このページでは「VILTROX AF 23mm F1.4 STM Z-mount」のレビューを掲載しています。
評価:
ポイント
手ごろな価格ながらパフォーマンス良好の大口径単焦点。「絞り開放からシャープ」を追求するには不向きだが、F1.4のボケを楽しみたいのであれば打ってつけの一本となる。ただし、シャッタースピードが上限1/4000秒のニコンAPS-C ZカメラにとってF1.4の明るいレンズは晴天下でNDフィルターが必須となるので注意したいポイント。
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 非常に安い | |
サイズ | 適切なサイズ | |
重量 | 適切な重量 | |
操作性 | 絞りリングあり | |
AF性能 | 良好 | |
解像性能 | 絞れば非常に良好 | |
ボケ | 個性はないが良好 | |
色収差 | ある程度の補正が必要 | |
歪曲収差 | 良好 | |
コマ収差・非点収差 | 完璧ではない | |
周辺減光 | 平凡 | |
逆光耐性 | あまり良くない | |
満足度 | コストパフォーマンス良好 |
Index
おことわり
今回は以前から縁のあるPERGEARからお借りしたレンズを使用しています。この際に金銭の授受は無く、レビュー内容に関するチェックや指示などは一切なかったことを先に言及しておきます。基本的には従来通りのレビューです。
まえがき
VILTROXの交換レンズに参入したのは2019年ごろ。比較的新しいレンズメーカーながら、AFレンズを意欲的に開発・製造しており、ソニーEマウント、富士フイルムXマウント、キヤノンRF・EF-Mマウント用レンズを既にリリースしている。ニコンZ用レンズもAPS-C・フルサイズ用が6本あり、この「AF 23mm F1.4 STM」はその中の一つだ。
概要 | |||
---|---|---|---|
|
|||
レンズの仕様 | |||
マウント | Z | 最短撮影距離 | 0.3m |
フォーマット | APS-C | 最大撮影倍率 | 0.1倍 |
焦点距離 | 23mm | フィルター径 | 52mm |
レンズ構成 | 10群11枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F1.4 | テレコン | - |
最小絞り | F16 | コーティング | HD nano |
絞り羽根 | 9 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ65×72mm | 防塵防滴 | - |
重量 | 260g | AF | STM |
その他 | 絞りリング | ||
付属品 | |||
レンズフード・ケース・キャップ |
レンズ構成は10群11枚で2枚のEDレンズと2枚の高屈折レンズを使用。ここ最近の広角レンズとしては非球面レンズを使用していない珍しい設計となっている。最短撮影距離は0.3mとやや長めで、最大撮影倍得率は0.1倍。クローズアップに適した仕様ではない。
価格のチェック
価格は平時で約3.5万円。F1.4の大口径AFレンズとしては非常にリーズナブルで魅力的。この安さの裏にどのような妥協が必要なのか、これからのレビューで確かめる。
VILTROX AF 23mm F1.4 STM | |||
Pergear Nikon Z | |||
Amazon Fujifilm X-mount | |||
Amzon Canon EOS M-mount | |||
Amazon Nikon Z-mount | |||
楽天市場 | Amazon | キタムラ | Yahoo |
ソフマップ | e-BEST | ノジマ | PayPay |
ビックカメラ | ヤマダ | PREMOA |
レンズレビュー
光学的には富士フイルムXマウント用と同じであり、定量的なテスト結果は富士フイルムXマウント用のレビューを参考にして欲しい。
外観・操作性
箱・付属品
基本的にはVILTROXらしいデザインの箱だが、ご丁寧にもレンズの図面までZマウント用が描かれている。大口径Zマウントらしく、マウント面に向かってレンズ直径が大きくなっていることが分かる。
