「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」のレビュー第一弾を公開。今回はレンズの外観や操作性、携帯性、MFの使い勝手などをチェックしています。
おことわり
今回は2ndFocusより無償貸与の「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」を使用してレビューしています。提供にあたりレビュー内容の指示や報酬の受け取りはありません。従来通りのレビューを心がけますが、無意識にバイアスがかかることは否定できません。また、従来よりも使用期間が短く、短期間に集中して試写・テストを実施ています。そのあたりをご理解のうえで以下を読み進めてください。
Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.のレビュー一覧
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビュー完全版
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.5 諸収差 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.4 ボケ 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.3 解像チャート 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.2 遠景解像 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.1 外観・操作 編
Index
まえがき
Thypochは中国の新しい謎のレンズメーカー。Thypochは「Thy」「epoch」で構成された造語で、写真による自己表現を重要視。大衆向けの手ごろな価格のレンズを手掛ける他の中国企業とは一線を画しているように見えます。Light Lens Labと同じく、M型ライカユーザーのフォトグラファー目掛けた趣味性の高いレンズを作り出すメーカーと言えそうです。
そのThypochは2023年9月にPhotopia Hamburg 2023で2本のレンズ「Thypoch Simera 28mm f/1.4 ASPH.」「Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH.」を発表。レンズ名の「Simera」はギリシャ語で「今日」を意味しており、現在の一瞬を記録することを追求。このコンセプトのもと、高解像・高コントラスト・低色収差をコンセプトに開発されたのが今回の2本のレンズ。
- 公式
- 2ndFocus
- データベース
- 管理人のFlickr
- 発売日:2024.1.3
- 初値:128,700円
- マウント:M
- フォーマット:フルサイズ
- 焦点距離:35mm
- レンズ構成:5群9枚
- 開放絞り:F1.4
- 最小絞り:F16
- 絞り羽根:14枚
- 最短撮影距離:0.45m
- 最大撮影倍率:不明
- フィルター径:49mm
- 手ぶれ補正:-
- テレコン:-
- コーティング:不明
- サイズ:54×100mm
- 重量:353g
- 防塵防滴:-
- AF:MF限定
- その他:
- 付属品:レンズフード
レンズ構成や構成枚数はライカ「Summilux 35mm F1.4 FLE」とよく似ています。非球面レンズの位置も同じ。ただし、ライカと比べて最短撮影距離が若干長く(40cm:45cm)、フローティングエレメントの構成がやや異なっているようです。とは言え、全体の構成はよく似ているので、ライカと同じような写りを期待できるのではないでしょうか。実際にどのような結果が得られるのかはテストで明らかにしていきたいと思います。
価格のチェック
国内では2ndFocus直営ECサイトにて128,700円。Summilux 35mm F1.4 FLEと比べると遥かに安いものの、謎のレンズメーカーの35mm F1.4 MFレンズとしてはやや高め。
外観・操作性
箱・付属品
外箱は白を基調としたシンプルなデザイン。カバーが若干汚れているように見えますが、あくまでも雰囲気づくりのデザインであり、実際に汚れている訳ではありません。「SIMERA」を中心としてレンズ名が印字されています。箱を開けるレンズとフード、説明書が綺麗に収納されています。日本のレンズメーカーと比べると高級感を優先したデザイン。賛否はあるかもしれませんが、個人的には好み。レンズ本体のほか、付属品は金属製の前後キャップとレンズフード、およびフード用のキャップがあります。
外観
外装はアルマイト処理されたアルミニウム合金の総金属製。絞り値やピント距離の表示はプリントではなく、エッチング加工のうえに色塗りされています。10万円以上の高価なMFレンズですが、少なくともレンズの作りは価格に見合うものと言えそうです。
また、マクロスイターを彷彿とさせる被写界深度指標など、ヴィンテージ風でレンジファインダーと調和するデザインもGood。
前玉・後玉
凹タイプの前玉の周囲は反射を抑えるための切込みとマットブラックの塗装が施されています。レンズ銘やシリアルナンバーが印字されたプレートは光沢があるものの、フィルターソケットに近い位置のため反射光が邪魔になる可能性は低いはず。
レンズは防塵防滴仕様でなければ、前玉の防汚コーティングもありません。汚れやダメージが予想されるシーンではフィルターを装着しておいたほうが良いでしょう。F1.4と大口径のレンズであるため、日中にシャッタースピードが対応しきれない場合はNDフィルターが必要となります。
