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7Artisans AF 35mm F1.4 レンズレビュー完全版

このページでは「7Artisans AF 35mm F1.4」のレビューを掲載しています。

製品提供について

このレビューはイングレートジャパン株式会社(PERGEAR)より無償提供された製品を使用しています。金銭の授受やレビュー内容の指示は一切ないことを最初に明言しておきます。購入した製品ではないことに対する無意識のバイアスは否定できませんが、できるだけ客観的な評価を心がけています。

7Artisans AF 35mm F1.4のレビュー一覧

レンズの評価

ポイント 評価 コメント
価格 35mm F1.4としては安価
サイズ 35mm F1.4としては小型
重量 35mm F1.4としては軽量
操作性 最低限だが良好な応答性
AF性能 特に遠景で要改善
解像性能 隅以外は絞ることで概ね良好
ボケ 縁どりの強い個性的な描写
色収差 倍率色収差が目立つ
歪曲収差 穏やかな樽型
コマ収差・非点収差 開放付近の隅で目立つ
周辺減光 遠景でかなり目立つ&解消しない
逆光耐性 大きな問題無し
満足度 癖は強いが個性的なレンズ

評価:

レンズの評価

癖は強いが個性的

AFと絞りの問題が解決された場合、「綺麗な描写」に見飽きた人におススメできる癖の強いレンズ。強い球面収差やコマ収差、縁どりの強いシャボン玉ボケなど、レンズの描写に振り回されることでしょう。だが、そこがいい。

このような傾向を見せるAFレンズは珍しく、直接競合する製品はありません。万人におススメできるレンズでは決してありませんが、こういうレンズが一つあっても良いのではないかと思います。

それだけにAFと絞りの不良は非常に残念。ファームウェアアップデートや不良個所の発見で改善を期待したいところ。

If the AF and aperture issues are resolved, this lens would be recommended for those who have grown tired of “beautiful images” and are looking for something with a strong character. With its strong spherical aberration, coma aberration, and strong soap bubble bokeh, this lens will challenge you with its unique rendering. But that's what makes it great.

AF lenses with such tendencies are rare, and there are no direct competitors. This is by no means a lens I would recommend to everyone, but I think it's worth having one of these lenses in your collection.

That said, the AF and aperture issues are a major drawback. I hope for improvements through firmware updates or the identification and resolution of defective units.

まえがき

7Artisans AF 27mm F2.8」に続く、同社二本目のAPS-C用AFレンズ。F1.4の大口径を採用しつつ、比較的コンパクトな光学系を採用。富士フイルム純正「XF35mmF1.4 R」とよく似たサイズとなっています。ここ最近の大口径レンズは高性能で大型化する傾向があり、このようにシンプルな光学系でサイズと価格を抑えた製品は珍しい。

主な仕様

5群8枚のレンズ構成にEDガラスを一枚使用。クラシカルなダブルガウス構造をベースに、現代的な補正要素と非対称設計を組み合わせた変形ダブルガウス構成。価格を考慮すると絞りが11枚と多く、絞っても円形のボケを期待できそうです。

発売日 2025.3.25
初値 ¥25,920
レンズマウント X
対応センサー APS-C
焦点距離 35mm
レンズ構成 5群8枚
開放絞り F1.4
最小絞り F16
絞り羽根 11枚
最短撮影距離 0.35m
最大撮影倍率 不明
フィルター径 62mm
手振れ補正 -
テレコン -
コーティング 不明
サイズ φ68×49mm
重量 184g
防塵防滴 -
AF STM
絞りリング -
その他のコントロール -

価格のチェック

国内での販売価格は2.5万円。富士フイルム純正品よりも遥かに安く、シグマ「30mm F1.4 DC DN」の半値に近い。

価格的に競合するのは「VILTROX AF 35mm F1.7」あたり。本レンズはF1.4のアドバンテージがあるものの、光学性能に定評のあるVILTROXも魅力的な選択肢。

レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

ここ最近のAF 7Artisansレンズらしく、白を基調として赤いラインがアクセントのデザイン。箱にはレンズの図面や特徴がプリントされています。

レンズフードと前後のキャップ、さらにファームウェア更新用のUSBケーブルが付属しています。

外観

他の7Artisans AFレンズと異なり、外装やフォーカスリングはプラスチック製。金属製ほど頑丈な質感ではないものの、サムヤン初期Tinyシリーズほど安っぽい印象はありません。外装にはマットブラックの塗装が施され、光沢を抑えています。

コントロールはフォーカスリングのみのシンプルなデザイン。意匠はほとんど無く、「7Artisans」のロゴのみ。側面にはファームウェア更新用のUSB-Cポートがあります。

ハンズオン

大口径レンズながら全長を抑えたコンパクトな作り。重量・サイズともに「XF35mmF1.4 R」とよく似ています。ただし、繰り出し式のフォーカスユニットは鏡筒内に収まっており、全長が変化することはありません(XF35mmF1.4 Rは少し伸びる)。

前玉・後玉

外装から少し奥に隠れたところに前玉があります。フォーカシング時に前玉が前方へ伸びるものの、鏡筒内で完結。前面に62mm保護フィルターを装着することで、空間を密閉することが可能。小ゴミの混入を抑制することができます。

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金属製のレンズマウントは3本のビスで本体に固定。防塵防滴用のシーリングはありません。

フォーカスリング

15mm幅のフォーカスリングを搭載。滑らか、かつ適度な抵抗感で回転します。ざらつくXF35mmF1.4 Rよりも快適で、この価格帯のレンズとしてはよくできています。

フォーカスリングの応答性は直線的で、回転速度に依存しません。ピント全体のストロークは約540度で、そのうち最短撮影距離から1.0mまでで360度。微調整には十分過ぎるストロークですが、フルマニュアルで使うには操作量が多くなりがち。

レンズフード

花形のプラスチック製レンズフードが付属。本体に対して大きめのフードで、装着すると全長がかなり伸びてしまいます。正直に言うと、フード無しでも前玉が鏡筒に隠れているので必要性は低い。フード装着はバヨネットタイプで、しっかりと固定することができます。

装着例

X-M5に装着。小型軽量ボディと相性の良いF1.4レンズです。レンズ全長が短いため、カメラシステム全体の奥行が嵩張らず、カメラバッグへの収納が容易。また、片手でも扱えるほど軽量で、フロントヘビーとは感じません。

補足:露出不安定になる

本レンズを装着時に自動露出がうまく機能しません。具体的には、露出補正「±0」の時に期待よりもアンダーになったり、オーバーになったりします。

原因は不明。ただし、明るいシーンで「ライブビューが自動的に絞った状態」となる場合に不具合が発生しているように見えます。絞り羽根が所定の位置まで絞りこめていない初期不良なのか、何らかのファームウェア的な不具合なのか…。

この件に関してはPERGEARに問い合わせ中。

AF・MF

フォーカススピード

フォーカスはステッピングモーター駆動のレンズ繰り出し式。現代の基準で言えば「遅い」と評価するフォーカス速度で、素早いピント合わせは期待しないほうが良いでしょう。また、AFC使用時はフォーカシング中に途中で謎のブレーキがかかる(動画を確認してください)ため、動体追従も期待しないほうが良いでしょう。

後述するピント精度も含めて、ファームウェアアップデートによる改善を期待したい部分。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。

繰り出し式のフォーカシングらしく、ピント位置によって画角が大きく変化しています。無限遠側で画角が広くなるため、不要な背景をフレームに入れたくない場合は無限遠側で調整しておくと良いでしょう。

精度

少し前の世代の富士フイルムXシリーズは遠景でピントが合わない(ちょっとずれる)問題にしばしば遭遇したものですが…、第四世代や第五世代では改善したと思います。

しかし、このレンズと組み合わせたX-M5は、遠景の撮影でしばしばミスショットを連発。必ずしもピントが外れるわけではないものの、看過できない確率となっています。

正確

ミスショット

この状態でもカメラは「合焦」と判断しています。ここまで酷いカットは少ないものの、ここまで酷くない場合、帰宅後にミスショットだったと気が付くことに。

MF

上記のようなAFが信用できない状態なので、特に遠景ではMFを利用する機会が多い。幸いにも、フォーカスリングが使いやすく、一度ピントを合わせてしまえばピント固定で撮影することが可能。(AFレンズのメリットが皆無ですが…。)

