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NIKKOR Z 70-180mm f/2.8 レンズレビュー 完全版

このページではニコン「NIKKOR Z 70-180mm f/2.8」のレビューを掲載しています。

NIKKOR Z 70-180mm f/2.8のレビュー一覧

管理人の評価

ポイント 評価 コメント
価格 手ごろな価格
サイズ スリングバッグに収まる
重量 長時間の手持ち撮影OK
操作性 ズーム/フォーカスのみ
AF性能 遅くはないが平凡
解像性能 接写時に大幅低下
ボケ 滑らかで綺麗な後ボケ・口径食強め
色収差 どちらも良好
歪曲収差 強制的に補正される
コマ収差・非点収差 良好なコマ収差補正
周辺減光 ズーム両端で目立つ
逆光耐性 まずまず良好
満足度 良くも悪くも手ごろな価格の非S-Line

評価:

妥協はあるけど手ごろな価格の大口径ズーム

いくつか欠点があるものの、20万円以下で手に入る珍しいNIKKOR F2.8ズームレンズ。「ベースがタムロンレンズ」とか「1世代古い光学設計」ではあるものの、いくつかの点を妥協できれば幅広い被写体に対応できる便利なレンズ。全般的に使えますが、どちらかと言えばボケがメインでF2.8ズームを使う人におススメ。

被写体の適正

被写体 適正 備考
人物 綺麗なボケ・程よい解像
子供・動物 AF速度があと一息
風景 絞れば全域で良好
星景・夜景 F2.8の解像性能がやや低下・周辺減光
旅行 同クラスでは携帯性良好
マクロ テレコン装着でほぼ等倍
建築物 補正無しのRAWに注意

まえがき

2023年7月に発売したニコンZマウント用のF2.8大口径望遠ズームレンズ。一般的な「70-200mm」よりも望遠側の焦点距離が短く、インナーズームではなく伸びる方式のズーム構造を採用。さらに光学手振れ補正を搭載しないことでレンズの小型軽量化を実現。また、従来のF2.8ズームと比べて手ごろな価格もあって、気軽にF2.8 望遠ズームを体験することが可能。

ちなみに、F2.8ズームレンズながら「S-Line(ニコン独自の設計指針と品質管理をさらに厳格化したNIKKOR Z レンズの中でも、さらに高い基準を満たしたレンズ群の名称)」ではありません。他の非S-Line F2.8ズームレンズである「NIKKOR Z 17-28mm f/2.8」「NIKKOR Z 28-75mm F2.8」と同じく、光学設計や製造がタムロン(ネット上では「T-Line」とも)なのではと言われている一本です。

概要
レンズの仕様
発売日 2023年7月14日 初値 18万2,000円前後
マウント Z 最短撮影距離 0.27-0.85m
フォーマット フルサイズ 最大撮影倍率 0.48倍
焦点距離 70-180mm フィルター径 67mm
レンズ構成 14群19枚 手ぶれ補正 -
開放絞り F2.8 テレコン -
最小絞り F22 コーティング 防汚 / SIG
絞り羽根 9枚
サイズ・重量など
サイズ φ83.5mm×151m 防塵防滴 対応
重量 約795g AF STM
その他 テレコン対応・防汚コート
付属品
キャップ・フード・ケース

レンズ構成や各種パラメータは「70-180mm F/2.8 Di III VXD」とよく似ているものの、フォーカスユニットにステッピングモーターを使用している(タムロン版はリニアモーター「VXD」)、AFで最大撮影倍率0.48倍を達成、NIKKOR Z テレコンバージョンレンズ対応、など、仕様面でいくつかの違いあり。単なるタムロン版の移植ではないことが分かります。

価格のチェック

売り出し価格は「163,350円」。タムロン版が「123,748円」で販売開始したことを考慮するとやや高め。とは言え、互換性を保証されたニコン純正「NIKKOR Z」として売り出していること、AF対応の最短撮影距離改善、テレコンバージョンレンズ対応などを考慮すると価格差ぶんの価値はあると考えています。実際のどのようなパフォーマンスを発揮するのかはこれからのテストでじっくり確認していく予定。

