このページではの交換レンズ「RF800mm F11 IS STM」のレビューを掲載しています。
更新情報・目次
- 2020-08-25:キヤノン「RF800mm F11 IS STM」のレビューページを作成しました。外観・AF・解像力・遠景解像・コマ収差・玉ボケ・作例の項目を追加しました。その他項目は後日更新予定です。
レンズのおさらい
レンズ概要
キヤノンが「EOS R5」「EOS R6」と共に発表した新しいRFレンズのうちの一つ。RFシステムの中では最も長い焦点距離のレンズであり、他社のミラーレス用レンズ群を見渡しても800mmをカバーしているレンズは存在しません。
その長い焦点距離にも関わらず、レンズ重量は約1.2Kgと非常に軽量。さらに、沈胴機構とDOレンズの採用でコンパクトサイズに仕上がっています。
異常なまでに携帯性が良くなっている代償はレンズ口径。開放F値が「F11」と非常に暗く、さらに絞り羽根を持たないので被写界深度を操作することができません。日中でもシャッタースピードの兼ね合いで高感度ISOを多用する機会が多くなると理解しておきましょう。
レンズ構成は8群11枚とシンプルな設計。沈胴機構を採用しているので、撮影時は全体的に前方へ鏡筒を引き延ばして使うことになります。色収差を補正するUDレンズは使用していないものの、DOレンズが色収差補正に一役買っています。
光学手ぶれ補正は4段分の補正ユニットを搭載。効果的な補正ユニットですが、焦点距離を考慮すると最低でも1/50秒、安定した効果を期待するのであれば1/100?1/200秒必要となります。
EOS R5・R6に搭載されているボディ内手ぶれ補正との協調補正はできません。補正効果は最大で4段分しかないので、低感度ISOを維持した撮影がしたいのであれば三脚や一脚を用意するのがおススメです。
全体的に小型軽量な設計のため、アクチュエーターにはステッピングモーター駆動を採用。非常に静かで滑らかな動作が期待できます。
非Lレンズであり、防塵防滴非対応である他、レンズフードも同梱していない点には注意が必要です。
売り出し時の価格設定は専門店の最安値で「?111,870(税込)」ほど。超望遠レンズとしては破格の価格設定であり、前述した妥協点を飲み込めるのであれば、800mmでこれ以上安い選択肢は存在しません。
一眼レフ用レンズ「EF800mm F5.6L IS USM」は2段明るいものの、価格は「?1,515,600(税込)」とEFレンズの中でも特に高い価格設定の超望遠単焦点です。比較して1/10以下となる値付けは魅力的と感じるはず。
なお、テレコンバージョンレンズに対応しているため、最大で1600mm F22のレンズとして使用することが可能。EOS R5やR6ならばAFも利用可能となっています。
RF800mm F11 IS STM | |||
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外観・操作性
箱・付属品
コンパクトな800mmとは言え、RFレンズの中では最大クラス。当然、箱のサイズも大きいです。箱を処分しない人は収納に困る可能性あり。クローゼットに入らないようなサイズではありませんが、圧迫することは間違いなし。
付属品
- 説明書
- 保証書
- レンズキャップ
- マウントキャップ
Lレンズでは無いため付属品は非常にシンプル。レンズフードが同梱していないので別途購入する必要があります。フードのサイズが大きいためか、シンプルなフードの割に価格は高め(4000円前後)。
レンズ本体にフッ素コーティングが施されておらず、DOレンズ搭載モデルで逆光耐性には不安が残るため、個人的にはフード推奨。
レンズフード ET-101 | |||
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外観
外装は非Lレンズらしく、プラスチックパーツ多めの作りで高級感はありません。外観で確認できる金属パーツはレンズマウントと三脚ネジ穴周辺のみ。沈胴機構のロックリング・スイッチ類・コントロールリング・周辺外装は全てプラスチック製。フォーカスリングのみゴム製です。
コントロールリングから先はマットな外装を挟み、シボ加工された大きなグリップ部が設けられています。
全体的に高級感のある作りでは無く、見た目の割に軽いレンズであるため、最初はおもちゃのように感じてしまうかも。ただし、過度の安っぽさは感じられず、しっかりとした作りに違いはありません。
ハンズオン
重量は約1.2Kgと非常に軽量。シンプルなレンズ構成や絞り機構の省略、防塵防滴仕様の省略などが軽量化に役立っているのでしょう。一眼レフ用レンズ「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」より軽く、「EF800mm F5.6L IS USM」(4.5Kg)と比べると遥かに軽量です。
重心は少しフロント寄りですが、過度に重心が寄っている印象はなく、EOS R5との組み合わせでバランス良く保持することが出来ます。
沈胴機構
