このページでは七工匠の交換レンズ「7Artisans 35mm F1.2 II」の徹底レビューを掲載しています。
今回はPERGEARから無償提供して頂いたレンズを使用。この際に金銭の授受は一切なく、PERGEAR側がレンズ評価に一切介入していないこと明言しておきます。
レンズのおさらい
レンズ概要
- 公式ページ
- データベース
- 管理人のFlickrアルバム
- レンズ構成:5群6枚?
- 開放絞り:F1.2
- 最小絞り:F22
- 絞り羽根:10枚
- 最短撮影距離:28mm
- フィルター:46mm
- レンズサイズ:39.7mm
- 重量:218g
七工匠とは、中国・深圳の光学メーカーです。設計開発・製造を手掛けており、「七工匠」の通り7人の開発チームでスタートした会社とのこと。ここ最近は日本国内でも流通しており、Amazonや焦点工房で「7Artisans」のレンズ名を見た人もいることでしょう。
このレンズは「七工匠」が投入したAPS-Cミラーレス用レンズ「7Artisans 35mm F1.2」の改良モデルです。35mm F1.2はゾナータイプの構成を採用した非常に明るい単焦点レンズであり、複数のレンズマウントに対応。光学設計は大きく変化していないように見えますが、絞り羽根が9枚から10枚に増加し、最小絞りはF22まで拡張、さらに最短撮影距離が少し短くなり、フィルター径が43mmから46mmへ変化しています。おそらくヘリコイドの構造にも変化があり、ピントリングの回転角が少し小さくなっているように感じます。
2020年9月現在、まだ正式発表されていないため価格設定や発売日は未定です。(前述しましたが、今回はPERGEARよりレンズをお借りしています)
更新:Amazonにて出品が始まっています
7Artisans 35mm F1.2 II (簡易検索) |
|||
PERGEAR レンズフードセット | |||
楽天市場 | Amazon | キタムラ | Yahoo |
ソフマップ | e-BEST | ノジマ | PayPay |
ビックカメラ | ヤマダ | PREMOA |
7Artisans 35mm F1.2 II徹底レビュー
Index
外観・操作性
箱・付属品
白を基調としてシンプルながらスタイリッシュなデザインの箱にレンズが入っています。箱に描かれているレンズが「I型」のため、正式発表後に同じデザインの箱となるのかは不明。少なくともレンズ断面図は非常に似たようなデザインとなっています。
外観
総金属製のしっかりとした作り。低価格な純正レンズのプラスチッキーな作りと比べると頑丈で「持つ喜び」を得られやすいはず。つくりはしっかりとしていますが、部分的に気になる動作があるので後述します。
フォーカシングで内筒が前後する仕様です。接写時に最も伸び、無限遠で最も短くなります。大きく伸びる訳では無いため、どの状態でも収納性に悪影響を与えるものでは無いと思われます。
ハンズオン
小型軽量で手にスッポリと収まるサイズです。APS-C用のF1.2大口径レンズとしては非常にコンパクトで携帯性抜群。ポケットやカメラバッグの空きスペースに気兼ねなく詰め込めるサイズ感はGood。
金属製外装のため、見た目ほど軽く無く、密度の高さを感じます。
前玉・後玉
F1.2レンズと考えると、前玉は小さな凸型レンズ。フッ素コーティングは施されていないので汚れや傷には注意したいところ。フィルター径が46mmと小さく、フィルターへの投資は小さく済むはず。
電子接点は存在せず、このレンズがフルマニュアルレンズであることが分かります。当然ながらレンズ情報は記録されません。フォーカスリングを操作すると後玉が前方へ移動します。全群繰り出し式フォーカスの模様。後玉の周囲はマットブラックの塗装が施され、不要な光の反射を防いでいるように見えます。
フォーカスリング
抵抗量・滑らかさは非常に良好。最短撮影距離0.28mから無限遠までの回転角がおよそ100度ほど。そのうち90度は0.28m?1.5mで使用し、残り僅かの回転角で1.5m~無限遠にピントを合わせます。接写時はなんの問題もなくピント合わせが可能ですが、1.5m以上の距離を開ける場合は回転量が少なく、細かい調整が難しくなっています。このレンズの絞り開放で遠景を撮影することは少ないと思いますが、気を付けたいポイント。
絞りリング
1段ごとにクリックストップのある絞りリングを搭載。フォーカスリングと比べると滑らかさに雲泥の差があり、比較して絞りリングは乾燥し過ぎて滑らかに動作しません。かなり安っぽい操作感と感じます。フォーカスリングが良好なだけにギャップが大きすぎて悪目立ちする印象。
絞り羽根
