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キヤノン RF16mm F2.8 STM 徹底レビュー 完全版

このページではキヤノン「RF16mm F2.8 STM」のレビューを掲載しています。

管理人の評価

評価

これぞミラーレス!超広角撒き餌レンズ

色々と妥協点はあるものの、手のひらサイズで「16mm F2.8」を使えるメリットは大きい。価格とサイズを考慮すると、画質は十分に満足いくパフォーマンスを備えている。「超広角とはなんぞや?」を体感したいエントリー超広角ユーザーにおススメの一本。ただし、色々と注意点はあるので万人におススメするレンズではない。詳しくはレビューを読み進めて欲しい。

ポイント 評価 コメント
価格 超広角としては手ごろ
サイズ 驚くほど小さい
重量 驚くほど軽い
操作性 AF/MF切替なし
AF性能 ノイジーだが高速
解像性能 まずまず良好
ボケ 接写時は良好
色収差 倍率色が目に付く
歪曲収差 魚眼ですか?
コマ収差・非点収差 F2.8で目立つ
周辺減光 四隅が真っ黒
逆光耐性 場合によってフレア大
満足度 超広角撒き餌レンズ

RF16mm F2.8 STMのレビュー一覧

まえがき

2021年9月14日に正式発表されたキヤノンRFマウント初となる超広角単焦点レンズ。「16mm F2.8」というパラメータからは想像も出来ないほど小型軽量なレンズで、レンズサイズは「RF50mm F1.8 STM」とほぼ同じ。価格も4万円未満とフルサイズ用広角レンズの純正品としては抑え気味で、導入しやすい。言ってしまえば新世代の広角撒き餌レンズ。

概要
レンズの仕様
マウント RF 最短撮影距離 0.13m
フォーマット フルサイズ 最大撮影倍率 0.26倍
焦点距離 16mm フィルター径 43mm
レンズ構成 7群9枚 手ぶれ補正 -
開放絞り F2.8 テレコン -
最小絞り F22 コーティング SSC
絞り羽根 7枚
サイズ・重量など
サイズ φ69.2×40.1mm 防塵防滴 -
重量 約165g AF STM
その他 レンズフード別売り
付属品
前後キャップ

前述したようにレンズサイズはRF50mm F1.8 STMとほぼ同じ。レンズ重量も165gと非常に軽量で、フルサイズの超広角レンズをこの携帯性で利用できるのは魅力的。小型軽量なだけでなく、最短撮影距離が0.13mと短く、最大撮影倍率も0.26倍と非常に良好。オートフォーカスはステッピングモーター駆動で、動画撮影時は滑らかに動作する。

レンズ構成は7群9枚で、そのうち1枚の非球面レンズを使用している。RF50mm F1.8 STMと同じくPMo非球面レンズなのか国内のウェブサイトには明記はされていない。ただし、国内の商品ページに記載は無いが、海外のウェブサイトを確認すると、PMo非球面レンズであることが明記されいている。PMoとは「プラスチックモールド」を意味しており、個人的な経験則から言うと、透過率が少し悪いかもしれない。
また、小型軽量な超広角レンズの妥協点として、MTFで見て分かるほど周辺画質の落ち込みがある。「最新設計のミラーレス用レンズ」として高画質を期待していると肩透かしとなる可能性あり。この辺りは今後のテストで要検証。

価格のチェック

売り出し価格は3万7千円ほど。純正のフルサイズ用超広角レンズとしては非常に安い。特に高価なレンズが多かったRFレンズの中では極めて安い部類に属する。「RF50mm F1.8 STM」と共にキットレンズに加える面白い選択肢となる。

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レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

RFレンズらしい黒を基調とした非常にシンプルなデザインの箱。Lレンズでは無いので、レンズ名に赤色は使われていない。レンズの製品画像がプリントされている面を除いて、基本的に黒と白のツートンカラーに仕上がっている。

中は間仕切りしておらず、レンズ本体は緩衝材で包まれている。

レンズ本体の他に付属品は説明書と保証書のみ。レンズフードやケースは付属していない。レンズフードは今のところ社外製の互換品も存在しないので、純正フードを手に入れるしかない。とは言え、(2021年11月現在)供給不足が続いており、納品まで時間がかかってしまうのが悩ましいところ。

