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銘匠光学 TTArtisan AF 27mm f/2.8 C レンズレビュー 完全版

このページでは銘匠光学「TTArtisan AF 27mm f/2.8 C」のレビューを掲載しています。

TTArtisan AF 27mm f/2.8 Cのレビュー一覧

管理人の評価

ポイント 評価 コメント
価格 AF対応で2万円ぽっきり
サイズ 非常に小さい
重量 非常に軽い
操作性 必要最低限
AF性能 十分な速度・精度
解像性能 全域でとても良好
ボケ 後ボケは滑らか
色収差 良好な補正状態
歪曲収差 無補正で目立つ
コマ収差・非点収差 やや良好な補正状態
周辺減光 無限遠側で目立つ
逆光耐性 酷い
満足度 コスパ良好のパンケーキレンズ

評価:

お手頃価格のパンケーキレンズ

わずか2万円ちょっとで購入できる小型軽量なAFパンケーキレンズ。予想外に良好な解像性能を備え、携帯性の良いスナップレンズとして活躍できるはず。ただし、TTArtisanらしく逆光耐性が弱点となり、像面湾曲やフォーカスシフトの影響が見られるなど気を付けるべき点がいくつか残っています。

被写体の適正

被写体 適正 備考
人物 口径食が強い
子供・動物 AF速度が追い付かないかも
風景 携帯性の良い風景レンズとなる可能性あり
星景・夜景 良好な性能だが周辺減光が重すぎる
旅行 適正は高いものの防塵防滴には非対応
マクロ 寄りやすいレンズではない
建築物 素の樽型歪曲に注意

レンズのおさらい

銘匠光学がリリースする2本目のAFレンズ(1本目は「AF 32mm F2.8 Z」)にして、富士フイルムXマウント初となるTTArtisan製のAFレンズ。以前に開発発表されていた32mm F2.8ではなく、なんの前触れもなく発表した27mm F2.8に驚いた人も多いはず。すでに国内でも焦点工房などが代理店となって販売を開始しています。

概要
レンズの仕様
発売日 2022年10月28日 初値 ¥27,340
マウント X 最短撮影距離 0.35m
フォーマット APS-C 最大撮影倍率 不明
焦点距離 27mm フィルター径 39mm
レンズ構成 5群6枚 手ぶれ補正 -
開放絞り F2.8 テレコン -
最小絞り F16 コーティング 不明
絞り羽根 7枚
サイズ・重量など
サイズ φ61×29mm 防塵防滴 -
重量 93g AF STM
その他 絞りリング
付属品
キャップ・フード

競合するレンズはもちろん「XF27mmF2.8 R WR」であり、焦点距離や開放F値が同等で、最短撮影距離やレンズサイズ・重量なども良く似ています。どちらも繰り出し式のフォーカス構造ですが、駆動方式はXF27mmがDCコアレスモーターで、TTArtisanがステッピングモーター。ステッピングモーターのほうが静かに動作するかもしれませんが、DCモーターのほうが力強くフォーカス群を動かすことができそう。ちなみにレンズ構成は全くの別設計であり、富士フイルムのコピー製品ではありません。

公開されているMTFを信用すると、中央から隅まで非常に一貫性のある解像性能が得られるようです。これが本当なのかどうか、今後のテストで実際にチェックしてみましょう。

価格のチェック

初動の販売価格は¥27,340。「XF27mmF2.8 R WR」よりも2万円安く、「XF27mmF2.8」の売り出し価格よりも1万円安く、中古相場と比べても少し安くなっています。手ごろな価格で27mm F2.8を楽しみたいのであれば面白い選択肢と言えるでしょう。

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レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

ブラックを基調としたシンプルながら個性的なデザインの箱。MFのTTArtisanレンズと比べて外装がブラック寄りとなっているのが「AF」を表しているのでしょうか?表面にはファブリック調のカバーが張り付けられており、高級感があふれ出ているわけではないものの、2万円台の手ごろな価格設定を考えると立派な作りに見えます。高級感が有るわけでは無いけど、雰囲気作りには成功しているのかなと。

