このページではニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SEのレビューを掲載しています。
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 十分安い | |
サイズ | 28mmとしては小型 | |
重量 | 28mmとしては軽量 | |
操作性 | 最小限だが良好 | |
AF性能 | 良好だが爆速ではない | |
解像性能 | 接写時が甘い | |
ボケ | 撮影距離による | |
色収差 | このクラスとしては良好 | |
歪曲収差 | 補正必須 | |
コマ収差・非点収差 | コマ収差が目立つ | |
周辺減光 | 補正必須 | |
逆光耐性 | まずまず良好 | |
満足度 | 新撒き餌レンズ |
評価:
小型軽量・低価格のレンズとしては良くまとまっている広角単焦点。部分的に補正必須と感じるものの、補正込みの画質として弱点と感じる部分は極僅か。価格も抑えられているのでおススメしやすい。また、Z fcのキットレンズとして登場したことからも分かる通り、APS-Cに装着して使うと弱点の多くは回避可能。
Index
NIKKOR Z 28mm f/2.8のレビュー一覧
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー 完全版
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー 諸収差編
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー 周辺減光・逆光耐性編
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー ボケ編
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー 解像力チャート編
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー 遠景解像編
- ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE徹底レビュー 外観・操作性・AF編
まえがき
2019年にロードマップに追加され、2021年3月に「Z 40mm F2」と共に開発発表、そしていよいよ登場するかと思いきや、Z fc用にデザインが変更された「NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)」が先に正式発表された(6月29日)。その後は世界情勢が影響したためか発売時期が遅れ、ようやく10月1日にZ fc用のキットレンズとしてリリースされた。
概要 | |||
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レンズの仕様 | |||
マウント | Z | 最短撮影距離 | 0.19m |
フォーマット | 35mm | 最大撮影倍率 | 0.2倍 |
焦点距離 | 28mm | フィルター径 | 52mm |
レンズ構成 | 8群9枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F2.8 | テレコン | - |
最小絞り | F16 | コーティング | 不明 |
絞り羽根 | 7 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ71.5×43mm | 防塵防滴 | 配慮 |
重量 | 160g | AF | STM×2 |
その他 | プラスチックマウント | ||
付属品 | |||
レンズキャップ |
、まず注目すべきはレンズサイズ。フルサイズに対応した広角28mmながら、全長はわずか43mm、そして重量は160gと小型軽量なレンズに仕上がっている。このため、フルサイズカメラのみならず、APS-Cセンサーサイズのカメラと組み合わせてもバランスが取りやすい。実際、このレンズはZ fcのキットレンズとして世に送り出された。もちろんフルサイズミラーレスに装着して使いことも出来る。
小型軽量で低価格ながら、レンズは防塵防滴に配慮した設計となっている。対応するボディと組み合わせることで天候を選ばずに撮影できるのは有難い。さらに、この価格帯としては珍しく、フォーカシングにマルチフォーカス構造を採用。これにより近距離でも収差変動の少ない光学性能を実現。
