このページではソニー「FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II」のレビューを掲載しています。
FE 70-200mm F4 MACRO G OSS IIのレビュー一覧
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビュー 完全版
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビューVol.5 諸収差編
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビューVol.4 ボケ編
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビューVol.3 解像チャート 編
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビューVol.2 遠景解像 編
- FE 70-200mm F4 MACRO G OSS II レンズレビューVol.1 外観・操作・AF 編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | F4ズームでは最高値 | |
サイズ | 比較的小さい | |
重量 | 比較的軽い | |
操作性 | 操作類が充実 | |
AF性能 | 文句なし | |
解像性能 | 大部分で良好な性能 | |
ボケ | 微ボケの縁取りが硬い | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | 補正必須の糸巻き型 | |
コマ収差・非点収差 | 良好な補正状態 | |
周辺減光 | 望遠端で目立つ | |
逆光耐性 | 場合によって目立つが良好 | |
満足度 | 汎用性の高いF4ズーム |
評価:
何でも屋のF4ズームレンズ
F4望遠ズームレンズの中では最も高価な選択肢ですが、小型軽量で収納性が高く、ズーム全域で0.5倍の高い撮影倍率に対応。さらにテレコンバージョンレンズ対応、豊富なコントロール、高速AFなど機能的にも優れています。F2.8の開放F値が必要なければ汎用性が高く何でもでき望遠ズームに仕上がっています。
It is the most expensive choice among F4 telephoto zoom lenses, but it is compact, lightweight, easy to store, and supports a high magnification of 0.5x across the entire zoom range. In addition, it has excellent functionality, including tele conversion lens compatibility, a wide variety of controls, and high-speed AF, making it a versatile and do-everything telephoto zoom if you don't need an F2.8 maximum aperture.
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 微ボケがやや見苦しい | |
子供・動物 | 取り回しが良く高速AF | |
風景 | 携帯性が良く高解像 | |
旅行 | 同上 | |
マクロ | 全域0.5倍で高画質 | |
建築物 | 糸巻き型歪曲に注意 |
Index
まえがき
2023年7月に発売された第二世代のF4 望遠ズームレンズ。全く新しい光学設計と伸びるズーム構造を採用することで、従来の「FE 70-200mm F4 G OSS」よりも短い縮長を実現。収納性が良くなり、スリングバッグなど小さなカメラバッグで携帯しやすくなっています。小型軽量化と同時に、前モデルの欠点であった最短撮影距離と最大撮影倍率も改善。ズーム全域で0.5倍の撮影倍率と大幅に進化しています。単に接写できるのみならず、フローティング構造で近接時も高い光学性能を維持しているのが特徴。
さらにXDリニアモーターによりズーム全域で静止画のAF速度が最大20%高速化。フォーカスブリージングを抑えた設計。テレコンバージョンレンズ対応により最大400mmまで拡張可能。2.0X装着時は「140-400mm F8」でズーム全域1.0倍の等倍マクロに対応できるのだから驚異的。
- ソニーストア
- 仕様表
- データベース
- 管理人のFlickr
- 発売日:2023年7月28日
- 初値:224,730円
- フォーマット:フルサイズ
- マウント:E
