このページでは「LUMIX S 100mm F2.8 Macro」のレビューを掲載しています。
LUMIX S 100mm F2.8 Macroのレビュー一覧
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビュー 完全版
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビューVol.5 諸収差編
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビューVol.4 ボケ編
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビューVol.3 遠景解像編
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビューVol.2 解像チャート編
- LUMIX S 100mm F2.8 Macro レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 適度 | |
サイズ | 最小 | |
重量 | 最軽量 | |
操作性 | 必要最低限 | |
AF性能 | レンズ側は良好 | |
解像性能 | 全体的に良好 | |
ボケ | 中距離以降で粗が目立つ | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | 若干の糸巻き型 | |
コマ収差・非点収差 | まずまず良好な補正状態 | |
周辺減光 | 遠側で目立つ | |
逆光耐性 | ゴーストが発生しやすい | |
満足度 | 携帯性の高い高性能マクロ |
評価:
携帯性の高い高性能マクロ
100mmマクロレンズとしては驚異的なコンパクトサイズを実現。しかし光学性能やAF性能に妥協はほとんどなく、防塵防滴・フッ素コーティング仕様で耐候性も良好。価格は適度で、注意点があるとすればワーキングディスタンスが短いことと、光学手振れ補正が非搭載であることくらい。カジュアルな100mmスナップから本格的なマクロ撮影まで幅広く使うことが出来るレンズ。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 中距離では隅のボケが粗い | |
子供・動物 | カメラ側が良ければ大丈夫 | |
風景 | 優れた解像性能 | |
星景・夜景 | 周辺減光に注意 | |
旅行 | 携帯性が強み | |
マクロ | 優れた解像性能だが短いWDに注意 | |
建築物 | 糸巻き型の歪曲収差に注意 |
*WD=ワーキングディスタンス
Index
まえがき
2024年1月に正式発表。100mmの等倍マクロとしては驚くほど小型軽量なLマウント用のフルサイズ対応交換レンズ。従来のLUMIX S F1.8シリーズとほぼ同じサイズを維持しつつ、1.0倍のマクロ撮影やインナーフォーカスを実現しています。
- 公式ウェブサイト
- データベース
- 管理人のFlickr
- 2024年2月15日(木) 発売
- 希望小売価格:134,200円
- 初値:120,780円
- フォーマット:フルサイズ
- マウント:Leica L
- 焦点距離:100mm
- 絞り値:F2.8
- 絞り羽根:9枚 円形
- レンズ構成:11群13枚
・非球面レンズ 3枚
・UEDレンズ 2枚
・EDレンズ 1枚 - 最短撮影距離:0.204m
- 最大撮影倍率:1.0倍
- フィルター径:67mm
- サイズ:φ73.6×82.0mm
- 重量:298g
- 防塵防滴:対応
- AF:デュアルフェーズリニアモーター
- 手ぶれ補正:-
- その他機能:
・フォーカスリミッター
特徴は何と言ってもそのサイズ。競合他社の100mmマクロレンズと比べると、全長が非常に短く、軽量なレンズであることが分かります。やや胴長だった従来のマクロレンズよりも収納性が非情に良好。さらに他と同じくインナーフォーカス仕様のため、レンズ全長が変化することはありません。
100mmの等倍マクロとしては最短撮影距離が比較的短く、被写体との距離が近い点には注意が必要。ただし、レンズ全長が短いのでワーキングディスタンスは大きく変化しないかもしれません。
光学系は他社よりもシンプルで、3~4枚ほど少ない構成となっています。MTFは高周波がフレーム端に向かって低下。他のマクロレンズよりも像高5~6割から外側における低下が目立つ模様。このあたりは実写でどのような影響があるのか確認してみたいと思います。
価格のチェック
売り出し価格は約12万円。他社によっては20万円近い値付けとなっていることを考慮すると、良心的な価格設定と言えるかもしれません。とは言え、このデザインのLUMIX Sシリーズとしては最も高価。
