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銘匠光学 TTArtisan Tilt 50mm F1.4 レンズレビュー完全版

このページでは銘匠光学「TTArtisan Tilt 50mm F1.4」のレビューを掲載しています。

TTArtisan Tilt 50mm F1.4のレビュー一覧

管理人の評価

ポイント 評価 コメント
価格 機能を考えると安い
サイズ 大きいが「F1.4 + ティルト」
重量 同上
操作性 この価格帯としては良好
解像性能 絞れば良好
ボケ 接写時の後ボケは良好
色収差 この価格帯としては良好
歪曲収差 ゼロではない
コマ収差・非点収差 非常に悪い
周辺減光 ティルト時に目立つ
逆光耐性 酷い
満足度 手ごろな価格が魅力的

評価:

3万円で手に入る大口径ティルトレンズ

「50mm F1.4」「ティルト」として利用できるレンズとしては驚くほど安く、(いい意味で)価格に見合わないビルドクオリティもGood。光学系は典型的なダブルガウスタイプで、逆光耐性も褒められた性能ではありませんが、性能を追求しなければ一本二役でコストパフォーマンスの良いレンズ。

被写体の適正

被写体 適正 備考
人物 全身の距離感ではボケが騒がしい
子供・動物 MFレンズでは厳しい
風景 絞ればそこそこいける
星景・夜景 点像再現性が厳しい
旅行 携行が苦にならない程度
マクロ 寄れるレンズではない
建築物 シフト撮影には非対応

まえがき

2022年に登場したTTArtisan初のティルトレンズ。このカテゴリのレンズとしては珍しくF1.4の大口径レンズとなっているので、絞り開放で一般的な大口径レンズとして楽しむことができ、場合によってはティルト機能でピント面を傾けて使うことができます。

概要
レンズの仕様
発売日 2022年10月14日 初値 ¥35,100
マウント E/L 最短撮影距離 0.5m
フォーマット 35mm判 最大撮影倍率 不明
焦点距離 50mm フィルター径 62mm
レンズ構成 6群7枚 手ぶれ補正 -
開放絞り F1.4 テレコン -
最小絞り F16 コーティング 不明
絞り羽根 12枚
サイズ・重量など
サイズ φ70×68mm 防塵防滴 -
重量 452g AF MF
その他 電子接点なし・8度ティルト・90度回転
付属品
-

レンズ構成はダブルガウスタイプのシンプルな設計で、±8度のティルトに対応しています。最大撮影倍率が低く、マクロ撮影には対応していないものの、F1.4を活かした被写界深度の浅い撮影が可能となっています。競合するレンズは「AstrHori 50mm F1.4」くらいでしょうか。

価格のチェック

国内の正式代理店経由で約3.5万円で購入できます。しっかりとした作りの大口径ティルトレンズと考えると手ごろな価格であり、ティルト撮影を体験してみたい人にとって面白い選択肢となることでしょう。

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レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

グレーを基調としたシンプルながら個性的なデザインの箱。表面にはファブリック調のカバーが張り付けられており、高級感が有るわけでは無いけど、雰囲気作りには成功しているのかなと思います。

箱を開けてみると、レンズは分厚い緩衝材に囲まれて梱包されています。同梱品は説明書のみとシンプルながら、低価格なレンズとしてはしっかりとした内装。

外観

TTArtisanらしく鏡筒は総金属製のしっかりとした作り。多くのMFレンズメーカーが総金属製の鏡筒であることを考えると、TTArtisanのビルドクオリティが強みになると一概には言えませんが、少なくとも欠点とは感じません。鏡筒表面のピント距離や絞り値の表示は全てプリントで、エッチングなどの加工は施されていません。

