このページではニコン「NIKKOR Z 26mm f/2.8」のレビューを掲載しています。
NIKKOR Z 26mm f/2.8のレビュー一覧
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビュー 完全版 2023年4月2日
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビューVol.6 周辺減光・逆光編 2023年3月27日
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビューVol.5 諸収差編 2023年3月12日
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビューVol.4 ボケ編 2023年3月10日
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビューVol.3 解像チャート編 2023年3月6日
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビューVol.2 外観・操作・AF編 2023年3月4日
- ニコン NIKKOR Z 26mm f/2.8 レンズレビューVol.1 遠景解像編 2023年3月3日
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 安くはない | |
サイズ | 非常にコンパクト | |
重量 | この上ない軽さ | |
操作性 | 最小限だが良好 | |
AF性能 | 高速だが欠点あり | |
解像性能 | 大部分で良好 | |
ボケ | 接写時は滑らか | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | 補正必須 | |
コマ収差・非点収差 | 隅で目立つ | |
周辺減光 | 場合によって補正必須 | |
逆光耐性 | 良好 | |
満足度 | 高価だが優れた小型軽量レンズ |
評価:
新世代パンケーキレンズ
小型軽量ながら、質感・操作性・性能が全体的に高水準。光学性能は部分的に補正必須と感じるものの、レンズサイズを考慮すると良く出来ています。繰り出し式フォーカスも手伝ってピント全域での解像性能が非常に高く、フレームの広い範囲で安定した切れ味を体感することが出来ます。いくつか欠点もありますが、事前に把握できる部分が多く、高い値付けに納得して購入できるのであれば満足度は高いはず。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | ボケが小さい・綺麗ではない | |
子供・動物 | 近距離でAFが追い付かない | |
風景 | 優れた解像性能 | |
星景・夜景 | コマ収差と周辺減光が欠点 | |
旅行 | 高性能だが動画には不適 | |
マクロ | 優れた接写性能 | |
建築物 | 歪曲を補正必須 |
Index
レンズのおさらい
2023年2月に発表された非常にコンパクトなフルサイズ用の広角単焦点レンズ。2021年に「Z 28mm F2.8」がリリースされたにも関わらず、似たような焦点距離・F値の単焦点が立て続けに投入されたことに驚いた人もいることでしょう。ただし、28mmよりも倍近い販売価格から分かるように、Z 28mm F2.8とはコンセプトが異なります。
概要 | |||
---|---|---|---|
|
|||
レンズの仕様 | |||
発売日 | 2023年3月3日 | 初値 | 65,340円 |
マウント | Z | 最短撮影距離 | 0.2m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 0.19倍 |
焦点距離 | 26mm | フィルター径 | 52mm |
レンズ構成 | 6群8枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F2.8 | テレコン | - |
最小絞り | F16 | コーティング | SIC |
絞り羽根 | 7枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ70.0×23.5mm | 防塵防滴 | 配慮設計 |
重量 | 125g | AF | STM |
その他 | 繰り出し式フォーカス | ||
付属品 | |||
レンズフード・キャップ |
全長は28mmと比べて半分ほど。より広い画角であることを考慮すると驚きのコンパクトサイズ。ただし、インナーフォーカスの28mmと異なり、26mmは全群繰り出し式フォーカス、そしてカメラ起動時に鏡筒が少し伸びる沈胴構造)を採用しているので、レンズ全長に変化がある点に注意が必要です。
構成を見ると、28mm F2.8よりも使用する非球面レンズを増やし、6群8枚と少ないレンズ枚数を実現。小型化のためにコストをかけていることが分かります。光学性能の両立にも力を注いでいたらしく、MTFを見る限りでは、特に中央やその周辺は28mmよりも優れた解像性能を備えている模様。隅に向かって落ち込みは顕著ですが、それでも非点収差はよく抑えているように見えます。
コンパクトながら防塵防滴に配慮した設計で、各所にシーリングが施されています。携帯性と耐候性を両立しているのは有難いですね。
価格のチェック