レンズの周囲には緩衝材が詰め込まれている。レンズ本体の他にはフード・ポーチ・説明書が付属している。
外観
外装は総金属製の頑丈な作り。外装の焦点距離やマウントの表示、絞り値などはプリントのように見えて実は刻印である。およそ3.5万円の安いレンズとは感じない、立派なビルドクオリティだ。
前玉・後玉
前玉は同シリーズで統一された52mmフィルターを採用。ニコン純正Z 28mm F2.8やZ 40mm F2と同じフィルターサイズなので、これを機に52mmフィルターを揃えてみるのも面白い。
コーティングは「HD nano多層膜コーティング」を採用しているが、フッ素コーティングなどメンテナンス性に関わるものは施されていない。汚れの付着が想定される現場ではプロテクトフィルターを装着しておいたほうが良いだろう。
レンズマウントは金属製で、4本のビスで固定されている。カメラ装着時に違和感や緩みは全くない。
レンズ後玉の周囲は反射防止のために黒塗りされ、きちんとした逆光対策が施されているように見える。
レンズマウントにはUSB-Cポートを搭載。パソコンと接続することでストレージとして認識し、ファームウェアアップデート用のファイルを適用することが可能。
フォーカスリング
幅広い金属製フォーカスリングを搭載。適度なトルクで滑らかに回転する。回転動作は非の打ち所がなく、3万円台のレンズとは感じない。ただ、Zレンズと比べるとトルクが少し強めにかかっているので、MFにこだわる人は好みが分かれるかもしれない。
ちなみにカメラ側でフォーカスリングの役割をカスタマイズ可能。興味深いことにフォーカスリングに「絞り」を割り当てることもできる。(後述)
絞りリング
F1.4からF16まで1/3段階でF値が変化する絞りリングを搭載。クリック感はなく、無段階で回転するので静止画では使い辛いかもしれない。ただし、トルクは適切で滑らかに回転するので、動画撮影には使いやすいと思う。「A」ポジションも用意されているので、カメラ側で操作したい場合はAで固定するのがおススメ。
ちなみにこの絞りリングを使った際の挙動は通常のZレンズとは少し異なるので注意が必要だ。通常ならば、ライブビュー中にレンズが絞り込むのは「F5.6」までで、それ以上の絞りは露光中のみ動作する。このレンズもAポジションを使用した時は「F5.6」までの実絞りとなる。
しかし、絞りリングを使った際はF16に設定すると、絞り羽根がF16まで動作する。このため、小絞り使用時は特に低照度での撮影時にAFの速度低下が起こりやすい(センサーに届く光量が少ないため)
おそらく、これはレンズ側で「このレンズはF16のレンズですよ」とカメラに認識させて絞りを動作させているのだと思う。それを証明するように、カメラ側がシャッタースピード優先モードだったとしても、絞りリングを「F16」に設定していると絞りがF16に固定されてしまう。絞り優先モード以外の時は「A」ポジションに設定しておいたほうが良いだろう。
とは言え、ISO・シャッタースピード・絞りを全て手動で操作するマニュアルモードならば、通常のZレンズよりも面白い挙動と言える。
レンズフード
金属製のレンズフードが付属している。フードマウントにしっかりとロックできるほか、内側には反射を抑制するための切り込みまである丁寧な仕上がり。やはり3万円台の安い大口径レンズとは思えない作りだ。
装着例
今回はZ fcに装着してみた。カメラとレンズのバランスは良く、収納性も悪くない。敢えて言えばカメラのグリップ性が低く、保持しにくいのが難点。ただし、それはカメラ側の問題である。
厄介なのはカメラ側のシャッタースピード上限が1/4000秒であること。晴天下でF1.4を使う場合は間違いなく露出オーバー(1/4000秒では光量を落としきれない)となるので注意が必要だ。ND8くらいのフィルターを用意しておくのがおススメ。将来的に電子シャッターで1/32000秒くらいまで対応すると問題は解消すると思われる。
AF・MF
フォーカススピード
このレンズのフォーカスはステッピングモーター駆動で動作する。決して電光石火と呼べるフォーカス速度ではないが、大口径レンズとしては良好なフォーカス速度。確実ではないが、カメラやレンズのファームウェアアップデートでさらに改善する可能性あり。