NIKKOR Z 70-180mm f/2.8
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レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

NIKKOR Zらしい、黒と黄色を基調としたデザインの箱。2018年のZシステム始動時から変化はありません。レンズ本体のほかに、レンズフードと通常のつまみ式キャップ、説明書・保証書が付属します。非S-Lineのレンズですが、レンズポーチが付属しています。

外観

外装は全体的にプラスチックパーツが多めで、ズームリングのみゴム製カバーを装着。表面は光沢を抑え、少しざらつきのある塗装が施されています。触った際の質感に安っぽさは無く、しっかりとした作り。ただし、S-Lineのような高級感もありません。

コントロールはズームリング・フォーカスリング・ズームロックスイッチのみ。L-FnボタンやAF/MFスイッチはありません。

ズーム操作によって内筒が最大で3cm伸びる仕様。素材は鏡筒と同じくプラスチックで、伸ばした際のガタツキや歪みはありません。

ハンズオン

800gを切る重量であり、F2.8望遠ズームレンズとしては驚くほど軽量。大口径ズームレンズと言えば、大きく重く、携帯し辛いのが悩ましいところ。しかし、本レンズは重量とサイズをよく抑えています。長時間の手持ち撮影でも苦と感じることはありませんでした。小型軽量化は、望遠側の焦点距離が短いこと、伸びるズーム方式の採用に加え、光学手振れ補正を搭載していない点も軽量化に繋がっていると思われます。

前玉・後玉

前面は67mm径のねじ込み式フィルターに対応。フッ素コーティング対応のため、過度にプロテクトフィルターを装着する必要はありませんが、C-PLやNDフィルターで光線や光量を調整したい場合は活用したほうが良いでしょう。

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最後尾のレンズはレンズマウントからやや奥まった位置にあります。タムロンのEマウント用レンズでは対応するコンバージョンレンズがなかったものの、ニコンZマウント用では2つのテレコンバージョンレンズに対応。

フォーカスリング

表面にローレット加工が施されています。コントロールリングとして、自分好みの機能を割り当てることが可能。必要なければフォーカスリングとして操作することも可能。回転は滑らかですが、抵抗が弱く、回転動作は少し緩め。フォーカス操作時のレスポンスはノンリニアで、回転速度に応じてピント移動距離が変化。ストロークは焦点距離によってばらつきがあり、広角側で最も短く、望遠側で最も長くなっています。

ズームリング

70mmから180mmまで約90度の操作角度で回転。全域でかかるトルクは一貫しており、小さな力でも滑らかに操作可能。ちなみにタムロン版では「100mm」と表示されている箇所が「105mm」となっています。ニコン的なこだわりポイントでしょうか。

側面には70mmでのみ固定できるズームロックスイッチを搭載。鏡筒左側にあるため左手で操作しやすい反面、テレコンバージョンレンズのリリーススイッチと似たような配置となっているので誤操作に注意。

レンズフード

レンズにはプラスチック製のレンズフードが付属。このクラスのレンズフードと言えば円筒型ですが、比較的コンパクトな花形を採用しています。装着した状態でレンズをフード側から立たせることは難しく、少し不便と感じるかもしれません。また、C-PLフィルターを操作する窓は無し。

テレコンバージョンレンズ

ベースになっていると思われるソニーEマウント版には無かったテレコンバージョンレンズに対応。既存のニコン純正テレコンバージョンレンズで問題なく動作します。ソニーEマウント版はライセンス上の問題でテレコンバージョンレンズを用意できなかったとは言え、タムロンは将来的にこのよな展開に備えてマウント付近の空間を確保した光学設計を採用していたのでしょうか。前述したように、テレコンバージョンレンズのリリーススイッチと、レンズ側のズームロックスイッチの配置が似ています。誤ってレンズのリリーススイッチを操作しないように気を付けたいところ。

装着例

Z 8に装着。少し長めの70-300mmズームレンズを装着しているような感覚で利用することが出来ます。一般的な70-200mm F2.8と比べて収納性が優れているのは間違いない。一方で、200mmに固定したまま収納、運搬するのは難しく、内側の鏡筒に負担をかける可能性があります。