- 焦点距離:70-200mm
- 絞り値:F4-F22
- 絞り羽根:9枚
- レンズ構成:13群19枚
- 最短撮影距離:0.26(W)-0.42(T)
- 最大撮影倍率:0.5倍
- フィルター径:72mm
- サイズ:φ82×149mm
- 重量:794g
- 防塵防滴:対応
- AF:XDリニア
- 手ぶれ補正:搭載
- コーティング:
・フッ素コーティング - その他機能:
・テレコンバージョンレンズ対応
・フルタイムDMF
・ズームロックスイッチ
価格のチェック
売り出し価格は224,730円。高性能・高機能化した第二世代のF4望遠ズームレンズですが、付加価値が加わったぶん価格も大幅に上昇しています。2023年7月現在、キヤノン「RF70-200mm F4 L IS USM」を抜いて最も高価なF4 望遠ズームレンズと言えるでしょう。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
従来通りインターナショナルオレンジを基調としたソニーαシリーズらしいデザイン。表面にはレンズ名や付属品などが表示されていますが、意匠は最小限でシンプル。
従来からの変更点として、環境配慮と省資源化を意識した内装を採用しています。紙製の包装が若干臭いものの、環境負荷低減の取り組みを評価。
レンズ本体の他、レンズフード、前後キャップ、三脚リング、説明書と保証書が付属。G Masterシリーズのようなレンズケースはありません。
外観
ざっと触った質感としては全体的にプラスチックのように感じますが、素材の詳細は不明。全体的にオフホワイトのマットな塗装で指紋が付きにくい。塗装が傷つきやすく、塗装が禿げた部分の黒色が目立ちやすいのは残念。購入初日の半日でフード・本体どちらも部分的にスレが発生。
パッと見はキヤノンのような白レンズですが、ソニーは少し乳白色寄りで、キヤノンRFは白に近い。シリアルナンバーやCEマークなどのロゴは表面にプリントされています。ちなみに製造国は中国。
伸びるズーム構造を採用しており、200mmで最大5.5cmほど伸びます。おそらくプラスチック製、伸ばした際のガタツキはありません。
ハンズオン
従来のF4ズームと比べると小型軽量…とは言うものの、手に取った印象としては前モデルとそれほど変わりません。実際には2.6cm短く、46g軽量ですが、キヤノン「RF70-200mm F4 L IS USM」を触った後だと(小型軽量の意味では)感動が薄い。
前玉・後玉
フィルター径は従来通り72mmに対応。前モデルでは対応していなかったフッ素コーティングを採用しているのでメンテナンス性が向上。とは言え、前玉に汚れやダメージが想定される場合はプロテクトフィルターを装着したほうが良いでしょう。
レンズマウントは金属製で、4本のビスで固定されています。周囲には防塵防滴用のシーリングあり。
マウント付近はテレコンバージョンレンズを装着できるように空けられています。周辺は反射を抑えるために黒塗りされ、特に光を反射するようなパーツはありません。
フォーカスリング
幅2cmのゴム製フォーカスリングを搭載。フォーカス操作時のストロークは0.5倍~∞で180度あり、焦点距離全域で一貫しています。リニアレスポンスで動作するため、再現性の高い操作が可能。リングは滑らかに回転しますが、個人的な好みよりもかなり緩め。180度のストロークがあるものの、無限遠側の微調整は緩々なリングを操作するため少し難しい。
ズームリング
2.5cm幅のゴム製ズームリングを搭載。70mmから200mmまで90度未満の回転角で操作可能。フォーカスリングと比べると遥かに重く、135mmあたりから200mmにかけてトルクが少し強くなります。悪くない操作性ですが、インナーズームと比べるとやや見劣りする可能性あり。
ズームリングは70mmでのみロック可能。
スイッチ
上から順に「AF/MF切り替え」「フルタイムDMF」「フォーカスリミッター」「OSS」「OSSモード」を操作する五種類のスイッチを搭載。フルタイムDMF機能により、AF前でもMFによるフォーカス操作が可能となっています。誤操作を嫌う場合はオフにしておくと良いでしょう。フォーカスリミッターは3系統の操作が可能で、F4 望遠ズームながらマクロ域のリミッターを備えているのが特徴的。3系統のスイッチは中央にセットし辛いと思いきや、程よいトルクで誤操作する可能性が低い。
AFLボタン
従来通り3か所にAFLボタンを配置。操作性は従来通りと思いきや、少しカメラ側に寄ったためか操作しやすい印象あり。
レンズフード
プラスチック製の花形レンズフード。前モデルのように垂直に立てた際に安定する円筒型のフードが良かったです。また、本体と同じくオフホワイトの塗装で、スレに弱いのが悩ましいところ。フードの内側に反射防止用のフェルト生地は張り付けられていませんが、光の反射を抑えたマットブラックの塗装が施されています。フードは逆さ付けに対応。