外装はややマットなブラックの塗装で、マウント付近は無塗装のアルミニウム合金に見えます。

専用のかぶせ式レンズキャップが付属。金属製のしっかりとした作りで、内側には滑り止め用のフェルト生地が張り付けられています。

ハンズオン

シンプルな光学設計の50mm F1.4としては大きく重いレンズですが、ティルト機能付きと考えるとコンパクトサイズ。総金属鏡筒と言うこともあり、ガラスと金属の塊感のあるレンズに仕上がっています。

前玉・後玉

凸型の前玉周辺も金属パーツで構成され、62mmフィルター対応のソケットも金属製です。レンズにフッ素コーティング処理が施されている記述は無いので、水滴や汚れの付着が予想できるのであればプロテクトフィルターの装着がおススメです。

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金属製のマウントは3本のビスで固定されています。マウント付近にはリボルビング機構とティルト機構が備わっており、周辺は反射防止用のマットブラック塗装で適切に処理されています。

フォーカスリング

0.5mから無限遠まで対応する金属製のフォーカスリングは滑らか、そして適切な抵抗感で回転します。フォローフォーカスに対応しているので動画撮影にも幅広く利用できそうです。ストロークはピント全域で90度を超えています。ピント範囲を考慮すると長めのストロークで、大口径レンズの薄いピント面でも微調整しやすい。

絞りリング

F1.4からF16まで1/2段刻みで位置表示のある金属製の絞りリングを搭載。適度な抵抗感で滑らかに回転しますが、クリック感はないので静止画には不向き。動画撮影を意識しているので、F1.4からF16までのストロークは均一の無段階絞り、そしてフォーカスリングと同じくフォローフォーカスデバイスに対応しています。

ティルトノブ

±8度のティルトに対応。中央のノブで固定を緩めることで無段階で調整することが出来ます。角度によっては重量で自重落下するので、固定を解除する際は注意が必要です。

リボルビングノブ

マウント付近にはリボルビング軸を固定するノブがあります。これを緩めることで、レンズを回転することができ、ティルトで傾ける方向の調整が可能。

リボルビングで回転できるのは0度から90度まで、15度ごとにクリック感のある動作ですが、途中で固定することも可能です。

更新

どうやら現在流通している製品では360度の回転操作に対応しているようです。

装着例

α7R IVに装着。50mm F1.4のMFレンズとしては少し大きめですが、バランスが崩れるほどのサイズではありません。フォーカスリングや絞りリング、各ノブの配置も適切で、操作性で特に不満と感じるポイントはなし。ただし、前述したようにティルトノブを緩めると、自重落下でレンズが急に傾く場合があるので注意が必要です。

スライドショーには JavaScript が必要です。

MF

フォーカススピード

0.5mから無限遠のフォーカスリングとしてはストロークが長く、素早いフォーカス操作には不向きです。ただし、無限遠側のストロークはほとんどないので、絞って使う分には不満ありません。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。

スライドショーには JavaScript が必要です。

極端ではありませんが、それなりに画角の変化が発生しています。

精度

接写時は十分なストロークが確保されていますが、遠景や風景で利用できるストロークはごくわずかです。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:ILCE-7RM4
  • 交換レンズ:TTArtisan Tilt 50mm F1.4
  • パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 100 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

テスト結果

絞り開放は全体的にやや甘めですが、絞ると急速に改善します。F4まで絞れば全体的に良好なパフォーマンスを発揮します。注意点として、F2からF2.8にかけて、フォーカスシフトの影響顕著に見られます。F1.4でピントを合わせてから絞ると、ピントの山を外している可能性があります。

中央

F1.4付近は残存する球面収差が目立つソフトな描写。F2まで絞ってもあまり改善しませんが、ピントの山は確認しやすくなります。F2.8まで絞ると別のレンズになったかのように収差が改善します。ピークのF4はコントラストが高く、切れ味のあるパフォーマンスを発揮。

周辺

基本的には中央と同じ傾向が続きます。F4まで絞れば非常に良好なパフォーマンスを発揮。ただし、倍率色収差の影響が少し目に付きます。画質の影響を与えるほどではありませんが、状況によっては少し目立つ可能性あり。