AF・MF

フォーカススピード

タムロン版では初めてリニアモーター駆動(VXD)を採用しており、AF-C時に超高速なAF速度を実現しています。このニコン版ではなぜかステッピングモーター駆動に切り替わっています。フォーカス速度は十分良好ですが、VXD駆動ほど電光石火とは言えません。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・・無限遠で撮影した結果が以下の通り。

70mm

スライドショーには JavaScript が必要です。

105mm

スライドショーには JavaScript が必要です。

180mm

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皆無というわけではないものの、接写性能を考慮するとよく抑えられているように見えます。

精度

今のところZ 8との組み合わせで問題なし。

MF

前述したように、フォーカスリングが緩く、ノンリニアレスポンスのため操作性が良いとは感じませんでした。ただし、ピントの微調整で利用する際に問題ないストロークは確保されています。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:Nikon Z 8
  • 交換レンズ:NIKKOR Z 70-180mm f/2.8
  • パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 100 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
    ・レンズプロファイルオフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

70mm

テスト結果

絞り開放付近のパフォーマンスは全体的に悪く、ソフトな結果が得られます。フレームの広い範囲はF4~F5.6で急速に改善するものの、フレーム隅はかなり絞らないとシャープな結果が得られません。

中央

F2.8はピントの山こそ判断できるものの、球面収差が残存するソフトな描写。ボケを中心として撮影する場合は強みとなりますが、AFの精度やピント面のシャープな描写を期待する場合はF4くらいまで絞ったほうが良好な結果を期待できます。ピークはF8前後。

周辺

基本的には中央と同じ傾向ですが、F4でも僅かにソフトさが残ります。切れ味が必要であればF5.6まで絞ったほうが良いでしょう。

四隅

中央や周辺部と比べると非常にソフトで、F4~F5.6まで絞っても実用的な画質とは言えません。少なくともF8まで絞りたいところ。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 2869 2223
F4.0 3885 3225
F5.6 4477 4439 2492
F8.0 4668 4131 3408
F11 4267 4227 3534
F16 3625 3476 3217
F22 3058 2936 2669

実写確認

85mm

テスト結果

70mmと同傾向ですが、フレーム隅のパフォーマンスが周辺部に近いところまで上昇。F4~F5.6まで絞ると全体的にシャープな結果を得ることが出来ます。

中央

70mmほどではないものの、F2.8はソフトな描写。パンチのあるピント面を得たい場合はF4まで絞りたいところ。絞れるのであればF5.6-8のピークまで絞るのがおススメ。

周辺

中央と同傾向で、70mmと比べると均質性が向上しています。F5.6で満足のいくシャープネスが得られる印象。

四隅

70mmほどではありませんが、F4までややソフトな結果。F5.6でだいぶ改善しますが、満足のいく結果を得たい場合はF8までしっかりと絞ったほうが良いでしょう。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 2817 2320 2950
F4.0 3828 2669 3275
F5.6 4690 4479 3895
F8.0 4731 4184 4145
F11 4247 4381 3973
F16 3765 3525 3370
F22 3950 3019 3039

実写確認

105mm

テスト結果

引き続きF2.8は低調ですが、F5.6まで絞ると均質性の高い結果を得ることが出来ます。

中央

広角側と同じく、F4まで絞るとシャープな結果を得ることが可能。それ以降に大きな変化はありません。

周辺

F2.8-4は広角側ほどソフトではないものの、細部の切れ味はイマイチ。F5.6まで絞ると見違えるようにシャープな結果を得ることが出来ます。

四隅

フレーム隅も周辺部と同じ傾向。F5.6以降は均質性が高い。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 2340 2628 2511
F4.0 3977 2416 1954
F5.6 4362 4362 3914
F8.0 4324 3977 3623
F11 3733 3803 3611
F16 3294 3681 3322
F22 3007 3000 2879