売り出し価格は6.5万円ほど。Z 28mm F2.8が3万円ちょっとで入手できることを考えると倍近い高値です。ただし、レンズの作りや小型化、光学性能などで区別化されているようです。この価格差が本当に価値のあるものなのかどうかは、今後のレビューで見ていきたいと思います。
NIKKOR Z 26mm f/2.8 | |||
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
NIKKOR Zらしい、黒と黄色を基調としたデザインの箱です。2018年のZシステム始動時から変化はありません。
レンズ本体のほかに、レンズフードとかぶせ式キャップ、説明書・保証書が付属します。S-Lineのレンズと異なり、レンズポーチは付属していません。
外観
プラスチッキーなZ 28mm F2.8と異なり、このレンズは外装に金属パーツを多用。コンパクトながら質感はとても良好です。ただし、前面のレンズ周辺部はプラスチックパーツで構成。操作系はコントロールリングのみで、AF/MFスイッチなどはありません。レンズフードはバヨネットタイプで、本体にフィルターソケットは無し。
外装のデザインはシンプルで、「NIKKOR」のロゴ以外はほぼプリントです。
ハンズオン
ニコン自ら「パンケーキレンズ」と称しているだけあって、手のひらサイズのコンパクトなレンズです。重量も125gと軽く、APS-Cと組み合わせてもバランスが崩れることはありません。金属外装を採用しているため、手に取ると冷っとしつつも高級感のある感触が得られます。ただし、レンズフードがプラスチック製で、本体との質感にギャップがあり少し残念。
前玉・後玉
広角26mmのレンズとしては非常に小さな前玉です。これで開放F値が「F2.8」となっているのは驚き。バックフォーカスが短いミラーレス用レンズらしい設計と言ったところでしょうか。ちなみに、フォーカスは繰り出し式で、前玉付近の内筒が前方へ延びます。
前玉は小さすぎてメンテナンスが難しそう。フッ素コーティング処理が施されている記述は無いので、汚れの付着には注意したほうが良いかもしれません。
前玉とは打って変わって、最後尾は大きな非球面レンズ。レンズマウントのギリギリまで寄せているので、指などで触らないように気を付けたほうが良いでしょう。
レンズマウントは金属製で、4本のビスで固定されています。プラスチックマウントの28mmや40mmと比べてしっかりとした作り。周囲にはゴム製のシーリングを配置した防塵防滴仕様。シーリングの代わりにプラスチックパーツでマウントを覆うZ 28mmやZ 40mmとは異なるデザインです。
フォーカスリング
小さいながらも、しっかりとグリップできる(おそらく金属製の)コントロールリングを搭載。初期設定ではフォーカス操作が可能ですが、カメラ側の設定で絞りやISOの操作にも利用可能。程よい抵抗感と滑らかさで快適に操作することができます。これはレンズの強みになるのではないかなと。
フォーカス操作時のストロークは回転速度によって変化。ゆっくり回す場合はピント全域で約180度、素早く操作する場合は約90°で全域を移動可能。微調整と素早い操作に適したバランスの良いストロークで、フルマニュアルでも使えそうな印象あり。微調整時にピント位置がジャンプする傾向は目立たず、思いのほか滑らかに動作します。
レンズフード
プラスチック製のドーム型レンズフードが付属。本体と比べると質感は大幅に劣りますが、フォーカス時に内筒が伸びるため、これを保護する意味でもフードの常用がおススメ。
注意点として、フードは「NIKKOR」が真上に来るように装着しないとロックすることが出来ません。真上にこないような方向で装着することもできますが、ロック出来ないので簡単に脱落してしまいます。装着時の指標が無いのは厄介ですが、脱着を繰り返しているうちに慣れると思います。
全群繰り出し式フォーカスはフード内で完結するので、保護フィルターを装着することで、実質的にインナーフォーカスとなります。
前方には52mm径のフィルターソケットを備えています。前玉はフッ素コーティングに対応していないので、汚れの付着が予想されるシーンでは保護フィルターを装着したほうが良いでしょう。ただし、この場合にレンズフードが意味をなしていないのは残念。
レンズキャップ
通常のつまみ式キャップは付属しておらず、レンズに被せるプラスチック製のキャップが付属。レンズフードと同じく、質感は本体と比べると劣る。内側には滑り止め用のフェルト生地が張り付けられており、適度な抵抗感で簡単に脱落しないようになっています。
本体に装着する場合はコントロールリングを覆うまで被せることが可能。レンズフード装着時、さらにほご フィルター装着時でもキャップを被せることが出来ます。
装着例
Z 7とZ 30に装着。Z 28mmよりもコンパクトで、ボディだけで撮り歩いているような感覚で携帯することが可能。カメラグリップ以上にレンズが突き出さないので、最小限のサイズで携帯性・収納性が高いのは間違いなく強みと感じます。
AF・MF
フォーカススピード
ステッピングモーター駆動の繰り出し式フォーカスを採用。ゆっくり動作するのだろうと思いきや、思いのほかキビキビと動作します。インナーフォーカスやマルチフォーカス駆動のレンズと比べると遅いものの、近距離で接近してくる被写体にも十分な追従速度を実現しています。ただし、それなり駆動音が発生するので動画撮影時や静粛性が求められる撮影シーンでは注意が必要。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・0.5倍(0.33m)・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