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
LUMIX Sシリーズらしい、黒を基調として赤色のライン。意匠はシンプルですが、「100mm F2.8」とレンズの特徴が分かりやすくプリントされています。レンズ本体のほかに、円筒型レンズフードと説明書・保証書が付属。
外観
他のLUMIX S F1.8シリーズと同じく、プラスチック外装・ゴム引きフォーカスリングの組み合わせ。プラスチック外装は高級感こそないものの、しっかりとした作りで、表面は傷がつきにくいシボ加工のような塗装が施されています。
表面の印字はプリント。エッチングのような加工ではありません。側面にはフォーカスリミッターとAF/MF切り替えスイッチを搭載。価格を考慮するとシンプルなコントロール。レンズサイズ・外観は他の非S Proシリーズとよく似ています。フィルターは67mmで統一され、実用的ではありませんがフードも付け替えが可能となっています。
ハンズオン
300g切りと非常に軽量。キヤノン・ニコン・ソニーの競合製品と比べると重量は半分以下。驚くほど軽いです。そしてコンパクト。手に取った印象は50mm F1.8とほぼ変わりません、
前玉・後玉
このシリーズで統一された67mmのフィルターに対応。前玉にフッ素コーティングが施されているという記載は無いので、ダメージが想定されるシーンではプロテクトフィルターの装着を推奨。前面にはレンズのロゴやフィルター径の表示があるものの、反射を抑えたグレーでプリントされています。
金属製レンズマウントは5本のビスで本体に固定。周囲は防塵防滴用のシーリングあり。電子接点のあるプラスチック部分には「Made in China」と製造国の記載あり。
後玉はマウント付近に固定され、動くことはありません。
フォーカスリング
表面のグリップがゴム製の幅広いフォーカスリングを搭載。他のLUMIX Sレンズと同じく、適度な抵抗で滑らかに回転します。レスポンスは「ノンリニア」「リニア(90-1080°/最大」で設定の変更が可能。ノンリニア時でもストロークは長めで、高精度のMF操作が可能。
スイッチ
側面にはフォーカスリミッター「FULL / 0.5-∞ / 0.25-0.5m」と3系統のフォーカスリミッターとAF/MFスイッチを搭載。AFはダブルフォーカス構造で比較的高速ですが、カメラ側が完璧とは言えないので(後述)リミッターを使う機会は多いかもしれません。
レンズフード
円筒形レンズフードが付属。プラスチック製でフィルター操作窓は無し。ただし、ロック構造があるので、外す際はボタンを押しながら回転しないと外すことが出来ません。必要最低限のデザインですが、内側には反射防止の切込みがあり、マットな塗装と合わせて適切な作り。前述したように、同シリーズのレンズフードを共用可能。50mm F1.8はしっかりと装着できましたが、20-60mmの花形フードは少しガタツキがあります。
装着例
LUMIX S5IIに装着。100マクロを装着しているとは思えないコンパクトサイズのシステム。片手での保持は簡単で、フロントヘビーでも無いため安定感は良好。全長が短いので俯瞰のマクロ撮影も比較的容易となっています。ただし、レンズ側に手振れ補正がないため、ボディ側の補正能力が重要となります。
AF・MF
フォーカススピード
本レンズはステッピングモーターとデュアルフェイズリニアモーターのダブルフォーカス仕様。近距離時の収差補正に優れ、フォーカス速度が良好であるのが特徴。このレンズも例にもれず、滑らかで高速なAFを実現しています。
注意すべきはカメラ側の性能。現在のLUMIX S5II(FW Ver2.2)だと低照度や低コントラストでは合焦しにくく、ストロークが長い近距離側で迷走しがち。撮影距離が定まっている場合はフォーカスリミッターで動作範囲を制限するのがおススメ。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・0.2m・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
マクロ撮影時は画角が大きく変化するものの、通常の撮影ではほとんど変化しません。フォーカスブリージングは光学的に良く抑えられているように見えます。
精度
LUMIX S5IIと組み合わせた限りでは問題なし。被写界深度の浅いマクロ域でも正確に動作します。
MF
前述した通り、使い勝手の良いフォーカスリングで「リニア」「ノンリニア」を使い分けながら利用可能。応答性は良く、細部のピント合わせでも滑らかな操作を実現しています。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:LUMIX S5II