四隅

中央や周辺部と比べると性能は低下しますが、手ごろな価格の50mm F1.4としては悪くない結果です。解像性能のピークはF4ですが、倍率色収差の影響が見られるのでソフトウェアで補正の適用がおススメです。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F1.4
F2.0 3557
F2.8 3744 2790 1584
F4.0 4884 4228 3691
F5.6 4866 4157 3853
F8.0 4848 4213 3936
F11 4332 3918 3159
F16 3680 3327 3050

実写確認

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2022-11-09
  • カメラ:α7R IV
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
  • 露出:ISO100 絞り優先AE
  • RAW:Adobe Lightroom Classic CC
    ・シャープネスオフ
    ・ノイズリダクションオフ
    ・レンズ補正オフ

テスト結果

像面はフラットで、絞れば徐々に均質性が高まる典型的なダブルガウスタイプ。6100万画素を活かしきるレンズとは言えませんが、絞ればフレーム隅まで安定した解像感を得ることができます。ただし、絞り開放から2~3段絞るだけでは残存収差が目に付くので、少なくともF8、完璧を求めるのであればF11まで絞りたいところ。回折による画質低下はF16で僅かに目に付く程度で、それよりもしっかりと絞ったほうが良好な結果を期待できます。

中央

ピントの山が見えるしっかりとしたシャープネスですが、球面収差や軸上色収差によるコントラストの低下があります。これはF2.8くらいまで絞ると解消するので、ヌケのよい描写が必要であれば1~2段は絞ると良いでしょう。F1.4でピントを固定した状態で絞り込むとフォーカスシフトの影響でピントの山が遠側へ移動し、全体的に少しソフトな結果となります。

周辺

中央と比べるとややソフトな描写ですが、絞ると徐々に改善します。F5.6くらいまで絞るとまずまず良好な結果が得られますが、非点収差のような像の流れが若干残っています。ベストを尽くすのであればF8まで絞るのがおススメ。

四隅

中央や周辺と比べると遥かにソフトで、画質として破綻しています。絞ると徐々に改善し、F8でシャープな結果が得られます。完璧を求めるのであれば、もう1段絞ったほうが良いように見えます。

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。

無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。

参考:Wikipedia 像面湾曲

実写で確認

中央と隅にそれぞれピントを合わせて撮影しても、結果に大きな違いはありません。像面湾曲は無視できる範囲内に収まっているように見えます。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

完璧な補正状態ではなく、フレーム周辺部にて色収差が残っていることが分かります。ただし、影響は過度ではなく、極端に輝度差のある領域以外で目立つことは無いはず。また、目立つ場合も補正が簡単であり、心配する必要はないでしょう。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。

軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

倍率色収差と同じく、完璧な補正状態とは言えません。とはいえ、ダブルガウス型らしく、過度に目立つこともありません。絞り開放付近でピント面の前後にうっすらと色づく程度。F2.8からF4あたりで無視できる程度まで解消します。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。

描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。

実写で確認

前後に顕著なボケ質の違いあり。後ボケは滲みを伴う柔らかい描写であるのに対し、前ボケは縁取りが強く、状況によっては2線ボケのように見える硬い描写。さらに、軸上色収差の影響がゼロではなく、前後のボケがうっすらと色づいてしまう点に注意が必要です。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。

逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。

実写で確認

非球面レンズを使用していないので、玉ボケの内側は滑らかな描写です。ただし、ボケの縁取りが強く、さらに色収差の影響で強調されてしまっているのが残念。結果的に騒がしい印象を受けます。F2~F2.8まで絞ると色収差や球面収差の目立たない落ち着いた描写となりますが、絞り羽根の影響がかなり目立つので注意が必要です。