レンズ構成は8群9枚でうち非球面レンズを2枚採用している。MTFを見る限り、小型軽量な広角レンズとしては非点収差が良く抑えられており、周辺部の落ち込みが少ないように見える。実写でチェックしないと断言はできないものの、良レンズの予感。
価格のチェック
売り出し価格は34,650円(税込)。Z 40mm F2.8よりは高いものの、それでもNIKKOR Zレンズの中では非常に安いフルサイズ用レンズに違いない。防塵防滴に配慮した設計、マルチフォーカスなどの特性を考慮するとコストパフォーマンスは高い。
NIKKOR Z 28mm f/2.8 | |||
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NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) | |||
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
今回はZ fcのレンズキットとして入手。従来のZシステムのデザインとは異なり、グレーを基調として、ロゴにシルバーを配色した独特のカラーリング。ボディやレンズ本体は段ボールで間仕切りされ、薄い緩衝材に包まれている。レンズに関連する付属品は前後のキャップ以外なし。
外観
外観は従来のZシステムとは異なり、Z fcの外観に合わせた独特のデザイン。往年の「AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G (Special Edition)」を彷彿とさせるシルバーのデコレーションリングに、ローレット加工された硬質ゴム製フォーカスリングを搭載している。
全体的にプラスチックパーツを多用したレンズだが、手に取った感触は良好で、安っぽさは感じない。細かい意匠が施されているものの、コントロールはフォーカスリングのみ。
デザインは思いのほかシンプルで、シルバーリング以外に装飾はほとんど無い。レンズ名は焦点距離とF値のみ表示し、「NIKKOR」の表示は見られない。反対側には「Nikon」のロゴがあるものの、Z fcのような旧ロゴではなく、現在のデザインのロゴがプリントされている。この辺りは若干詰めが甘いように思える。レンズには他にCEマークやシリアル番号、製造国などの表示あり。ちなみに製造国はタイ。
ハンズオン
全長43mm、重量160gと小型軽量な広角レンズ。ただし、大口径Zマウントらしく、レンズ直径はφ71.5mmと少し大きめ。このため、小さいレンズにも関わらず、少し大きく感じる。
手に取った際の感触はとても良好で、ニコンZレンズのラインアップで2番目に安いフルサイズ対応モデルとは思えないくらい。
前玉・後玉
非常に小さな前玉の周囲には52mmフィルターソケットがある。これは「Z 40mm F2」や「Z 24-50mm F4-6.3」と同じフィルター径であり、コンパクトシステムでレンズを揃えるのであれば便利なフィルター径。ニコン謹製フィルター「ARCREST」も52mmスタートとなっているので対応している。
このレンズはフッ素コーティングに対応している記述が無いので、水滴や汚れが付着するようなシーンでは積極的にプロテクトフィルターを装着しておきたい。
後玉はマウント面のフレアカッターから少し奥に隠れた位置にある。少し湾曲してメンテナンスし辛い形状となっているので、極力汚さないように気を付けて扱いたい。
レンズマウントはプラスチック製で、4本のビスで固定されている。プラスチックマウントの堅牢性に心配はしていないが、経年による摩耗がどれほど影響するのか気になるところ。
フォーカスリング
幅12mmの硬質ゴム製フォーカスリングを搭載。程よい抵抗で滑らかに回転する。ピント移動量はリングの回転速度に依存し、素早く回転するとピント全域のストロークは約90度、ゆっくり回転すると360度弱のストロークとなる。個人的に電子制御のフォーカスリングとしてはストロークが短く、素早く回転しても180度?360度くらいのストロークは欲しかったところ。
レンズフード
このレンズにはレンズフードが付属しておらず、対応する別売りレンズフードもない。このため、フードが必要ならば52mm径で対応する社外製レンズフードを探す必要がある。必要無いかもしれないが、遮光性や保護性の観点から、私は52mmのドーム型レンズフードを購入。
これはキヤノンEFレンズ用に提供されている社外製レンズフードだが、Z 28mm F2.8でも問題なく使うことが出来た。
装着例
