このページでは「VILTROX AF 16mm F1.8」のレビューを掲載しています。
VILTROX AF 16mm F1.8のレビュー一覧
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビュー 完全版
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビューVol.5 ボケ編
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビューVol.4 諸収差編
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビューVol.3 近距離解像チャート編
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビューVol.2 遠景解像 編
- VILTROX AF 16mm F1.8 レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 16mmF1.8としては手ごろ | |
サイズ | 同クラスでは適度 | |
重量 | 同クラスでは適度 | |
操作性 | 必要な全てが揃っている | |
AF性能 | リバースエンジニアリングの壁 | |
解像性能 | 接写以外は良好 | |
ボケ | 玉ねぎボケ・2線ボケ | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | ほぼ問題なし | |
コマ収差・非点収差 | ほぼ問題なし | |
周辺減光 | 極めて重い | |
逆光耐性 | とても良好 | |
満足度 | コスパ良好な大口径の広角レンズ |
評価:
手ごろな価格で高性能・高機能
16mm F1.8の大口径広角レンズとしては手ごろな価格を実現しつつ、高性能かつ高機能。周辺減光や玉ボケの質感など指摘する部分はあるものの、広い範囲でコストパフォーマンスに優れた選択肢。VILTROXの目覚ましい進化を象徴するような一本と言えるでしょう。競合する製品が無いわけではないものの、この価格設定は唯一無二。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | ボケに癖がある | |
子供・動物 | AF速度は平凡 | |
風景 | 周辺減光以外は良好 | |
星景・夜景 | 周辺減光以外は良好 | |
旅行 | 機能的で防塵防滴 | |
マクロ | 寄りやすいレンズではない | |
建築物 | 陣笠状の歪曲に注意 |
Index
まえがき
6本のVILTROX F1.8(フルサイズ) シリーズのうち、最も広い画角をカバーする16mmの超広角レンズ。他5本と異なり、クリック付きの絞りリングと機能的な情報パネル。L-Fnボタンを搭載しています。「第二世代のVILTROX」と呼んでも過言ではないレンズ。
レンズの仕様 | |||
---|---|---|---|
発売日 | 2023年5月26日 | 初値 | ¥75,999 |
マウント | E | 最短撮影距離 | 0.27m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 不明 |
焦点距離 | 16mm | フィルター径 | 77mm |
レンズ構成 | 12群15枚 | 手ぶれ補正 | ‐ |
開放絞り | F1.8 | テレコン | ‐ |
最小絞り | F22 | コーティング | NanoM |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ85.2×103mm | 防塵防滴 | 対応 |
重量 | 550g | AF | STM |
その他 | クリック切替 絞りリング・LCDパネル | ||
付属品 | |||
レンズフード |
12群15枚の本格的な光学系には複数のEDレンズや非球面レンズを使用した贅沢な設計。金属製の鏡筒は複数の耐候性シーリングを使った防塵防滴仕様となっています。MTFを確認すると、隅までストンと落ちない程度に安定感のある光学性能を実現している模様。これが実写でどのような結果となるのかは、今後のテストでチェックしていきたいと思います。
価格のチェック
国内での販売価格は約7~8万円。イングレートジャパン(PERGEARなど)系列の店舗で稀にセールで7万円を切る場合がああります。(私はPERGEARで6.6万円で購入しました)VILTROXのAFレンズとしてはやや高めですが、「16mm F1.8」のAFレンズとしては手ごろな価格と言えるでしょう。防塵防滴やレンズのコントロールなどを考慮するとなおさら。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
白を基調としたシンプルなデザイン。過去のVILTROXレンズの箱と比べるとデザインが洗練されています(どことなくシグマのデザインと似ていますが…)。箱の蓋には未開封を示すテープが張り付けられています。0レンズ本体は発泡素材の緩衝材で保護されています。中身を取り出すと、レンズ本体のほかに、レンズフードと説明書が付属。ポーチなどはありません。
外観
レンズ本体は全体的に金属パーツを使用した頑丈な作り。シグマ Iシリーズほど凝った意匠ではありませんが、質感などはそれに近いものを感じます。