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:FUJIFILM X-M5
  • 交換レンズ:7Artisans AF 35mm F1.4
  • パール光学工業株式会社
    【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 160 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

絞り不良と思われる不具合

テストに使用している個体で撮影すると露出不良となる場合があります。これは絞りの動作が影響している可能性があります。従来通りのテストを実施していますが、絞りがきちんと動作していない可能性があります。ある程度の傾向は判断できると思いますが、特に絞った時の結果は変動するかもしれません。

テスト結果

ダブルガウス系のレンズでよく見る傾向。開放は残存する球面収差や軸外収差の影響で全体的にソフト。しかし、2段ほど絞ると広い範囲で改善、さらにもう1段絞ると周辺までシャープな結果を得ることが出来ます。隅は改善速度が遅いものの、十分に絞ることで良好な結果。

中央

絞り開放はマニュアルフォーカスでベストを尽くしても若干ソフト。ただし、絞ると目に見えて改善し、F2.0~F2.8で徐々に改善。F4まで絞ると細部まで良好なコントラストが得られます。

周辺

F1.4の絞り開放は少しソフトですが、F2.0まで絞ると許容範囲内まで収束。F2.8-4で実用的な結果を得ることが出来ます。ベストの結果はF5.6-8。ただし、絞り値全域で倍率色収差の影響があるため、現像時に色収差補正の適用がおススメ。

四隅

低価格でシンプルな光学設計の35mm F1.4としてはきちんとした結果。もちろん絞り開放はソフトですが、絞ると徐々に改善します。色収差や非点収差、コマ収差の影響で中央や周辺と同等の結果を得難いものの、細部を拡大しなければ許容範囲内に収まっています。

数値確認

Centter Mid Corner
F1.4 2268 2007 2234
F2.0 2691 2315 2100
F2.8 3327 2465 2126
F4.0 3315 3326 2547
F5.6 3232 3314 2362
F8.0 3243 3124 2600
F11 3505 3200 2889
F16 2942 2690 2545

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2025.4.8 曇 微風
  • カメラ:FUJIFILM X-M5
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:BF BAFANG BCA-01
  • 露出:絞り優先AE ISO 160
  • RAW:Adobe Lightroom Classic CC
    ・シャープネスオフ
    ・レンズ補正オフ
    ・ノイズ補正オフ

中央

傾向は近距離での解像チャートとほぼ同じか、若干ソフト。F1.4は細部が滲んでおり、全体的にコントラストが低め。F2.0まで絞ると大幅に改善するものの、コントラストはまだ低い。F2.8まで絞ると細部のコントラストが改善し、F4でピークに到達します。

周辺

周辺も解像チャートと同じ傾向。F1.4の絞り開放はソフトですが「大荒れ」ではない。F2-2.8で徐々に改善し、F4.0で良像が得られます。F4のハイライトに筋状のフレアが発生していますが、これはコマフレアではなく、絞り羽根の影響。

無限遠のフレーム隅は絞ってもややソフト。非点収差のように像が流れるように写り、絞っても若干ソフトな結果となります。補足すると、このようにソフトな結果が続くのはフレームの極端な隅のみ。F5.6-8まで絞ると、周辺から隅まで良好な結果を得ることが可能。

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。

ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。

参考:ニコン 収差とは

実写で確認

中央と隅のそれぞれにピントを合わせて撮影してみると、極端に大きな違いはありません。近距離時は隅に向かって若干の像面湾曲が残っていますが、そのようなシーンで像面湾曲が目立つ機会は少ないはず。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。

参考:ニコン 収差とは

実写で確認

絞り値全域で目立つ倍率色収差が残存しています。簡単に補正できる収差ですが、ここまで目立つと補正後の結果に影響が残る可能性あり(補正部分のコントラスト低下)。

 

