こページでは岩石星「AstrHori 12mm F2.8 Fisheye」のレビューを掲載しています。
おことわり
今回は2ndFocusより無償貸与の「AstrHori 12mm F2.8 Fisheye」を使用してレビューしています。提供にあたりレビュー内容の指示や報酬の受け取りはありません。従来通りのレビューを心がけますが、無意識にバイアスがかかることは否定できません。そのあたりをご理解のうえで以下を読み進めてください。
AstrHori 12mm F2.8 Fisheyeのレビュー一覧
- 岩石星 AstrHori 12mm F2.8 Fisheye レンズレビュー完全版
- 岩石星 AstrHori 12mm F2.8 Fisheye レンズレビューVol.4 ボケ・減光・逆光編
- 岩石星 AstrHori 12mm F2.8 Fisheye レンズレビューVol.3 諸収差編
- 岩石星 AstrHori 12mm F2.8 Fisheye レンズレビューVol.2 遠景解像編
- 岩石星 AstrHori 12mm F2.8 Fisheye レンズレビューVol.1 外観・操作編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 競合より少し高め | |
サイズ | 比較的大きい | |
重量 | 比較的重い | |
操作性 | 必要十分 | |
解像性能 | 絞れば隅まで良好 | |
ボケ | 接写時は良好 | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
コマ収差 | 良好な補正状態 | |
周辺減光 | ほぼ問題なし | |
逆光耐性 | このクラスでは良好 | |
満足度 | 画質重視のMF魚眼レンズ |
評価:
このクラスでは優れたMF魚眼レンズ
手ごろな価格のMF魚眼レンズとしては優れた光学性能を備えています。フレーム隅まで解像させる場合には絞る必要があるものの、諸収差の補正状態や周辺減光、逆光耐性などは良好な状態。画質重視の場合は検討する価値がある一本。
Index
AstrHori 12mm F2.8 Fisheyeのおさらい
「Rockstar・岩石星」ブランドとしても知られているAstrHoriのフルサイズ対応魚眼レンズ。フルサイズミラーレス用の魚眼レンズはカメラメーカーからリリースされておらず、いくつかの中国レンズメーカーが電子接点のないマニュアルレンズとして販売しているのみ。このAstrHori 12mm F2.8はその中の一つで、他に「TTArtisan 11mm f/2.8 Fisheye」「7Artisans 10mm F2.8 Fisheye」などが存在します。
- 商品ページ
- データベース
- 管理人のFlickr
- 発売日:2022年12月10日
- 販売価格:¥41,199
- フォーマット:フルサイズ
- マウント:Z / E / L / RF / GFX
- 焦点距離:12mm
- 絞り値:F2.8-F16
- 絞り羽根:5枚
- レンズ構成:8群11枚
- 最短撮影距離:0.2m
- 最大撮影倍率:不明
- フィルター径:
- サイズ:φ90×100mm
- 重量:757.5g
- 防塵防滴:-
- 手ぶれ補正:-
- その他特徴
・絞りリング
・電子接点なし
TTArtisanや7Artisansの競合レンズが400g台であるのに対し、AstrHoriは757gと重め。前玉が非常に大きくなっているので、そのぶん画質など光学性能に期待したいところ。レンズ構成の詳細は不明ですが、MTF曲線を見る限りではフレーム端まで良好な画質を期待できそう。
価格のチェック
販売価格には振れ幅があるものの、およそ4~5万円。競合レンズと比べると少し高めの設定となっています。サイズや重量、価格を考慮すると、それだけの画質差を期待したいところですね。そのあたりは今後のテストで確認していきたいと思います。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
外箱は黒を基調としたシンプルなデザイン。ブランドである岩石星・AstrHoriが大きくプリントされていますが、どのようなレンズの箱なのか確認することはできません。箱を開けると、本体は発泡素材を型取りしたクッションに包まれています。同梱品はレンズキャップと説明と少なく、レンズポーチなどは確認できません。日本国内のレンズメーカーと比べると箱の魅せ方は上手いように見えます。
外観