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外観

外装は他のRFレンズと同じく高品質なプラスチックパーツを使用。プラスチック製ながらしっかりとした作り。外装に継ぎ目も見えて高級感は無いが、低価格なレンズとしては極端に安っぽい印象もない。全体的なデザインは「RF50mm F1.8 STM」とほぼ同じで、マットブラックの塗装を基調として、アクセントとなるシルバーラインが装飾されている。意匠はシンプルで必要最小限だが、一見してキヤノンレンズと分かる。

フォーカスリングはローレット加工が施されたプラスチック製。リングの側面のスイッチで機能を「フォーカス」と「コントロール」に切り替えることが出来るが、ローレット加工から分かるように、キヤノンは「コントロール」として使うことを想定しているのかもしれない。
その他に過度な装飾は見られず、必要最低限。表面の印字は「Canon」のロゴとCEマークなどに加工が施され、ピント範囲やシリアルナンバーなどは表面に直接プリントされている。ちなみに製造国は台湾。

レンズサイズはRF50mm F1.8 STMとほぼ同じ。このサイズで16mmの単焦点レンズを実現したのは本当に凄い。形状がほぼ同じであるため、カメラバッグ収納時に取り違える可能性がある点には気を付けたい。

ハンズオン

全長40.1mm、重量165gの小型軽量な単焦点レンズ。まさに手のひらサイズで16mmの超広角を扱えるのは凄い。小型軽量で低価格なレンズだが、手に取った際の質感は良好で、特に安っぽい印象は無い。

前玉・後玉

レンズは繰り出し式フォーカスを採用しており、ピント距離によってレンズが前方へ繰り出す仕組み。繰り出す内筒の先端には43mmフィルターに対応したソケットを搭載。広角レンズ用のフィルター径としては非常に小さく、手ごろな価格でフィルターを揃えることが出来るのは強い。ただし、フィルターサイズが小さすぎて、対応するブランドが限られてしまうのが悩ましいところ。

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小さな前玉とは打って変わって大きな後玉を搭載。大口径マウントのミラーレスシステムらしい設計。また、周囲の金属マウントは4本のビスで固定されている。

フォーカスリング

小さなフォーカスリング(兼コントロールリング)を搭載。はこの価格帯のレンズとしては驚くほど滑らかに回転する。トルクは思っていたよりも少し強めだが、適度なストロークと相まって使いやすく感じる。
ピントの移動距離は「回転量」「回転速度」の2パターンをカメラ側で設定可能。回転量の場合、ピント全域の操作に必要なストロークは約180度ほど。回転速度の場合はゆっくり回転すると180度、素早く回転すると90度ほどで操作可能となっている。個人的に静止画で使う場合は「回転速度」の設定が使いやすいと感じる。

スイッチ

「AF/MF」スイッチの代わりに「FOCUS/CONTROL」スイッチを搭載している。このスイッチを操作することで「フォーカスリング」と「コントロールリング」の役割を切り替えることが可能。このレンズでMFを使うことが無いのであれば、常時コントロールリングとして使うのもあり。
ただし、一般的なコントロールリングと異なりノッチが無いので、慣れるまでは使い辛い。リングの強めのトルクがかかっているので、RF50mmよりは少し操作しやすい。

レンズフード

残念ながら供給不足の純正フードを手に入れ損ねてしまった。
RF50mm F1.8 STMのフードを装着することは可能。この状態でも静止画のライブビューでケラレることは無いが、(無修正の)RAWを確認するとガッツリケラレるので注意が必要。

注意

このレンズは巨大な歪曲収差をボディ内で後処理している。この過程で周辺部が大きく引き伸ばされるため、結果的にフードでケラレる四隅がトリミングされている状態。

装着例

EOS R5に装着。このレンズが16mmの超広角レンズであることを考えると驚くほど小型軽量で、気軽に持ち出すことができるレンズサイズと分かる。片手でカメラを扱うのもやぶさかでは無く、バリアングルモニタを活かして縦横無尽のアングルで撮影が可能。光学性能を抜きにして、このレンズサイズは強みとなる。

AF・MF

フォーカススピード

レンズ繰り出し式フォーカスを採用し、駆動系にはステッピングモーターを使用。電光石火とは言えないが、十分高速なAF速度を実現しているように見える。サーボ時でも良好な追従性能を見せるが、被写体が近側から遠側へ高速移動する際に追いかけ損ねる場合あり。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。