三脚リング
レンズには脱着可能な三脚リングが付属。リングの内側には摩擦抵抗と傷防止の意図があると思われるフェルト生地が張り付けられています。固定用のノブが緩んでもリングが脱落しない設計。ただし、三脚リングの中ではノブが緩みやすい印象あり。
三脚座はアルカスイス互換ではありません。サードパーティ製の三脚リング・三脚座アクセサリーが必要です。
三脚座の固定は1/4ネジ穴とビデオボス用穴の二つ。3/8の大型ネジには対応していません。
カメラ装着時の重心はカメラ寄り。
F-Foto レンズプレート
F-Fotoより本レンズの対応レンズプレートを提供していただきました。
専用設計ではなく、あくまでも「対応品」であり、レンズ三脚座の底面からはみ出る形状。ただし、ビデオボスと1/4ネジに対応しているのでプレートの回転ズレを防ぐことが可能。
装着例
α7R Vに装着。フロントヘビーとならず、手持ち撮影でも快適に使用可能。カメラグリップとレンズの間はやや狭く、素手で握った状態でギリギリ。厚手のグローブを装着すると窮屈と感じるかもしれません。また、三脚リングをグリップ側へ回転すると干渉しやすい。
AF・MF
フォーカススピード
レンズはフローティング方式で2つのユニットをそれぞれ2基のXDリニアモーターで駆動。ソニー曰く、最大で20%の高速化を実現しているとのこと。
実際に動作を確認してみたところ。確かに高速AFを実現しているように見えます。特にAF-C時の無限遠→近距離への動作時にXDリニアモーターらしい超高速。ただし、マクロ域に近いとAF性能はやや低下。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
ズーム全域で0.5倍の高い接写性能を備えているレンズですが、全体的にフォーカスブリージングはよく抑えられています。
精度
α7R Vとの組み合わせで特に問題ありません。
MF
前述したように、リニアレスポンスのフォーカスリングで操作します。フォーカスリングが緩々のため、上質な体験とは感じません。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:ILCE-7RM5
- 交換レンズ:FE 70-200mm F4 G MACRO OSS II
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
70mm
全体的にF4から良好と言ってよい結果が得られています。中央はこの解像チャートで得られる限界値に到達しており、もう少し伸びる可能性あり。周辺部もかなり良好な画質で、F8まで絞ると中央に近い結果となる。隅はさらに低下するものの、それでも「極わずかに甘い」と言う程度であり、F5.6まで絞ると改善します。少なくとも像高の7~8割はF4から全く問題ありません。
中央
非常にシャープで、何も言うことがありません。
周辺
中央と同じく非常にシャープ。
四隅
細部のコントラストが微妙に低下している以外は特に問題ありません。コントラスト低下の要因は非点収差やコマ収差ではなく、Lightroomではオフにできない倍率色収差の補正が適用されていると思われます。(ボディ出力のJPEGで「色収差補正」をオフにした状態では収差が残っていることを確認)
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F4.0 | 4804 | 4257 | 3521 |
F5.6 | 4735 | 4273 | 4008 |
F8.0 | 4822 | 4570 | 3945 |
F11 | 4509 | 4042 | 3768 |
F16 | 3734 | 3514 | 3285 |
F22 | 2895 | 2720 | 2610 |
実写確認
100mm
中央から隅まで、F4で4000本を超える非常に良好な結果が得られています。均質性が非常に高く、どこを切り取っても大きな違いがありません。ピークは隅の解像度が改善するF8ですが、必要性を感じなければF4でも優れた性能と言えるでしょう。
中央
優れた結果。何も言うことがありません。
周辺
優れた結果。何も言うことがありません。
四隅
優れた結果。何も言うことがありません。敢えて言えば、中央や周辺部と比べると僅かにコントラストが低下しているように見えます。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F4.0 | 4825 | 4618 | 4135 |
F5.6 | 4804 | 4650 | 4367 |
F8.0 | 4860 | 4650 | 4506 |
F11 | 4353 | 4217 | 4212 |