フルサイズ対応レンズながら、小型軽量でDXフォーマットのカメラとも相性が良く、バランスを取りやすい。Z fcのキットレンズとなっているだけのことはある。もちろんフルサイズZカメラと組み合わせてもバランスは良好。レンズにAF/MFスイッチが無いことを考えるとコントロールが豊富なフルサイズZカメラとの組み合わせが使いやすいかもしれない。
AF・MF
フォーカススピード
Z 28mm F2.8はフォーカスレンズの駆動にステッピングモーターを使用。この価格帯では珍しいマルチフォーカス(フローティング構造)となっており、近接時の収差変動を抑えた良好な光学性能を期待できる。
フォーカス速度は電光石火と言えないものの、十分と言える良好なフォーカス速度で動作する。近距離の動体を追いかけない限り、大きな問題は無いはず。AF-C時の追従性能も良好で、カメラのパフォーマンス次第でさらに向上する可能性あり。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。
画角変化がゼロとは言えないものの、この価格帯のコンパクトレンズとしては、とても良好にフォーカスブリージングが抑えられている。動画撮影時のピント送りに適しているほか、静止画撮影でも快適なフォーカシングが期待できる。
精度
Z 7・Z fcと組み合わせて使った限りでは良好な精度でAFが動作する。同じピント位置への再現性も良好で、特にこれと言って問題は感じられない。
MF
前述したようにストロークが短く、個人的な好みとしては少し扱い辛く感じる。この価格帯では珍しく使いやすいフォーカスリングだけに惜しい。将来的にフォーカスリングの感度を調整できるようになると化ける可能性あり。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:Nikon Z 7
- 交換レンズ:NIKKOR Z 28mm f/2.8 SE
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 64 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
中央
F2.8の作例が低コントラストで滲んでいるのは、解像性能のピークとコントラストのピークに違いがあるように見えたため(MFで調整した)。コントラストを優先した場合は少し数値が低下する可能性あり。F4まで絞ると「4000」にちかい良好な解像性能を発揮している。ただし、さらに絞っても大きく改善することは無く、最小絞りまで同程度のパフォーマンスを維持。抜群の性能ではないが、安定した解像性能は評価できる。
周辺
若干のソフトさが残るものの、F2.8から良好な解像性能を発揮。少なくともZ 40mm F2よりも遥かに良好であり、小型軽量な広角レンズの接写時としては優れた結果と言える。F4まで絞ると、コントラストが改善し、細部まで良好な解像感を得ることが出来る。ただし、非点収差や倍率色収差が残存しているように見え、わずかに甘く見える。F5.6以降に顕著な改善は見られず、安定した結果。数値が低下しているのはα7R IVのセンサー(ローパスフィルターレス)で偽色が発生し、測定ソフトに影響していると思われる。
四隅
中央や周辺と比べて絞り開放が少し甘く、測定ソフトでは検出不可。ただし、Z 40mm F2と比べると画質は遥かに安定しているように見える。絞ると徐々にコントラストが改善、F8付近でピークを迎える。僅かに倍率色収差が残っているので、問題なければ色収差補正をオンにしておきたい。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.8 | 3485 | 3245 | |
F4.0 | 3958 | 3623 | 2378 |
F5.6 | 3881 | 3798 | 2840 |
F8.0 | 4015 | 3595 | 3389 |
F11 | 4054 | 3360 | 3447 |
F16 | 4000 | 3360 | 3039 |
実写確認
絞り開放は少し甘いものの、小型軽量で低価格な広角28mmレンズとしては安定感のあるパフォーマンス。マルチフォーカスにが効いていると思われ、Z 40mm F2の周辺解像と比べると非常に良好。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2021-10-1:くもり:風強め
- カメラ:Nikon Z 7
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:Leofoto G4
- 露出:絞り優先AE・ISO 400
- RAW:14bit
- 現像:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネスオフ
テスト結果
中央
わずかに軸上色収差のようなカラーフリンジが見られるものの、解像性能は絞り開放からとても良好。絞っても目に見える画質向上は見られず、F2.8からピークの性能であるのが分かる。ただし、細部のコントラストはF4~F5.6まで絞ると改善するので、ベストを尽くすのであれば少し絞っておきたい。最小絞りのF16では回折の影響でシャープネスの低下が見られるが、実用的な画質には違いない。
周辺
中央と比べると僅かに甘さも見られるが、基本的にはほぼ同じ画質に見える。やはり絞り開放では僅かにコントラストの低下が見られるので、ベストを尽くすのであればF4以降を使いたい。解像性能についてF2.8からF8まで大きな変化は無いものの、F8まで絞ったほうが少しコントラストが良好に見える。とは言え、絞り値を優先してISO感度が上昇するくらいであれば、ISOを優先してもよい程度の画質差。
四隅
絞り開放は周辺減光・倍率色収差の影響が残っており、中央や周辺と比べるとグレードが一つ下がる。ただし、目立つ像流れは無いので、撮影後の現像処理次第では絞り開放から実用的な画質となる可能性あり。光学的に画質を向上させる場合はF5.6くらいまで絞ると光量落ちが改善し、解像性能も上昇する。隅まで綺麗な画質を得たいのであれば、F8まで絞っても良いかもしれない。
一覧
小型軽量な広角28mmレンズとしては健闘している印象あり。ただし、強制的に適用される歪曲収差の補正や周辺減光の影響を考慮すると四隅の画質が低下していると感じるかもしれない。特に光量落ちの補正はセンサー由来のノイズ増となるので、十分に気を付けておきたい。
撮影倍率
このレンズの最短撮影距離は0.19m・0.2倍。「AF-S NIKKOR 28mm f/1.8G」と比べて最短撮影距離は短くなっているものの、撮影倍率に大きな違いは見られない。競合他社の28mmレンズと比べると寄りやすく、撮影倍率も高い。(近接時の収差変動を抑える)フローティングフォーカス構造を採用しているが、近接時の収差変動は目に見える。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。
実写で確認
接写時で特に大きな問題は見られない。無限遠の解像テスト時の結果も考慮すると、F2.8から問題なく使用可能。ただし、周辺減光が強く、総合的な画質を考慮すると絞って撮影したほうが良い。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。
実写で確認
小型軽量な広角単焦点だが、周辺部まで倍率色収差は良く抑えられている。補正データが適用されない現像ソフトでも色収差は穏やかで問題なし。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。
軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。
実写で確認
じっくり観察すると軸上色収差が僅かに残っていることが分かる。しかし、影響は穏やかで、これが問題となるシーンは少ないはず。接写時は球面収差の影響が強く、ピント遠側はボケが滲むので目立ちにくい。逆にピント近側はボケが硬く、縁取りにマゼンダの色ずれが発生する可能性がある。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滲むボケ描写を実現しているレンズも存在する。
実写で確認
「NIKKOR Z 40mm f/2」と同じく前後のボケ質に大きな違いが見られ、後ボケが柔らかく、前ボケが硬調な描写。広角28mmで前ボケをフレームに入れにくいことを考えると、後ボケ重視のチューニングは良い采配と言える。ただし、残存する軸上色収差が硬い前ボケに写りやすいので、コントラストが高いシーンでは気を付けたほうが良いかもしれない。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。
実写で確認
口径食の影響が少なかった「NIKKOR Z 40mm f/2」と比べると周辺部から隅にかけて玉ボケの変形が強く見える。それでも、大口径レンズと比べると穏やか。内側の描写は滑らかで、非球面レンズによる影響は見られない。ガラスモールド非球面レンズの研磨精度が高いのか、それともプラスチックモールド非球面レンズなのか、レンズ仕様に記載な無い。
F4まで絞ると口径食はほぼ解消する。絞り羽根の影響も少ないので、隅が荒れる場合は少し絞ったほうが良いかもしれない。F5.6まで絞ると口径食は解消する。