外装は全体的に光沢を少し残したマットブラックの塗装が施されています。表面の絞り値やロゴなどは、単なるプリントではなく、エッチング加工されたもの。レンズのシリアルナンバーやCEマークなどの表示のみ、マウント付近にシールで張り付けられています。
ハンズオン
金属鏡筒で12群15枚の複雑なレンズ構成と言うこともあり、適度に重量感のあるレンズです。と言っても手持ち撮影が困難なほど重いわけでもなく、長時間の手持ち撮影が苦になることはありませんん。
前玉・後玉
防汚コーティングが施されている前玉は撥水・撥油性が高く、メンテナンスが容易。とは言え、ダメージが予想できる環境ならばねじ込み式フィルターを装着して事前に保護することが出来ます。フィルター径は77mmに対応しており、フルサイズ用レンズでは一般的なサイズ。
Amazonで77mmフィルターを探す金属製レンズマウントは4本のビスで固定されています。周辺は防塵防滴に対応する耐候性シーリングを配置。また、ファームウェア更新用のUSB-Cポートを搭載、後玉の周囲はフレアカッターを搭載。レンズはカメラに問題なく装着でき、ガタツキなどはありません。
フォーカスリング
幅広の金属製フォーカスリングを搭載。ソニー純正よりは適度な抵抗で操作可能ですが、滑らかと言うにはあと少し足りません。弱い力で操作しようとすると引っかかる可能性あり。ただし、静止画のピント調整で不便と感じることはありません。ストロークは回転量に依存していますが、マクロ側に操作する場合よりも無限遠側に操作する時のストロークが少し短く感じます。
絞りリング
金属製の絞りリングを搭載。VILTROX初期のレンズは無段階の絞りリングでしたが、本レンズのリングは1/3段刻みでクリックのあるコントロールで、右側面のスイッチでクリックを解除することも可能。操作はやや重めで、しっかりとクリックストップが発生します。絞りリングの操作が好きな人には心地よい操作性と感じるかもしれません。
スイッチ
レンズ側面にはAF/MFスイッチとFn1・Fn2ボタンを搭載。異なる種類のFnボタンが並んで配置されている面白いデザインで、Fn1はカメラ側のボタンカスタマイズで好みの機能を登録可能。
Fn2は2種類のプリセット位置にフォーカスを移動できるレンズの独自機能を搭載。レンズのAF/MFスイッチを「MF」に設定して、任意のピント位置でFn2を長押しすることで登録することが出来ます。プリセットは「A」「B」の2種類で、Fn2ボタンを押すことで切り替えることが可能。A-Bフォーカスのように使うことも出来ますが、フォーカス速度を調整することが出来ません。
情報パネル
ここ最近のVILTROXレンズは鏡筒にOLEDディスプレイを搭載。ピント位置や絞り値、被写界深度、フォーカスモード、Fn2ボタンなどを一度に確認することが可能。ゾーンフォーカスなどで撮影したい時にはとても便利で、表示も正確に見えます。ディスプレイは点灯し続けるので夜間や屋内での撮影で便利ですが、消灯したり輝度を変更する方法がないため、蛍の撮影など明かりが邪魔になるシーンはディスプレイを隠す手段を用意しておきたいところ。
レンズフード
プラスチック製の花形レンズフードが同梱。金属製の本隊と比べると質感はかなり見劣りします。反射防止の切込みなど、必要十分と言ったところ。フードを固定する仕組みや、フィルター操作窓などはありません。
ケラレ耐性
厚みが約5mmのフィルターを重ねたところ、2枚までは問題なく装着可能。3枚目を装着すると、四隅で僅かなケラレを確認しました。
装着例
α7R Vに装着。17mm F4や18mm F2.8のレンズほどコンパクトではありませんが、F1.8と明るい16mm超広角レンズと考えると大きく重いレンズではありません。
AF・MF
フォーカススピード
フォーカスの駆動にはステッピングモーターを使用。このクラスのレンズとしてはパッとしないAF速度ですが、不満を感じるほどではありません。カメラ側のAF性能もあって、AF-Cでも快適に追従します。ただし、快適と感じるのは中央・中央周辺を使った時のみで、フレーム周辺部や四隅のAFエリアでは動作が不安定となる可能性あり。このあたりはファームウェアで改善するのかどうか気になるところ。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
ピント位置による画角の変化は驚くほど良好に抑えられています。ピント両端で変化はほとんどなく、心配する必要は皆無。
精度
α7R Vとの組み合わせで問題ありませんが、前述したようにフレーム端や隅のAFエリアを利用すると不安定となることがあります。
MF
フォーカスリングの操作性は極上と言えないものの、リングの操作に合わせてフォーカスレンズは滑らかに動作。微調整時にピント位置がジャンプするような粗い動作でもありません。また、プリセット位置を2系統利用できるので、スナップ用、無限遠の風景撮影用などに利用できるのが便利。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:α7R V
- 交換レンズ:VILTROX AF 16mm F1.8 FE
- パール光学工業株式会社
「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」 - オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
- 最短撮影距離が長いため、従来よりも撮影倍率が低くなっています。
