このページではペンタックス「smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited」のレビューを掲載しています。
管理人の評価:90/100点
- 小型軽量ながら高級感のある金属鏡筒
- 小型軽量で古い設計ながら味わい深い光学性能
- 開放で繊細な、絞って力強い描写を楽しめる
- この価格帯のレンズとしては珍しい耐候性皆無の仕様
絞り開放から高解像・高コントラストな描写とは言えないものの、高画素機でも通用する繊細な描写を備え、絞り操作で力強い描写も可能な味わい深いレンズ。耐候性が無かったり、軸上色収差の補正が不完全だったりと、決してコストパフォーマンスの高いレンズではないのは確か。趣味性の高い準オールドレンズ。
Index
まえがき
レンズのおさらい
レンズ概要
- 2002年8月8日 発売
- 商品ページ
- データベース
- 管理人のFlickrアルバム
- レンズ構成:6群7枚
- 開放絞り:F1.8
- 最小絞り:F22
- 絞り羽根:9枚
- 最短撮影距離:0.7m
- 最大撮影倍率:0.14倍
- フィルター径:φ49mm
- レンズサイズ:φ64 x 48 mm
- 重量:270g
- アルミ素材を使用した外装
- 七宝焼フィンガーポイント
2002年に登場したフィルム時代の交換レンズですが、未だに現役かつ人気の「FA Linited」シリーズの一つ。こだわりの光学設計・デザイン・焦点距離に加え、中望遠レンズながらコンパクトで軽量に仕上がっているのも魅力的なポイント。FA Limitedは熱狂的なファンが多く、ネット上では数多くのレビューや解説を見つけることが出来ます。敢えてこのブログで追記する必要は無いでしょう。
レンズは6群7枚と最新モデルと比べてシンプルな作り。競合他社の古い「85mm F1.8」と比べても枚数が少なく、コンパクトで軽量なレンズです。特殊レンズを使用していませんが、ある程度の像面湾曲を受け入れることで、非点収差と色収差を最小限に抑え、出力を微調整していると言われています。
AF/AE対応モデルですが、メカニカルな絞りリングを搭載。このため、マウントアダプター経由でMFレンズとして使うことも可能。ソニーEマウントやニコンZマウント用のAF対応ライカMマウントアダプターを使うことでAFを利用することも出来ます(間にPENTAX KーLeica Mマウントアダプタが必要)。
2021年現在、最新コーティングと円形絞りを採用した「HD PENTAX-FA 77mm F1.8 Limited」が登場。レンズ構成はそのままに、HDコーティングで逆光耐性を強化し、SPコーティングでメンテナンス性を向上。さらに円形絞りの採用で絞った際のボケ描写を改善しています。
古いsmc版が生産終了となるのか不明ですが、販売価格は徐々に下がってきています。今回は手ごろな価格となったsmc版を購入してレンズの描写性能をテスト。
価格のチェック
参考までにHD版も掲載。smc版はここ最近になって急速に値を下げており、買い方次第で6万円ちょい、人によっては5万円台で購入可能と思われます。HD版が9?10万円と考えると魅力的な価格設定ですね。この価格がいつ頃まで維持できるのか不明。従来の価格設定だと「中望遠 F1.8」としては少し高価でしたが、5?6万円であれば検討できる値付けかなと。
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
現在はリコーイメージングが製造・販売しており、ペンタックスの頃のデザインと異なります。比較的新しいDAレンズと同様のデザイン。
驚くべきはその箱のサイズで、ソニー E マウントのボディキャップと見比べてみるとわかるようにとてもコンパクトな箱にレンズが収まっています。小型軽量なリミテッドレンズらしいデザイン。
箱の裏側には切り欠きがあり製造番号を確認することができます。
箱の中にはレンズ本体の他にレンズポーチと説明書・保証書が付属しています。 特に緩衝材は入っていないので、未開封品の取り扱いには気をつけたいところ。
外観
コンパクトながらレンズ筐体はアルミ削り出しの高級感・精密感のある仕上がり。特に最近はプラスチックパーツを外装に採用するメーカーが多く、その中においてアルミ削り出しの外装は非常に高級感があります。
とは言え、 最近は中国メーカーや国内ではシグマなどが外装に金属パーツを多用したレンズを数多く投入しています。FA Limitedは間違いなく良好な作りですが、他社と差別化できるほど優れているわけではありません。
そうは言っても、このコンパクトな金属筐体の中に、オートフォーカスに対応する機構と電子接点、そしてスライド式レンズフードを搭載していることは評価できるポイント。
レンズにはフォーカスリングと絞りリングがあり、絞りリングには「A」でロックできる機構を搭載。さらに七宝焼きのフィンガーポイントがあり、カメラへの装着性を高めています。七宝焼きフィンガーポイントは手作りのため、個々に風合いが異なるそうな。ちなみに、初期は「日本製」ですが、現在はベトナム工場で製造されています。
レンズには被せ式のレンズキャップが付属。内側はフェルト生地で適度な摩擦が発生し、意図せずキャップが外れてしまう可能性を抑えています。ただし、49mmの円形フィルターを装着していると、フードの状態によってキャップを完全に被せることが出来なくなります。
また、内側のフェルト生地には小ゴミが付きやすく、経年で汚れやすいのが悩ましいところ。一般的なレンズキャップは付属していませんが、PENTAXには49mm径のレンズが多いので、余分に持っている人も多いはず。
ハンズオン
全長48mm、重量270gと非常に小型軽量な中望遠単焦点レンズです。レンズサイズを考えると重量がありますが、高級感のある「密度」が手に伝わってきて、「重い」とは感じません。