金属製のレンズマウントは4本のビスで固定されています。最後尾のレンズは鏡筒ギリギリに配置されています。取り扱いに注意。フォーカシングでレンズ後群が前後します(前玉は動かない)。
フォーカスリング
レンズマウント付近の金属製フォーカスリングは約90度のストロークで0.45m~∞で動作します。適度な抵抗で滑らかに回転。回転時の抵抗感は一貫しており、不快な感触はありません。0.7mのところにクリック感があり、レンズを確認せずとも距離計が連動する範囲を認識することが可能。便利な機能ですが、0.7m前後でピント合わせをする場合はクリックの妙な抵抗感が少し邪魔と感じる場合あり。フォーカスリングは湾曲したグリップのほか、無限遠に固定できるフォーカシングレバーを搭載。無限遠のロックはしっかりと固定されるため、力を入れて回転しても解除することはできません。解除する場合はノブを押しながらリングを回転させる必要があります。レンズ鏡筒には絞り値を操作することでドット表示が変化するマクロスイターライクな被写界深度指標を搭載。これが実用的と感じるかどうかは個人差があると思うものの、視覚的・機構的に面白いデザイン。
絞りリング
F1.4からF16まで操作できる金属製絞りリングを搭載。F1.4からF4.0までは3段刻み、F4からF8.0までは1/2段刻み、以降は1段刻みのクリック感あり。適度なクリック感と抵抗で、滑らかに回転するので気持ちよく操作することが可能。絞りリングにはクリックの有無を切り替えることができるスイッチを搭載しています。クリックありと比べると少し緩めですが、動画撮影には適しているかもしれません。
レンズフード
レンズには金属製の角形フードが付属。本体と同じく金属製のしっかりとした作りで、内側は反射防止用の切込みとマットブラックの塗装が施されています。左上にレンジファインダー用の覗き穴あり。バヨネット式で滑らかに装着可能ですが、固定部分のバネが弱く、軽い力で緩みやすいのがマイナス。レンズ本体用の丸形キャップに加え、フード用の角形キャップも用意されています。どちらも金属製。
装着例
M型ライカを所有していないので、アダプター経由でニコンZ fに装着。借りたレンズがシルバーカラーのため浮いてしまっていますが、これがブラックモデルだったら見栄えの良い外観だったかもしれません。
AF・MF
フォーカススピード
フォーカスリングは約90度のストロークで素早く操作可能。微調整もしやすい程度の抵抗感があり、使い勝手は良好です。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
ピント位置によって画角が大きく変化。変化する量はリニアで、フォーカスリングの操作速度によっては目立たない程度に、緩やかに画角が変化します。
精度
前述したとおり、使い勝手の良いフォーカスリングでピント合わせは簡単です。0.7m付近と無限遠近くはクリック・ロック機構によって抵抗が変化するため、少し難しい。
まとめ
光学性能のテストはこれからですが、レンズ本体や付属品の作りの良さ、フォーカスリングや絞りリングの操作性はとても良好。メカとしての作りは価格に相応しいものとなっています。謎のレンズメーカーというだけで敬遠するのは勿体ない一品。ライカレンズを使ったことが無いので「ライカに匹敵する」とは言えませんが、少なくとも手持ちのコシナ Mマウントフォクトレンダーと比べて(ほぼ)遜色ありません。フォーカスリングの滑らかさはコシナが若干有利(わずかな力で滑らかに回転する時)と感じますが、大差はありません。また、レンズフードやキャップの高級感はThypochのほうが良好。肝心の描写はと言うと、Thypoch Siemraのコンセプトとなっている「高解像・高コントラスト・低色収差」で間違いありません。F1.4の絞り開放から色収差が良く抑えられており、コントラストが高く、解像度の高い結果を得ることが出来ます。切れ味を意識する場合はF2-2.8まで絞ると非常にシャープ。ボケの描写は撮影距離によってまちまち。離れると35mmの大口径にありがちな四隅の粗を見つけることができます。とは言え、色収差が良く補正されているので、極端に悪目立ちすることはありません。また、接写時は滑らかな後ボケを得ることができます。F5.6からF8まで絞ると風景撮影でも余裕で使えるほど、フレーム隅まで良好な結果となります。レンズの作り、光学性能ともに価格に見合う価値があると言えるでしょう。もしも、このようなMF 35mm F1.4を検討しているのであれば、おススメの一本。今後は解像性能や色収差の補正状態など詳しくレビューしていきたいと思います。
購入早見表
作例
関連レンズ
- SUMMILUX-M F1.4/35mm ASPH.
- NOKTON 35mm F1.4
- NOKTON Classic 35mm F1.4 II SC/MC VM
- NOKTON 35mm F1.2 Aspherical II
- ULRTON 35mm F1.7 Aspherical
- TTArtisan M35mm f/1.4 ASPH
関連記事
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビュー完全版
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.5 諸収差 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.4 ボケ 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.3 解像チャート 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.2 遠景解像 編
- Thypoch Simera 35mm f/1.4 ASPH. レンズレビューVol.1 外観・操作 編