ピント位置における画角の変化は非常に大きい。特に良く抑えられたレンズが多いNIKKOR Zシリーズとしてはかなり目立ちます。主に動画撮影で厄介な特性ですが、静止画でも周辺部にピントを合わせたい場合に気になる場合があります。
画角の変化はピント全域でリニアに変動する印象。このため、撮影距離が長い場合でも画角の変化が目立ちます。結果として、周辺部にピントを合わせたい場合に合焦失敗、ピントのズレなどが発生する可能性あり。中央や中央周辺でAFを動作させたほうが良いでしょう。
精度
前述したように、中央付近では問題ありませんが、周辺部や隅を使ったAFでは合焦に失敗する場合があります。
MF
「パンケーキ・繰り出し式フォーカス」で扱いづらいかと思いきや、滑らかな動作で細かい調整にも対応することが出来ます。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:Nikon Z 7
- 交換レンズ:NIKKOR Z 26mm f/2.8
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
小型軽量の広角レンズながら、接写に近い解像チャートでも良好な結果。Z 28mm f/2.8が苦手とする領域ですが、このレンズは収差変動が少ない全群繰り出し式フォーカスが功を奏したと思われます。F2.8における均質性こそ低いものの、F4~F5.6まで絞ると周辺部や隅の画質が急上昇します。以降は均質性の高い見事な結果。
中央
絞り開放から非常にシャープな結果が得られます。絞っても改善しませんが、周辺画質の向上や被写界深度の調整に集中して使うことができます。比較してZ 28mm F2.8は若干ソフトで、絞っても26mmほどシャープな結果が得られません。
周辺
中央と比べるとF2.8は少しソフトですが、F4まで絞ると中央とほとんど変わらない良好な解像性。F4以降に大幅な改善はありません。
四隅
F2.8の絞り開放でも顕著な落ち込みは無く、周辺部と同程度の結果が得られます。ただし、周辺減光が強く、コマ収差と思われるコントラスト低下があります。絞ることで欠点が改善され、周辺部とほぼ同じ結果となる。26mmのパンケーキレンズとしては見事な結果。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.8 | 4687 | 3323 | 3115 |
F4.0 | 4305 | 3984 | 3361 |
F5.6 | 4287 | 4191 | 4041 |
F8.0 | 4230 | 3965 | 3800 |
F11 | 4343 | 4022 | 3606 |
F16 | 3866 | 3482 | 3108 |
実写確認
F4の時点で既に均質性が高く、F5.6-F8でピークの画質に到達します。F8まで絞ってスナップ撮影に使うのであれば、接写から遠景まで、画質変動が少なく安定した描写で利用することが出来そうです。
競合レンズとの比較
NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3も優れた性能ですが、ピークの解像性能は26mm F2.8には及びません。NIKKOR Z 28mm f/2.8やNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sは近接時の周辺部に顕著な落ち込みが見られます。接写時に周辺部や隅の画質を気にすることは稀かもしれませんが、そのような使い方をする場合にZ 26mm F2.8は広角レンズとして最良の選択肢と言えるでしょう。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2023年3月3日 晴天 微風
- カメラ:Nikon Z 7
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 100 絞り優先AE
- RAW:
・Adobe Camera Raw
・シャープネス オフ
・ノイズ補正 オフ
テスト結果
小型軽量な広角26mmのパンケーキレンズとしてはフレーム隅まで安定感があります。予想ではもう少し隅の画質低下が目立つと予想していましたが、いい意味で裏切られました。絞ると周辺部まで非常に良好となり、隅も周辺減光が改善し、コントラストが僅かに向上しているように見えます。
中央
F2.8の絞り開放から非常に良好な解像性能を発揮しています。細部までシャープで、コントラストは高い。F2.8から画質はピークの状態で、絞っても変化はほとんどありません。F8まで画質が維持され、F11~F16で徐々に回折の影響により画質が低下します。
周辺
中央と比べると僅かにコントラストが低いようにも見えますが、安定感のある良好な結果を得ることができます。絞ると僅かに画質が改善するものの、ピークとの差はほとんどありません。F8まで同程度の結果を得ることが可能。
四隅
驚いたことに、隅に向かって画質の大きな低下は見られません。細部のコントラストは周辺部よりもやや低めですが、画質の乱れは目立たず、画像処理次第で十分に良好な結果を得ることが可能。絞るとコントラストや周辺減光が解像するものの、F2.8と比べて劇的に改善することはありません。
像面湾曲
像面湾曲とは?