外装はアルミ削り出しボディということもあり、頑丈で堅牢性のある鏡筒だと感じます。絞りリングとフォーカスリングが切り込みは形状が異なりファインダーを覗きながらでも操作を間違うことはないでしょう。
前玉・後玉
フィルター径は49mmに対応。この49mmフィルターは多くのペンタックスレンズで採用しており(特にDA Limited)、使い回しやすいフィルター径といえるでしょう。
前玉は外枠ギリギリまでレンズが詰まっています。アルミ削り出しボディの高級感もさることながら、 外装に無駄な装飾のないガラスと金属の塊のように見えるところも好印象。
最近登場した「HD版」にはSPコーティングによる撥水・撥油性を期待できますが、このsmc版はSPコーティングに対応していません。汚れが気になるシーンではプロテクトフィルターを装着しておくと良いでしょう。
後玉もマウント径を十分に使った大きなレンズ。Kマウントは電子接点がマウント表面にあり、後玉を大きくしても電子接点と干渉しないのが光学設計上で有利となるのかもしれません。レンズマウントは4本のビスで固定され、電子接点は「KAF」仕様。
レンズは防塵防滴仕様ではないため、マウント部に
フォーカスリング
1cm幅の金属製フォーカスリングは滑らかに回転します。基本的にAFカプラー(ボディ側モーターを使って駆動するAF)を使ったAFレンズのため、フォーカスリングの抵抗量が小さく、MFメインで使う場合は緩すぎると感じるかも。
フォーカスリングの回転角は至近距離から無限遠まで約135°。精度と高速性を考慮すると程よいバランスの回転角。
フォーカシング時は後群固定で前群が繰り出すタイプで、PENTAXではFREE(Fixed Rear Element Extension)システムと呼んでいます。これは一種のフローティングシステムらしく、近距離でも優れた性能を発揮する構造と言われています。
絞り
絞り羽根は9枚。円形絞りではないものの、まずまず自然な描写。操作はレンズマウント付近の絞りリングを利用。絞り値は「F1.8」から1/2段ごとに動作しますが、F11-F16-F22の間は1/1段の操作のみ。操作時は少し強めの戻り止めがあり、誤操作する可能性は低い。F22からさらに回転することでカメラ側での制御が可能。
レンズフード
レンズに脱着式のフードは付属していませんが、レンズ本体にスライド式のフードを内蔵しています。遮光性は最小限と言ったところですが、コンパクトサイズを損なわない秀逸なデザイン。
枠が大きくない円形フィルターであれば装着したままレンズフードを利用可能。可変NDなど、枠に厚みのあるフィルターの場合は干渉する可能性あり。
装着例
今回はPENTAX Kマウントではなく、ミラーレスカメラへ装着するために購入。コンパクトなレンズなので、アダプター経由でミラーレスへ装着してもバランスは良好。マイクロフォーサーズのような小さなカメラボディと組み合わせるのも面白い。
AF・MF
フォーカススピード
今回はミラーレスカメラにアダプター経由で装着しているので未評価。
このレンズのAFはボディ側のモーター駆動で動作するため、ボディ側の性能に大きく左右されると思われます。レンズのピントストロークは全域で約180度ほど。ストロークが少し長いので、特にピント距離の大きな移動がある場合は合焦速度がそこまで速くないと思われます。
ブリージング
ブリージングとはピント距離によってレンズの画角が変化することを指しています。静止画では特に問題となりませんが、動画撮影ではピント距離によって画角が変化するのが目障りと感じる場合がある。また、静止画でも四隅のAFエリアを使った時に合焦速度の低下や合焦精度の低下に繋がる可能性があります。このレンズでF22まで絞った状態で最短撮影距離と無限遠を撮り比べた作例が以下の通り。
ご覧のように、最短撮影距離では画角がかなり狭くなり、無限遠では画角が大きくなる。
精度
MFでの使用のため未評価。
MF
前述した通り、フォーカスリングのストロークは全体で約180度。フルマニュアルでも操作しやすいストロークを備えているように感じます。ただし、もともとAFレンズのため、フォーカスリングの操作性は完璧とは言えません。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:EOS R5
- 交換レンズ:smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- EOS R5のRAWファイルを使用
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェックしています) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証しています。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性があります。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
中央
絞り開放から「3500」を超える良好な結果。軸上色収差による色づきやコントラスト低下があるものの、良好な解像性能と言えるでしょう。さらに1段絞ると「4000」を超える非常に良好な結果となり、ピークのF5.6で「4500」を超えています。パフォーマンスはF11まで「4000」前後を維持し、F16?F22で回折の影響を受けて画質が低下します。F16からF22の落ち込みが少ないのは、絞り羽根がF22まで絞れていない可能性あり。
周辺
中央と比べるとコントラストが低下しますが、解像性能は中央と同程度。コンパクトな単焦点レンズとしては健闘していると思います。ただし、絞るとわずかにパフォーマンスは低下し、F5.6?F8で持ち直します。F2.8?F4でフォーカスシフトの影響があるのかもしれません。