箱を開けてみると、レンズは分厚い緩衝材に囲まれて梱包されています。同梱品は説明書のみとシンプルながら、低価格なレンズとしてはしっかりとした内装。

同梱品はレンズキャップとフード、説明書が付属。中国レンズメーカーとしては珍しいつまみ式のレンズキャップが付属します。

外観

TTArtisanらしく鏡筒は総金属製のしっかりとした作り。多くの中国レンズメーカーが総金属製の鏡筒であることを考えると、TTArtisanのビルドクオリティが強みになると一概には言えませんが、少なくとも欠点とは感じません。鏡筒表面の絞り値はエッチング加工が施されており、安価なMFレンズと比べて細部の意匠に力が入っています。レンズリアキャップはファームウェアアップデート用のUSB-Cポートを搭載しているのが特徴的。

ハンズオン

金属製のしっかりとした作りですが、重量は93gと非常に軽量。X-E4のようなコンパクトボディのカメラと組み合わせてもバランスは良好と思われます。軽すぎて金属外装とは思えないほどですが、実際に触ってみると、しっかりとした質感であることが分かります。

前玉・後玉

5群7枚構成の光学系は小さな前玉から始まっています。レンズは鏡筒内部に隠れており、レンズフード無しでもある程度の遮光性が期待できそうに見えます。レンズ銘は従来の白文字と比べると控え目なグレー色を採用。

レンズは繰り出し式フォーカスを採用していますが、39mmフィルタースレッド内部で完結します。このため、プロテクトフィルターを装着すると、実質的にインナーフォーカスとして利用することが可能。このあたりの仕様はXF27mmF2.8と同じと言えるかもしれません。

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レンズマウントは金属製でビス4本で固定されています。後玉付近は反射防止のためにマットブラックの塗装が施されているものの、実際に使った印象では反射対策が不十分と感じました(コーティングの問題かもしれませんが…)。

フォーカスリング

10mm幅の金属製フォーカスリングは適度なトルクで滑らかに回転。古い富士フイルムXFレンズと比べると、ざらつきは無く、滑らかで良好な操作感が得られます。ストロークは0.35m~無限遠で約75°のリニアレスポンス。快適なMFが利用できるかと思いきや、無限遠側のストロークが非常に短く、接写時はステッピングモーターの動作が粗いので微調整には不向きです。

絞りリング

Aポジションを含む、F2.8からF16までを操作できる絞りリングを搭載。フォーカスリングと比べるとトルクが強く、指一つで操作するのは難しい。二つの指でリングを摘み回転したいところですが、グリップのあるカメラだと右手と干渉しやすいのが悩ましいところ。
リングは絞り全域で1/3段刻みで動作。クリック感を伴うしっかりとした作りで、静止画で良好な撮影体験が得られると思います。ただし、動画向きのクリックレス仕様とはならないので、動画撮影時はAポジションの使用がおススメ。

レンズフード

ドームタイプの金属製レンズフードが付属します。正直に言うと効果があるのかないのかわからない形状ですが、前玉保護の観点からも装着しておくといいでしょう(それに装着してもサイズはほとんど変わらない。)。

付属のレンズキャップは39mmフィルター用ですが、口径が小さいレンズフードにも対応した切り欠きがあるのでフードそのままでキャップを装着可能。ただし、この際はキャップが非常に脱落しやすいので注意が必要です。

装着例

FUJIFILM X-S10に装着。前述したようにグリップと絞りリングの操作が干渉しやすいものの、Aポジションでカメラ側のダイヤル操作に切り替えると特に問題はありません。小型軽量で携帯しやすく、カメラバッグへの収納性も良好。

AF・MF

フォーカススピード

ステッピングモーター駆動のAFは決して高速とは言えませんが、旅行や風景写真であればストレスフリーの撮影速度だと思います。精度も良好で、遠景撮影時のミスショットも少ない。追従AFもそこそこ良好に動作しますが、フォーカスの仕組みを考慮すると過度な期待は禁物と言ったところ。

ファームウェアに注意

古いXカメラとの互換性向上ファームウェアが公開されています。動作不良を感じたらファームウェアアップデートで改善する可能性あり。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。