ピント距離による画角変化は非常に目立つ。これは至近距離のみならず、中距離や遠距離まで一貫して画角変化が発生。特に最短撮影距離と無限遠は特に画角の違いが大きく、接写時にピントを外すとかなり煩わしく感じる。

精度

EOS R5と組み合わせる限りフォーカスの精度は良好。ピント位置の再現性も一貫しているように見える。前述したようにフォーカスブリージングが目立つので、周辺部や隅のフォーカスエリアを使用していると誤検出する場合があるかもしれない。(画角の変化で意図しない位置にピントを合わせてしまう)

MF

この価格帯としては使いやすいフォーカスリングを実装している。前述したように近距離でピントが迷う場合はMFを積極的に活用するのも一つの手。ただし、AF/MFの切替はカメラのメニュー画面を使った操作が必須となる。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:EOS R5
  • 交換レンズ:RF16mm F2.8 STM
  • パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 100 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

テスト結果

中央

絞り開放から4000を超える非常に良好な解像性能を発揮。球面収差のような甘さは見られず、コントラストも良好。1段絞ると、さらにコントラストが改善し、解像性能もワンランク向上する。少なくとも、この解像力チャートを使ったテストとしては「RF100mm F2.8 L IS Macro USM」よりも高いピークの性能を備えているように見える。ピークはF5.6まで続き、回折の影響が始まるF8で少し低下が発生。F11まで解像性能は良く維持されているが、F16以降は急激に低下するので注意が必要。

周辺

超広角の解像性能テストは定型チャートに近寄る必要があり、パフォーマンスが低下しやすい傾向がある。(近いピント位置では収差が大きくなりやすい)このレンズも多少の低下は見られるものの、低価格のレンズとしてはかなり健闘しているように見える。
絞り開放から安定した画質を実現しており、絞ると徐々に改善する。そしてF8で4000に近いピークの性能を発揮。

四隅

周辺部からさらに画質が低下し、倍率色収差や周辺減光の影響も目に付く。しかし、それでも小型軽量な超広角レンズとしては良好と言える画質を絞り開放から実現している。F2.8では若干甘さが残るものの、ピークのF8に向けて徐々に改善する。中央と同等とまではいかないが、超広角レンズとしては非常に良好な結果である。
倍率色収差の補正は簡単として、問題は大きな歪曲収差を補正するのか、しないのか。歪曲収差を補正する過程で四隅を引き延ばすことになるので、多少の画質低下が発生するかもしれない。

参考までに、F8におけるRAW現像とカメラ出力でデジタルレンズオプティマイザを適用したJPEGの比較を掲載。御覧のように歪曲収差と倍率色収差を補正し、シャープネスを適用することで、甘さのないシャープな周辺画質を獲得することが出来る。手ごろで小型軽量な超広角レンズとしては素晴らしいパフォーマンス。
ただし、強烈な歪曲収差の補正で全体的に像を引き延ばされている点には注意が必要。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 4098 2988 2371
F4.0 4642 3550 2288
F5.6 4622 3585 2920
F8.0 4271 3960 3372
F11 4253 3704 3432
F16 3616 3482 3307
F22 3017 2860 2504

実写確認

一覧表を確認すると分かるように、中央から隅まで輝度差がある。撮影時はフラットな光環境で撮影しているので、これは明らかに周辺減光の影響。光量落ちは絞りによる改善効果が全くない。小型軽量レンズの妥協点と言える。

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2021-10-29:晴れ:風強め
  • カメラ:EOS R5
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:Leofoto G4
  • 露出:絞り優先AE ISO 100
  • RAW:Adobe Lightroom Classic CC
    ・シャープネスオフ

テスト結果

小型軽量で手ごろな価格の超広角レンズとしては立派な解像性能。とは言え、完璧からは程遠く、色々と欠点が見られる。それぞれ中央・周辺・隅のF2.8~F8までの作例を確認しながらチェックしていきたい。