絞り羽根が9枚から10枚の偶数羽根に変化しています。羽根の枚数が増え、絞った際の玉ボケがより良好な見映えとなり、絞った際に偶数羽根らしい光条を期待できます。
絞りの形状は均質的で、特に偏りは見られません。
レンズフード
かぶせ式の金属製レンズキャップが付属します。ねじ込み式では無く、フェルト生地による滑り止めのみでロックされません。このため、何かの拍子に脱落しやすく、紛失しやすいので注意が必要。46mmのキャップを買うか、フィルター装着してキャップを使わないか、互換性のあるレンズフードで前玉を保護するのがおススメ。
装着例
APS-C用のコンパクトなレンズのため、α7 IIIに装着すると小さすぎるくらいのフィット感となります。α6xxxボディに装着しても全く問題は無いでしょう。ちなみに私はNikon Z 7にアダプタ経由で装着して使っています。(α7 IIIだとAPS-Cクロップで解像度が足らないため)
MF
前述した通り、接写時の回転角は十分あり、フォーカスリングの滑らかさ・抵抗量と相まって快適にピント合わせが可能です。その一方、少し距離が開くと、僅かな回転角でピントを合わせる必要があり、被写界深度が浅いF1.2使用が難しくなります。やって出来ないことはありませんが、拡大必須。
接写時は球面収差の影響でピント面が強く滲みます。ピントの芯が見えないほどでは無いのでMFに悪影響は感じられません。
解像力チャート
テスト結果
絞り開放付近は甘めの描写ですが、絞ることで急速に画質が改善します。F1.2で全体的に少し甘めながら、F2?F2.8でハロっぽさがグッと引き締まり、F4~F8のフレーム全域で非常にシャープな画質を得ることが可能。シンプルなレンズ構成のレンズながら、四隅までとても良好な画質。ピント面のシャープさが必要であれば、少なくともF2.8まで絞って撮影がおススメ。そうすると、中央でも四隅でも満足のいく画質を得ることが出来るはず。
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.2 | 2109 | 1577 | 1997 |
F1.4 | 2232 | 1775 | 2256 |
F2.0 | 2510 | 2087 | 2313 |
F2.8 | 2665 | 2889 | 2604 |
F4 | 3010 | 2860 | 2917 |
F5.6 | 3050 | 2946 | 3101 |
F8 | 3193 | 2909 | 3319 |
F11 | 2733 | 2761 | 2896 |
F16 | 2454 | 2399 | 2578 |
F22 | 2087 | 2007 | 1991 |
実写確認
絞り開放付近は球面収差の影響が残存しており、特に中央で影響が顕著。面白いことに周辺や四隅のほうがコントラストを良好に維持しているように見えます。解像テストでコントラスト差はあまり影響しませんが、実写では少し気になる画質差かもしれません。フレーム全域の一貫性が必要であればF2.8までは絞るべき。絞ってしまえば四隅まで予想よりもシャープな写りを楽しむことが出来ます。
ただし、もう少し注意点があるので「遠景解像」を参照してください。
遠景解像力
テスト環境
メモ
- Nikon Z 7 DXクロップ
- Leofoto LS-365C
- Leofoto G4
- 曇天 8月
- ピントは中央固定
テスト結果
解像力チャートと異なり、中央領域は絞り開放から良好なパフォーマンスを発揮。その一方、周辺や四隅は甘めの描写。これは像面湾曲(ピント面が前後に歪む)が影響しており、中央と四隅でピント位置が異なっているため。パンフォーカスを得たい場合、像高5割までなら少なくともF4まで絞り、四隅まではF8?F11まで絞る必要があります。
解像テストではパフォーマンス良好のレンズですが、実写ではこの特性を考慮した絞り値で使う必要があります。
撮影倍率
軸上色収差
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指しています。手前側で主にパープルフリンジとして、奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差です。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところですが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多いです。
完璧な補正状態とは言えず、高コントラストな領域では目立つ可能性があります。特に逆光時のハイライトとシャドウの間で顕著となるはず。
