このページでは富士フイルム「X-S10」を実際に使ってみて感じたオートフォーカスシステム・マニュアルフォーカスシステムの良いところ・悪いところについてレビューを公開しています。
Index
まえがき
X-S10のおさらい
カメラの特徴
- 商品ページ/仕様表
- 説明書
- データベース
- 管理人のFlickrアルバム
- 発売日:2020年 11月19日
- 売り出し価格:?118,800(税込)
- イメージセンサー:X-Trans CMOS IV
ー有効画素数:2,610万画素
ーローパスフィルタ:なし
ー裏面照射型:○
ー手ぶれ補正:5軸6段分 - プロセッサ:X-Processor 4
- AF:
ーAF方式:ハイブリッド
ー測距点:425点
ーカバーエリア:約100%
ー検出機能:顔・瞳 - 動画:
ー4K:?30p
ーFull HD:?240p - ファインダー:0.39型 OLED 236万ドット 0.62倍
- モニター:3.0型 液晶 104万ドット バリアングル
- 通信機能:2.4GHz Wi-Fi・Bluetooth v4.2
- 対応メディア:SDXC UHS-I
- バッテリー:NP-W126S
- サイズ:126.0×85.1×65.4mm
- 重量:465g
- 「X-S10」と「X-T30」の外観やスペックの違い
- 「X-S10」と「X-T4」の外観やスペックの違い
- 「X-S10」と「X-T3」の外観やスペックの違い
2020年に登場した富士フイルムの新シリーズ「S」を冠された新コンセプトのミラーレス。「X-T200」のコントロールレイアウトを継承しつつ、「X-T30」のようなスペックに、「X-H1」のようなグリップを搭載し、新開発の小型ボディ内手ぶれ補正を搭載したカメラです。
Xシリーズでお馴染みの「シャッタースピード」「ISO感度」「ドライブダイヤル」が無くなり、代わりに前後のコマンドダイヤルとモードダイヤル、そして左肩のFnダイヤルでカメラをコントロールします。X-T200やX-A7からのステップアップに最適なカメラである一方、X-E3やX-T30のような操作に慣れていると少し戸惑うかもしれません。
中身はX-Trans CMOS 4とX-Processor 4を搭載した富士フイルム最新カメラらしい仕様となっています。X-T30と同じく、連写時のバッファは非常に限定的ですが、APS-Cでは珍しいボディ内手ぶれ補正や競争力のある動画機能を備えています。また、X-T4など最新カメラと同等の仕上がり機能(フィルムシミュレーションや明瞭度設定、カラークロームブルーなど)を実装。富士フイルム機としては非常にコストパフォーマンスの高いカメラと言えるでしょう。
ただし、ファインダーやモニターの仕様は古いX-Txxシリーズを継承しています。この価格帯のファインダーとしては不足ありませんが、少し変化を見てみたかったところ。バリアングルモニタを搭載しているので、撮影体験には少し変化があるかもしれません。
機能面深掘り
X-T30と比べてアップグレードしている点は以下の通り。
- 5軸6段分 ボディ内手ぶれ補正
- 圧縮RAW
- AF性能
- MP4出力
- Full HD 240p
- 連続撮影時間 4K 30分・Full HD 30分
- フィルムシミュレーション
クラシックネガ・エテルナ ブリーチバイパス - カラークロームブルー
- 明瞭度設定
- HDR合成
- トーン調整
- AWB 白優先・雰囲気優先
- USB 3.2 Gen1×1
ファームウェアアップデートでX-T30も強化される可能性はありますが、2020年11月時点でX-S10はX-T30と比べて、価格差以上の優位性があるように見えます。特にボディ内手ぶれ補正とフィルムシミュレーションなど仕上がり機能の強化は大きいと感じる人が多いのではないでしょうか。
価格をチェック
売り出し価格は118,000円。X-T30が10万円ちょっとで売り出されたことを考えると、機能性の面でコストパフォーマンスが優れた1台ということが出来ます。
オートフォーカス
AFメニュー
メインメニューにはAF/MF専用のタブが用意されているので非常にアクセスしやすい構造となっています。機能性も十分良好で、特に過不足は感じません。
AFエリア