中央

絞り開放から非常に良好な解像性能を発揮。細部までディテールをよく再現しており、コントラストもまずまず良好。F4まで絞ってもシャープネス・コントラストはどちらも改善しない。絞り開放からピークの画質に見える。この画質はF5.6やF8まで維持されている。F11まで絞ると回折の影響で少しソフトになるが、画像処理次第でまだまだ実用的な画質。F16~F22で回折の影響は急速に強くなるので、被写界深度が必要な場面以外では避けたい絞り値。

周辺

中央と比べて倍率色収差が目立つものの、解像性能としては悪くない結果に見える。シャープネスはしっかりとしており、細部のディテールはF2.8から再現性が高い。F4まで絞ると僅かにコントラストが改善して解像感が増している。F5.6~F8にかけて改善は見られず、倍率色収差も引き続き目に付くので、カメラ側の色収差補正はオンにしておきたい。F11も良好なパフォーマンス維持しているが、F16~F22は回折の影響が強くなるので極力避けるのが良し。

四隅

中央や周辺と比べるとコントラストが低下している。パッと見た限りではコマ収差が強く残存しているので、これが影響しているのだと思われる。ただし、極端な描写の甘さはなく、思ったよりもしっかりとした解像性能に見える。F4まで絞るとコマ収差がグッと抑えられ、コントラストも改善する。ただし、いくらか残存収差があるので、しっかりと解像させたい場合はF5.6まで絞るのがおススメ。F5.6からF8で隅のコントラストがピークに達している。ただし、倍率色収差は解消しないので、カメラ側での補正が必要。

撮影倍率

最短撮影距離は0.13mで、この際の撮影倍率は0.26倍。超広角レンズとしては寄りやすく、被写体を大きく撮影しやすいレンズに仕上がっている。もちろんワーキングディスタンスは無いに等しく、画角も広いことから、撮影者やカメラの影が被写体に写りこむ可能性が高い。撮影するアングルや光環境には気を付ける必要がある。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

完璧な補正状態とは言えず、フレーム周辺部には倍率色収差と思われる色ずれが発生している。極端に目立つ収差では無いものの、周辺部を大きくクロップすると目に付く可能性あり。絞りによる大きな変動はなく、F2.8からF22まで一定して存在する。レンズ補正で修正しやすい問題なので、特に心配する必要は無い。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。

軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

完璧な補正状態では無く、絞り開放付近ではピント面前後の高コントラスト領域で収差が発生している。一般的な撮影シーンで目立つ収差の量では無いが、例えば水面の反射などでは少し目立つかもしれない。F5.6まで絞ると、ほぼ完璧に収差を抑えることが可能。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。

描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滲むボケ描写を実現しているレンズも存在する。

実写で確認

前後のボケ質に大きな差は見られないが、敢えて言えば前ボケのほうが少し滑らかで綺麗。とは言ったものの、「16mm F2.8」で前ボケを入れる機会はほとんど無いと思う。出来れば後ボケが滑らかだと良かった。軸上色収差によるボケへの色付きは極僅か。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。

逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。

実写で確認

レンズサイズを考えると口径食は良く抑えられている。もちろん完璧からは程遠く、フレーム隅で玉ボケの変形が見られる。また、玉ボケの輪郭には強めの縁取りがあり、これが後ボケの質に影響している可能性あり。ただし、色収差は見られず、過度な騒がしさは無い。
非球面レンズを1枚使用しているが、玉ねぎボケの兆候は見られない。これは非球面レンズがガラスモールド(GMo)ではなくプラスチックモールド(PMo)の非球面レンズだからだと思われる。

絞りは7枚円形。F4まで円形を維持しているように見え、F5.6で少し角ばるもおの、この時点でボケが小さくなっているので問題とはならない。

RAWデータ

上の作例はカメラ内で歪曲収差が補正された(トリミングされた)状態。これを社外製のRAW現像ソフトで読み込むと以下の通り。

ご覧のように、画角が広くなり、歪曲収差でトリミングされていた部分を確認可能。
すると補正後のフレームから外側は口径食が一気に強くなり、特に隅の部分は楕円形を通り越して三日月に近い。RF16mmのRAW現像時に四隅をトリミングしない場合、ボケがかなり騒がしくなる可能性があるので気を付けたい。

