ニコン「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」のレビュー第一弾を公開。今回はレンズの外観や操作性、カメラに装着してAFの使いやすさなどを確認しています。
NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRのレビュー一覧
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レンズレビュー 完全版
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レンズレビュー Vol.5 諸収差・逆光 編
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レンズレビュー Vol.4 ボケ 編
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レンズレビュー Vol.3 解像チャート 編
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レンズレビュー Vol.2 遠景解像 編
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レンズレビュー Vol.1 外観・操作・AF 編
Index
まえがき
2023年8月31日発売のニコンZマウント用の超望遠ズームレンズ。現行のラインアップ(ズーム)の中では最も長焦点をカバーしていますが、非S-Lineシリーズと言うことで手ごろな価格を実現。レンズサイズや重量はそこそこあるものの、気軽に600mmの世界を体験してみたい人にとって面白い選択肢となりそうです。また、テレコンバージョンレンズにも対応しており、最大で1200mmの超望遠を利用可能(開放F値が13となりますが)。
概要 | |||
---|---|---|---|
レンズの仕様 | |||
マウント | Z | 最短撮影距離 | 1.3-2.4m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 0.25倍 |
焦点距離 | 180-600mm | フィルター径 | 95mm |
レンズ構成 | 17群25枚 | 手ぶれ補正 | 5.5段 |
開放絞り | F5.6-6.3 | テレコン | 対応 |
最小絞り | F32-36 | コーティング | SIC/F |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ110×315.5mm | 防塵防滴 | 対応 |
重量 | 2140g | AF | STM |
その他 | インナーズーム・テレコン対応 | ||
付属品 | |||
フード・キャップ・ケース |
特徴はなんと言ってもインナーズーム構造。180mmでも600mmでもレンズの全長は一定に保たれています。600mmに固定したままカメラバッグに収納したり、撮影位置を移動するのが容易であるのは長所と言えるでしょう。一方、伸縮ズームと比べると全長が長く、収納スペースやカメラバッグを選ぶ必要があります。
レンズ構成は17群25枚で、構成中にEDレンズ6枚、非球面レンズ1枚を使用。MTF曲線を見る限りでは単焦点レンズ並みの光学性能を期待することは出来ないものの、180mmから600mmまで大きな変動のない安定したパフォーマンスを発揮するようです。
価格のチェック
販売価格は22.2万円。非S-Lineのレンズとしては高価ですが、純正の600mmズームレンズとしては妥当な価格設定。
外観・操作性
箱・付属品
NIKKOR Zシリーズらしく、黒と黄色を基調としたシンプルなデザインの箱です。レンズ本体は段ボールの間仕切りで固定されています。緩衝材は入っていません。
レンズ本体の他、レンズフードやソフトケース、三脚リング、説明書、保証書が付属。
外観
外装のパーツは主にプラスチック素材を使用。手触りは少しプラスチッキーですが、特に安っぽい印象はありません。グリップやズームリングにはゴム製カバーを採用し、フォーカスリングのみプラスチック製。
インナーズーム方式のため、ズーム全域でレンズの全長は一定を維持。無駄な装飾のないシンプルなデザイン。表面の印字は大部分がプリントで、エッチングなど凹凸の加工は施されていません。レンズマウント付近にはシリアルナンバーやCEマークなどもプリントされています。ちなみに製造国は中国。レンズ先端は一見するとフォーカスリングのように見えますが、回転する機構にはなっていません。単なるグリップですが、硬質のゴム製カバーで覆われており、左手でしっかりと掴むことが可能。
ハンズオン
2kg超と言うこともあり、片手で持つと重量感のあるレンズです。運搬や手持ち撮影が出来ないほどではないものの、長時間の撮影は苦労するはず。一脚や三脚など、重量を支えることができるアイテムを用意しておくと良いでしょう。
前玉・後玉
フィルター径95mmに対応する大きな前玉ですが、600mmズームレンズとしては一般的なサイズです。このサイズのねじ込み式フィルターは種類が限られてくるため、手ごろな選択肢が少ないのが悩ましいところ。ドロップインフィルターには対応していません。フッ素コーティング処理されているので、水滴や油汚れに対するメンテナンス性が高く、深いレンズフードを備えているので、プロテクトフィルターの必要性は低い。とは言え、ダメージが想定される環境ではフィルターを装着しておくことをおススメします。
レンズ先端は保護性の高いゴムカバーを装着しています。ただし、レンズフィルターを装着するとフィルターが突出するため効果なし。
金属製レンズマウントは5本のビスで本体に固定されています。周囲は防塵防滴用のシーリングあり。レンズ内部はテレコンバージョンレンズとの互換性を確保するために空間があり、周囲は不要な光の反射を抑えるためにマットブラックの塗装が施されています。
フォーカスリング
約1.5cm幅のプラスチック製フォーカスリングを搭載。独立したコントロールリングを持たないため、このリングはコントロールリングを兼用しています。機能を切り替えるにはカメラ側のボタンカスタマイズで設定の変更が必要。リングは適度な抵抗で滑らかに回転します。僅かな力でも引っかかりがなく、操作性は良好。ストロークは回転速度に応じて変化し、素早く回転すると約135°、ゆっくり回転すると720°以上の操作が必要となります。