像面湾曲があるレンズは、中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なります。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後にピントの山が移動している場合、像面湾曲の影響が考えられます。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合あり。ただし、近距離でフレーム一杯にフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても過度に心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あります。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
ピント位置が中央でも隅でも、フラットな被写体に対して大きな変化はないように見えます。あえて言えば、隅の絞り開放はコマ収差の影響でコントラストが低く、ピント位置の精度が低下する傾向があります。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
小型軽量な広角レンズですが、倍率色収差は綺麗に補正されているように見えます。この良好な結果は確かに描写に反映されており、コントラストが高い状況でも色づきはほとんど目立ちません。補正が難しいボケへの色づきもありません。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
よく見ると軸上色収差が極わずかに発生していますが、実写で問題となることはまずないでしょう。小型軽量なレンズとしては良好に補正されています。軸上色収差ではありませんが、絞った際の被写界深度は遠側に向かって広がっているように見えます。フォーカスシフトの軽微な影響が見られますが、実写で過度に心配するほどの量でもありません。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
実写で確認
前後のボケ質はニュートラルではなく、後ボケが少し柔らかく、前ボケが硬調な描写に傾いています。球面収差の補正が完璧ではないのかもしれません。とは言え、広角レンズで前ボケが入る機会は少なく、より重要な後ボケが柔らかい描写となっているのは良い傾向と言えるでしょう。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
小型軽量なレンズですが、レンズ構成中に非球面レンズを3枚も使用。この特殊レンズは研磨状態により玉ボケにムラが発生しやすく、いわゆる「玉ねぎボケ」と言われています。この26mm F2.8は玉ねぎボケと思われる同心円状のムラが目立ちます。コントラストの高い背景が玉ボケとなる場合は注意したほうが良いでしょう。ただ、色収差による色づきが目立たないので、極端に騒がしい描写ではありません。
口径食も目立ちますが、パンケーキサイズの広角26mmとしてはよく抑えているように見えます。絞ると改善しますが、それ以上に(絞り羽根による)ボケの角ばりが目立つので、口径食は諦めたほうが良さそう。
ボケ実写
接写
パンケーキレンズながら、接写性能を活かして大きなボケを得ることができます。この際はボケは滑らかで、大部分で満足のいく結果。さらに、ピント面がシャープなので、被写体分離がしっかりとできている印象あり。前述したようにコントラストの高い領域の玉ボケが「同心円状のムラ」で悪目立ちしていますが、全体の描写を否定するほどの影響でも内容に見えます。絞っても心地よい描写が続き、最小絞りのF16まで問題なく利用可能。
近距離
撮影距離が長くなると当然ながらボケが小さくなります。フレームの広い範囲はそれでも滑らかで綺麗なボケに見えますが、四隅のボケが少し騒がしい印象。これは口径食の影響というよりもコマ収差の影響が強いのかもしれません。このため、絞ると隅の描写は改善(コマ収差が収束するため)。ボケは小さくなりますが、F5.6付近で隅まで安定感のあるボケが得られます。
中距離
さらに撮影距離が長くなると、中央領域でもボケが少し騒がしく、四隅はさらに悪目立ちするようになります。どちらも少し絞ることで描写が落ち着くので、気になる場合はF4~F5.6あたりで調整すると良いかもしれません。
撮影距離
全高170cmの三脚を人物に見立てて、絞り開放F2.8を使って撮影したのが以下の作例。
全身をフレームに入れても僅かにボケが得られますが、被写体を背景から分離するのは苦しいです。よく見るとボケが騒がしいものの、サイズが小さいので目立ちません。膝上くらいまで近寄るとボケが大きくなりますが、同時に騒がしい描写も目立ちます。このような場合は少し絞ったほうが良いかもしれません。バストアップくらいまで近寄ると良好なボケが得られます。
球面収差
ピント前後のボケ質に大きな変化はなく、球面収差は良好に補正されているように見えます。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
