このページでは富士フイルム「XF30mmF2.8 R LM WR Macro」のレビューを掲載しています。
XF30mmF2.8 R LM WR Macroのレビュー一覧
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー 完全版
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー Vol.6 周辺減光・逆光編
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー Vol.5 諸収差編
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー Vol.4 ボケ編
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー Vol.3 遠景解像編
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー Vol.2 解像チャート編
- XF30mmF2.8 R LM WR Macro レンズレビュー Vol.1 外観・操作・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | APS-Cマクロとしては高め | |
サイズ | とてもコンパクト | |
重量 | とても軽量 | |
操作性 | 小型ながら絞りリング搭載 | |
AF性能 | 非常に高速で静か | |
解像性能 | 中央は良好だが… | |
ボケ | 接写時は良好 | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | マクロとしては目立つ | |
コマ収差・非点収差 | マクロとしては目立つ | |
周辺減光 | やや重め | |
逆光耐性 | 良好で問題なし | |
満足度 | 利便性で購入を検討すべきマクロレンズ |
評価:
汎用性は高いが…
富士フイルムXマウントでは珍しい、小型軽量で高速AFが特徴となる標準マクロレンズです。全体的にまずまず良好なパフォーマンスを発揮しますが、APS-Cの標準マクロとしては少し高価で、価格に見合うほどの光学性能では無いように見えます。その一方、このレンズに取って代わる選択肢は存在しません。どこまでも寄っていける標準レンズを探してるのであれば、おススメの一本です。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | ボケるレンズではない | |
子供・動物 | 高速AFや携帯性が強み | |
風景 | 画質の均質性が良いとは言えない | |
星景・夜景 | 絞り開放の解像性能・コマ収差補正など | |
旅行 | 携帯性がとても良好 | |
マクロ | 等倍に対応 | |
建築物 | やや目立つ糸巻き型歪曲 |
Index
まえがき
2022年11月に発売された富士フイルムXシリーズ3本目のマクロレンズ。これまで等倍に対応したマクロレンズは「XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro」のみで、汎用性が高く広い画角の「XF60mmF2.4 R Macro」は撮影倍率が0.5倍止まりでした(それにAFが遅い)。この30mmマクロは2本のレンズよりも遥かに広い画角で、1.0倍のマクロ撮影に対応しています。画角は標準33mmよりも少し広いくらいで、マクロのみならず、日常の撮影にも使いやすいレンズとなっています。
概要 | |||
---|---|---|---|
レンズの仕様 | |||
発売日 | 2022年11月25日 | 希望小売価格 | 97,900円 |
マウント | X | 最短撮影距離 | 0.1m |
フォーマット | APS-C | 最大撮影倍率 | 1.0倍 |
焦点距離 | 30mm | フィルター径 | 43mm |
レンズ構成 | 9群11枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F2.8 | テレコン | - |
最小絞り | F22 | コーティング | EBC |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ60×69.5mm | 防塵防滴 | 対応 |
重量 | 195g | AF | リニア |
その他 | 絞りリング | ||
付属品 | |||
キャップ・フード・包装クロス |