- 交換レンズ:LUMIX S 100mm F2.8 Macro
- パール光学工業株式会社
「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」 - オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
マクロレンズらしく、中央から隅まで均質性の高い解像性能を発揮。F2.8から全体的に良好で、これといった弱点は見当たりません。さらにチャートよりも外側、隅の端を観察するとF2.8で若干ソフトな部分もありますが、F4からF5.6で概ね改善します。少なくとも2400万画素のLUMIX S5IIでは絞り開放からほぼピークの性能を得ることが可能。
中央
F2.8からピークの性能であり、絞りによる画質の変化はほとんどありません。敢えて言えばF2.8の細部が若干ソフトなくらいで、F4まで絞るとコントラストが少し改善します。
周辺
中央と同じ傾向。絞り開放が僅かにソフトで、F4まで絞ると改善します。細かいことを言わなければF2.8で十分な画質。
四隅
中央・周辺部とほとんど遜色のない画質です。マクロレンズらしく均質性の高い結果と言えるでしょう。倍率色収差の影響も良く抑えられているように見えます。
数値確認
中央 | 周辺 | 隅 | |
F2.8 | 3482 | 3481 | 3386 |
F4.0 | 3710 | 3562 | 3219 |
F5.6 | 3767 | 3732 | 3610 |
F8.0 | 3710 | 3373 | 3610 |
F11 | 3580 | 3373 | 3542 |
F16 | 3074 | 3157 | 3049 |
F22 | 2736 | 2589 | 2529 |
実写確認
ハイレゾモード
同じ環境でS5IIの9600万画素 三脚ハイレゾモードを使用。中央から周辺部はF2.8の絞り開放から解像チャート・解析ソフトの上限となる4800本に突き当たっています。とても良好な解像性能と言えるでしょう。4500万画素や6100万画素のイメージセンサーにも耐えうる性能だと思います。
数値
中央 | 周辺 | 隅 | |
F2.8 | 4821 | 4789 | 4490 |
F4.0 | 4821 | 4821 | 4726 |
F5.6 | 4847 | 4821 | 4742 |
F8.0 | 4906 | 4821 | 4716 |
F11 | 4875 | 4821 | 4821 |
中央
通常時と同じく、絞り開放は細部のコントラストが僅かに低下。この状態でも十分に良好ですが、1段絞るとベストな結果を得ることができます。画質のピークはさらに1段絞ったF5.6からF8あたり。
周辺
通常時と同じく、傾向は中央とよく似ています。F2.8で僅かにソフト、F4以降はシャープな結果を得ることが可能。
隅
中央や周辺と比べると僅かにソフトですが、本当にわずかの差。さらに1段絞ると改善し、均質性の高い結果を得ることができます。倍率色収差は最小限。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2024年2月13日 晴れ 微風
- カメラ:LUMIX S5II
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 100 絞り優先AE
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC 現像
・シャープネスオフ
・レンズ補正オフ
・ノイズリダクションオフ
テスト結果
絞り開放のF2.8から概ね良好。ただし若干コントラストが低いため、高解像センサーやハイレゾモードでは少しソフトと感じるかもしれません。F4まで絞るとコントラストが改善、細部までシャープな結果を得ることができます。フレーム隅の端がまだソフトと感じる場合、F5.6かF8まで絞るとさらに良好。
中央
F2.8からまずまず良好ですが、ベストを尽くすのであればF4から。以降の絞りはほとんど変化が無く、ピークの状態が続きます。
周辺
中央と同じくピークはF4以降。細かいことを言わなければ、F2.8から全く実用的な画質と言えるでしょう。
四隅
中央や周辺と比べるとF2.8の画質がややソフト。残存するわずかな非点収差が影響しているのかもしれません。絞ることで徐々に改善。F5.6-8まで絞ると満足のいく結果を得ることができます。
ハイレゾモード
中央
基本的には通常時と同じ傾向。コントラストが少し低いものの、細部はよく解像しているように見えます。F4まで絞るとコントラストが改善。非常に良好な画質を得ることが出来ます。
周辺