ボケ実写

玉ボケのテストではJPEGを使用したので、今回は社外製ソフトで補正なしのRAW現像で出力したJPEGを使用してみる。

近距離

カメラのボディ内出力で生成されるJPEGに大きな問題は無し。多少の縁取りが見られるものの、隅まで良好なボケ質に見える。特に広角レンズのボケとしては滑らかで綺麗。玉ねぎボケの兆候も見られない。
その一方、RAWデータには歪曲収差が適用される前の周辺フレームが残っており、社外製RAW現像ソフトなどでは周辺をトリミングしない限り口径食が目立つ。

中距離

接写時よりもボケが小さくなり、全体的に少し騒がしく見える。特に隅は玉ボケが主張しやすく、意図しない視線誘導の効果が発生してしまうかもしれない。これはRAW現像時に余分なフレームをトリミングしたとしても少し目立つ。
後ボケが少し騒がしく見える場合は、F4~F5.6まで少し絞ったほうが全体の見栄えが良くなる可能性がある。ケースバイケースなので要調整。

サンプル

「16mm F2.8」のレンズでボケを作るとしたら、基本的に接写時だと思う。最短撮影距離が短いので、被写体にしっかりと寄ることでボケを大きくすることが可能。この時のボケは十分に滑らかで綺麗、特にこれと言った不満は無し。前述したように、RAW現像時はJPEG外フレームの口径食や収差が目立つ場合があるので、随時トリミングなどで対応したいところ。

接写時以外のボケは基本的に騒がしい描写。ただ、ボケがかなり小さくなるので、描写の騒がしさは気にならない。

球面収差

ピント面前後の玉ボケについて、描写の大きな違いは見られない。球面収差は良好に補正されていると思われる。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。

参考:Wikipedia 歪曲収差

比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。

実写で確認

このレンズにおける欠点の一つ。
光学的に恐ろしいほど大きな歪曲収差が残っている。カメラ内で現像すると、適切な歪曲補正により自動的に歪みが解消、JPEG出力では歪みを知覚することが出来ないレベルまで抑えられている。ただし、強い歪曲補正が適用されるので、周辺部の解像感は必然的に低下する。
社外製RAW現像ソフトなどは自動補正が適用されないので、歪曲を補正する手段が必要。大きな樽型歪曲で、陣笠状の歪みも見られるので手動による補正は難しい。出来れば専用のレンズプロファイルを使用したいところ。

周辺減光

周辺減光とは?

周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

最短撮影距離 JPEG:RAW

このレンズは大きな樽型歪曲収差が残っており、デジタル補正前のRAWファイルと補正後のJPEGではフレームの使用領域が異なる(補正後は画角が狭くなる)。未補正の場合は強い樽型の歪曲収差が発生すると共に、隅が真っ黒(ケラレ)になる。これはRF16mm F2.8 STMのイメージサークルが35mmフルサイズセンサーをカバーしていないことを意味している。このレンズで最大の妥協すべきポイント。

絞ってもF22まで解消することは無く、イメージサークルは完全に不足している。このケラレを解消するにはカメラ内の歪曲収差補正か、現像ソフトのレンズプロファイルを適用する、もしくはケラレ部分をトリミングするしかない。
幸いにも周辺減光の影響が強くなく、適切な補正状態であれば影響は最小限で済む。ただし、隅の光量落ちは絞っても解消せず、現像ソフトの手動補正では適切な補正が出来ない。完璧な補正状態には専用の補正データが必要。

無限遠 JPEG:RAW

最短撮影距離と比べるとRAWのケラレが少なく、絞ることで大きく改善する。その一方で周辺減光は最短撮影距離よりも強く、中央から隅に向かって光量の低下が目立つ。これは絞っても改善せず、レンズプロファイルによる補正が必要となる。ただ、(隅に向かって)直線的な周辺減光となっているので手動補正でも綺麗に修正しやすい。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。

参考:Wikipedia コマ収差

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。

実写で確認

絞り開放では典型的なコマ収差が残存している。収差の量は驚く程ではないものの、周辺部の画質低下の要因となっているのは間違いない。1段絞ると改善し、F5.6~F8でほぼ完璧に抑えることが出来る。周辺部の点像再現性を重視するのであれば、少なくともF2.8は避けたほうが良い。