ピークのF8に向かって解像性能が向上し、最終的に「4000」を超える非常に良好な結果を得ることが出来ます。
四隅
周辺部と比べてさらにコントラストが低下するものの、解像性能は「3000」を超えるまずまず良好な結果。周辺と同じく絞ると少し低下しますが、F5.6?F8で改善します。「4000」こそ超えないものの、それに近い結果は評価すべきポイント。小型軽量な単焦点レンズとしては意外な結果でした。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.8 | 3618 | 3745 | 3333 |
F2.8 | 4292 | 3519 | 3491 |
F4.0 | 4255 | 3326 | 3403 |
F5.6 | 4675 | 3731 | 3745 |
F8.0 | 4216 | 3901 | 4174 |
F11 | 3933 | 3635 | 3789 |
F16 | 3232 | 3113 | 3218 |
F22 | 3194 | 3036 | 2925 |
実写確認
絞り開放付近は軸上色収差の影響と思われる色付きあり。 F2.8まで絞ると全体的にコントラストは改善しますが、周辺部から四隅にかけて改善の余地を残しています。ただしコントラストは低いものの、芯のはっきりとしたシャープネスに見えます。もう1段絞ったF4では、全体的にコントラストが改善し、実用的な画質を実現。さらにF5.6では四隅に残ったディテールの甘さも消え、中央はピークの性能を達成。F8まで絞ると隅までとても良好な結果に見えます。
レンズ比較
同じくEOS R5でテストした「RF85mm F2 Macro IS STM」と比較してみると、中央のピークは同程度、四隅はより良好な結果となりました。実写ではRF85mm F2がより良好なコントラストですが、繊細な描写はFA77mm F1.8のほうが優れているようです。
遠景解像力
テスト環境
- 2021-04-20:昼:微風
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:Leofoto G4
- カメラ:Nikon Z 7
- 現像ソフト:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネス 0
・レンズ補正・色収差補正オフ
テスト結果
中央
軸上色収差によるコントラストの低下はありますが、絞り開放から良好なシャープネスに見えます。 1段ほど絞るとコントラストが大きく改善し、 安定した画質を得ることができます。 さらに一段絞るとハイライトに残るハロっぽさがなくなりピークに近い画質となります。F5.6でさらにコントラストは改善しますが、F4と比べたときの画質差はそう大きくありません。
周辺
絞り開放は中央と比べてさらにコントラストが低下しています。線はしっかりとしているものの、コントラストが低くパッと見の解像感は低いと感じることでしょう。中央と同じくF2.8まで絞るとコントラストは改善します。それでもまだ完璧とは言えず、風景撮影でコントラストは必要な時は最低でもF4まで絞りたいところ。F5.6まで絞るとマイクロコントラストが強化されますが、全体的な見た目はF4とあまり変わりません。
四隅
中央や周辺部と異なり、コントラストの低下のみならず非点収差のような像の甘さが見られます。 一段絞ってもあまり変わらないので、できればF4まで絞りたい。F4まで絞るとコントラストとシャープネスは大幅に改善し、実用的な画質に見えます。F5.6まで絞るとさらにマイクロコントラストが強調されますが、線は太く見えます。繊細な描写を好むのであれば絞り値はF4に抑えておくといいでしょう。
実写で確認
前述しましたが、このレンズは絞ることによりマイクロコントラストは大きく変化しています。 全体的に見てF1.8?F2.8まで線が細く、F4以降で徐々に線が太くなります。繊細なシャープネスが必要であればF2.8?F4を、力強いシャープネスが必要であればF8を使うと良いかも。
ニコンZ 7と組み合わせた際は回折の影響がF11から出始めます。F11でも実用的なシャープネスですが、F16でコントラストがワンランク低下し、F22でさらに悪化する模様。
倍率色収差は良く抑えられており、ゼロでは無いものの、追加補正が必要には見えません。
撮影倍率
最短撮影距離は0.7m、その際の撮影倍率は0.14倍。中望遠レンズとしては一般的な性能であり、特に良くなければ悪くも無い。花など小さい被写体をクローズアップするには少し力不足なので、APS-Cクロップや接写リング、クローズアップリングなどで対応したい。「FREEシステム」と呼ばれているシステムにより、近距離でも高い収差補正を実現と言われていますが、最新のフローティングシステムと比べると厳しい。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれです。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要となります。ボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できます。
実写で確認
倍率色収差の補正は完璧と言えないものの、残存する収差は極僅かで問題となる状況は少ないはず。さらにソフトウェア補正で簡単に修正できることを考えると、このレンズで心配する収差では無いように見えます。絞りによる大きな変動はありませんが、絞り開放付近で少しだけ収差が強い印象(滲みは別の要素)。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指しています。手前側で主にパープルフリンジとして、奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差です。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところですが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多いです。