総金属製の頑丈な作り。リアキャップ以外は全て金属とガラスで構成された塊感のあるレンズです。外装にはブランド名の「AstrHori」やピント位置、絞り値などを表示。表示はプリントではなく、エッチング加工された上で色塗りしている模様。同時にレビューしているAstrHori 50mm F1.4よりもリッチな細工が施されています。
フォーカスリングや絞りリングも金属製で、表面は同じローレット加工。見栄えは良いものの、グリップすると少し滑りやすいと感じます。
ハンズオン
700g超と言うこともあり、見た目よりも重いと感じます。苦痛と感じるほどではなく、「金属とレンズの塊」感が得られる適度な重量と言えるでしょう。
前玉・後玉
魚眼レンズらしく、前面には突出した大きなレンズを配置。出目金レンズのため、ねじ込み式の円形フィルターには対応していません。フッ素コーティングに対応しているわけでもないので、水滴や汚れが付着した際のメンテナンス性は低いと思われます。とは言え、前玉を拭きやすい形状となっているので、大きな問題とは感じないはず。
前玉の周辺にはレンズ保護とわずかな遮光性が得られるレンズフードを搭載。本体に固定されているので取り外すことは出来ません。インナーフォーカスではなく全群繰り出し式のため、最短撮影距離では前玉が僅かに前方へ移動します(フード内)。レンズマウントは3本のビスで固定。フォーカス操作により後玉が前後に移動します。周囲は不要な光の反射を防ぐために適切なマットブラックの塗装。
フォーカスリング
金属製のフォーカスリングを搭載。表面はローレット加工が施されていますが、グリップが良いとは言えません。最短撮影距離0.2mから無限遠まで90度ほどのストロークで操作可能。フォーカスリングは適度な抵抗感で非常に滑らかな操作が可能。
絞りリング
F2.8からF16まで操作できる金属製の絞りリングを搭載。F8までは1/2段刻みのクリック感があり、F8からF16までは1段刻みのクリック感あり。適度な抵抗感と滑らかさで動作します。
不具合あり
初期のサンプルは内部の固定が緩んでいるらしく、絞リング周辺の外装にがたつきがあり。この結果、絞りリングのクリック感がなくなるほか、光軸が少し傾いてしまっています。この不具合は既に報告済みであり、代替品を用意できないか交渉中です。
装着例
α7R Vに装着。重たいレンズですが、カメラと組み合わせた際のバランスは取れています。最大径が大きいため、ボディ下部よりレンズが突出する点に注意。絞りリングはマウント付近に配置されているため、少し操作し辛いと感じました。
MF
フォーカススピード
フォーカスリングのストロークは90度と短めですが、粘性の高いグリスが塗布されているのか回転操作が重め。正確な操作に適している反面、ピント位置を大きく移動する際にリングが重すぎると感じる可能性あり。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
全群繰り出し式ということもあり、ピント位置によって画角が変化します。
精度
前述した通り、粘性の高いフォーカスリングで正確な操作が可能。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2023年12月6日 快晴 無風
- カメラ:α7R V
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:絞り優先AE ISO 100
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネスオフ
・レンズ補正オフ
・ノイズ補正オフ - 画角が広いので、クロップする箇所をフレーム内で移動しながら撮影(ピント合わせを実施)
テスト結果
フレームの中央から隅に向かって7割程度の広い範囲はF2.8の絞り開放から非常に良好。7割から外側は大荒れこそしないものの、コマ収差・非点収差のような少しソフトな画質となります。絞ると改善しますが、改善速度は遅め。最高の結果を得るにはF11くらいまで絞る必要があります。
中央
絞り開放から非常に良好。シャープネス・コントラストどちらも高水準に見えます。絞ってもこれ以上の画質向上は期待できません。
周辺
中央と比べるとシャープネスとコントラストが共に少し低下。ただし、α7R Vで大きくクロップして認識する程度であり、顕著な画質低下ではありません。F4-5.6まで絞ると画質が向上します。
四隅
中央や周辺部と比べると細部の描写が甘く、像が少し流れているように見えます。シャープな結果を得たい場合は最低でもF8、できればF11まで絞りたいところ。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