逆光耐性・光条

中央

7群9枚のレンズ構成中にはスーパースペクトラコーティングが施されている。お世辞にも逆光耐性が良好とは言えないが、レンズフレアやゴーストの見栄えは良く、状況によってはフレアがアクセントとなるかもしれない。強い光源の周辺はフレアによってコントラストが低下しているが、光源から離れると、まずまず良好なコントラストを維持しているように見える。
ただし、絞ると状況は悪化し、F8付近からフレアの影響がフレーム全域へと波及する。こうるなると「実用的な画質」とは感じない人が多いかもしれない。

絞り開放はコントラストがまずまず良好に抑えられているものの、絞り始めるとゴーストが顕在化する。やはりF8付近からフレアの影響も強くなっているので、強い光源は極力避けて通りたいところ。

フレーム外の光源について

これまでテストした通り、このレンズはJPEGとRAWで画角が大きく異なる。このため、ライブビュー上(JPEGと同じ画角)で強い光源を回避したつもりでも、実際には(RAW)光源がフレーム内に写りこんでいる可能性がある。このため、強い光源を回避するには、画角の違いを意識して遠ざけておく必要あり。

光条

絞り羽根の枚数は7。この際、絞ると14本の光条が発生する。光条はF4から既に発生し始め、F11~F16でシャープな描写になる。先細りする綺麗な光条であり、低価格な広角レンズとしては強みとなるポイント。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • 超広角レンズとしては驚くほど小型軽量
  • フィルターサイズが小さい(特に16mmとしては)
  • 手ごろな価格設定
  • しっかりとしたレンズの作り
  • 滑らかなコントロールリング
  • 静止画では快適なAF
  • 価格を考慮すると健闘している安定した解像性能
  • 最短撮影距離・最大撮影倍率
  • 接写時に滑らかなボケ
  • 非球面レンズの悪影響が少ない
  • 絞った際の綺麗な光条

なんと言っても小型軽量で手ごろな価格を実現したのは評価したいポイント。これまで超広角レンズと言えば高いイメージがあったものの、このレンズのおかげで敷居がグッと下がったと思う。もちろん、完璧なレンズでは無いが、実用的な解像性能や(ソフト補正込みの)収差を実現しているように見える。携帯性が良く、超広角を使わない日でもポケットに携帯できる手ごろさがGood!極端に画質にこだわらなければ、面白い選択肢になると思う。

悪かったところ

ココに注意

  • レンズフードなし
  • AF/MF切替スイッチがない
  • フォーカシングで内筒が伸びる
  • フィルターサイズが小さすぎる
  • オートフォーカスがノイジー
  • フォーカスブリージングが顕著
  • 倍率色収差が少し残っている
  • 軸上色収差が少し残っている
  • 撮影距離が長い場合の後ボケが騒がしい
  • 魚眼のような歪曲収差
  • 絞っても改善しない無限遠の周辺減光
  • 絞り開放で顕著なコマ収差
  • 平凡な逆光耐性

いくつもの欠点を挙げることができる。しかし、その多くは小型軽量で手ごろな価格の超広角レンズを実現するために妥協すべきポイントだと思う。極端に人を選ぶポイントは歪曲収差と隅のケラレくらいのはず。歪曲収差は確かに目立ち、Adobe Lightroomなど社外製の現像ソフトを使っている人は気を付けたい。2021年11月現在でレンズプロファイルは存在せず、手動補正か無補正でRAW現像する必要あり。将来的にレンズプロファイルが登場すると思うが、ピント位置ごとに変化する歪曲収差に対応できるのかは不明。

総合評価

満足度は90点。
手ごろな価格でエントリーしやすい超広角レンズ。今のところ他社に競合レンズは存在せず、気軽に超広角を使いたいのであれば面白い選択肢になる。画質にこだわらなければ十分に満足できる光学性能を備えており(ソフト補正必須)、縦横無尽に「16mm F2.8」を楽しめると思う。

将来的にAPS-C EOS Rが登場した場合も広角単焦点として利用可能。ただし、「APS-C 16mm F2.8」としては少し高く感じるので、APS-C用として導入するのはコストパフォーマンス的におススメしない。ただし、普段はフルサイズで使用し、画角が広すぎる際のAPS-Cクロップや電子手ぶれ補正を適用した動画撮影として使うのはアリだと思う。

購入早見表

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作例

オリジナルデータはFlickrにて

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