一般的な単焦点レンズと比べると少し大きめですが、インナーフォーカスで等倍のマクロ撮影に対応。リニアモーターによる高速AFや防塵防滴を実現しています。等倍マクロに対応していますが、その際の撮影距離は0.1mです。レンズの全長が69.5mmであることを考慮すと、ワーキングディスタンスはほとんどありません。十分な撮影距離を撮りたい生物やライティングを使ったマクロ撮影には不向きです。
ノートブックコンピューターを開いてクリエイションが始まるように、テーブルの上から創造は始まる。机の上の小さなスペースから、世界を旅するところまで、これ一本で対応できる万能感。扱いやすい焦点距離でありながら、少しだけ新鮮。しかも等倍マクロ。いつでも撮影者に寄り添ってくれる。
とあるように、カメラに付けっぱなしで日常的に使うことができる万能レンズを目指していた模様。「等倍」はマクロ撮影のためと言うよりは「寄り切れない被写体はない」と言ったコンセプトでの設計なのかもしれませんね。
価格のチェック
売り出し価格はカメラ専門店の最安値で79,200円。APS-C用の標準マクロレンズとしては決して安い価格設定ではありませんが、防塵防滴やリニアモーター駆動の本格的な等倍マクロレンズと考えると適切な値付けと感じるかもしれません。価格に見合った光学性能を備えているかどうかはこれからチェックしていきたいと思います。
XF30mmF2.8 R LM WR Macro | |||
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
従来通り、富士フイルムらしい黒を基調としたシンプルなデザインの箱です。焦点距離が大きく表示されているので非常に分かりやすいです。
箱を開けると緩衝材なしでレンズが梱包されています。
付属品はレンズキャップとフード、ラッピングクロスが付属します。
外観
XFシリーズらしい、全体的に金属パーツを採用した頑丈な作りです。フォーカスリングや絞りリングを含めて金属製であり、価格に見合った高級感のあるレンズに仕上がっています。表面は少し光沢を残したブラックの塗装で、カメラボディのブラックと調和のとれたカラーリングです。
コントロールはフォーカスリングと絞りリングのみ。AF/MFスイッチはありません。シリアルナンバーを含めた各種表示は従来通りシールで張り付けられています。滅多なことでは剥がれませんが、角が一度めくれると徐々に剥がれ始めるのが悩ましいところ。シリアルくらいは刻印やプリントにしてほしかったです。ちなみに製造国はタイ。
ハンズオン
手に取ってみると、金属とガラスの塊らしい質感があります。サイズを考慮すると195gと密度を感じる重量があります。と言っても絶対的に見れば非常に軽量で、コンパクトなカメラに装着してもバランスが崩れることはありません。
前玉・後玉
小さな前玉の周囲には43mmの円形フィルターソケットを搭載。前玉にフッ素コーティングが施されていると言った記載は見当たらないので、水滴や汚れの付着が想定される場合は保護フィルターの装着がおススメ。特にマクロ撮影時はワーキングディスタンスが短いので、物理的な接触によるダメージを避けるためにも保護フィルターを装着しておいたほうが良いかもしれません。
レンズマウントは金属製で、4本のビスで本体に固定されています。後玉周囲は黒塗りされ、不要な光の反射を抑えるデザイン。
フォーカスリング
金属製で24mm幅のフォーカスリングを搭載。電子制御によりリニアモーター駆動のフォーカスレンズを操作します。フォーカスリングのレスポンスはリニアと思われ、素早く回転してもゆっくり回転しても、ピント全域のストロークは約135度となります。ストロークの半分ほどはマクロ領域の操作に使われ、もう半分で通常の撮影距離を操作できます。
ヘリコイドのフォーカスリングよりもトルクは緩めですが、比較的長いストロークのフォーカスリングを操作するには程よいトルクと言えそうです。
絞りリング
10mm幅の金属製絞りリングを搭載。F2.8からF22まで1/3段刻みでクリック付きの操作が可能。クリック感は期待していたよりも僅かに弱め。誤操作は無いと思いますが、ゼロと言い切れない程度の緩さです。X-S10はコマンドダイヤルを使った操作がしやすく、この際「A」ポジションに固定することが可能です。
レンズフード
プラスチック製の円筒型フードが付属。安っぽい印象はなく、本体に装着した際の見た目は自然です。内側には反射防止用のマットな塗装が施されていますが、植毛などはありません。
逆さ付けに対応していますが、この際はフォーカスリングが隠れてしまうので注意。また、レンズの最短撮影距離を考慮するとフードが長すぎる(影が映り込む)ので、等倍マクロ時はフードを外して使うことになると思います。フードが邪魔だと感じたら、社外製のパンケーキ向けフードを検討してみもいいでしょう。(例えばF-FotoのEW-43互換フードなど)