前述したように、使用時はマウント付近からレンズ本体を前方へ引き延ばして利用します。沈胴機構のロックはマウント付近のロックリングを回転させることで操作可能。沈胴機構を展開しない限り、装着したカメラでシャッターを切ることは出来ません。
撮影状態までレンズを引き延ばすと、全長が約7cmほど伸びます。内容にガタツキは一切ありませんが、重心がさらに前方へ移動するので注意が必要です。
前玉・後玉
周囲をフィルター径95mmのソケットに囲まれた大きな凸型レンズです。フッ素コーティングは施されていないので水滴や油汚れが予想される際は保護フィルターを装着しておくと良いでしょう。
コストはかかりますが、800mmの焦点距離で一般的な円形フィルターが使えるのは面白いですね。
格納時は後ろ玉がマウント付近にありますが、撮影状態まで引き延ばすと、レンズマウントから7cmほど深いところへ隠れてしまいます。どちらにせよ、後玉のメンテナンスは難しく、汚さないように気を付けたいところ。
内部を除くと、後玉の手前にフレアカッターと思われる円形の枠が埋め込まれ、後玉の奥には手ぶれ補正ユニットを兼ねているレンズ群が確認できます。補正用レンズは電源オフ時に固定され、必ずしも中央に回帰する仕様ではない模様。(後ろから覗くとかなりズレて見えますが、故障ではありません)
フォーカスリング
幅35mmのフォーカスリングは電子制御式で滑らかに動作します。レスポンスは良好で特にこれと言った問題を感じません。フォーカスリングがボディ側の設定で「回転量に応じた動作」「回転速度に応じた動作」へ変更が可能。
回転量に応じた動作の場合、ピント域全域の移動は約360度ほどの回転量が必要です。精密操作に適したモードですが、回転量が多いので素早いMF操作には適していません。
回転速度に応じた動作の場合、ピント域全域の移動は素早く回転させても約180度ほどの回転量が必要です。
レンズの重心を考慮すると、やや手前にリングが配置されており、フォーカスリングを操作しようとすると、レンズ・カメラのバランスを取るのが難しくなります。個人的にはシボ加工が施された先端部分にリングが配置されていると良かったです。
コントロールリング
RFレンズでお馴染み、ローレット加工のコントロールリングを搭載しています。クリック感があり、これを解除することはできません。レンズサイズの割に、フォーカスリングと距離が近いので誤操作しやすい印象。
三脚ネジ穴
このレンズでは珍しく金属素材を使ったパーツです。このレンズに三脚リングや三脚プレートは存在せず、直接ネジ穴に固定できるユニークなスタイルを採用しています。このため、三脚に直接取り付けると水平でしか撮影できません。
ずれ防止の穴も存在しますが、非常に近い位置にあるので、これに対応できるプレートは限られてくると思います。
我が家ではミニ三脚を装着し、卓上で利用できるようにしています。レンズが軽いので、小型三脚・雲台で全く問題ありません。
レンズフード
約4000円の別売りレンズフードも購入。あこぎな商売しやがって…。つくりは至ってシンプルで、内側に反射防止用のフェルト生地が無ければ、C-PL操作窓もありません。それなのに4000円と言うのは少し高く感じます。
レンズフードの全長は9.5cmほど。順付けするとそれなりにサイズが大きくなるので、格納時は逆さ付けしておくと良いでしょう。
遮光性はまずまず良好で、今のところ大きな問題に遭遇していません。
AF
ステッピングモーター駆動のフォーカスは基本的に高速で滑らか。ストレスフリーで動作します。遠側から最短撮影距離に近い近側へ移動する際は動作が少し遅くなりますが、それ以外は基本的に電光石火に近いパフォーマンスを得ることが出来ます。
ただし、F値がF11と非常に暗いため、日陰や曇天などの低照度ではパフォーマンスが落ちる可能性あり。この場合、どちらかと言えばカメラ側の低照度AF性能に依存すると思われます。
フォーカスブリージングは目立ちません。滑らかなフォーカス移動も含めて考慮すると動画撮影で使いやすい800mmと言えそうです。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:EOS R5
- 交換レンズ:RF800mm F11 IS STM
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- EOS R5のRAWファイルを使用
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェックしています) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証しています。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性があります。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
EOS R5の4500万画素CMOSセンサーを最大限活かせる解像性能ではありませんが、フレーム四隅まで良像が確保された単焦点らしい性能です。3000万画素のEOS Rや2000万画素のEOS R6では満足のいくシャープネスが得られると思われます。