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
遠景解像では良好なテスト結果でしたが、近距離の解像チャートテストでは周辺部や隅の性能が大きく低下するようです。定型チャートテストと広角レンズは相性が悪いので驚くべき結果ではありません。中央はF1.8から非常に良好で、周辺部や隅はF8のピークに向かって徐々に改善します。
中央
絞り開放で若干の色収差が見られるものの、細部の解像性能はとても良好。F2.8付近まで絞るとコントラストが上昇し、F4でピークの結果が得られます。
周辺
中央とは打って変わってソフトな画質。広角レンズは接写時に周辺部の画質が低下する傾向があり、このレンズも例外ではない模様。絞ると徐々に改善しますが、ピークに到達するのが遅い。もしも最短撮影距離付近でシャープな結果を期待するのであれば、F4くらいまで絞るのがおススメ。
四隅
周辺部と同じくソフトな画質ですが、隅でも劇的な画質低下が見られないのは評価すべきポイントと言えるかもしれません。傾向は周辺部とほぼ同じで、F4まで絞ると画質がかなり安定します。シャープな結果を期待するのであればF8までしっかりと絞ったほうが良いかもしれません。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.8 | 4369 | 2227 | 1909 |
F2.0 | 4981 | 3006 | 2022 |
F2.8 | 5200 | 2459 | 2042 |
F4.0 | 5547 | 3239 | 2875 |
F5.6 | 5225 | 3487 | 3675 |
F8.0 | 4978 | 4051 | 4026 |
F11 | 4418 | 3845 | 3634 |
F16 | 3953 | 3045 | 3239 |
実写確認
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2023年9月19日 晴れ 微風
- カメラ:α7R V
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 100 絞り優先AE
- RAW:Lightroom Classic CC
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・レンズ補正 オフ - 画角が広いため、同じポイントを「中央」「周辺」「隅」に移動して撮影
(事前の像面湾曲の影響がほとんどないことを確認しています)
テスト結果
F1.8の絞り開放から全体的に良好な結果。周辺部に若干の落ち込みが見られるものの、F2.8まで絞ると均質性の高いシャープな結果を得ることができます。全体のピークはF5.6-8あたり。
中央
F1.8から良好ですが、2~3段絞ると細部のコントラストが僅かに改善します。
周辺
絞り開放付近は非点収差のような像の甘さが見られるものの、細かいことを言わなければ安定感のある結果。おそらく、4200万画素や2400万画素であれば特に気にならないかと思います。F2.8まで絞ると像の甘さが無くなり、F5.6-8のピークに向かってシャープさが少し向上します。
四隅
周辺減光の影響こそあるものの、F1.8から大きな画質低下もなくシャープな結果。F2.8まで絞ると中央や周辺部との見分けがつかなくなる程に均質性が向上します。F4の結果は中央のクロップと言っても過言ではないほどしっかりとした画質。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
像面湾曲の影響は小さく、F1.8から遠景のパンフォーカスが可能となっています。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
とても良好に補正されています。6100万画素のα7R V使用時にフレーム隅を拡大しても目に見える色収差は確認できません。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
最小限に抑えられ、F1.8の絞り開放から目立ちません。とても良好な補正状態です。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
前ボケが滑らかであるいっぽう、後ボケは縁取りが硬めで2線ボケの兆候あり。背景が少し騒がしいと感じる場合はF2.8くらいまで絞って残存する球面収差を収束したほうが良いかもしれません。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
非球面レンズの研磨状態がお世辞にも良いとは言えず、玉ボケがムラ(いわゆる玉ねぎボケ)が目立ちます。また、ボケは縁取りが強く、残存する色収差が悪目立ちするのが欠点。絞ることで描写が改善する場合もありますが、玉ねぎボケは解消しません。
ボケ実写
近距離
16mmの超広角レンズながら、開放F値がF1.8と大口径。被写体に接近することで背景を十分にぼかすことが出来ます。この際の後ボケは縁取りが強いものの、パッと見は悪くない描写。とは言え、細部をよく見てみると、縁取りが強く、隅に向かって色ずれが目立つようになります。
中距離