装着例
X-S10に装着。ボディに対してレンズが突き出した外観となりますが、バランスは良好で、組み合わせた際の重量は700g以下。X-S10はカメラ側でボディ内手ぶれ補正を搭載しているので、マクロ撮影時に気になるシフトブレに対応することが可能です。撮影スタイルでカメラをグリップしたまま絞りリングやフォーカスリングの操作で問題はありません。
AF・MF
フォーカススピード
リニアモーター駆動のAFは非常に高速かつ静かに動作します。X-S10と組み合わせて至近距離から無限遠まで1秒もかからない快適なAFを実現。DCモーター駆動のXF60mmと比べると雲泥の差であり、快適なAFでマクロ撮影を楽しみたいのであればおススメ。
AF-Cは接近時にまずまず良好な追従性能を発揮しますが、被写体が離れていく際は対応できない可能性が高い。ただし、これはカメラ側の問題となるので、将来的に改善すると思われます。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。
ご覧のように、画角の変化がゼロとは言えませんが、等倍マクロレンズであることを考慮すると非常によく抑えています。一般的な撮影距離であればフォーカスブリージングが目立つことはまずないでしょう。
精度
このレンズに限ったことではありませんが、富士フイルム機は微妙にピントを外した状態で合焦することがあります。カメラ側の要素を除けば良好なAF精度だと思いますが、第四世代のカメラではミスショットを確認。X-T5やX-H2など、高解像センサーモデルでどのように改善するのか気になるところです。
MF
前述したとおり、リニアレスポンスで約135度のストロークを備えています。大部分はマクロ側に使われており、遠景で使用する領域は思ったよりも少ないです。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:FUJIFILM X-S10
- 交換レンズ:XF30mmF2.8 R LMWR Macro
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 160 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
テスト結果
絞り開放から安定感のある光学性能で、このパフォーマンスが回折の影響を受け始めるまで続きます。抜群の切れ味とは言えませんが、絞って使う機会の多いマクロレンズとしてはバランスの良い光学性能と言えるでしょう。
中央
絞り開放から程よくシャープな結果を得ることができ、絞りによる描写の変化はほとんどありません。キレッキレというには少しマイクロコントラストが不足している印象もありますが、個人的にはこのくらいが丁度良く感じます。
周辺
中央と比べると細部にわずかなソフトを残した描写。絞っても顕著な改善は見られず、似たような結果が回折まで続きます。完璧ではありませんが、安定感があり使いやすいレンズ。
四隅
隅でも顕著な落ち込みは見られず、マクロレンズらしく一貫性のある解像性能が得られます。周辺部と同じく、細部を確認すると少しソフトさの残る描写ですが、全体像で不満と感じるほどの甘さではありません。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.8 | 3360 | 2685 | 2475 |
F4.0 | 3675 | 2665 | 2482 |
F5.6 | 3360 | 2765 | 2832 |
F8.0 | 3344 | 2765 | 2887 |
F11 | 3279 | 2765 | 2480 |
F16 | 2739 | 2365 | 2153 |
F22 | 2228 | 1990 | 1864 |
実写確認
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2022年12月5日
- カメラ:FUJIFILM X-S10
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 160 絞り優先AE
- RAW:Adobe Camera RAW
・シャープネスオフ
・レンズ補正オフ
・ノイズリダクションオフ
テスト結果
ずば抜けて良くなければ、悪くもない結果だと思います。中央は絞り開放から良好な結果が得られますが、周辺部や隅はF5.6-F8まで絞りたくなります。絞ったとしても中央と隅の解像性能差は健在で、マクロレンズとしては均質性に欠ける結果かなと。ただし、F16くらいまでは回折の影響をあまり気にせず使える印象あり。