スライドショーには JavaScript が必要です。

特に接写性能の高いレンズではありませんが、目立つフォーカスブリージングが発生します。もともと動画向けのレンズとは感じませんが、静止画でもAF時に画角が広がったり狭くなったり、少し騒がしく感じる可能性あり。特に隅や周辺部にピント合わせたい場合は苦労するかもしれません。

精度

X-S10と組み合わせた限りではAF精度に大きな問題はありませんでした。近距離から無限遠まで安定感のあるAFを期待できます。

MF

前述のとおり、リニアレスポンスの滑らかなフォーカスリングで操作します。ただし、ステッピングモーター(もしくはリードスクリュー)の動作が粗く、近距離 F2.8時における細部の微調整には不向きです。また、無限遠側はストロークが短く操作が難しくなります。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:X-S10
  • 交換レンズ:AF27mm F2.8 X
  • パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 160 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

テスト結果

グラフ

低価格・小型軽量なレンズに予想される結果とはまるで異なり、絞り開放から最小絞りまで非常に実用的で均質的な結果が得られました。弱点と呼べる部分は存在せず、絞り全域、フレーム全域で良好な結果を期待できます。

中央

F2.8で若干のソフトさがあるものの、F4以降はシャープでコントラストの高い結果を得ることができます。F4以降の絞りでパフォーマンスに大きな変化はなく、F8以降における回折の影響も軽微。

周辺

中央と比べて遜色のない性能。一部を切り取って見分けることは難しい。F4くらいまでは周辺減光の影響があるものの、基本的に解像性能はF2.8から非常に良好です。

四隅

周辺減光がさらに強くなるものの、解像性能は以前として非常に良好。色収差もよく抑えられており、これと言って弱点は無いように見えます。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 2516 3065 3399
F4.0 3276 3073 3117
F5.6 3453 3599 3426
F8.0 3352 3468 3317
F11 3276 3389 3117
F16 2871 2883 2715

実写確認

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2023-01-23:晴れ 無風
  • カメラ:FUJIFILM X-S10
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
  • 露出:絞り優先AE ISO 160
  • RAW:Adobe Lightroom Classic CC
    ・シャープネスオフ
    ・レンズ補正オフ

テスト結果

このレンズはF2.8 → F4にかけてフォーカスシフトの影響が強く、ピントの山が遠側へ大きく移動するので注意が必要です。低照度でF2.8を使ったAF後に絞って撮影するような人は要注意。絞り値ごとにピントを合わせて撮影すると、低価格ながらフレーム全域で良好な解像性能を発揮していることが分かります。周辺部に残る若干のソフトさもF5.6付近まで絞ると解消します。F11以降は回折の影響が強くなるので、F8付近までを使うのがおススメ。

中央

絞り開放からまずまず良好ですが、細部のコントラストやシャープネスはやや甘め。F4まで絞ると目に見える改善結果が得られるので、絞れる環境であれば絞って撮影するのがおススメ。F5.6まで絞るとさらに改善し、F8までピークの性能が続きます。F11は回折の影響で少しソフトとなりますが、それでもF2.8より良好な結果が得られます。

周辺

価格やサイズを考慮すると検討していますが、中央と比べると像が少し流れている印象を受けます。F4まで絞ると改善しますが、それ以降に大きな変化はなし。抜群の性能とは言えないものの、安定感のある画質です。

四隅

周辺減光や非点収差、コマ収差などの影響でF2.8は少しソフト。とはいえ、手ごろな価格とサイズを考慮すると非常に健闘している結果であり、F4まで絞ると実用的な画質を得ることができます。ベストを尽くすのであれば、F5.6~F8まで絞るのがおススメ。

追記

隅が甘いのは後日のチェックで像面湾曲の影響が強いことが判明しました。風景写真を撮影する際にはしっかりと絞らないとパンフォーカスが得られない可能性があります。

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。

無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。

参考:Wikipedia 像面湾曲

実写で確認

絞り開放 F2.8でピントを中央・隅にそれぞれ合わせて撮影したところ、以下のような結果となりました。

ごらんのように、ピントを合わせる領域によって結果が異なっていることが分かります。像面湾曲は遠景の撮影に作用するほど残っています。F2.8を活かした低照度の撮影に使いたいところですが、パンフォーカスを得るには絞る必要あり。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