実写確認

135mm

テスト結果

ズーム中間では全体的にF2.8のパフォーマンスが改善。完璧ではありませんが、F2.8から良好な結果を得ることが出来ます。ピークはF4からF8あたり。

中央

105mmまでと比べるとF2.8のコントラストが向上。ただし、完璧ではなく、F4でピークに達します。

周辺

F2.8から中央に近い結果を得ることができます。絞り値による改善傾向も同じ。

四隅

周辺部と比べると若干ソフトですが、良好な結果を得ることが出来ます。ピークはF5.6-8あたり。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 2994 3311 3870
F4.0 4187 4067 3895
F5.6 4245 4712 4322
F8.0 4324 4440 4342
F11 3973 4089 4027
F16 3534 3477 3467
F22 2744 2888 2883

実写確認

180mm

テスト結果

安定感はあるものの、135mmと比べるとF2.8の性能が全体的に低下。

中央

悪くない結果ですが、これまでの焦点距離と比べて色収差が目に付きます。倍率色収差と思われ、簡単に補正可能ですが細部のコントラストが低下する可能性あり。

周辺

中央と比べると若干ソフト。倍率色収差がさらに拡大する兆候は見られません。

四隅

周辺部と同傾向。シャープな結果を得たい場合はF5.6くらいまで絞りたいところ。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 3649 2903 2455
F4.0 4693 3233 3039
F5.6 4420 3733 3968
F8.0 4031 4735 3856
F11 4051 4126 3837
F16 3649 3418 3078
F22 2782 2844 2825

実写確認

360mm

テスト結果

テレコンバージョンレンズ装着時は全体的にパフォーマンスが低下。それでも中央や周辺部は良像と言えなくもないですが、隅はかなり絞る必要があります。

中央

180mmと比べて色収差の影響がさらに高まります。絞り開放における細部の描写はマスターレンズの広角側より悪くないものの、2~3段絞った場合における高周波成分の解像性能は見劣りします。

周辺

中央と同じく、まずまず安定した結果を得ることができます。ピークはF11付近ですが、特にこだわりがなければF5.6から実用的な画質。

四隅

中央や周辺部と比べると1~2グレード低い結果。絞ると改善しますが、良像を得るにはF11~F16まで絞る必要あり。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F5.6 2927 2825 1937
F8.0 3389 2986 2515
F11 3589 3486 2966
F16 3245 3222 3183
F22 2981 2947 2908
F32 2339 2200 2163
F45 1690 1682 1611

実写確認

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2023.7.18 晴れ
  • カメラ:Nikon Z 8
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
  • 露出:絞り優先AE ISO100
  • RAW:Adobe Lightroom Classic CC
    ・シャープネスオフ
    ・ノイズリダクションオフ
    ・レンズ補正オフ

70mm

中央

F2.8から良好な解像性能を発揮。絞っても大きな変化はありませんが、球面収差のようなコントラスト低下が僅かに改善します。

周辺

周辺減光の影響を除けば、F2.8から良好な結果を得ることができます。中央と同じく、絞りによる大きな変化はありません。

四隅

近距離の解像チャートテストでは大幅に低下したポイントですが、遠景ではF2.8から良好なパフォーマンスを発揮。絞りによる大幅な画質向上はありませんが、F5.6付近で細部のコントラストが僅かに向上。