基本となるフォーカスエリアは3種類から選択可能。「シングル」「ゾーン」はそれぞれ6段階・3段階でサイズの変更が可能です。「ALL」はシングルからワイド(全域)までのサイズ調整を一括で操作できるモードです。AFモードをいちいち呼び出したくない場合は「ALL」で操作すると素早く変更可能。
AFエリア移動
D-Padの無いX-S10でAFエリアを移動する場合、操作方法は「AFジョイスティック」もしくは「タッチパッドAF」「タッチAF」の3種類。他社のようなダイヤル操作によるエリア移動には対応していません。
AFエリアを中央に戻したい場合はフォーカスフレーム選択モード時に「DISP」ボタンを押すと中央に移動します。AFジョイスティック押し込みでフレーム中央に戻る機能が存在しないのは不思議でなりません。(押し込み機能は「拡大・縮小」「フォーカスフレーム選択」機能のみ)
フォーカスレバー押し込みボタンは初期設定で拡大縮小に対応。「フォーカスエリア選択」に切り替えることも出来ますが、レバー操作で「ダイレクト移動」に設定していない限り割り当てる必要はありません。
初期設定は「フォーカスリア選択」となっています。この場合、ジョイスティックを操作することで選択モードに自動的に切り替わりつつ、AFエリアの移動が可能です。この際にダイヤル操作でフォーカスエリアのサイズを切り替えることも出来るので便利。
「ダイレクト移動」に設定すると、「フォーカスエリア選択」モードに切り替わらずにフレームを移動できます。このため、ダイヤル操作でAFエリアのサイズが変わってしまう誤操作を防ぐことが可能です。その一方、サイズを変更したい場合は別にボタンカスタマイズへ設定するか、メインメニューから呼び出す必要があります。
Tips:タッチ機能を固定する
X-S10は背面モニタで「タッチAF」「タッチAFエリア移動」「タッチシャッター」に対応しています。現在の状態はモニター右上(下部写真の赤枠)に表示されています。これをタッチすることでメニューシステムに潜らずとも役割を変更することが可能。
ただ、意図せずにこのボタンに触れてしまい、いつの間にか「タッチシャッター」に切り替わってしまい、誤ってシャッターを切ってしまう人も多いはず。
この際は「画面のカスタマイズ」で「タッチパネルモード」の表示を消すことで役割を固定できます。機能を切り替えたい時は「フォーカス設定3ページ」のタッチパネルモードから変更可能です。
フォーカス速度・精度
AF-S
「ハイエンドモデルと同等の0.02秒の高速AFを実現」と言われています。確かにレスポンスは良好で、一般的な撮影で苦労することはほとんどありません。
低照度AFも良好で、F1.0レンズと組み合わせた際は-7.0EVまでの測距輝度範囲に対応している模様。実際に、F2.8のレンズで水族館のような暗いシーンでピントを簡単に合わせることが出来ました。
無限遠側で少しピントを外す癖も抑えられているように感じます。(ゼロではありませんでしたが…)
AF-C
X-Processor PRO時代と比べると遥かに良好。レスポンスが良く、追従性能もかなり良い。初動で背景にピントが抜けれなければ良好なヒット率を期待できるはず。ブラックアウトフリーの電子シャッター連写にも対応しているため、連写時の視認性も良好です。
問題はレンズ側。ステッピングモーターやリニアモーター駆動のレンズであれば問題無いものの、古い単焦点レンズで時代遅れなDCコアレスモーターを使ったモデルが多いのが痛い。単焦点レンズでスピードが求められるシーンは少ないものの、子供を追いかける際にDCコアレスモーターは力不足と感じる場合が多いです。
トラッキング
ワイドエリアのみ対応。使い勝手は他社とほぼ同じで、1点AFで任意のポイントを指定して追従を開始します。顔検出をオンにしている場合は顔検出を優先しつつ、検出が外れてもトラッキング機能で追従可能。
トラッキングAFは「従来機の2倍の性能」と言われているように、確かに粘り強く被写体を捕捉します。非常に頼もしい。ただし、ソニーのリアルタイムトラッキングと比べると粘り強さに限界があり、あまりに素早く被写体だと背景などに乗り移ってしまう場合があります。
AF-Cカスタマイズ
AF-Cの追従特性を3種類のパラメータで調整することが可能。
- 被写体保持特性:俊敏ー粘るで5段階の調整に対応
- 速度変化特性:等速ー変速で3段階の調整に対応