しかし、極端な状況以外では思いのほか目立ちません。球面収差がうまく作用しているのかも(色づく領域が滲むため、色収差が濃くならない)。とは言え、比較的騒がしい前ボケですら色づきが少ないところを見ると、光学的に良好な補正状態と言えるかもしれません。
前後ボケ
球面収差が明らかに残存しており、後ボケは滲みを伴う非常に柔らかい描写。その反面、前ボケは硬調で2線ボケの傾向が強い描写となっています。APS-Cの35mmで前ボケが目立つシーンはそこまで無いと思いますが、そのようなシーンでは注意が必要。
軸上色収差の影響が思いのほか良く抑えられているため、ボケ描写への悪影響は少ない。
絞り開放付近の接写時は特に球面収差が強くなるので、柔らかい後ボケを重視している人にはおススメのレンズ。「XF35mmF1.4 R」や「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」と言った癖のある描写が好みであれば、このレンズのボケが強みと感じるはず。
玉ボケ
F1.2の小型レンズと言うこともあり、口径食の影響は非常に大きい。特に四隅はボケ量がかなり小さくなるため、撮影距離によっては少し騒がしくなる可能性あり。口径食はF2まで絞るとまずまず改善されため、四隅が騒がしい場合はF2まで絞ると良いでしょう。10枚絞りのため、大きく絞っても玉ボケの角ばりはそこまで目立ちません。
前述した通り、球面収差が完璧に補正されていないので玉ボケにムラが発生しています。実写でここまでムラが目立つことは無いと思いますが、イルミネーションなどでは気を付けたほうが良いかも。
歪曲収差
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに「歪む」収差です。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
このレンズは少し目に付く樽型歪曲です。実写でこれが問題となることは少ないかもしれませんが、直線的な人工物を撮影するなら後処理が必要と感じることでしょう。素直な形状で歪むため、後処理は比較的簡単。
周辺減光
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な減光のことです。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となっていることを指します。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生、ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を増感でカバーするのでノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合にはノイズが強く現れる可能性があります。
コンパクトなF1.2レンズであり、玉ボケの口径食からも分かる通り減光は強め。とは言っても接写では特に大きな問題では無く、(このレンズで)無限遠F1.2を使う機会も少ないはず。
コマ収差
コマ収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指しています。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日などが影響を受ける場合があります。後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある収差。絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞り開放のコマ収差補正が重要となります(絞るとシャッタースピードかISO感度に影響があるため)。
絞り開放付近はコマ収差の影響が非常に強くなります。全体像を見ても目立つので、イルミネーションや夜景で使う場合は少し絞るのがおススメ。F2~F2.8で大きく改善し、F4~F5.6で問題はほぼ解消します。回折の影響を考慮するとF5.6~F11付近が最適な絞り値。
逆光耐性・光条
決して完璧な逆光耐性とは言えませんが、低価格のMFレンズとしては非常に良好だと感じます。特に絞った際はフレアの発生が抑えられ、ゴーストも極僅か。実写で逆光が問題となるシーンは限られてくるはず。
10枚偶数羽根のため、絞ると10本の綺麗な光条が発生します。F2の時点で既に光条が発生し始め、F5.6からF8にかけてシャープな描写へと変化。解像性能と光条の両立が可能です。F11~F22にかけて、さらにコントラストが強くなり、光条がシャープに見えるようになります。