この動画を撮影した時点では古いファームウェアの「Z 7」を使用しているが、最新ファームウェアや「Z fc」装着時はAF-S・AF-Cともに動作が改善しているように見える。
ブリージング
皆無ではないが、極端に目立つような画角変化もない。
精度
Z 7やZ fcに装着して使った限りでは特に問題は感じなかった。
MF
フォーカスリングのレスポンスはリニアで、回転速度に応じてピント移動距離が変化することは無い。ピント全域のストロークは約180度と適度な回転角を備えている。
遠景解像力
F1.4
球面収差の補正状態が良いとは言えず、中央でも少し軟調な写り。コントラストを高めたいのであれば、少なくともF2までは絞っておきたい。フレーム隅はさらに描写が甘いものの、極端な非点収差やコマ収差の影響は無いように見える。低価格なF1.4レンズとしては健闘していると思う。
F2.8
F2.8まで絞ると見違えたように中央部がシャープに写る。ディテールが豊富で、コントラストも高い。海外の評価で「富士フイルムXマウントの中で最もシャープなレンズ」と言及していたのはあながち間違いではない。少なくとも2000万画素のニコDX機には十分過ぎるほどの解像性能と言えるだろう。
ただし、シャープなのは像高5割くらいまで。隅に向かって急速に画質が低下するので、必要であればさらに絞りたいところ。
F5.6
F5.6まで絞っても中央はあまり改善しないが、周辺部はかなり安定する。風景撮影で使いたいのであればF5.6~F8までしっかりと絞って使ったほうが良い。とは言え、フレーム全体の解像性能を重視する場合はあまり適した選択肢では無いと思う。
撮影倍率
撮影倍率は0.1倍。フルサイズ換算で言えば0.15倍。決して寄りやすいレンズではないが、F1.4の開放F値を活かすことで大きな後ボケを得ることが可能。
像面湾曲
少なくとも近距離では強めの像面湾曲が発生する。これが実写で大きく影響する場面は少ないと思うが、テストチャートなどで解像性能を確認する際は気を付けたほうが良い。遠景での影響は小さくなるが、どちらにせよ解像性能が物足りないので絞ることになると思う。
倍率色収差
完璧な補正状態とは言えないが、低価格の大口径レンズとしては良好。極端なコントラスト状況下でもないかぎり、追加の補正が必要とは感じない。
軸上色収差
絞り開放付近で、ピント面前後に紫と緑の色ずれが発生する。面白いことにピント面の直前・直後で目立つ機会は少なく、背景の大ボケに色づくことが多い。このため、いわゆる厄介な「パープルフリンジ」は目立ちにくい。使い勝手のよい絞り開放の描写だと思う。
前後ボケ
前後にボケ質の差が少ないニュートラルな描写。美ボケでも個性的なボケでもないが、妙な偏りが無く使いやすい。この傾向は接写時も同様。微ボケ部分が少し硬いと感じることもあるが、絞り開放は基本的に低コントラストな描写で、硬さが緩和しているように感じる。
玉ボケ
このレンズで特徴的な点として「非球面レンズを使っていない」ことが挙げられる。非球面レンズを使うことによって現れる「玉ねぎボケ(輪線ボケ)」が発生せず、とても綺麗な玉ボケの描写を実現している。
ただし、口径食の影響が強い。中央と比べて隅はボケが小さく、円形から程遠いラグビーボールのような形状に変形している。
歪曲収差
このレンズはカメラ内補正に対応していない。
にも関わらず、歪曲収差は全く無いように見える。光学的にとても良好な補正状態だ。
周辺減光
ピント位置によらず、絞り開放で少し目立つ。とは言え、フルサイズ用レンズと比べると光量落ちの影響は少なく、F1.4でも気兼ねなく使えるように見える。絞りによる改善効果もあり、F2.8まで絞れば大部分は解消する。
コマ収差
完璧な補正状態とは言えず、絞り開放で隅をクロップすると点光源が変形しているのが分かる。絞りによる改善速度は思いのほか遅く、F4くらいまでは影響が残る。これが遠景の解像性能に影響していると思われ、最良の結果を得るにはF5.6からF8まで絞っておきたいところ。
逆光耐性・光条