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。

参考:ニコン 収差とは

実写で確認

シンプルな光学系の大口径レンズとしては良く抑えられています。もちろん、色収差がゼロとは言えませんが、全体像で収差が目立つ機会はそう多くないと思います。

色収差とは別の話となりますが、絞りによるピント位置の移動が目立ちます。絞っても手前に被写界深度が広がらず、全体的に奥に移動していることが分かります。F1.4のピント合わせ後に絞って撮影する場合は注意が必要です。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。

参考:ニコン 収差とは

比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。

実写で確認

このレンズは未補正の状態で非常に穏やかな樽型歪曲。修正せずとも歪曲収差が目立つ機会は少ないはず。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。

参考:ニコン 収差とは

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。

実写で確認

絞り開放付近でかなり目立つコマフレアが発生。これを抑えるには数段絞る必要があります。ダブルガウスらいしい傾向であり、特に驚くべきことではありません。

球面収差

絞り開放では球面収差の影響が目に見えて現れます。このレンズを特徴づけている特性の一つですが、同時に癖玉たらしめている要素。騒がしい後ボケ、滲みピント面、フォーカスシフトによるピント位置の移動など。

幸いにも、球面収差は絞りで制御しやすい。F2まで絞ると影響を大幅に低減することが出来ます。収差が気になる場合は絞って使うことで個性を抑えることが可能。ただし、F2で使うのであれば「VILTROX AF 35mm F1.7」でいいのではないかと思いますが…。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。

後ボケ

ニュートラル寄りの硬調な描写に見えますが、縁どりの目立たない滑らかな描写。しかし、球面収差を活かした滲みを伴う柔らかい描写とまでは言えず、残存する軸上色収差による色づきもあります。少し癖のあるボケ質なので、気になる場合は1~2段絞って使ったほうが良さそう。

前ボケ

縁どりは後ボケよりも少し硬め。しかし、ボケが大きくなると比較してより滑らかな描写。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。

口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。

実写で確認

ボケの縁が明るく、強調されています。いわゆる「シャボン玉」ボケに近い描写で、球面収差の影響が残っていると思われます。この効果は絞ることで解消しますが、絞り羽根の影響でボケが角ばってしまうのが悩ましいところ。フレーム隅の口径食も絞ることで改善しますが、やはり絞り羽根の影響あり。

ボケ実写

至近距離

至近距離での微ボケは質感を議論するほど目立ちません。大きなボケはフレーム端や隅で目立つ兆候を見せているものの、この撮影距離では問題無し。ピント面は滲みを伴うものの、現代的でAFが動作する程度に抑えられているように見えます。

近距離

ボケがざわつく兆候が見られるものの、全体的に見ると許容範囲内。

中距離

撮影距離がさらに長くなると、ボケの縁取りがさらに強まります。背景によっては二線ボケの騒がしい描写となり、被写体が目立ちにくくなるかもしれません。

ポートレート

全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。
被写体が背景から浮かび上がるものの、後ボケが硬調で主張が強め。可能ならば、少し絞って使ったほうが落ち着く可能性あり。膝上、上半身くらいまで近寄ると、ボケは騒がしくも大きいため、被写体を背景から切り離すことが可能。バストアップや顔のクローズアップまで接近すると、問題が緩和します、

周辺減光

周辺減光とは?

フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

最短撮影距離

絞り開放 F1.4でやや目立つ周辺減光が発生します。絞ると徐々に改善し、F4まで絞ればほぼ解消。

無限遠

最短撮影距離と比べて隅の減光が強め。絞っても隅の光量低下が残り、これは最小絞りまで改善しません。カメラ側、現像ソフト側での手動補正が必要となります。

逆光耐性・光条

中央

シンプルな光学系が功を奏しているのか、7Artisansのレンズとしてはフレア耐性が良好。絞ると間面反射と思われるゴーストが複数発生するものの、極端に悪目立ちするほどでもありません。