撮影距離が長くなると全体的にボケが騒がしくなります。とは言え、ボケが小さいのでぱっと見はそこまで悪目立ちしません。APS-Cクロップなどで大きく拡大する場合は注意したほうが良いでしょう。F2.8くらいまで絞ると中央から広い範囲は少し落ち着いた描写となります。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、F1.8を使って撮影した作例が以下の通り。
フレームに全身を入れるとほとんどボケません。膝上で背景がわずかにボケ始め、上半身~バストアップで被写体が背景から分離し始めます。全体的に後ボケが硬調。これはこれでアリと感じる場合もありますが、少なくとも背景が溶けるような滑らかな描写ではありません。
球面収差
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
未補正のRAWでは陣笠状の歪みを伴う僅かな樽型。ミラーレス用の超広角レンズとしては非常に良好な補正状態です。このままでも十分良好ですが、Adobe Camera RAWにはレンズの補正用プロファイルがあるので適用可能。ただし、僅かに過補正の糸巻き型となってしまいます。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
絞り開放付近で非常に強い減光効果が発生。光学性能がとても良好なレンズですが、この減光効果を修正するためには3段程度の増感が必要。当然ながらノイズ増が伴うので画質低下は避けられません。
F4程度まで絞ると改善しますが、それでも周辺部に薄っすらと影響が残る。F4以降は絞ってもほとんど改善しないため、手動補正や補正プロファイルで修正することになります。
無限遠
無限遠でも最短撮影距離とほぼ同程度の影響。やはり絞り開放付近は光量の低下が目立つため、背景がフラットなシーンでは修正が必要と感じるかもしれません。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
完璧とまではいかないものの、F1.8から目立たない程度に補正されています。絞ると徐々に改善し、F4でほぼ解消。
逆光耐性・光条
中央
超広角レンズとしては良好な逆光耐性。絞り開放付近ではフレア・ゴーストが目立たず、絞っても最小限。複雑な光学設計から絞った際のゴーストは避けられませんが、悪目立ちする大きなゴーストは良く抑えられているように見えます。
周辺
斜めからの強い光にもよく耐えている印象。絞っても極端な悪影響はありません。
光条
F8付近からシャープな光条を得ることができます。F16付近まで絞ると先細りする綺麗な描写へと変化。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 16mm F1.8としては手ごろな価格
- 金属製・防塵防滴の頑丈な鏡筒
- 機能的なOLEDパネル
- 77mm円形フィルターに対応
- 1/3段刻みの絞りリング(クリック解除可能)
- Fnボタンと独自機能のFn2ボタン搭載
- フォーカスブリージングがほぼ無い
- 遠景の解像性能が非常に良好
- 像面湾曲が良好な補正状態
- 倍率色収差がほぼ無い
- 軸上色収差がほぼ無い
- 歪曲収差が良く抑えられている
- 逆光耐性が良好
- 絞った際の光条が綺麗
手ごろな価格で適度なサイズの「16mm F1.8」ですが、全体的に良好な光学性能。フレーム全域で良好な解像性能が得られ、諸収差も良く抑えられています。ビルドクオリティも良好で、耐候性・操作性・機能性、どれを取っても日本のレンズメーカーに引けを取らない作り。敢えて言えばレンズフードがチープですが、重箱の隅をつつくとしたらそのくらい。
悪かったところ
ココに注意
- リバースエンジニアリング
- 接写時に周辺部や隅の画質低下
- 後ボケが硬調
- 同心円状のムラ(玉ねぎボケ)
- 周辺減光が目立つ
ビルドクオリティで指摘する点があるとしたら、リバースエンジニアリングでありカメラとの互換性が完璧には保証されていないこと。USB-Cポートでレンズのファームウェアを更新可能ですが、それでもシグマやタムロンなどの日本メーカーと比べるとAFの精度や速度は少し見劣りしました。特にフレーム周辺部で不安定となる可能性あり。光学性能における主な欠点は接写時の周辺部画質低下や絞り開放で顕著な周辺減光。接写時の画質低下は許容できるかもしれませんが、F1.8を使った遠景・天体の撮影では修正が必要と感じるかもしれません。特に高ISOを使った際はノイズ増の原因となるので注意。
総合評価
満足度は95点。
ボケの質感やAFの精度など改善点はあるものの、価格やサイズを考慮すると高水準にまとまっている広角レンズ。もしも大口径の広角レンズを手ごろな価格で始めてみたいのであれば、検討する価値のある一本と言えるでしょう。リーバスエンジニアリングと思われるので互換性の保証はありませんが、少なくともα7R Vとの組み合わせでは快適に利用できています。海外で非常に高い評価を得ているレンズで、実際にテストしてみると概ねその通り。ソニー「FE 14mm F1.8 GM」やシグマ「14mm F1.4 DG DN」など、競合製品が無いわけではありません。しかし、価格設定の差を考えると競合するとは言えません。互換性や購入後の保証・アフターケアなども違うと思いますが、そのあたりのリスクなどを考慮してもコストパフォーマンスの高いレンズなのかなと。
初期に登場したAPS-C用のF1.4レンズと比べると、開発・製造技術は飛躍的に進化しているように見えます。今後の新製品にも期待したいところ。