ボケ実写

接写時は全体的に滑らかで綺麗なボケが得られます。残存する球面収差もあって滲むような描写が得られるのはプラスと感じるはず。ピント面まで滲むのを避ける場合、F2まで絞ると少し改善します。F2.8まで絞ると完璧ですが、玉ボケテストで判明したように、絞るとボケが急速に角ばります。ボケとのバランスを取るのであれば、F2か、F5.6付近までしっかりと絞ったほうが良いかもしれません。

撮影距離が長くなると球面収差が大きく変動。接写時とは一転してバブルボケのような強い縁取りのある描写に変化します。これはこれで個性的ですが、大変さわがしい描写に違いないので、好みが分かれること必至。幸いにもF2~F2.8まで絞ると落ち着きます。気になる場合はF2.4くらいを目安いに絞ると良いかもしれません。

撮影距離

全高170cmの三脚を人物に見立てて、F1.4を使って撮影したのが以下の作例。50mm F1.4らしい大きなボケを得られますが、撮影距離によっては後ボケが騒がしくなります。ボケを犠牲にしてでも、少し絞ったほうが良好な描写が得られる可能性あり。シンプルな光学系であることを考慮すると色収差は少なめで、ボケが過度に騒がしくなる印象はありません。

球面収差

一見して分かるほど前後のボケ質に違いが見られます。これは球面収差の補正が完璧ではないことを示しています。また、「軸上色収差」のテストを見てみるとわかるように、F1.4でピントを合わせた状態で絞るとピントの山が遠側で移動するフォーカスシフトも見られます。このため、低照度環境でF1.4の明るさを使ってピントを調整した後にF2.8以上に絞って撮影すると、ピントが外れている可能性大。

F2.8くらいまで絞ると球面収差はほぼ抑えることが可能。ただし、絞り羽根の形状がハッキリと表れてしまうのが悩ましいところ。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。

参考:Wikipedia 歪曲収差

比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。

実写で確認

スライドショーには JavaScript が必要です。

穏やかな樽型歪曲ですが、リニアな歪みではなく、陣笠状となっているのでプロファイル無しの手動補正で完璧に修正するのは難しいかもしれません。とはいえ、影響はほとんどなく、直線的な被写体をフレーム端に入れなければ無視できる範囲内に収まっています。

周辺減光

周辺減光とは?

周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

最短撮影距離

ティルトレンズでイメージサークルが広く、周辺減光は問題なしか?と思いきや、絞り開放である程度の周辺減光が発生します。手ごろな価格の50mm F1.4としては穏やかなほうだと思いますが、光学的に解消するには、少なくともF2.8、そしてF4まで絞ると完全に抑えることが可能。

無限遠

一般的に無限遠で周辺減光が強くなる傾向があるものの、このレンズは最短撮影距離と比べて顕著な違いはありません。基本的にF4付近で解消します。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。

参考:Wikipedia コマ収差

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。

実写で確認

ダブルガウス型でお馴染みのコマ収差はこのレンズでも健在。ティルト対応でイメージサークルが広く、軽微な影響で済むと期待していたのですが…。残念ながら、影響は一般的なダブルガウス型の50mm F1.8と大差ないように見えます。点を点として写すにはF5.6くらいまで絞る必要があります。

逆光耐性・光条

中央

基本的にいつものTTArtisanです。つまり、逆光耐性は期待しないほうが良いです。絞り開放付近は光源の周辺に強いフレアが発生し、コントラストが低下します。このような描写が好ましい場面もありますが、必要のないシーンで厄介なフレアが発生しやすい印象あり。光源をフレームに入れる際はしっかりと絞るか、光源をフレーム外に逃がすしかありません。

光源を中途半端にフレーム外へ逃がそうとすると、中央よりも酷いフレアに悩まされます。開放付近は強烈なフレアで全体的にコントラストが低下。絞るとフレアは徐々に収まりますが、目立つ光の筋がしつこく残ります。