中央とほぼ同じですが、F2.8とF4の差が大きいように見えます。出来ることならF4まで絞ったほうが良いでしょう、
隅
ピークはF8で、F2.8から絞ることで徐々に改善します。F4やF5.6でも悪くない結果ですが、敢えてハイレゾモードを使うのであればF8まで絞ってしまいたいところ。
マクロ解像
等倍マクロ撮影時でもF2.8の絞り開放から中央・隅どちらも良好な解像性能を発揮しています。画質の破綻は無く、小型軽量ながら優れたマクロレンズであると言うことが出来そうです。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
像面湾曲の影響はほとんどありません。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
絞り値全域で良好な補正状態です。追加の補正はほぼ必要ないように見えます。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
完璧な補正状態ではなく、絞り開放付近のF値ではピント面の前後に色づきが発生しています。とは言え、過度な影響ではなく、大部分の撮影で目立たない程度の収差。2段絞るとほぼ完全に抑えることができます。
NIKKOR Z 105mm F2.8 S VRなどと比べると、このカテゴリは少し見劣りします。しかし、小型軽量化の代償だとしたら許容範囲内。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
マクロレンズとしてはやや強めの糸巻き型歪曲が残っています。直線的な被写体を周辺に配置しなければ気にならない程度ですが、状況によっては補正必須と感じるかもしれません。画質に影響が出ない程度にプロファイルを使った補正が可能。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
F2.8からほぼ気にならない程度に良く抑えられています。
球面収差
前後のボケ質に大きな違いはありません。少なくとも画質に影響を及ぼす範囲の球面収差はないと言えるでしょう。また、軸上色収差のテスト結果から分かるように、フォーカスシフトの影響もほぼありません。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
前後の質感にほとんど違いのないニュートラルな描写。よく見れば前ボケのほうが少し滑らかに見えますが、実写でこの差を識別するのは難しいはず。色収差は良好に補正され、前後とも影響はほとんどありません。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
少なくとも大きなボケが得られる場合、縁取りが少なく滑らかな描写。非球面レンズの影響と思われる玉ねぎボケがうっすらと見えますが、コントラストが高いイルミネーションのようなシーンでなければ目に付きません。
ヴィネッティング(口径食)はやや目立ちますが、小型軽量なマクロレンズとしては想定の範囲内。むしろ大きく重いニコンZよりも軽微。
ボケが小さくなる場合、縁取りが硬くなり、フレーム端では色収差などの影響が強くなります。状況によっては少し騒がしくなる可能性あり。
ボケ実写
至近距離
小動物や植物などを撮影する場合、後ボケは大きくなり、全体的に描写は良好。色収差の影響も少なく、目障りな印象は全くありません。残存するヴィネッティングはF4まで絞ると解消します。
近距離
撮影距離が少し離れた場合でも良好な描写を維持。ヴィネッティングはやや目立つようになりますが、色収差や縁取りは弱い。悪目立ちしない描写。F4まで絞るとヴィネッティングはほぼ解消します。
中距離
撮影距離がさらに長くなると、ヴィネッティングはさらに目立ちます。酷い描写ではありませんが、縁取りと色収差が僅かに目に付き始めます。気になる場合はF4まで絞って調整可能。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F2.8)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。全身をフレームに入れる撮影距離でも中央は悪くない描写。ただし、周辺部や隅は色収差やヴィネッティングの影響が目立ち、状況によっては少し騒がしい見た目と感じるかもしれません。
上半身くらいまで近寄ると周辺部や隅の描写は改善します。それでも隅が悪目立ちする場合は0.5~1.0段ほど絞って調整するのがおススメ。バストアップから顔のクローズアップではF2.8から気兼ねなく使える印象。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