無補正の状態だと、やや目立つ樽型歪曲が発生します。僅かに陣笠状の歪みとなっているので、リニアな手動補正では綺麗に修正できない可能性あり。幸いにも、歪曲収差はボディ側で自動的に修正されるほか、格納されているプロファイルで現像ソフトを使った際にも自動的に補正されます。ただし、自動補正が適用できない現像ソフトでは注意が必要。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
小型軽量な広角レンズらしく、F2.8の絞り開放で周辺減光が目立ちます。フラットな被写体や背景がある場合は日ネッティング補正を利用したほうが良いでしょう。F4まで絞ると大きく改善しますが、さらに絞っても完全には解消しません。
無限遠
最短撮影距離と比べて周辺減光がさらに目立ちます。フラットな被写体以外でも強めの減光を感じるので、減光を好まない場合は常時ヴィネッティング補正が必須となります。絞ると改善しますが、絞り値全域でやや目立つ減光が残ります。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
このレンズの諸収差で欠点となるポイント。フレーム隅に向かってやや目立つコマ収差が残っています。フレーム隅におけるコントラスト低下の原因となっている可能性あり。これを改善するには2段ほど絞る必要があります。近距離・遠景における解像テストの結果と一致する傾向です。
逆光耐性・光条
中央
強めの光源を正面から受けると光源周辺にフレアが発生。絞るとフレアは低減しますが、収束して目立つゴーストとなります。状況によっては目立つ可能性あり。レンズ構成枚数が少ないためかゴーストの発生数は少ない。状況と絞り値によっては厄介となるかもしれません。
隅
光源を中央から受けるよりもフレアやゴーストの影響が少なく、絞ってもゴーストの影響はごく僅か。
光条
F11付近より光条がシャープとなり始めますが、F16まで絞っても先細りする光条にはなりません。光条目当てて絞るくらいなら、クロスフィルターなどで対応したほうが良いでしょう。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 金属外装の良好な質感
- 小型軽量
- 防塵防滴
- 滑らかなフォーカスリング
- 接写時も良好な解像性能
- 良好な遠景解像性能
- 良好な色収差補正
- 後ボケが少し柔らかい
- まずまず良好な逆光耐性
小型軽量なパンケーキレンズながら良く写るレンズです。接写から遠景まで解像性能や収差変動が少なく、フレームの広い範囲で安定した結果を得ることが可能。残存収差のコントロールも容易で、癖が少ないのもGood。Z 28mm F2.8は接写時にパフォーマンスが低下しやすいことを考慮すると、Z 26mmの安定感は明らかに強み。価格はやや高いものの、良好な質感で堅牢な鏡筒を実現しており、所有する喜びを得ることもできるでしょう。
悪かったところ
ココに注意
- 「26mm F2.8」としては高価
- 操作はコントロールリングのみ
- レンズフードがプラスチック製(本体と質感のギャップ)
- フィルターソケットはフードのみ対応
- 全群繰り出し式フォーカス(AF速度・AF駆動音・ブリージングでマイナス)
- 若干の像面湾曲
- 玉ねぎボケ
- 樽型の大きな歪曲収差
- 補正必須の周辺減光
- コマ収差が目立つ
欠点はいくつか存在しますが、「小型軽量な広角レンズ」からある程度は想像できる範囲の欠点が多い。周辺減光やコマ収差は絞りで抑えることができ、歪曲収差はソフト補正できちんと修正することが可能。玉ボケにおける同心円状のムラは避けられませんが、26mm F2.8で目立つと感じるシーンは少ないはず。
少し残念だったのがプラスチック製のレンズフード。本体と比べて安っぽい質感であることは否めず、前面にプリントされた白字のレンズ名も安っぽさを強調してしまっているように見えます。フード無しで運用したいところですが、全群繰り出し式で伸びる内筒を考慮するとフード必須。社外製でスタイリッシュなレンズフード登場を願うばかり。
半値で購入できるZ 28mm F2.8と比べて明らかに見劣りするのはフォーカス性能。繰り出し式フォーカスとしては決して遅くはないものの、フローティング構造のインナーフォーカス仕様である28mmと比べると分が悪く、駆動音も決して静かとは言えません。さらにフォーカスブリージングが目立つので、動画撮影とは相性が悪い。
総合評価
満足度は90点。
個人的には、以前に入手したZ 28mm F2.8よりも気に入りました。26mmの広い画角、接写時でも安定感のある画質、小型軽量などなど。欠点もいくつかありますが、長所を考えると許容範囲内。問題は半値でZ 28mm F2.8が買えること。静止画重視であれば26mmがおススメ。動画撮影も併せて使用する前提であれば28mmがおススメです。
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作例
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