光源を隅に移動しても大きな問題はありません。

光条

F5.6付近からシャープな光条が発生し始めます。ただし、分散するタイプの描写で、先細りする光条は最小絞りのF16まで絞った時。回折の影響を考慮すると解像性能との両立が難しい。F8-11くらいまでに押さえたいところ。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • 小型軽量
  • F1.4 AFレンズとしては低価格
  • フォーカシングで全長の変化無し
  • 滑らかなリニアレスポンスのMFリング
  • 絞れば広い範囲で良好な解像性能
  • 軸上色収差が適度な補正状態
  • 歪曲収差は穏やかな樽型
  • 接写時は滑らかな後ボケ
  • 逆光耐性

主な特徴は携帯性と癖の強い描写(主にボケ)。

APS-Cでは珍しい35mm F1.4 大口径レンズながら全長が短く、収納性に優れています。FUJIFILM純正品と比べて、フォーカシングによる鏡筒の伸び縮みが無く、前面にフィルターを装着することで密閉することが出来るのも強みの一つ。

癖の強い描写は不利と捉える人が多いかもしれませんが、綺麗な描写に見飽きた人は7Artisansの描写を新鮮と感じるかもしれません。特に縁取りのある玉ボケ、接写時の滲む後ボケは必見。

悪かったところ

ココに注意

  • 防塵防滴非対応
  • AF/MFスイッチなし
  • 絞りの動作不良(FWの問題か初期不良)
  • 繰り出し式で遅めのAF速度
  • 遠景隅は絞ってもややソフト
  • 倍率色収差が目立つ
  • コマ収差が目立つ
  • 球面収差が撮影距離全域で目立つ
  • フォーカスシフトの影響あり
  • 縁どりの強い後ボケ
  • 周辺減光が遠景で目立つ

残念だったのはテストした個体の絞りとAFの動作がイマイチだったこと。光学性能を評価する以前の問題として、快適に撮影するのが難しい製品でした。提供元に問い合わせていますが、今のところ改善策はありません。

また、長所の裏返しとして、癖の強い描写が許容できない人は他の選択肢を検討するのがおススメ。「開放から普通に使えるレンズ」とは言えません。状況に応じて細やかな絞り調整が必要となるレンズ。

結論

AFと絞りの問題が解決された場合、「綺麗な描写」に見飽きた人におススメできる癖の強いレンズ。強い球面収差やコマ収差、縁どりの強いシャボン玉ボケなど、レンズの描写に振り回されることでしょう。だが、そこがいい。

このような傾向を見せるAFレンズは珍しく、直接競合する製品はありません。万人におススメできるレンズでは決してありませんが、こういうレンズが一つあっても良いのではないかと思います。

それだけにAFと絞りの不良は非常に残念。ファームウェアアップデートや不良個所の発見で改善を期待したいところ。

競合製品について

XF35mmF1.4 R

7Artisansがダブルガウスタイプである一方、Fujinonはゾナータイプの35mm F1.4。特性は異なりますが、やはり癖のある大口径レンズです。7Artisansと比べると撮影距離による収差の変動が大きく、近距離では球面収差が増大し、遠景では程よく収束。撮影距離全域で球面収差が目立つ癖強の7Artisansと比べると、(比較的)使いやすいレンズです。ただし、比較して非常に高価、後述するシグマのほうが代替品として検討する価値があるかもしれません。

VILTROX AF 35mm F1.7

7Artisansと似た価格帯のF1.7レンズ。開放F値はやや大きめですが、絞り開放の光学性能は遥かに良好。7ArtisansをF1.7まで絞った時よりも良好な結果を期待できます。AFや絞りの動作状態も良く、インナーフォーカスのためAF速度や駆動音も問題無し。

7Artisansの癖がある描写にこだわらない限り、VILTROXが無難な選択肢。

30mm F1.4 DC DN

焦点距離は少し短くなるものの、比較的手ごろな価格で購入できるシグマの大口径レンズ。コストパフォーマンスではVILTROX有利なものの、どうしても「F1.4」が必要であればこちらを要検討。解像性能が良好で、特に絞り開放のシャープさを重視するのであればFujinonや7Artisansよりも良好な選択肢となるかもしれません。

購入早見表

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作例

オリジナルデータはFlickrにて公開

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