85mm

中央

開放からピークの状態であり、絞りによる画質の変化はほとんどありません。

周辺

中央と比べると、非点収差のような描写の甘さが見られるものの、極端な画質低下はありません。絞りによる画質向上はほとんどなし。

四隅

フレーム隅でも顕著な画質低下はありません。非常に良好と呼べるくらいにはシャープで、F5.6-8付近でピークの画質に到達。

105mm

中央

引き続きF2.8から良好な性能。絞りによる変化はほとんどありません。

周辺

中央と同程度の結果がF2.8から得られますが、105mmと同じく非点収差のような描写の甘さが僅かにあり。F8まで絞ると僅かに改善。

四隅

周辺部と同じような傾向。F2.8から大きな問題はありませんが、ベストを尽くす場合はF5.6-8まで絞ったほうが良いでしょう。

135mm

中央

F2.8からF4に絞ることで細部のコントラストが少し改善したかな?程度の画質向上のみ。基本的には絞り開放からピークの状態です。

周辺

他の焦点距離と同じく、中央に近い結果が得られます。極端な画質低下はありません。

四隅

周辺部と同じく、F2.8から非常に良好。F5.6-8で僅かに改善傾向が見られるものの、ほとんど気にならないレベル。

180mm

*F16のRAWが破損して現像することができませんでした。

中央

他の焦点距離と同じくF2.8からピークの状態。絞りは被写界深度や露出の調整以外で絞る必要はありません。

周辺

中央と同じくF2.8から良好なパフォーマンス。

四隅

ズームレンズの望遠端フレーム隅は最も画質が低下しやすいポイントですが、特に極端な画質低下はありません。F2.8から回折の影響があるまで安定感のある結果を得ることが可能。

360mm(TC-2.0x)

中央

マスターレンズはズーム全域で優れた解像性能を発揮していましたが、テレコン装着時の絞り開放は球面収差が残っているのか僅かにソフト。F8~F11まで絞るとシャープな結果を得ることが出来ます。

周辺

中央と比べて極端な画質低下はないものの、絞りによる画質改善はほとんどありません。

四隅

周辺部と同じく、顕著な画質低下は見られないものの、絞りによる画質向上は期待できません。

撮影倍率

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。

無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。

参考:Wikipedia 像面湾曲

実写で確認

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。

参考:ニコン 収差とは

70mm

Z 8のRAWは自動的に倍率色収差が補正されてしまうため、光学的にどれほどの収差が残っているのか確認することはできません。とは言え、実写テストの結果を見る限りでは良好な補正状態に見えます。輝度差のあるシーンやボケへの色づきが少なく、ほとんど目立ちません。

105mm

70mmと同じく良好な補正状態です。

180mm

広角・中間域と比べると僅かに増加しているようにも見えますが、問題となるような収差の量からは程遠い。良好な補正状態を維持しています。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。

参考:ニコン 収差とは

70mm

良好な補正状態です。厳しい環境でも色づきはごく僅か。

105mm

やや硬めの後ボケにうっすらと色が付く程度。70mmと同じく良好な補正状態です。

180mm

完璧ではないものの、ほとんど無視できる程度に良く抑えられています。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。

描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。

70mm

球面収差が残存しているためか、前後のボケ質には目に見える差があります。後景は滲むように柔らかくボケる一方、前景は縁取りの硬いボケ質。一般的な撮影では後景のボケが入る機会が多いため、これは肯定的な描写の傾きと言えるでしょう。

180mm

70mmと比べると前後の質感差が小さくなっています。ニュートラルとまでは言えませんが、差は僅か。70mmのような滲むボケは期待しないほうが良いでしょう。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。

口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。

70mm

ボケの縁取りは僅かで、色収差も目立ちません。ただし、隅における口径食の影響が強めで、非球面レンズと思われる同心円状のムラも若干ですが目に付きます。口径食はF4まで絞るとほぼ解消。円形絞りのため、過度に絞っても玉ボケの角ばりは目立ちません。

105mm

全体的な傾向は70mmと同じ。やはり口径食が強めで、特に隅の質感が損なわれているように見えます。F4まで絞ると問題は解消。

180mm

同心円状のムラは目立たなくなりましたが、口径食の影響は最も強い。数段絞っても影響はしつこく残ります。バランスを取るならF4~F5.6の間。

360mm(×2.0装着)

180mm時よりも口径食の影響が穏やか。微ボケは描写が騒がしくなるものの、玉ボケが大きい場合は特に問題ないように見えます。

ボケ実写

70mm

至近距離

70mm時の接写は球面収差の影響でじわりと滲むような柔らかいボケが得られます。シャープなピント面が必要であればF4くらいまで絞ったほうが良いでしょう。この撮影距離であれば、強めに絞っても後ボケは綺麗な状態を維持しています。

