隅まで画質を期待するならば)F8~F16くらいまで絞って撮影するのがおススメです。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
おそらく良好な補正状態と思われますが、レンズの性質上(自由雲台のようなティルトの構造)、光軸を偏芯なく調整することが難しい。像面湾曲の有無を確認することは困難です。参考までに、F8まで絞った際の中央・周辺部・隅の結果を掲載。ティルトの影響を限りなくゼロに戻し、しっかりと絞って撮影する場合はフレーム全域でピント内に収めることが出来るはず。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
絞り全域で僅かに色収差が残っているものの、シンプルな光学設計のレンズとしては良好な補正状態に見えます。残存する色収差もソフトウェアで簡単に修正可能。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
絞り開放付近から数段絞ったとこまでは軸上色収差が残存しています。ほぼ無視できる程度に抑えるにはF5.6まで絞る必要あり。とは言うものの、実写で目立つのはF1.4~F2.0あたりで、F2.8まで絞れば大部分の撮影で問題ない程度に抑えることが可能。水面の照り返しなどで色収差を抑えたい場合はF5.6くらいまで絞ると良いでしょう。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
歪曲収差は良好に補正されており、実写で目立つ歪曲収差はありません。厳密には若干の樽型歪曲が残っているものの、直線的な被写体を撮影しなければ問題ない程度。また、必要であれば手動での補正は簡単。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
おそらくダブルガウスタイプの光学系と思われ、(同光学系ではお馴染みの)F1.4 周辺部・隅に顕著なコマ収差が残存しています。周辺部における画質低下の大きな要素の一つとなっているはず。絞ると改善しますが、2段程度ではまだ目立つため3段(F4)まで絞る必要があります。夜景やイルミネーション、星景など、点光源が多い環境とは相性が悪い。また、木洩れ日の点光源などでも影響を受けることがあります。
球面収差
F1.4
前後のボケには大きな違いがあり、球面収差が完璧な補正状態ではないことが分かります。しかし、軸上色収差のテスト結果から分かる通り、フォーカスシフトの目立つ影響はありません。ピント面は若干滲むかもしれませんが、TTArtisanの競合モデルほど収差は多く無い印象。
F2.0
1段絞ると収差が落ち着き、前後のボケ質差が小さくなります。もしもボケが騒がしいと感じたらこのあたりまで絞ってみると良いでしょう。
F2.8
F2.0からF2.8で顕著な改善はありません。球面収差に関してはF2.0でほぼ改善してるように見えます。
F4.0
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
少なくとも接写時は滲むような後ボケと、硬調で2線ボケの傾向がある前ボケ。球面収差が残存しており、前後の質感に偏りがあるものと思われます。幸いにも、より重要な後ボケが滑らかで柔らかい描写。色収差の影響によりボケに色づきが見られるのが少し残念。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
非球面レンズを使用していないと言うこともあり、玉ボケの内側は滑らかで綺麗。縁取りは目立たず、色収差も過度に目立つことはありません。フレーム隅の口径食は2段ほど絞ると改善します。ボケが小さくなるとボケ質が変動し、縁取りが強めの騒がしい描写に変化。このような撮影距離では収差を抑えるために少し絞ったほうが良いかもしれません。このあたりはダブルガウスっぽい傾向。
ボケ実写
近距離
近距離であればボケの縁取りは目立たず、まずまず滑らかな描写。口径食によりフレーム隅に変形が見られるものの、縁取りや色収差の影響は少ない。ちなみに、中央付近のコントラストが微妙に低下しているのは逆光によるフレアの影響です。
中距離
撮影距離が長くなるとボケの縁取りが強くなり、フレーム隅に向かって口径食と色収差が目立つようになります。それでも、MF 50mm F1.4としてはまずまず良好に見えますが、見苦しいと感じたら2段ほど絞るのがおススメ。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F2.8)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。全身をフレームに入れても背景をわずかにぼかすことができます。見栄えの良いボケではありませんが、ボケが小さいので結果的に無視できる程度。中途半端に近寄ると見苦しいボケが大きくなる可能性あり。その辺は1~2段絞りで調整すると良いでしょう。顔のクローズアップ時はかなり滑らかで綺麗なボケが得られます。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
ティルト撮影に対応するイメージサークルの広いレンズと言うこともあり、周辺減光は50mm F1.4としては控えめ。F1.4の絞り開放から周辺部の減光量は僅かであり、シチュエーションによっては無修正でも無視できる範囲内。とは言え、中央から隅にかけて広い範囲で薄っすらと減光効果があるため、解消したいのであればソフトウェアで少し修正する必要があります。光学的にはF2.8まで絞るとほぼ解消。
無限遠
最短撮影距離と比べて周辺部の減光効果が強くなります。それでもフルサイズのF1.4レンズとしては許容範囲内。特に欠点と感じる効果ではありません。
逆光耐性・光条
中央
お世辞にも「強力な逆光耐性」とは言えませんが、競合するTTArtisan 50mm F1.4 Tiltと比べると良好。複雑な光学設計の50mm F1.4と異なり構成枚数が少なく、間面反射と思われるゴーストも少な目。
隅
やはり完璧からは程遠いものの、悪くない結果。TTArtisanのような、フレーム全域に肯定的とは言えない顕著なフレアは発生しません。
光条
12枚羽根による12本の光条が発生。F8以降は先細りするシャープな光条を得ることができます。コシナのNOKTONほど強烈な光条ではありませんが、適度に綺麗な描写。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 珍しい50mm F1.4 ティルトレンズ
- 手ごろな価格
- 金属製のしっかりとした作り
- フォーカスリングの操作性
- ティルト内蔵としては小型
- ティルトをシンプルな操作で素早く操作できる
- このタイプとしては良好な解像性能
- 像面湾曲の影響が少ない
- まずまず良好な色収差補正
- 歪曲収差の補正状態が良好
- 接写時は滑らかなボケ
- 逆光耐性がTTArtisanよりも良好
- 絞ると綺麗な光条
50mm F1.4のダブルガウスタイプの光学系にティルト機能がくっついたようなレンズ。基本的なレンズの描写はダブルガウスタイプのそれで、開けて良し絞って良しの安定感がある描写。像面湾曲など厄介な収差が良く抑えられているので、絞りの調整で描写のコントロールが簡単。レンズベビーのようなティルト部には賛否両論あるものの、光軸を素早く倒してスナップのようにティルト撮影が可能となっているのが強み。三脚に搭載するよりも、手持ちで色々と撮り歩くのに適しています。
悪かったところ
ココに注意
- 絞りリングがクリックレス
- ティルト部分の調整が難しい
- 防塵防滴に非対応
- 電子接点なし
- ティルト可動域がフルサイズに対応していない
- コマ収差が顕著
- 中距離以降で後ボケが騒がしい
光学的な欠点はダブルガウスタイプのそれで、予想外の弱点は無し。大部分は絞りで解決することが出来ます。最も気を付けたいのはティルトの操作性。微調整には適していないので、ピント面の傾きや方向を正確に設定するのは至難の業。おおらかな心で、ティルト撮影を楽しめる余裕が欲しいところ。もしも傾きや方向をしっかりと決めたいのであれば、TTArtisanのほうが適していると思います。
総合評価
満足度は85点。
光学的にはシンプルながら良好で期待通りのダブルガウスタイプ。操作性には癖があるものの、手ごろな価格でティルト撮影を試してみたいのであればおススメできる一本。ただし、ピント面の傾きや向きを意識する撮影が多いのであれば、TTArtisan Tilt 50mm F1.4を選んだほうが良いでしょう。