軸上色収差の影響なのか、コントラストが高い領域のボケには縁取りに色づきが発生する。大問題となるほどではないが、場合によって騒がしくなる可能性あり。
球面収差
このレンズは最短撮影距離に近い接写時に球面収差の影響が強くなるものの、少し距離が開くと球面収差の影響が少なくなる。下の作例を見ても分かる通り、前後のボケに質に目立つ描写に違いは見られない。また、非球面レンズをいくつか使用しているものの、研磨状態が良く、目立つ輪線ボケは発生していないように見える。しかし、ボケのサイズによっては輪線ボケが発生する場合があり。
実写で確認
接写
広角28mmのF2.8レンズとしては評価できる滑らかなボケ質。被写体に近寄った際は周辺や隅まで安定した描写が得られ、これと言って騒がしさは感じない。ピント直後は球面収差の影響か滲むように柔らかくボケているのが特徴的。ピント面のコントラストを優先する場合はF4~F5.6まで絞ったほうが良い。とは言え、絞り値による描写の変化はZ 40mm F2ほど顕著ではなく、比較的安定した描写傾向に見える。
近距離1
少し距離が長くなっても周辺の描写は安定している。Z 40mm F2はこの時点で周辺のボケがより騒がしかった28mmも騒がしくなる兆候が見られるものの、まだ落ち着いているほう。
近距離2
さらに撮影距離を長くすると、周辺部から隅にかけて騒がしい描写となる。とは言え、ボケが小さくなっているので、あまり目立たないかもしれない。低価格な28mm F2.8レンズとしては許容範囲内に見える。
撮影距離による変化
全高170cmの三脚を人物に見立てて撮影。全身をフレームに入れるような距離感で十分なボケを得るのは難しい。膝上、上半身くらいまで近寄ると、多少のボケを得ることが可能。ただし、それでも十分というには少し足りない。バストアップまで近寄ると、なんとか背景との分離が可能に見える。さらに顔のクローズアップでは適度なボケ量が得られる。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。
比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。
実写で確認
このレンズはカメラに装着すると、強制的に歪曲収差補正が適用される。理由は以下の通りで、したの作例はRAWにおける歪曲収差補正を外した場合と、カメラ出力で歪曲収差補正が適用されている場合の写真を比較したもの。
ご覧の通り、素の状態では少し目立つ樽型歪曲が発生。これをカメラ側・RAWに格納されているプロファイルでソフトウェア補正している。この結果、フレーム隅が僅かに引き延ばされ、隅の画質悪化に繋がっているのだと思う。
レンズによっては、敢えて歪曲収差を残すことで解像性能を高めている。ソフトウェアによる歪曲収差補正を適用したとしても、素の解像性能が高いので問題は無い。おそらく、このレンズも小型軽量化と解像性能を両立するため、ソフトで簡単に補正できる歪曲収差を残しているのだと思われる。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
実写で確認
一般的に周辺減光が目立たない最短撮影距離でも周辺部の光量落ちが目立つ。絞ることで少し改善するものの、基本的には絞り値全域で光量落ちが残存している。これはこれでアリ、という人もいると思うが、不必要と感じる場合はヴィネッティング補正が必須。
さらに無限遠ではより光量落ちが目立ち、絞りによる改善効果も薄い。風景写真などで隅までフラットな露出をイメージしているのであれば補正は間違いなく必須。
小型軽量な「28mm F2.8」として妥協すべきポイント。APS-Cセンサーを搭載した「Z fc」のキットレンズとして登場したのはある意味で合理的と言えるかもしれない。(中央をクロップした状態となるので周辺減光が目立ちにくい)
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。
実写で確認
このレンズにおける隅の点像再現性はお世辞にも良好とは言えず、収差の影響を受けているのがハッキリと分かる。これはこれで綺麗に見えるかもしれないが、あくまでも点像を写したい場合は絞るしかない。F4まで絞ると大きく改善するが、それでも完璧とは言えない。しっかり抑えたい場合はF5.6まで絞りたい。ただし、本当の意味で点像に近づくのはF8以降。
このレンズを使った夜景・天体撮影は個人的におススメしない。(もちろん点像再現性や周辺減光が気にならないのであれば使えば良いと思う)
逆光耐性・光条
中央