F16 | 3734 | 3496 | 3685 |
F22 | 2771 | 2700 | 2687 |
実写確認
135mm
100mmと同じく、文句なしの性能。
中央
優れた結果。何も言うことがありません。
周辺
優れた結果。何も言うことがありません。
四隅
優れた結果。何も言うことがありません。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F4.0 | 4929 | 4648 | 4340 |
F5.6 | 4966 | 4822 | 4241 |
F8.0 | 4947 | 4698 | 4604 |
F11 | 4289 | 4388 | 4127 |
F16 | 3657 | 3614 | 3456 |
F22 | 2842 | 2719 | 2538 |
実写確認
200mm
中央に若干の低下が見られるものの、依然として非常に良好。なんの問題もありません。隅は広角端と同じく、若干の低下が発生。絞っても改善することはありません。と言っても、F4から十分に良好な結果を得ることができます。
中央
数値では若干の低下があるものの、目視で確認しても差を知覚できない程度。誤差の範囲内であり、優れた結果に違いありません。
周辺
中央と同じく非常に良好。
四隅
数値上は中央よりも少し低下していますが、実際には非常に良好な水準を維持しています。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F4.0 | 4830 | 4389 | 3698 |
F5.6 | 4545 | 4605 | 3950 |
F8.0 | 4651 | 4323 | 3885 |
F11 | 4333 | 4140 | 3714 |
F16 | 3609 | 3316 | 3333 |
F22 | 2899 | 2722 | 2528 |
実写確認
遠景解像力
テスト環境
- 2023年7月28日:晴れ・微風
- カメラ:α7R V
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO2
- 露出:絞り優先AE ISO 100固定
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネスオフ
・ノイズリダクションオフ
・レンズ補正オフ
70mm
中央
F4から非常に良好。絞っても画質に大きな変化はありません。F11以降は回折により画質が徐々に低下。
周辺
中央と同じくF4から非常にシャープ。F5.6でコントラストが僅かに改善する以外で、絞りによる変化はありません。
四隅
中央や周辺部と比べると細部の解像性能が僅かに低下しているように見えます。F5.6-F8まで絞ると改善。
100mm
中央
70mmと同じくF4から非常に良好。
周辺
中央と同じくらいシャープで、F4から問題なし。
四隅
70mmと比べるとF4から良好な結果が得られています。絞る必要はほとんどありません。
135mm
中央
F4から十分にシャープですが、絞るとコントラストが僅かに改善します。
周辺
F4から良好で、絞りによる変化はほとんどありません。
四隅
周辺部と同じく非常に良好。
200mm
中央
望遠端でもF4から非常に良好で、絞りによる画質の変化は小さい。
周辺
中央と同じくF4からシャープな結果。
四隅
周辺部と同傾向。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
ズーム全域、絞り全域で極端に目立つ領域はありません。全体的に良好な補正状態で、フレームの端をよく見ると僅かに発生している程度。最も目立つのは70mmですが、それでも微々たる収差の量。カメラやソフトウェアで簡単に、そして悪影響もなく修正可能。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
70mm
かなり厳しめの状況でもボケに色づきはほとんどありません。大部分の撮影シーンで心配することなくF4を使うことができそうです。
135mm
70mmと同じ。
200mm
他の焦点距離と比べると色収差が僅かに増加しているようにも見えますが、誤差の範囲内。実写で知覚するような収差量ではないはず。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
ぱっと見は前後の質感に大きな差のないニュートラル傾向のボケ質に見えます。よく見比べてみると、僅かに前ボケのほうが滑らかで、後ボケは少し縁取りが硬い。ただし、ボケが大きくなると違いはほとんど分かりません。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
70mm