光条

12枚の偶数羽根を採用しており、絞ると12本の光条が発生します。円形絞りではないらしく、F2の段階で既に光条が発生。F5.6まで絞ると先細りするシャープな描写へと変化し、F11付近までピークの光条を維持します。F16はシャープさが少し低下するので、無理に絞る必要はありません。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • 50mm F1.4ながらティルトに対応
  • 「50mm F1.4」のティルトレンズとしては手ごろな価格
  • 総金属製の頑丈な作り
  • フォローフォーカスに対応
  • ティルト・リボルビングそれぞれ独立してロック可能
  • 操作しやすいフォーカスリング
  • F4以降は全体的にシャープ(遠景はF5.6-8)
  • 像面湾曲を良好に補正
  • 倍率色収差を良好に補正
  • 柔らかく滲む後ボケ
  • 穏やかな樽型歪曲
  • F5.6でシャープな光条

兎にも角にも「50mm F1.4」でティルト撮影に対応するレンズとしては非常に安い。これだけでも検討する価値があると思います。大口径で低価格のティルトレンズは他にも「AstrHori 50mm F1.4」などありますが、ティルト・リボルビングをそれぞれロックできる構造を有しつつ、3万円台で入手できる選択肢は他にありません。

ティルトを利用できますが、通常の「50mm F1.4」としても楽しみやすいのがこのレンズの特徴。ティルトが必要ない場合はノブでティルトとリボルビングを固定するだけで普通に利用できます。光学性能は一般的なダブルガウスタイプと思って問題なく、接写で滲むような後ボケ得ることができ、しっかりと絞れば風景撮影でも使えるくらいにはシャープな結果を得ることができます。

悪かったところ

ココに注意

  • 電子接点なし
  • 絞りリングはクリック非対応
  • フォーカスブリージングが目立つ
  • F1.4がソフトな画質
  • 前景で2線ボケの兆候
  • 口径食と周辺減光が目立つ
    (ティルトでさらに目立つ)
  • フォーカスシフト(F2.8前後)
  • 円形絞りではない
  • コマ収差が非常に目立つ
  • 逆光耐性

価格を考慮すると妥協すべき点が多いです。個人的にイメージサークルが通常よりも広く、ダブルガウスとしての欠点が目立たないと良かったかなと。残念ながら、良好な結果を得るには少し絞ったほうが良いでしょう。ボケを活かしつつコントラストを改善したいのであればF2~F2.4、周辺部までシャープな結果を得たい場合は最低でもF4-5.6、理想的にはF8-F11くらいまで絞るのがおススメです。同時にティルトを利用する場合、多少絞ってもボケは自然と大きくなるので、ピント面が甘々の結果よりもF2-2.4くらいまで絞ったほうが満足のいく結果が得られるかもしれません。

普通に「大口径の50mmを使いたい」だけであれば、おススメしません。カメラメーカー純正の所謂「撒き餌レンズ」のほうが、AFや自動絞りを利用でき、逆光耐性も良好で普通に使うことができます。このレンズは「50mm F1.4」ですが、良好な結果を得るにはF2くらいまで絞る必要があり、結果的にF1.8レンズと使い勝手はあまり変わりません。

TTArtisanらしく逆光耐性が良くないのも欠点の一つ。フレアやゴーストの影響を受けやすいにも関わらずレンズフードが同梱していないので、必要であればねじ込み式のフードを購入しておくと良いでしょう。

円形絞りではないので、絞った状態で撮影するとボケが角ばっていたり、妙な描写となる可能性あり。その反面、F5.6くらいで非常に綺麗な光条を得ることができるのでケースバイケースかなと。

総合評価

満足度は90点。
「50mm F1.4 MF」「ティルト」どちらも”手ごろな価格”で”きちんと楽しんでみたい”のであれば面白い選択肢。同価格帯における他の選択肢と異なり、ギミックがしっかりとしているので撮影体験として満足のいくレンズに仕上がっています。光学性能に過度の期待は禁物ですが、ダブルガウスタイプであると理解して使えば予想外のトラブルに直面することは少ないはず。

購入早見表

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作例

オリジナルデータはFlickrにて公開

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