タムロン「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」のレビュー第五弾 諸収差編を公開。諸収差を抑えた高い光学性能を実現しつつも、どこか柔らかさの残るボケを実現した「タムキュー」らしいレンズに見えます。
今回のまとめ
マクロレンズらしい諸収差を抑えた高い光学性能を実現しつつ、堅苦しさのない柔らかい描写が得られるレンズ。タムキューの特徴である「柔らかなボケ味、高い解像力、シャープな描写」を見事に体現した製品となっています。
This lens achieves high optical performance with minimal aberrations, while also providing a soft, natural-looking image. It is a product that beautifully embodies tamron90's signature features of “soft bokeh, high resolution, and sharp rendering”.
90mm F/2.8 Di III MACRO VXDのレビュー一覧
- 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD レンズレビューVol.5 諸収差編
- 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD レンズレビューVol.4 ボケ編
- 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD レンズレビューVol.3 解像チャート編
- 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD レンズレビューVol.2 遠景解像編
- 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編
Index
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
F2.8の絞り開放から大きな問題はありません。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
絞り値全域で良好な補正状態です。コントラストの高い領域でも目立ちません。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
色収差の影響はほとんどありません。とても良好な補正状態です。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
ごく僅かな糸巻き型。ほぼゼロ。
ミラーレス用のマクロレンズはデジタル補正前提で歪曲収差が残っていることもありますが、このレンズは光学的にきちんと補正されています。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
絞り開放から大部分で問題ありません。
球面収差
ピント面の前後ボケ質感に違いはほとんど無く、球面収差が良好に補正されていることが分かります。また、軸上色収差のテストから、絞りによるピント位置の移動が少ないことも明らか。
まとめ
厳しめの光環境でも色収差はほとんど発生しない良好な補正状態。ボケの色づきが少ないため、滑らかで綺麗。また、F2.8の絞り開放からコントラストが高く、マクロレンズらしいシャープな切れ味。撮影距離による変動が少なく、どのような状況でも安定感のある結果。
ミラーレス用レンズでしばしば見かける(デジタル補正前提の)極端な歪曲収差はなく、夜景やイルミネーションで問題となるコマ収差も目立たない。球面収差や像面湾曲の目立つ問題もなく、全体的に使い勝手の良いレンズ。
諸収差を抑えた良好な光学性能は、裏を返せば個性的とは言えません。また、色収差の悪影響は目立たないものの、高解像でコントラストの高い結果は、しばしば騒がしい背景となる可能性があります。
しかしこのレンズはそうならず、高解像ながら適度なコントラストと縁取りが目立たない絶妙なさじ加減。これは諸収差を眺めているだけでは理由が分からず、光学設計者がふりかけた一つまみの魔法の粉となっているよう。
マクロレンズらしい諸収差を抑えた高い光学性能を実現しつつ、堅苦しさのない柔らかい描写が得られるレンズ。タムキューの特徴である「柔らかなボケ味、高い解像力、シャープな描写」を見事に体現した製品となっています。
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