フレーム隅に向かって若干の口径食が見られるものの、影響は極端ではなく妥協できる範囲内に収まっているように見えます。玉ボケの内側は滑らかで綺麗、よく見ると玉ねぎボケの兆候が見られますが無視できる範囲内。ボケの縁取りは弱く、色収差も良好に補正されているように見えます。
100mm
基本的に70mmと同じ傾向が続きます。
135mm
70mm・100mmと同じく、口径食が目立たず、F4から快適に利用可能。
200mm
他の焦点距離と比べると口径食の影響が強く、状況によっては少し不快と感じるかもしれません。これはこれでアリと感じる人もいると思いますが、好みが分かれそうに見えます。
ボケ実写
70mm
玉ボケのサイズによっては口径食の影響が小さかったものの、一般的な被写体をぼかす場合は隅に向かって口径食の影響が強くなっているように見えます。ボケ質そのものは滑らかですが、それも被写体との距離が長くなると、背景が少し騒がしくなる模様。
135mm
70mmと比べるとボケが大きく、全体的に良好な描写が続いています。撮影距離が長くなると、背景が騒がしくなる兆候が見られますが、それでも許容できる範囲内に収まっている印象。
200mm
口径食は強いはずですが、ボケが大きいのであまり気になりません。後ボケにはわずかな縁取りが見られるものの、大きなボケと比べて縁取りの割合が小さく、やはり心配するほどの欠点ではないかなと思います。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立てて撮影したのが以下の通り。
70mm
70mm F4でも背景はいくらかぼかすことが可能。ただし、ボケの縁取りは硬く、積極的に使いたい描写とは言えません。とは言え、ボケが小さいので大きな問題となることは少ないはず。バストアップまで近寄れば満足のいくボケが得られ、顔のクローズアップで心地よい描写。
135mm
70mmよりもボケが大きく、比較的良好な質感が得られているように見えます。上半身程度まで近寄ると、全体的に綺麗なボケを得ることが出来ます。バストアップでさらに滑らかな描写。
200mm
口径食はいくらか目立つものの、全身をフレームに入れても十分な質感のボケを得ることができます。縁取りは弱く、色収差の影響もほぼ皆無。膝上くらいまで近寄ると問題点はほとんどなし。
球面収差
全体的に良好な補正状態ですが、よく見るとボケの縁取りに少し差があるようです。この傾向は前後ボケ質のチェックで確認済み。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
70mm
過度ではないもの直線的な被写体を撮影した際には糸巻き型の歪曲収差が目に付きます。手動で完璧に補正するのは難しく、レンズプロファイルを使うのがおススメ。
100mm
70mmよりも強めの糸巻き型。この強さの歪曲は直線的な被写体以外でも問題となる可能性あり。
135mm
100mmと同じく強めの歪曲収差。
200mm
100mmや135mmと同様。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
70mm F4(MFD・無限遠)
最短撮影距離ではあまり目立たないものの、無限遠側では四隅にいくらか減光が発生。1段絞ると解消しますが、F4を使用する場合はレンズ補正が必要です。
135mm F4(MFD・無限遠)
広角端・望遠端と比べると影響が僅か。F4でも問題ありませんが、気になる場合は1段絞ると解消します。
200mm F4(MFD・無限遠)
このレンズで最も周辺減光が強くなるポイントが200mmの無限遠側。1段絞るとほぼ解消しますが、光学的に完璧に抑えたい場合はF8まで絞ったほうが良いでしょう。もちろん、レンズ補正で綺麗に修正可能。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
ズーム全域で点光源の変形は最小限。影響がゼロとは言えないものの、無視できる範囲内に収まっているように見えます。
逆光耐性・光条
70mm
完璧ではないものの、フレアとゴーストを良く抑えているように見えます。もちろん、露出を上げると隠れていたフレアが目立つ場合があり、さらに小絞りを使うと影響が強くなる。光源を隅に配置した場合は絞っても影響が軽微。コントラストは良好に維持されており、肯定的に評価できる逆光耐性。
200mm
70mmと同じく、フレアやゴーストは良好に抑えられています。露出を上げたり絞ったりすると目立つ場合もありますが、それでもコントラストは良好。
光条
シャープな光条となるのはF11あたりと遅め。F16付近で切れ味の良い光条が得られます。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 小型軽量
- 三脚リング・三脚座に対応