フレーム端を拡大すると僅かに倍率色収差の影響が残っています。心配するほどの量ではなく、カメラ内や現像ソフトで簡単に処理できる範囲内。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
軽微な影響で絞り開放からほとんど問題ありません。ただし、水面の照り返しなど極端な状況ではF2.8-4あたりで色づきが発生する可能性あり。F5.6以降はそのような状況でも問題と感じることは少ないでしょう。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
絞り開放からフレーム隅までほとんど問題ありません。
球面収差
前後のボケ質には僅かに違いが見られるものの、これが実写に大きな影響を与えることは無いと思われます。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
少なくとも接写時は後ボケのほうが滑らかで綺麗に、前ボケは縁取りのある硬調な描写のようです。とは言え、「12mm F2.8」のレンズでこの質感の差が分かるほど大きなボケを得る機会は少ないはず。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
「12mm F2.8」のレンズでボケを大きくすることは出来ませんが、接写性能が高く、最短撮影距離に近いピント位置では玉ボケを作ることが出来ます。この際の描写は悪くなく、フレーム隅まで口径食の少ない玉ボケを得ることが可能。色収差の影響も少なめ。
ボケ実写
至近距離
シャープなピント面で後ボケは滑らか。玉ボケに色収差や球面収差の影響は少なく、口径食による玉ボケの変形もありません。とても綺麗で使いやすい描写です。F5.6まで絞ると玉ボケが角ばるため、ボケ優先ならF2.8付近の使用をおススメします。
近距離
撮影距離が離れるとボケが急速に小さくなります。この時点で球面収差には変動があり、ボケの縁取りが高く2線ボケの兆候あり。状況によっては色収差の影響が目立つかもしれません。とは言え、全体的にボケが小さいので、悪目立ちすることは無し。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F2.8)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。全身をフレームに入れると背景から分離するのは難しい。近寄るとボケが大きくなるものの、現実的な撮影距離ではないのかなと思います。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
実写で確認
ピント全域でわずかな減光が発生するものの、無視できる程度に抑えられています。F4-5.6に絞ると改善しますが、F2.8から大きな問題はありません。
逆光耐性・光条
中央
点光源付近にやや目立つフレアが発生しますが、全体的なコントラストは良好。絞るとフレアが抑えられ、適度な数とサイズのゴーストが発生します。この価格帯の広角レンズとしては健闘しているほう。
隅
中央と比べてフレアの影響が抑えられ、ゴーストもわずか。
光条
5枚の絞り羽根で10本の光条が発生。シャープな描写ですが、先細りせず分散するタイプで好みは分かれるかもしれません。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 総金属製の頑丈な作り
- 適度で滑らかなフォーカスリング
- クリック付きの絞りリング
- 絞ると隅までシャープ
- 色収差の補正状態が良好
- コマ収差の補正状態が良好
- 接写時のボケが滑らか
- 周辺減光の問題なし
- 逆光耐性がまずまず良好
諸収差は全体的に良好な補正状態で、絞れば隅までシャープな結果を得ることができます。逆光耐性に問題はなく、接写すれば綺麗なボケを得ることができます。オールラウンドに使うことができるMF魚眼レンズ。
悪かったところ
ココに注意
- 競合他社より少し高め
- 競合他社より大きく重い
- フォーカスブリージングが目立つ
- 絞り開放付近で隅がソフト
- 光条が分散するタイプ
他社と比べると大きく重く、そして少し高価な魚眼レンズ。このあたりを妥協しても光学性能は価値のある一本だと思いますが、携帯性重視の場合はTTArtisanや7Artisansなどを検討したほうが良いかもしれません。また、F2.8の解像性能を重視する場合はサムヤンも選択肢の一つ。
総合評価
満足度は90点。
この価格帯のMFレンズとしては大きく重いものの、優れた光学性能を備えています。特に絞って風景撮影などで使う機会が多く、画質重視でサイズや重量を許容できるのであればおススメできる一本。