- ゾーンエリア特性:中央ーオートー手前の3段階の調整に対応
全部で45通りのカスタマイズに対応しています。状況に合わせた最適なカスタマイズを導き出すのは難しいと思いますが、各特性を図付きで簡単に調整可能。迷ったら便利なプリセットが5種類から選ぶと良いでしょう。
検出機能
X-Processor PRO世代の顔検出はおまけ程度の機能性でしたが、X-Processor 4世代は改善に改善を重ね、かなり使いやすくなったように感じます。まず第一にレスポンス・表示速度が向上し、ユーザーエクスペリエンスが改善していること。さらに検出精度が向上して不得手なシチュエーションが少なくなっているように感じます。
顔検出はなかなか良好。前述したように、レスポンスが良好で状況を視認しやすいのがGood。さらに、トラッキングモードでは一度検出した瞳や顔を粘り強く捕捉し続けます。
気を付けたいのは「シングル」や「ゾーン」エリアモードの時の挙動。基本的に顔検出モードがオンの場合、エリアモードが「シングル」「ゾーン」でも検出範囲は「ワイド」となります。つまり、シングルやゾーンのAFエリア外で顔検出した場合は顔を優先してフォーカスします。ソニーやニコン最新機種のように、フォーカスエリア内に顔検出範囲を絞る機能はありません。
そして、顔検出が外れると、躊躇なく元のフォーカスエリアを追従し始めます。このため、顔検出が外れた瞬間にピントが大きくずれる可能性あり。「トラッキング」モードならば、検出が外れたとしても、粘り強く捕捉し続けることが可能。このため、顔検出でAF-Cを利用する場合は「ワイドエリア」の利用がおススメ。
帽子をかぶった状態はキヤノンやソニーが苦手とするシーンですが、富士フイルムはニコンと同様に瞳を検出していることが分かります。ニコンほど素早く検出はできませんでしたが、これは予想よりも良い結果です。
眼鏡装着時は他社と同様苦戦しています。瞳を検出したとしても、眼鏡にピントが合っている可能性が高い。
Tips:ジョイスティック押し込みで顔検出を無効にできる
ジョイスティック押し込み機能の一つである「ダイレクト移動/顔セレクト」設定時は、顔検出時にフォーカスレバーを操作して複数の顔から任意の顔を選択できるほか、スティックを押し込むことで顔検出を無効にすることが出来ます。
ライブビュー上ではグレーアウトした顔検出枠がそのまま表示されますが、従来通りのシングル・ゾーンエリアでのAFを利用することが可能です。これまで、強制的に上書きされてしまう顔検出とは少し異なるシステムとなっている模様。
検出距離
X-Processor PRO世代と比べると、顔を検出できる距離が遥かに長くなっています。
この顔のサイズで瞳検出に対応するため、全身ポートレートでも余裕で瞳AFを利用することが可能です。ただし、この撮影距離は「検出後に粘ってこのサイズ」となるため、検出開始時はもう少し顔をアップにしたほうが検出しやすいと思われます。
マニュアルフォーカス
マニュアルフォーカス時はライブビュー上にレンズのピント位置を表示することが可能。当然ながらレンズ側が距離エンコーダーに対応している必要があります。サードパーティ製レンズアダプター経由のMFレンズやAFレンズでは利用できない可能性が高いです。ただし、VILTROXのようなネイティブXマウントレンズではピント距離表示の連動を確認。
さらに純正レンズでは絞り値と連動した被写界深度表示が可能となっています(青い部分)。これが非常に便利で、特に広角側でゾーンフォーカスを利用したい時に活用しています。この機能はVILTROXで機能しないことを確認しています。
MFアシスト機能
X-S10には4種類のMFアシストがあり、どれか一つを選んで利用することが出来ます。拡大表示以外の同時利用は出来ません。
スタンダード(拡大)
通常表示です(デジタルスプリットイメージ/デジタルマイクロプリズム/フォーカスピーキング機能を使用しません)。
オーソドックスな拡大機能です。X-S10は「2.5倍」「6.0倍」の2段階で表示可能。特に被写界深度が浅い場合や、マクロ撮影など繊細なフォーカス操作が必要な時に「6.0倍」では足りないと感じる場合が多いです。(他社では20倍表示に対応しているモデルもある)
正直なところ、ファインダーの倍率・解像度がイマイチなうえに拡大倍率が低いので個人的に使いやすさの評価は低い。