- 防塵防滴
- テレコンバージョンレンズ対応
- 豊富なスイッチ群
- 高速AFと0.5倍のハーフマクロ
- フォーカスブリージングが良く抑えられている
- 近距離でもズーム全域で良好な解像性能
- 良好な色収差補正
- 滑らかな玉ボケ・大きなボケ
- コマ収差補正が良好
- 逆光耐性が良好
- 絞ると綺麗な光条
縮長が短く収納性に優れていること、ズーム全域で0.5倍のハーフマクロに対応していること、がこのレンズの特徴的な強み。さらに補うように、ズーム全域で高い光学性能を備え、操作や機能も充実しています。開放F値が「F4」であることを除けば、何でも屋と言える望遠ズームレンズ。ハーフマクロは決してお飾りではなく、接写時も画質の低下や像面湾曲が抑えられ、実用性の高い結果を得ることができます。特に前モデルは最短撮影距離が長く、寄りにくかったことを考えると、大幅なアップデートと言えるでしょう。接写時でもXDリニアモーターによる高速AFで快適な撮影体験が得られ、効果的な手振れ補正で手持ち撮影も簡単。ボケが大きい場合は滑らかで綺麗な描写です。
悪かったところ
ココに注意
- F4ズームとしては高価
- 内筒が伸びる
- 花形レンズフードで立たせにくい
- 背景の微ボケが少し縁取りあり
- 望遠端でボケに口径食の影響が目立つ
- 未補正で強い糸巻き型歪曲
- ズーム両端のF4で目立つ周辺減光
悩ましいのは価格設定。実売20万円を超えており、前モデルと比べて遥かに高い。さらに、F4望遠ズームの中では他社を含めて最も高価な選択肢となっています。ここまで高いと、社外製のF2.8望遠ズームレンズも選択肢に入ってくるのではないかなと。
画質的に気を付けておきたいのは未補正RAWで目立つ歪曲収差と周辺減光。レンズプロファイルで簡単に修正できるとは言え、プロファイルに対応していない場合は手動補正が必要となります。
また、背景の微ボケは縁取りが強く、背景との距離やボケの大きさによっては少し騒がしく見えます。ディールブレーカーと言えるほど見苦しい描写ではないものの、ポートレートなどでボケの質感を重視する際は気を付けたほうが良いかもしれません。ズーム操作により内筒が伸びるため、収納時は70mmに戻す必要があります。人によっては防塵防滴や耐衝撃性でマイナスと感じるかもしれません。格納時の収納性は魅力的ですが、このあたりはトレードオフと言えるでしょう。
総合評価
満足度は99点。
高価なF4望遠ズームではあるものの、寄って良し、引いて良し、開けて良しの便利なレンズに仕上がっています。まさに何でも屋。テレコンバージョンレンズにも対応しているため、F2.8の開放F値が必要なければこれで大部分の需要を補うことが出来ると思います。
併せて検討
FE 70-200mm F4 G OSS
より手ごろな価格で手に入る前モデル。インナーズームの金属鏡筒・防塵防滴の堅牢な鏡筒ですが、テレコンバージョンレンズには非対応。最短撮影距離がとても長い点には注意が必要ですが、主に遠距離の撮影であれば不満は感じ無いはず。
70-200mm F2.8 DG DN OS
大きく重いものの、F2.8の大口径に対応したシグマ製のズームレンズ。純正のように15fps以上の高速連写には対応していませんが、贅沢に使ったFLD/SLDガラスや効果的な手振れ補正を備えています。価格はソニーG2と同程度。F2.8がどうしても必要ならシグマかタムロン、それ以外ならソニーと言ったところ。
70-180mm F/2.8 Di III VC VXD G2
前モデルから、主に望遠端の周辺画質が向上し、手振れ補正が追加された第二世代。ソニーやシグマよりも低価格で、小型軽量。ソニーほどではないものの、広角側における撮影倍率は高め。ただし、ソニーほどフラットな像面で高画質なマクロではありません。
70-180mm F/2.8 Di III VXD
タムロンG2よりも安く、F2.8望遠ズームとしては最も手ごろな選択肢。光学手振れ補正が非搭載で、望遠側の周辺部で性能が低下するものの、高速AFや広角側の良好な結果を得ることができます。
購入早見表
作例
関連レンズ
- FE 70-200mm F2.8 GM OSS II
- FE 70-200mm F2.8 GM OSS
- FE 70-200mm F4 G OSS
- FE 70-300mm F4.5-5.6 G OSS
- 70-200mm F2.8 DG DN OS
- 70-180mm F/2.8 Di III VC VXD G2
- 70-180mm F/2.8 Di III VXD
- 70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD
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