中央
中央から良好なパフォーマンスを発揮しますが、絞っても大きく改善しません。「F2.8からトップクラスの解像性能」というほど切れ味は良くありませんが、安定感のある性能です。被写界深度やシャッタースピードの調節で絞りをすればいいかなと。
周辺
絞り開放は若干ソフトで、絞ると徐々に改善します。ただし大幅に改善することはなく、中央と比べるとソフトさが残ります。
四隅
周辺部と同程度で、極端な隅でも大幅な画質低下はありません。やはり絞り開放付近は解像性能やコントラストがやや甘く、F5.6-F8くらいまで絞りたいところ。と言っても大幅に改善することがないので、細部を気にしなければF2.8から実用的な画質と言えるかもしれません。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。
実写で確認
Adobe Camera RAWで現像する限りでは倍率色収差の影響は皆無。良好に補正されているように見えますが、コントラストの高い領域において少しソフトな描写に見えます。これは内部的に残存する色収差が強制的に補正されているからであり、自動補正が適用されないRAW Therapeeのような現像ソフト経由では少し目に付く倍率色収差を確認できます。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。
軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。
実写で確認
軸上色収差はとても良好に補正しているように見えます。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。
実写で確認
前後のボケ質に大きな変化が見られないニュートラルな描写です。滲むような柔らかい描写ではありませんが、軸上色収差もよく抑えられており、悪目立ちせずに使い勝手は良さそう。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。
実写で確認
円形を維持しているので中央と周辺部のみで、隅に向かって口径食の影響を受けていることが分かります。絞ると徐々に改善しますが、口径食が解消するころにはボケがかなり小さくなります。ある程度のところで妥協する必要あり。
非球面レンズを3枚も使用していますが、玉ボケへの影響は目立ちません。縁取りが若干見られるものの、色づきが少ないので不快と感じることは少ないはず。
ボケ実写
至近距離
接近時はボケが大きく、ボケの粗はほとんど目立ちません。この距離でも口径食の影響は僅かに見られますが、特に心配する必要は無いでしょう。絞ると口径食は改善しますが、玉ボケや背景の輪郭が少しシャープになるので騒がしく感じる可能性あり。
近距離
撮影距離が長くなると、当然ながらボケが小さく、状況によって口径食が目立ちやすくなります。ボケのアウトラインが強調される場合もあり、いつものテストシーンでは少し騒がしさを感じる描写となります。と言っても依然として滑らかな描写に違いはなく、大口径レンズのボケを期待しなければ十分良好かなと思います。
中距離
撮影距離がさらに長くなる(1.5mくらい)と、背景のボケがやや騒がしい描写となります。特に複雑な背景の場合はアウトラインが重なり、主張が激しくなる可能性あり。このような場合、ボケが多少小さくなったとしても、少し絞ったほうが良いかもしれません。
少し離れた距離で奥行き感のある描写を比較したのが下の作例です。絞り開放のボケは大きいものの、ハイライトなどが騒がしくなりがち。個人的には2段ほど絞ってしまったほうが見栄えの良い描写に見えます。
撮影距離
全高170cmの三脚を人物に見立てて、F2.8の絞り開放で撮影距離を変えながら撮影したのが下の作例です。
フレームに全身を入れても多少のボケが得られます。ただし、よく見ると騒がしい描写なので、いっそ絞ってしまったほうが良い場合もあるはず。上半身くらいまで近寄るとボケが大きくなりますが、やはり少し騒がしさがあるので絞ったほうが良くなる可能性あり。顔のクローズアップくらいまで近寄るとボケの粗さは特に気になりません。
球面収差
前後のボケに大きな違いは見られません。球面収差は良好に補正されているように見えます。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。
比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。
実写で確認