F2.8の絞り開放で周辺や隅が薄っすら暗くなっています。とは言っても無視できる範囲内で特に問題ありません。ただし、マクロ域では実効F値が大きくなり、光量が2段分ほど低下します(数値ではF2.8でもF5.6相当のシャッタースピードやISO感度となる)。
無限遠
最短撮影距離とは打って変わって周辺減光が非常に目立ちます。F2.8を使った遠景の撮影では補正を常に適用しておきたいところ。幸いにも絞ることで急速に改善します。
逆光耐性・光条
中央
このレンズの弱点を挙げるとするならば、それは逆光耐性。強い光源を正面から受けると絞り全域で目立つ影響が発生します。マクロレンズは複雑なレンズ構成を採用する場合が多く、どの製品にしてもゴーストは目立つ傾向があります。その中でもLUMIXは少し目立つ印象あり。
隅
強い光源がフレーム隅にある場合は軽微な影響。絞るとゴーストが発生するものの、フレームを少しずらすと回避可能。
光条
F8からF11付近で光条が徐々に発生。F16からF22でシャープな描写へと変化します。全体的に先端が分散するタイプの描写で、F22で何とか先細りするように見えます。ニコンほどシャープではありません。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 同クラスで最小・最軽量
- 適度な販売価格
- 同シリーズで統一されたサイズ・重量
- 同シリーズで統一された67mmフィルター
- 防塵防滴・フッ素コーティング
- 適度なトルクで滑らかなフォーカスリング
- 静かで高速なAF(カメラ側は要改善点あり)
- マクロ以外でフォーカスブリージングが抑えられている
- 9600万画素ハイレゾにも対応できる高解像
- 適切に補正された2種類の色収差
- まずまず良好なコマ収差補正
- 球面収差の補正がとても良好
- 近距離で滑らかなボケ
- 絞るとシャープな光条
なんと言っても世界最小・最軽量の驚異的なレンズサイズが強みのマクロレンズ。常識を覆すような携帯性で、日常的に持ち歩くことができるサイズとなっています。LUMIX S F1.8シリーズと同程度のサイズ・重量を実現するという執念が伝わってくるようです。
そして小型軽量の代償として、画質がほとんど犠牲になっていない点も良かったです。近距離でも周辺部までシャープな結果を得ることができ、諸収差もよく補正されています。
悪かったところ
ココに注意
- コントロールが最小限
- わずかな糸巻き型歪曲
- 玉ボケにわずかな非球面レンズの研磨ムラ
- 撮影距離が長い場合にボケがうるさい
- 撮影距離が長い場合にヴィネッティングが目立つ
- 逆光時にゴーストが目立ちやすい
- 光学手振れ補正が非搭載
- ワーキングディスタンスが短い
「敢えて言えば」ですが、光学性能の欠点として数点を挙げることができます。最も気を付けたいのはヴィネッティングで、F2.8における周辺減光や玉ボケの欠けなど影響が強い。カメラ側の補正や絞りで対処可能であり、過度に心配する必要はありません。
レンズ側のオートフォーカスは問題ないものの、カメラ側の性能がイマイチ。特にマクロ域をいったりきたりする場合が多く、フォーカスリミッターを使用する機会が多いかもしれません。また、手振れ補正を搭載していないので、SIGMA fpなどセンサーシフト式の手振れ補正を搭載していないような機種では注意が必要です。さらに、一般的な100mmマクロと比べてワーキングディスタンスが短いため、被写体との距離が近い点に注意が必要。
総合評価
満足度は99点。
最小限の代償で、携帯性の高い高性能な100mmマクロレンズに仕上がっています。他社のマクロレンズと比べると光学性能や機能性で見劣るかもしれませんが、それ以上に携帯性が魅力的と感じることでしょう。
1点減点したのはカメラ側のAF性能がイマイチなため。レンズのダブルフォーカスシステムは良好に動作していますが、前述したようにカメラ側の性能が足を引っ張っているのかマクロ側で迷走します(LUMIX S5II 装着時)。手持ちで快適な撮影を実現するためには、さらなるAFの改良が必要と感じました。
SIGMA 105mm F2.8 DG DNについて
同じLマウントにはシグマの「105mm F2.8 DG DN MACRO」が存在します。レンズサイズは一般的な100mmマクロですが、優れた光学性能を備え、AFLボタンや絞りリングに対応。そして販売価格はパナソニックと比べて2/3程度。光学性能の高いマクロレンズとしてはコストパフォーマンスに優れています。ただし、AFはやや遅めで、やはり手振れ補正は非搭載。そしてフォーカスブリージングは一般的な撮影距離でも目立ちます。マクロ撮影のためのマクロレンズという印象。
購入早見表
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