もし実写で甘い描写と感じることがあれば、それはレンズフレアによるコントラスト低下や、陽炎の影響かもしれません。
色収差補正用の特殊レンズは使われていないものの、細部を確認しても倍率色収差の発生は良く抑えられているように見えます。
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F11 | 3570 | 3314 | 3150 |
実写確認
実写
遠景解像力
テスト環境
メモ
- Leofoto LS-365C+G4
- EOS R5・ISO 100
- RAW Lightroom Classic CC現像
- JPEG デジタルレンズオプティマイザ適用
- フレーム中央・周辺・四隅に被写体を合わせて3回撮影
- 解像力テストと同じサイズでクロップ
テスト結果
デジタルレンズオプティマイザ適用のJPEG出力はEOS R5の等倍チェックでも非常にシャープなディテールを維持しています。中央が非常に良好で、周辺も良好、四隅でいくらか甘い描写。全体的に見ると、フレーム全域で実用的な画質であり、コストパフォーマンスの高い800mmに見えます。
LightroomでのRAW現像ではマイクロコントラストで僅かに見劣りするものの、しっかりと解像していることが分かります。全く問題ありませんが、僅かに色収差が発生しているので、ベストを尽くすのであればデジタル補正を適用したいところ。
中央 | 周辺 | 四隅 | |
RAW | |||
JPEG |
撮影倍率
0.14倍と撮影倍率が低く、最短撮影距離が6.0mと長いので小さな被写体を撮影するのは非常に難しいです。一度近寄って被写体を確認した後、撮影可能な距離まで下がる必要があります。
前後ボケ
前後ともに柔らかく滑らかなボケ描写。撮影距離に関わらず悪目立ちする傾向はありません。
玉ボケ
非球面レンズは使われていないものの、DOレンズの影響と思われる同心円状のムラが僅かに発生しています。イルミネーションのようにコントラストの高い玉ボケを入れると目立つ可能性があるものの、実写で目立つシーンは極僅かのはず。
F11と暗いレンズですが、口径食の影響は見られます。過度な変形ではありませんが、場合によって四隅が騒がしくなる可能性あり。レンズの小型軽量デザインを考慮すると妥協すべきポイント。
無限遠側ではさらに口径食が強くなります。800mmで玉ボケを得る機会は少ないと思いますが、注意しておいたほうが良いでしょう。
歪曲収差
極僅かな糸巻き型歪曲に見えますが、特に大きな問題はありません。
周辺減光
F値固定のレンズですが、周辺減光は十分抑えられているので絞る必要性は感じません。接写と比べて無限遠でいくらか減光が強くなります。
コマ収差
四隅までコマ収差の問題は見られません。ただし、DOレンズの影響と思われるフレアが光源周辺のコントラストを低下させています。
総評
ココがおすすめ
- フルサイズ800mmとしては小型軽量
- フルサイズ800mmとしては低価格
- ステッピングモーターの静かで軽快なAF
- 4段分の光学手ぶれ補正
- テレコンバージョンレンズ対応
- 沈胴機構
- 均質的な解像性能
- 色収差が綺麗に補正されている
- 滑らかなボケ描写
- 歪曲収差補正
- 穏やかな周辺減光
- コマ収差補正
800mmを使う目的が野生動物や野鳥の撮影の場合、F11の開放絞りと狭いAFエリアを妥協できれば、携帯性の良い800mmとして活用できると思います。抜群の画質ではありませんが、低照度や逆光を避ければ実用的な画質を得られるはず。EOS R5と組み合わせて大きくクロップする使い方はおススメできません。EOS R6と組み合わせて高感度耐性を活かしつつ、フレーム一杯に撮影するのが良し。ボケは綺麗で色収差は少ないため、思いのほか使いやすい印象。
ココに注意
- プラスチック外装
- 防塵防滴非対応
- 三脚リングなし
- F11固定
- AFカバーエリアが狭い
- 最短撮影距離が長い
- レンズフード別売り
- 高解像レンズではない
- 玉ボケにDOレンズの影響あり
- 逆光時のフレア
特に気を付けたいのはF11固定のF値。低照度ではISO感度が上がりやすく、画質へダイレクトな影響があります。屋内やシャッタースピードが必要な撮影シーンでは正直厳しい。日中でも1/1000?1/2000秒のシャッタースピードが必要な時はISO1000?1600くらいは覚悟しておきましょう。
また、防塵防滴仕様では無いのが残念。F11固定も考慮すると、明るい晴天での使用が無難。
満足度は80点。
被写体に合わせてどうしても800mmが必要、撮影は日中のみというのであれば検討すべき一本。非常に癖が強いレンズのため、「800mmを使ってみたい」程度のニーズを満たしてくれるほど便利なレンズではありません。
RF800mm F11 IS STM | |||
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作例
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