総評:滲むボケが好きならコスパ良好
ココがおすすめ
- 小型軽量
- 金属製のしっかりとした外装
- 滑らかなフォーカスリング
- 絞ると周辺までシャープな描写
- 接写時の柔らかいボケ
- このクラスとしては高コントラスト
- このクラスとしては良好な逆光耐性
- 綺麗な光条
- このサイズとしては周辺減光が穏やか
- このクラスとしては色収差が少ない
このレンズの強みは滲みを伴う「接写時のボケ描写」です。この点に関して言えば間違いなくおススメできるレベル。ピント面のシャープさは期待できませんが、球面収差がたっぷり残った非常に柔らかいボケを期待できます。さらに色収差が思いのほか少ないので目障りな色付きが少ないのもGood(当然、完璧ではありませんが…)。
絞り開放付近はシャープネスに期待できないものの、F8前後まで絞れば四隅まで立派な解像性能を発揮します。このクラスのレンズとしてはヌケが良く、コントラストが高いのでしっかり写ると感じるはず。
ココに注意
- 電子接点なし
- ぎこちない絞りリング
- 無限遠側のフォーカスリング回転角が小さい
- レンズキャップが外れやすい
- 絞り開放の解像性能
- 無限遠側の像面湾曲
- コマ収差補正
当然のように電子接点は非搭載。レンズ情報が記録されない他、手ぶれ補正を適切に運用するためにカメラ側で焦点距離の入力が必要です。もちろん撮影時は絞りリングやフォーカスリングの操作が必須。フォーカスリングは快適に利用できますが、絞りリングが思ったより滑らかに動かないのは撮影体験としてマイナス要素。さらにフォーカスリングの回転角がもう少し大きいと良かったです。
絞り開放の解像性能に期待するレンズでは無いので、明るさ目当ての夜景や星空目的での購入はおススメしません。ただし、絞った際の光条は綺麗なので、絞って工場や街並みを撮影するには適しています。逆光耐性もまずまず良好。
価格を考慮すると普通に単焦点を楽しめるレンズに仕上がっています。フルマニュアルレンズ、開放の描写特性などは理解して使う必要があるので初心者が「安いから」で購入するのはおススメしません(絞りの特性を理解するには分かりやすいレンズと思いますが…)。
どちらかと言えば、様々なボケ描写を体験した人で「滲みが強いボケ」が好きな人にとってコストパフォーマンスの良いレンズと感じるはず
作例
オリジナルファイルはFlickrにあります
関連レンズ
- E 35mm F1.8 OSS
- XF33mmF1 R WR
- XF35mmF1.4 R
- XF35mmF2 R WR
- 30mm F1.4 DC DN
- 35mm F1.2 ED AS UMC CS
- Touit 1.8/32
- SPEEDMASTER 35mm F0.95 II
- 7Artisans 35mm F1.2
- PERGEAR 35mm F1.2
関連記事
- 七工匠 7Artisans 35mm F1.2 II 交換レンズレビュー 完全版
- 7Artisans 35mm F1.2 II レビュー ボケ・諸収差編
- 七工匠 7Artisans 35mm F1.2 II 操作性・解像力レビュー
- 七工匠 7Artisans 35mm F1.2 II sample gallery
- 七工匠 7Artisans 35mm F1.2 IIはとても素晴らしいボケ味のレンズ
- 七工匠 7Artisans 35mm F1.2 II 交換レンズデータベース
サイト案内情報
7Artisan関連記事
- 七工匠 7Artisans 10mm F2.8 II Fisheye 最新情報まとめ
- 限定500本のライカMマウントレンズ Seagull M35mm F1.7 国内販売開始
- 七工匠が夜間でも蛍光塗料を使用した「7Artisans 10mm F2.8 Fisheye II」を予告
- 七工匠 7Artisans AF 85mm F1.8 ニコンZマウント販売開始
- 7Artisans AF 85mm F1.8 ニコンZマウント用が間もなく正式発表
- 7Artisans 60mm F2.8 Macro 2X 予約販売開始
- 7Artisansがソニー・ニコン・ライカLに対応するFFレンズ4本を計画している
- 七工匠 7Artisans 60mm F2.8 Macro 2X 最新情報まとめ
- 七工匠 7Artisans AF 27mm F2.8 ニコンZマウント 国内販売開始
- 七工匠 7Artisans 35mm F1.4 III 正式発表
Facebookで最新情報やカメラ・レンズのレビューを発信しています。
「いいね!」を押すとFacebookの最新情報が届きます。