ズームリング
約6.5cm幅のゴム製ズームリングを搭載。180mmから600mmまでのストロークは70°と短く、一度の操作で広角端から望遠端まで切り替えることができます。インナーズームでレンズの伸縮がなく、リングの抵抗も適度で素早く滑らかに操作が可能。伸縮ズームと異なり、ズーム全域でトルクは一定で、引っかかるポイントはありません。
レンズフード
円筒型のプラスチック製レンズフードが付属しています。フィルター操作窓などは無い、シンプルなデザインのフードです。内側は反射防止のための切込みあり。このクラスはフードの先端に保護性の高いゴムカバーを装着する製品が多いものの、残念ながら本レンズのフードは総プラスチック製。ソニーをはじめ、タムロンやシグマと言った比較的手ごろな価格のサードパーティ製レンズでさえゴム製カバーを装着していることは考えると、頑張ってほしかったところ。
三脚リング
着脱可能な金属製の三脚リング・三脚座が付属。サードパーティ製レンズではアルカスイス互換に対応する三脚座が増えているものの、本レンズは非対応。互換性のあるベースプレートを装着したり、社外製の三脚リングに交換する必要があります。三脚座は大型ネジ穴と小型ネジ穴を一つずつ備え、前後3か所でビデオボス穴に対応。ベースプレートのズレを防ぐことができます。三脚リング側面にはストラップを装着できる金具あり。ニコン製ストラップの他、ピークデザインのアンカーリンクスなども装着可能。
三脚リングは固定用のノブを緩めることで取り外し可能。シンプルな作りで、90度ごとのクリックストップなどには対応していません。F-Fotoに提供していただいた発売前のアルカスイス互換ベースプレートを装着。ビデオボスと大小ネジ穴に対応しているので、三脚座にしっかりと固定することが出来ます。
スイッチなど
マウント付近の側面にはAF/MF切り替えスイッチとフォーカスリミッタースイッチを搭載。機能として最小限で、VRモードの切替やL-Fn2ボタンには非対応。筐体が大きい割にはコントロールがシンプル。また、マウント付近に配置しているので、手持ち撮影では操作し辛いです(左手はもっと前方で支える必要がある)。
装着例
Nikon Z 8に装着。装着した状態で三脚リングの位置で重心が安定します。Z 8との組み合わせで総重量が約3㎏とかなり重いものの、手持ち撮影でバランスは取りやすい。ビデオ雲台に搭載しても水平を維持しやすいのはGood。少し気になったのはZ 8装着時にマウントが完全に固定されないこと。マウント回転方向に若干のガタツキがあります。撮影に問題は無いものの、三脚リングを回転したり、横位置と縦位置を持ち帰る際に少しガタツキを感じるのが残念。
AF・MF
フォーカススピード
このレンズのオートフォーカスはステッピングモーター駆動で動作します。マルチフォーカス(フローティング)とは言及していないので、おそらく小さなフォーカスレンズを1基のステッピングモーターで動かしているものと思われます。近接時の収差変動は解像チャートテストで確認予定。
非マルチフォーカスでステッピングモーター駆動のレンズながら、オートフォーカスはまずまず快適なスピードで動作します。リニアモーター駆動ほどの電光石火ではないものの、スピードを重要視しなければ大きな問題と感じるシーンは少ないはず。
カメラ側の問題もあると思いますが、低コントラストや低照度では合焦までの速度が低下します。また、大デフォーカス時は併せたいピント方向とは逆に移動する動作が大振りで、復帰するまで少し時間がかかりすぎている印象あり。このあたりはカメラ側のAFアルゴリズムが改善することで合焦速度の向上を期待したいところ。さらに、大デフォーカスで背景にピントが合うと、引っ張られる傾向もあります。ニコンだけの話ではありませんが、他社と比べると前景への復帰が少し鈍い。
×2.0装着時
×2.0テレコンバージョンレンズ装着時は開放F値が「F13」と非常に暗くなります。現行のNIKKOR Zラインアップの中では「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S + 2.0×」と並んで最も暗い開放F値と言えるでしょう。にも関わらず、日中の光環境であれば問題なくAFが動作します。中央のみならず、周辺部や隅にAFエリアを移動してもきちんと動作しました。
ただし、(解像テストで紹介予定ですが)マスターレンズと比べると解像性能が甘めで、低コントラストや低照度ではパフォーマンスがガタっと崩れる可能性がありそう。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。全体的に画角の変化が皆無とはいかないものの、良く抑えられているように見えます。
180mm
300mm
400mm
500mm
600mm
精度
Z 8との組み合わせで今のところ問題なし。開放F値が大きいので低照度ではパフォーマンスが低下しやすいものの、日中では問題なく利用できます。フォーカス位置の再現性も高い。
MF
素早く回転しても適度なストロークで操作可能。特に被写界深度が浅くなりやすい超望遠ズームレンズとしては適切なストロークだと感じました。移動量は回転速度に依存するため、MFを多用するのであれば、少し慣れが必要かもしれません。
まとめ
非S-Lineなりの妥協点もありますが、価格を考慮するとバランス良くまとまったレンズと感じます。敢えて言えばスイッチの配置や、レンズフードの先端にゴムカバーが付いていない点が気になる程度。オートフォーカスは十分に高速と呼べるパフォーマンスですが、他社ではリニアモーターなどの新しい駆動方式を採用したモデルが多く、長期的に見てステッピングモーター駆動で戦っていけるのかは気になるところ。とは言え、カメラ側のAFアルゴリズムが改善されれば、大部分の撮影では過不足なく使っていける性能を備えているように感じます。光学性能はこれからじっくりとチェック予定ですが、ざっと使った限りではズーム全域で安定感のある画質を得ることができます。単焦点レンズ並みのピーク性能は期待しないほうが良いと思いますが、フレーム隅までこれと言った弱点のないレンズ。
購入早見表
作例
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