レンズ補正をオフにしても、細部まで色収差は良好に補正されています。
のように見えますが、これはAdobe Lightroom Classic上での話。RAW現像時に補正は全てオフにしていますが、どうやら色収差が処理される仕組みとなっているようです。RAW Therapeeで現像してみると、細部に色収差が残っています。どちらにせよ、通常の現像で目立たないのは確かであり、心配する必要はありません。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。

軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

倍率色収差と同じく、Adobe Lightroom Classic CCでは自動的に補正されています。この自動補正を外す手段は今のところなし。RAW Therapeeで残存する実際の色収差を確認することができます。とはいえ、大きな問題ではなく、自動補正された結果に違和感はありません。
軸上色収差とは関係ありませんが、F2.8からF4に絞った際にピント位置が遠側へ大きく移動していることが分かります(球面収差が影響しているフォーカスシフト)。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。

描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。

実写で確認

球面収差の補正が完璧な状態ではなく、前後のボケ質にはかなり偏りが見られます。後ボケは滲むようにしてアウトフォーカスへと推移する柔らかい描写。一方で前ボケはアウトラインが硬調で2線ボケの兆候が見られます。27mm F2.8で前ボケを入れる機会は少ないと思われ、ボケ質の傾きは肯定的に見ることができます。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。

逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。

実写で確認

非球面レンズを使っていないので、玉ボケの表面は滑らかで綺麗な描写。少なくとも後ボケはアウトラインが目立たない綺麗なボケと言えるでしょう。ただし、口径食が強く、隅に向かってボケの変形が目立ちます。絞ることで口径食は改善しますが、改善するころにはボケがかなり小さくなってしまうのが残念。

ボケ実写

接写

口径食は強いものの、滑らかで綺麗な描写の心地よいボケが得られます。口径食が騒がしく見える場合はF4からF5.6まで絞って撮影すると改善します。

近距離

撮影距離が長くなると、必然的にボケが小さくなります。「27mm F2.8」で大きなボケを期待することは出来ないものの、小型軽量で低価格な27mm F2.8としては良質な描写を維持しています。この微ボケで綺麗な描写を維持しているのは高く評価できるポイント。

撮影距離

全高170cmの三脚を人物に見立てて、F2.8を使って様々な距離から撮影した結果が以下の通り。

全身をフレームに入れても若干の後ボケを得ることができます。とはいえ、被写体を背景から分離するには力不足で、後ボケは全体的に少し騒がしい描写。極端に悪くはありませんが、強みとは言えません。膝上くらいまで近寄ると、そこそこ大きなボケを得ることが可能。ボケ質は完璧からほど遠いものの、軸上色収差の影響が少なく、過度に悪目立ちすることはありません。上半身から顔のクローズアップでさらに良好なボケを得ることができます。ただし、全体的に口径食の影響が強く、隅に向かってボケが変形します。気になる場合は絞って対応するしかありません。

球面収差

球面収差の補正は完璧ではなく、前後でボケ質の違いあり。また、軸上色収差のテストで判明しているように、絞りによるピント位置の移動が大きいレンズです。F2.8でピントを合わせた後に絞るとピント位置が大きく変化するので注意が必要。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。

参考:Wikipedia 歪曲収差

比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。

実写で確認

スライドショーには JavaScript が必要です。

穏やかな樽型歪曲が残っています。過度な影響ではないものの、直線的な被写体をフレームに入れるのであれば補正を適用しておいたほうが良いでしょう。幸いにもAdobe Camera RAWには対応するプロファイルが存在します(面白いことに富士フイルム27mm F2.8と認識されます)。

周辺減光

周辺減光とは?