デジタルスプリットイメージ
画面中央部にスプリットイメージが表示されます。スプリットイメージの上部、中央部、下部に3本の分割線があるので、ピントを合わせたい被写体が分割線上に写るようにして、分割線上下での像のズレが無いようにフォーカスリングを回して、フォーカスを調整してください。
フィルム時代ではお馴染みのスプリットイメージです。フィルム一眼レフのスプリットイメージはフレーム中央の小さな円形でのみ確認可能でしたが、富士フイルムのデジタルスプリットイメージはフレーム中央の広いエリアで確認することが出来ます。
分割方向は水平のみ。このため、垂直方向の線があるとピントを合わせやすいものの、水平方向の線しかないとあまり役に立ちません。デジタルマイクロプリズムと異なり、カラー・モノクロどちらでも利用可能です。
スタンダードの拡大倍率が小さいので、素早くピントを合わせようと思ったらこちらの方が便利です。
デジタルマイクロプリズム
ピントがずれているときは像のボケが強調されて格子模様になり、ピントが合うと格子模様が消えて像が明確になります。
これもフィルム一眼レフではお馴染みのマイクロプリズム。正直に言うとピントの山に合わせづらいです。まだスプリットイメージのほうが簡単。ざっくりピントを合わせたい場合に使うのは一つの手。
フォーカスピーキング
コントラストの高い輪郭部分が強調されます。フォーカスリングを回して、撮影したい被写体が強調されるように調整してください。
ライブビューのMFアシストとしては各社お馴染みのピーキング機能。素早く、ざっくりとピントを合わせる時に便利ですが、コントラストが被写体を色づけするため、場合によって見づらくなります。特に被写界深度の深い広角レンズで使用すると、全体的にピーキングが反応してしまうこともしばしば。ピントの山は特につかみづらい印象あり。
総評
肯定的見解
ココがポイント
- アクセスしやすく分かりやすいメニューシステム
- 過不足のない充実したAFシステム
- 1点AFの幅広いサイズ調整が可能
- 45通りにカスタマイズできるAF-C設定
- 強力な低照度AF性能
- レスポンス良好なAF-C
- 粘り強いトラッキングAF
- 検出頻度の高い顔検出・瞳検出
- 中距離でも良好な瞳検出性能
- ピント距離表示+被写界深度表示
- バリエーション豊富なMFアシスト機能
いくつか大きな不満点があるものの、全体的に見ると使い勝手の良いAFシステムに仕上がっていると思います。使いやすいメニューシステムに、柔軟性の高い1点AFエリア、レスポンスや低照度性能の高いAF性能、追従性の高いトラッキング機能や高精度の顔検出など、全体的に高水準にまとまっていると思います。特にX-Processor Pro以前の世代から乗り換えると見違えたようなAF性能と感じることでしょう。
批判的見解
ココに注意
- シンプル過ぎるAFエリアモード(縦長・横長や拡張系機能が欲しかった)
- ジョイスティック押し込み機能が少ない
- DCコアレスモーター駆動のレンズではAF性能を活かしきれない
- シングル・ゾーンAFと顔・瞳検出のエリアが連動していない
- ライブビュー時の拡大倍率が低すぎる
長所に対して欠点は少ない。しかし、ユーザーエクスペリエンスに関して致命的と感じる部分があり、どれも要改善と感じています。特にジョイスティック押し込み機能に中央復帰機能が無いのは意外でした。いくらジョイスティックを搭載しているとはいえ、素早いフォーカス操作に中央復帰機能は必須だと思うのです。
ワイドエリア以外で顔検出が連動していないのも不意のミスショットの原因となりそう。連動しないのであれば、キヤノンやパナソニックのようにワイドエリア以外で検出機能を使えなくした方がマシ。
ライブビューの拡大倍率は絞り開放で夜景や星空、マクロ撮影で繊細なピント調整が要求されるシーンで倍率が不足していると感じます。せめて10倍までは利用したいところ。
総合評価
システムや性能は間違いなく良いと思うのです。ただ、思いのほか致命的な欠点が目立ち、使っている最中にイラっと感じてしまうシーンが多いように感じました。ファームウェアアップデートでの改善に期待したいところ。
購入早見表
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