近距離

接写から距離が開いたとしても、柔らかい描写を維持しています。ボケの縁取りが弱いため、背景が溶けるようにボケています。絞ると少し硬くなるものの、F5.6くらいまでは快適な描写。F8まで絞ると少し騒がしくなります。

中距離

さらに撮影距離が長くなると、ボケ質が少し変化します。ボケの縁取りが強くなり、特に口径食が強くなるフレーム端や隅のボケが目立つように。それでも、問題視するほどではありません。

105mm

至近距離

接写時はボケが非常に大きく、被写体が背景から完全に分離しています。微ボケの部分は柔らかい描写。

近距離

滲むようなボケではありませんが、大きくボケるので質感の心配は無用。多少絞っても背景が悪目立ちすることはありません。

180mm

近距離

ボケが大きすぎるため、質感は不明。ピント面は非常にシャープです。

近距離

滲むようなボケではありませんが、滑らかで綺麗なボケです。特に大きな問題はありません。

撮影距離

全高170cmの三脚を人物に見立てて、70/105/180mmの焦点距離で撮影した結果が以下の通り。

70mm

フレームに全身を入れる撮影距離の場合、ピント面が滲むようなボケは得られません。どちらかというとコントラストが高く、シャープな結果が得られます。後景のボケ質は柔らかいと表現するほどではないものの、滑らかで綺麗な描写。ただし、よく見ると縁取りの強いボケが発生しているように見えます。膝上、バストアップの距離感でもシャープなピント面と滑らかなボケ質。顔のクローズアップまで近寄ると、滲むようなボケが得られます。

105m

70mmと同じ傾向。フレームに全身を入れても後景から被写体を分離する程度にはボケを得ることができます。やや硬めですが、特に悪目立ちする兆候はありません。この焦点距離では顔のクローズアップでも滲むようなボケはほとんど得られません。

180mm

全身をフレームに入れる場合でも、90mm F1.4と同程度の浅い被写界深度が得られます。ピント面はシャープで、後ボケは滑らかで綺麗。

球面収差

70mm

完璧な補正状態ではなく、前後のボケ質が目に見える形で偏っています。ボケ質の観点で言えば後ボケが柔らかくなら好ましい偏りですが、解像性能やコントラストを考慮すると、悪影響があると感じるかもしれません。

105mm

基本的には70mmと同じ傾向。後ボケは縁取りが目立たない綺麗で滑らかな描写ですが、前ボケの縁取りは硬め。

180mm

70mmや105mmと同じ傾向が続きます。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。

参考:ニコン 収差とは

比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。

70mm

倍率色収差と同じく、強制的に補正されてしまう項目です。従来はRAW Therapeeで確認していましたが、Z 8の高効率RAWは非対応。レンズ補正を抜いた結果を確認することができません。少なくとも補正後の結果は特にこれと言った問題がないように見えます。

105mm

70mmと同じく、プロファイル補正後の結果。これと言って目立つ収差は残っていません。

180mm

タムロン版の諸レビューを見る限りでは強い糸巻き型歪曲のはずですが、補正後の結果は特に大きな問題がないように見えます。

周辺減光

周辺減光とは?

フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

70mm

最短撮影距離

F2.8でやや目立つもののF4まで絞ると解消します。

無限遠

最短撮影距離よりも減光が強くなるものの、やはりF4まで絞ると大幅に改善します。

105mm

最短撮影距離

70mmよりも目立たず、さらに絞ると改善します。

無限遠

最短撮影距離とは一転して目立つものの、F4まで絞るとほぼ解消します。

180mm

最短撮影距離

このズームレンズで最も周辺減光が目立つ焦点距離。最短撮影距離でもF2.8使用時は非常に目立ちます。F4まで絞るとある程度の改善が期待できるものの、解消するにはF5.6まで絞る必要あり。

無限遠

このレンズで最も周辺減光が目立つポイント。状況によっては補正必須で、光学的に解消したい場合はF8まで絞る必要があります。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。