実写で確認
完璧な補正状態とは言えず、絞り開放付近では色収差の影響が明らか。3段絞っても僅かに残存しており、光学的に抑え込む場合はF8まで絞る必要がある場面もありそう。ただし全体的に色づきは薄く、実写で悪影響を感じるほどの収差が発生するのは珍しいはず。実際、実写でも無補正の絞り開放付近は快適に利用可能。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と感じます。逆に、「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写を好ましくないと感じています。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。また「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滲むボケ描写を実現しているレンズも存在します。
実写で確認
極端な偏りでは無いものの、前ボケのほうが柔らかく、後ボケが硬い描写。このレンズは美しいボケと評価されることが多いものの、球面収差の観点だけを見ると決して後ボケが綺麗とは言えません。ただし前ボケが柔らかくなることで、実写で厄介となるパープルフリンジが目立ちにくくなっています。
これが計算された結果なのか、官能的な描写を追求したことによる副次的な効果なのか不明。どちらにせよ、小型軽量で特殊レンズを使用していないフィルム時代のレンズとしては一つの選択肢としてアリなのかなと。
個人的には後ボケの柔らかい描写を見てみたかったところですが、積極的に前ボケを取り入れる人にとってはプラスとなるはず。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、四隅が楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりします。これを解消するには絞りを閉じるしかありません。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来ます。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がります。口径食が強いと、ボケ量が少なく感じたり、四隅のボケが荒れてしまう場合もあるため、口径食の小さいレンズが好ましい。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
小型軽量な中望遠 F1.8レンズとしては一般的な口径食に見えます。F2.8まで絞るとほぼ解消しますが、玉ボケが少し角ばる点に注意が必要。小絞りまで極端に角ばることはありませんが、こだわるのであれば円形絞り対応のHD版がおススメ。
非球面レンズを使用していないので玉ボケの内側は滑らかで均質な描写。後ボケが少し硬いので、当然ながら玉ボケにも影響が見られます(少し縁取りがあり、場合によって軸上色収差の影響もある)。
ボケ実写
やはり後ボケは少し硬さを感じますが、厄介なパープルフリンジは良く抑えられている印象。後ボケの色付きが目立つシーンも少なく、フィルム時代の大口径レンズとしては優れた描写だと感じます。今でこそ取り分け目立つ存在ではありませんが、小型軽量でシンプルな光学設計のレンズであることを考えると、今でも十分通用するはず。
後ボケが硬調と言っても、接写時はボケが大きくなるので問題ナシ。非球面レンズによるムラも無く、口径食も極端ではなく、使いやすい描写。
柔らかい後ボケを重視するのであれば、このレンズは選択肢から外したほうが良いでしょう。決して極端に目障りな描写では無いものの、敢えてこのレンズを選ぶ必然性もありません。(まぁ、現行のKマウントレンズにそれほど選択肢は残っていませんが…。)
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに「歪む」収差です。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
実写で確認
ソフトウェア補正が無い状態で知覚できないほど綺麗に補正されています。追加の補正や修正は必要ありません。立派な性能ですが、この時代の中望遠レンズは比較的良好な歪曲収差補正のレンズが多いです。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な減光のことです。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となっていることを指します。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生、ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を増感でカバーするのでノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合にはノイズが強く現れる可能性があります。
実写で確認
小型軽量の大口径レンズとしては避けられない欠点。絞り開放付近では光量落ちが目立ち、特に無限遠で強い減光が発生します。光学的に解消するためには少なくとも接写でF4、無限遠でF5.6まで絞る必要あり。光量の落ち方は直線的で、比較的簡単に修正可能です。
コマ収差
コマ収差とは?