やや目立つ糸巻き型歪曲が残っていますが、自動補正で綺麗に修正可能。RAWのまま使うことは無いと思いますが、補正を適用しない場合、直線的な被写体をフレームに入れると違和感があります。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
絞り開放で適度な周辺減光あり。過度な影響ではありませんが、影響を受ける範囲が広く、状況によっては目立つかもしれません。絞ると徐々に改善しますが、完璧に抑えるためにはF8付近まで絞る必要あり。
無限遠
最短撮影距離と同程度の周辺減光が発生します。極端ではありませんが、風景撮影などでフラットな背景を四隅に入れると目立つ可能性あり。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。
実写で確認
隅に向かってやや目立つコマ収差の影響を確認できます。遠景解像性能のテストで隅が低コントラストだったのはコマ収差が影響している可能性が高い。絞ると徐々に改善します。
逆光耐性・光条
中央
完璧ではありませんが、強い光源を入れても影響は僅か。同じようなテスト環境でいくつものレンズを見てきた経験から言うと、良好な逆光耐性だと思います。絞ると隠れていたゴーストが徐々に顕在化するものの、全体的に良好な逆光耐性は維持されています。
隅
ゴーストの影響はほとんどなく、フレアもよく抑えられています。小絞りまでフレア・ゴーストの影響が目立ちません。
光条
面白いことに、F4まで絞ると光条が発生します。さらに絞るとF16-F22のピークに向かって光条が徐々にシャープな描写へと変化。標準マクロレンズとしてはなかなか良好な描写です。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 小型軽量
- インナーフォーカス&防塵防滴
- 金属鏡筒のしっかりとした作り
- 絞りリング搭載
- リニアモーター駆動の高速で静かなAF
- マクロとしてはフォーカスブリージングが小さめ
- 絞り全域で一貫した解像性能
- 軸上色収差の補正状態
- ニュートラルな前後のボケ
- 逆光耐性
- 綺麗な光条
このレンズで最も強みと感じるのは小型軽量で高速AFに対応した等倍マクロであること。このような強みを持つXマウントレンズは他にありません。携帯性が良いので日常的に持ち歩いても苦にならず、さらに接写から遠景まで快適なAFを利用可能。フォーカスリングの操作性を含めて、良質な撮影体験を味わうことができます。等倍マクロ撮影のレンズとしてはワーキングディスタンスが短いと感じるかもしれませんが、「どこまでも寄れる標準レンズ」と考えれば日常を写す面白いお散歩レンズとなることでしょう。
悪かったところ
ココに注意
- 標準マクロレンズとしてはやや高め
- 絞りリングが若干緩い
- 等倍マクロにはワーキングディスタンスが短い
- 中央と周辺部・隅の解像性能に差がある
- 口径食の影響が強い
- マクロレンズとしては糸巻き型歪曲が目立つ
- F2.8付近で周辺減光が目立つ
- コマ収差の補正状態がやや悪い
前述したように、ワーキングディスタンスが短いので本格的なマクロレンズとしては使いにくさを感じます。また、光学性能はお世辞にも抜群とは言えず、中央と周辺部・隅の画質差は思っていたよりも大きい。また、周辺減光や歪曲収差など、補正可能ですが未補正のRAWで目立つ影響が残っている項目も複数あります。手ごろな価格の標準マクロであれば許容範囲内と言えるかもしれませんが、売り出し価格が7万円以上もするAPS-Cレンズとしては少し残念。
総合評価
満足度は85点。
小型軽量で防塵防滴、高速AFが特徴的な汎用性の高い標準マクロレンズです。Xマウント用としては唯一無二の選択肢。高速AFや防塵防滴に対応するボディと組み合わせることで、気象条件に左右されることなく撮り歩くことが出来ます。
しかし、光学性能は抜群と言えません。特に絞り開放付近は、4000万画素どころか、2600万画素のカメラでもやや不満と感じます。さらに競合他社と見比べると価格が高く、金属外装や防塵防滴は強みとなるかもしれませんが、価格差を考慮すると然るべきクオリティ。このあたりを考慮しても、もう少し安いと良かったかなと。
それでも、現在のラインアップでこのレンズに代わる選択肢はありません。標準マクロとしては珍しいリニアモーター駆動を採用し、高速AFでどこまでも寄っていける標準レンズが必要であれば、値段が多少高くても検討する価値あり。
購入早見表
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作例
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