参考:ニコン 収差とは

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。

70mm

F2.8から良好な補正状態です。

105mm

70mmと同じく大きな問題はありません。

180mm

他の焦点距離と同じく問題なし。

逆光耐性・光条

70mm

極端に酷い性能ではありませんが、NIKKOR Zレンズの中ではフレアやゴーストが目立ちます。70mmの中央に光源を配置すると、絞り全域で影響が目立ちます。


光源をフレーム隅に移動すると極端な影響は避けることが可能。ただし、絞ると光源を中心として放射方向にゴーストが目立つ可能性あり。

105mm

70mmと比べると少し良好ですが、絞るとゴーストが数多く発生します。バックフォーカス距離が長いためか、センサー面の反射は少な目。


光源を隅に移動すると、常用する絞りでゴーストやフレアが良く抑えられています。

180mm

このズームレンズで最も良好。フレアとゴーストの影響が皆無とは言えないものの、まずまず良好に抑えられています。


絞り全域で特に大きな問題はありません。

光条

小絞りで綺麗な光条が発生するものの、中程度の絞りではあまり目立ちません。回折やシャッタースピードの影響を考慮しつつも、しっかりと絞る必要があります。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • NIKKOR F2.8ズームとしては手ごろな価格
  • 防塵防滴
  • 小型軽量
  • テレコンバージョンレンズ対応
  • F2.8で若干の球面収差
  • 良好な色収差補正
  • 滲みを伴う柔らかい後ボケ
  • 良好なコマ収差補正
  • 絞れば綺麗な光条

なんと言っても手ごろな価格。NIKKOR ZのF2.8望遠ズームレンズが20万円以下で入手可能。ベースはタムロンG1ではあるものの、テレコンバージョンレンズ対応、AFで高い撮影倍率を実現、などなどニコン版のみ独自の強みがあります。光学性能は完璧とは言えないものの、大部分の状況で卒なくこなすだけのパフォーマンス。植物や小動物、マクロなど小さな被写体と相性の良いレンズ。また、ポートレートなどボケ重視の撮影では、ほどよく軟かいF2.8の描写が適していると言えるでしょう。

悪かったところ

ココに注意

  • 直後に「70-180mm F/2.8 Di III VC VXD G2」登場
  • 伸びるズーム構造
  • VXD駆動ほど電光石火ではない
  • 接写時に解像性能が大幅低下
  • 接写時に像面湾曲が大きい
  • テレコン装着時に玉ねぎボケが目に付く
  • ズーム両端で強めの周辺減光

最も気を付けたいのは接写時の性能低下。球面収差・非点収差・像面湾曲が強くなり、中央周辺以外でまともな結果を得ることができません。特に被写体を周辺部や隅に配置する場合はしっかりと絞る必要があります。ピント面がソフトになることで、AFの精度や速度も若干低下。「あくまでもF2.8はシャッタースピードやISOを稼ぐための大口径であり、重視すべきはF2.8の光学性能」という人は素直にS-Lineの「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」を検討すべし。

本レンズ登場後、空気を読まずにタムロンが「70-180mm F/2.8 Di III VC VXD G2」を開発発表。本レンズのベースとなっているG1から光学系を一新し、光学性能の向上を実現しているようです。「こっちの光学系を採用してほしかった」と言う声もあるはず。私もそう思います。まあ、どのみちG2レンズはEマウントの話です。よそはよそ、うちはうち。(とか何とか言いつつ、EマウントのG2も試してみたいところ)

総合評価

満足度は85点。
直後に登場したタムロンG2レンズの話は置いておくとして、手ごろな価格でF2.8望遠ズームレンズを楽しめる面白い選択肢です。大口径を活かしたアクション・スポーツ・野生動物の撮影でベストな選択肢とは言えないものの、携帯性が高く、ボケは綺麗で接写性能高し。テレコンバージョンレンズで140-400mm F5.6としても使うことが出来るので(光学性能はもちろん低下)、価格のわりには汎用性が高い。近距離でのボケや小さな被写体をクローズアップするF2.8望遠ズームとしてはお面白いレンズです。

購入早見表

NIKKOR Z 70-180mm f/2.8
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オリジナルデータはFlickrで公開

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