コマ収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指しています。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日などが影響を受ける場合があります。後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある収差。絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞り開放のコマ収差補正が重要となります(絞るとシャッタースピードかISO感度に影響があるため)。
テスト結果
ピント面直後の点光源でハロ(?)のような光の広がりを無視したとしても、コマ収差は完璧な補正状態に見えません。周辺部から僅かに影響が出始め、四隅でいくらか目立つコマ収差となります。絞ると改善しますが、完璧に抑え込む場合は少なくともF4まで絞りたいところ。
逆光耐性
実写で確認1
強い光源がフレーム中央付近に存在する場合は目立つ不自然なゴーストが避けられません。しかし、目立つフレアは良く抑えられており、顕著なコントラスト低下は無いように見えます。絞っても全体の傾向に大きな変化はありませんが、薄っすらとヴェールのようにかかっていたフレアが無くなり、コントラストが少し改善します。
実写で確認2
光源が四隅にある場合はゴーストが良く抑えられています。やはり若干のコントラスト低下はありますが、小絞りでは改善している模様。
光条
F5.6から徐々に光条が発生しはじめ、F11以降で最大化します。光条のサイズは控えめで、絞っても特に主張が強いと感じません。描写そのものはシャープで、美しい光条に見えます。
総評・作例
肯定的見解
ココがポイント
- 小型軽量
- アルミ削り出しの金属鏡筒
- スライド式レンズフード
- 絞りリング搭載
- 49mmとコンパクトなフィルター径
- 十分なストロークを持つフォーカスリング
- レンズサイズを考慮すると均質性の高い解像性能
- 倍率色収差補正が良好
- 前ボケが柔らかい
- 歪曲収差補正が良好
登場した時期と、小型軽量でシンプルなレンズ構成を考慮すると立派な光学性能のレンズ。絞り開放の描写は「繊細だけどパンチが強すぎない」ポートレート向けの調整が施されており、6群7枚のレンズ構成で諸収差を効果的に抑えているのは凄い。残存する軸上色収差はピント面前後で重心を傾けることで前ボケのパープルフリンジを目立たなくしている絶妙な調整具合。77mmの焦点距離で自身の撮影用途と相性が良ければ「神レンズ」と評価されるのも納得のレンズ。ただし「高解像・高コントラスト」の現代的なレンズと比べると味付けが異なるので注意が必要。
批判的見解
ココに注意
- 防塵防滴非対応
- SPコーティングなし
- レンズ繰り出し式フォーカス
- AFにはボディ側モーターが必要
(ボディによってAF性能が大きく変化) - F22が絞り不足1
- フォーカスブリージングが目立つ
- 軸上色収差が目立つ
- 後ボケが硬調
- 特に無限遠の周辺減光が目立つ
- コマ収差が目に付く
この価格帯ではインナーフォーカス・防塵防滴 or 簡易防滴が普通な時代において、耐候性が皆無な点は注意したい。特にPENTAXではお馴染みのSPコーティングに対応していないので、前玉のメンテナンス性がガタっと落ちているのは悩ましいところ。最近登場したHD版はSPコーティングも追加されているので要検討。 また、ボディ内モーター駆動でAFを動作するので駆動音の発生は必至。特に静かな環境で使いにくいのは残念。
光学性能で最も気を付けたいのは軸上色収差。パープルフリンジは良く抑えられているものの、その反動で後ボケが硬く、背景ボケのグリーンフリンジは目立ちます。被写体によっては見苦しいと感じる場面もあることでしょう。
総合評価
小型軽量で良好な光学性能は現代の高画素機でも通用する。絞り開放で繊細に、絞ると力強い表現が可能で、高性能な最新設計と比べると味わい深い準オールドレンズ。解像性能やボケにコスト・パフォーマンスを追求すると選択肢から外れるものの、レンズデザインや絞り開放の描写がツボに入れば面白い選択肢。他社のミラーレス用として購入する場合はAF対応アダプターの登場を待つべし。
購入早見表
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作例
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