HDnano多層膜コーティングを採用しているが、お世辞にも逆光に強いレンズとは言えない。太陽をフレームに入れると、フレアによるコントラストの低下や、目立つゴーストが発生する。フレアによるコントラストの低下は場合によってクリエイティブな表現を助ける描写となるかもしれないが、目立つゴーストは邪魔にしかならない。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- DX Zマウントでは貴重なF1.4レンズ
- 手ごろな価格
- 総金属製の立派なビルドクオリティ
- 52mmの適度なフィルターサイズ
- USB-Cポートによるファームウェアアップデート対応
- 快適な操作性のフォーカスリング
- 実絞りに対応した絞りリング
- 良好なフォーカス性能
- 絞った際の中央解像
- 倍率色収差の補正が良好
- 扱いやすいボケ質
- ムラのない玉ボケ
- 歪曲収差の補正状態が良好
- 穏やかな周辺減光
全体的に見てコストパフォーマンスの高いレンズ。手ごろな価格ながら、高水準なビルドクオリティと光学性能、機能性の組み合わせと感じる。完璧な光学性能ではないものの、絞りを開けた際と閉じた際の特性が程よく変化して使いやすい。オートフォーカスもリバースエンジニアリングのレンズとしては十分良好でAF-Cで使えるシーンも多いはず。
悪かったところ
ココに注意
- 防塵防滴非対応
- フッ素コーティングなし
- 絞りリングが無段階で回転する
- Z DXカメラのSSが1/4000秒まで
- 周辺部はかなり絞らないと解像しない
- 撮影倍率が低い、WDが長い
- 軸上色収差が目立つ場合がある
- 口径食が強い
- 絞ってもあまり改善しないコマ収差
- 逆光耐性
現状のZ DXモデルに「F1.4・F2レンズは明るすぎる」という点は理解しておく必要がある。前述したように晴天下ではF1.4どころかF2レンズでも露出オーバーとなる可能性があり、F1.4を活かしたいのであればNDフィルターは必携だ。将来的に高速電子シャッターに対応するモデルを期待したい。
そのほか光学的な欠点をいくつか挙げたが、3.5万円の大口径レンズに過度な期待を抱かなければ、全体的に許容範囲内に収まっている。
総合評価
満足度は95点。
コストパフォーマンスの高いレンズ。ビルドクオリティは分不相応と感じるほど良好で、光学性能は全体的に良好。絞り開放の少し軟調な描写や逆光時のコントラスト低下を許容できるのであればおススメしやすい。少し絞れば中央と広い範囲は高いシャープネスを得ることができ、F8まで絞れば風景撮影に使えないこともない。
ボケは癖が少なく扱いやすい。色収差の影響は限定的で、ハイコントラストな状況で収差が目立つシーンはそう多くないはず。実絞り式の絞りリングはひと癖あるものの、「A」ポジションで普通の使い方も可能。もしも社外製レンズやNDフィルターの使用に抵抗が無ければ、面白いレンズになると思う。
購入早見表
VILTROX AF 23mm F1.4 STM | |||
Pergear Nikon Z | |||
Amazon Fujifilm X-mount | |||
Amzon Canon EOS M-mount | |||
Amazon Nikon Z-mount | |||
楽天市場 | Amazon | キタムラ | Yahoo |
ソフマップ | e-BEST | ノジマ | PayPay |
ビックカメラ | ヤマダ | PREMOA |
作例
関連レンズ
関連記事
- VILTROX AF 40mm F2.5 致命的な欠点はなくシンプルながら堅実な作り
- ニコン Z50II レビューVol.2 メニュー編
- SG-image AF 55mm F1.8 STM レンズレビューVol.2 解像チャート編
- FUJIFILM X100VI は旧世代の製品よりも分解しやすい
- NIKKOR Z 35mm f/1.4 はヴィンテージライクな描写で好みが分かれる
- Godoxが100Ws 出力のクリップオンストロボ「V100」を正式発表
- パナソニック LUMIX DC-G99M2 正式発表 & 予約販売開始
- FUJIFILM X-M5 は動画も撮れる静止画カメラだがAFには改善の余地がある
- FE 28-70mm F2 GM は最高の単焦点以上の解像性能
- キヤノン EOS R1 は1Dの位置付けや設計思想を完全に継承