周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

最短撮影距離

小型軽量な27mm F2.8として妥協すべき弱点となるのが周辺減光。最短撮影距離でもF2.8では全体的に影響を及ぼす光量落ちが発生します。F4まで絞っても目立ち、完全に解消するためにはF11まで絞る必要あり。レンズ補正で後処理することも可能ですが、状況によっては増感によるノイズが負担となるかもしれません。

無限遠

無限遠ではさらに強めの周辺減光が発生します。2~3段絞っても四隅の減光はしつこく残るので、後処理が必要となる場合も多いと思われます。幸いにもAdobe Camera RAWでは富士フイルム27mm F2.8と認識され、自動的に補正が可能。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。

参考:Wikipedia コマ収差

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。

実写で確認

手ごろな価格の準広角レンズとしては健闘しています。完璧な補正状態ではありませんが、隅まで目立つコマフレアは発生しておらず、点像再現性にこだわらなければF2.8から実用的な結果が得られています。

逆光耐性・光条

中央

TTArtisanと言えば逆光耐性が弱点であり、このレンズも例外ではありません。絞り開放付近で強い光源を正面から受けると、全体的に影響を及ぼすフレアが発生します。絞ると徐々に改善し、F8~F11でフレアを抑えることが可能。ただし、やや目立つゴーストが残ります。

強い光源をフレーム隅に移動すると、フレアの影響はF5.6付近まで改善することが出来ません。それ以降はフレアとゴーストを抑えた撮影が可能。

光条

F5.6付近から徐々に光条が発生しはじめ、F8~F11でシャープな結果を得ることが可能。価格を考慮すると立派な描写。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • 手ごろな価格
  • 小型軽量
  • 金属製の鏡筒
  • フィルター装着で実質的にインナーフォーカス
  • ファームウェア更新に対応
  • フレーム全域で良好な解像性能
  • 色収差の補正状態
  • 滑らかな後ボケ
  • レンズプロファイルに対応
  • 穏やかなコマ収差
  • 光条が綺麗

小型軽量かつ低価格で、X-E4やX-T30など携帯性の良いXシリーズと組み合わせることで、気軽に携帯できるのが魅力的。少なくとも解像性能はサイズや低コストの代償となっておらず、価格に見合わない高い解像性能を得ることができます。残存する収差はレンズプロファイルで良好に補正され、少なくとも後ボケは滑らかで綺麗。全体的に見栄えの良い結果が得られるレンズに仕上がっています。

低価格ながらAFや絞りリング、レンズ情報の伝達などに対応し、現像ソフトのプロファイルも自動的に認識してくれるので便利。欠点がないとは言いませんが、価格を考慮すると妥協できる部分が多いのかなと。

悪かったところ

ココに注意

  • 防塵防滴ではない
  • 絞りリングを操作し辛い
  • MFの粗さ・ストローク
  • フォーカスブリージングが目立つ
  • 像面湾曲
  • 口径食が強い
  • 周辺減光が重い
  • やや目立つ樽型歪曲
  • 逆光耐性

光学的に歪曲収差や周辺減光などが残存していますが、これらはレンズプロファイルで綺麗に補正することが可能。特に心配する必要はありません。このレンズで注意すべき点があるとすれば逆光耐性。TTArtisanらしく光源の種類を選ばずフレアが発生しやすい傾向が見られ、低コントラストになったり、フレーム全体が破綻する可能性あり。ハレ切りなどで回避できる場合もありますが、純正レンズと比べると手間がかかるのは確か。

また、像面湾曲は補正する手段がないため、パンフォーカスを得たい場合は十分に絞る必要があります。また、フォーカスシフトの影響があるので、ピント固定で絞りを変化させた場合はピントの山がずれている可能性あり。

総合評価

満足度は90点。
欠点はそこそこありますが、価格とサイズを考えると愛情でカバーできる範囲内。お写ん歩、スナップ、旅行などに携帯しやすく、画質にあまり妥協することなく使うことができます。ただし、静止画向けのレンズであり、動画向けとして検討している人は別の選択肢を再考するべき。

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XF27mmF2.8 R WR

スペック・サイズから直接競合する唯一のレンズ。価格は倍ほどしますが、防塵防滴仕様で絞りリングも操作しやすい。光学的な特性はよく似ていると思うので、機能性・使い勝手から差額を許容できるかどうかが鍵となりそう。

XF27mmF2.8 R WR
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購入早見表

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作例

オリジナルデータはFlickrにて公開

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