決して完璧な逆光耐性とは言えないものの。低価格の広角レンズとしては良好に見える。ただし、撮影後に露出をいじると、全体的にフレアの影響が発生していることが分かる。さらに、絞ると隠れていたフレアがゴーストとして顕在化するので要注意。
隅
フレーム中央と比べて遥かに良好な状態を維持。同じ露出で良好なコントラストを実現しており、目立つゴーストは全く発生していないように見える。小絞りで僅かにゴーストが発生するものの、全体t系な描写を破綻させるようなものではない。
光条
絞り羽根は7枚なので、絞ることで14本の光条が発生する。F4~F5.6で既にシャープな光条が発生しているように見えるが、F8以降は何故か光条の筋が倍増して騒がしくなっている。これは光源がぶれているわけでは無いので、おそらく絞り羽根の影響があるのだと思う。絞っても強烈な光条は期待できず、これを目当てに小絞りを使うのはあまりおススメできない。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- フルサイズZレンズとしては手ごろな価格設定
- フルサイズ対応28mmとしては小型軽量
- 小型軽量ながらしっかりとした作り
- 防塵防滴に配慮した設計
- 滑らかなフォーカスリング
- 滑らかでブリージングを抑えたフォーカシング
- 接写時でも広い範囲で良好な解像性能
- 像面湾曲が良く抑えられている
- 軸上色収差・倍率色収差が良く抑えられている
- 接写時の後ボケが滑らかで綺麗
このレンズの長所は「28mm F2.8」を手ごろな価格・サイズで持ち歩くことが出来ること。小型軽量ながら、解像性能は安定しており、接写時のボケは綺麗で、色収差も良く抑えられている。オートフォーカスは滑らかで静かに動作し、ブリージングも良く抑えられているのでAFの撮影体験が快適となり、動画撮影でも使いやすい。低価格ながらフォーカスリングの操作性も良く、外装は思ったよりもしっかりとしている。APS-Cと組み合わせることで弱点の大部分は回避可能で、Z fcと共に登場したのも腑に落ちる。「APS-C用レンズがフルサイズでも普通に使える」と言う印象が強い。
悪かったところ
ココに注意
- プラスチックマウント
- シンプルなコントロール
- レンズフードなし
- フォーカスリングのストロークが短い
- 接写時における隅の解像性能が低い
- 接写時に球面収差が強い
- 撮影距離が長い場合に後ボケが騒がしい
- 周辺減光が非常に目立つ
- 樽型の歪曲収差が目立つ
- コマ収差が目立つ
- 絞っても綺麗な光条ができない
ビルドクオリティは許容範囲内として、光学的に最も気を付けたいのはピント全域・絞り値全域で目立つ周辺減光。周囲の光量落ちが非常に強く、これはレンズ補正でも解消できない場合が多い。周辺減光を味と考える人には問題ないかもしれないが、パンフォーカスでフラットな結果を期待している人はヴィネッティング補正が必須となる。樽型歪曲も注意すべきポイントだが、基本的にソフト補正されたRAWを扱うことになると思うので心配する必要は無い。
接写時の解像性能低下はもう一つの注意点だが、多くの人にとって、被写体に近寄った際に重視するのは解像性能ではなくボケ質のほうだと思われる。そう考えれば球面収差の変動は弱みでは無く強みとなる。コマ収差は普通に目立つので、「28mm F2.8」を活かした夜景・星の撮影を考えているのであれば要注意。
総合評価
満足度は85点。
S-Lineのレンズと比べると光学性能は見劣りする(特に接写時)が、小型軽量で携帯性の高い28mm広角レンズ。本当に28mmが好きなのであれば「28mm F1.8 S」を待つべきだと思うが、携帯性を重視し、気軽に持ち歩けるレンズを探しているのなら面白い選択肢となる。
欠点の大部分はソフトウェアで補正可能だが、それでも周辺減光は目立つので注意が必要。また、多くはAPS-Cクロップで使うことにより簡単に回避することも出来る。つまり(APS-Cミラーレスである)Z fcのキットレンズとして登場したのは理にかなっていると言える。
APS-C用の「28mm F2.8」として見ると、このレンズは小さくも軽くも無い。それでも、まだまだ手ごろな価格だと思うし、光学性能も良好。絞り開放から安定した解像性能を発揮することができ、歪曲収差や周辺減光の影響も少ない。使いやすいレンズになってくれると思う。
前述したように、本当に28mmが好きであれば「F1.8 S」登場まで待つのも一つの手だと思う。しかし、小型軽量なZシステムで気軽に28mmを使いたいのであれば、おススメしやすいレンズ。
購入早見表
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