このページではVILTROXの交換レンズ「VILTROX AF 56mm F1.4 STM」のレビューを掲載しています。
まえがき
レンズのおさらい
レンズ概要
- 2020年9月発売
- 商品ページ
- データベース
- 管理人のFlickrアルバム
- レンズ構成:9群10枚
- 開放絞り:F1.4
- 最小絞り:F16
- 絞り羽根:9枚
- 最短撮影距離:0.6m
- 最大撮影倍率:×0.1
- フィルター径:φ52mm
- レンズサイズ:φ65×72
- 重量:290g
- ステッピングモーター駆動
- ファームウェアアップデート用USBポート
- クリックレスの絞りリング
VILTROXが2020年にリリースしたAPS-Cミラーレス用のAFレンズ3本のうちの一つ。ソニーE・富士フイルムX・キヤノンEOS Mマウントに対応しており、AFを利用できるほか絞りリングを使うことも可能です。特にサードパーティ製のAPS-CのAFレンズで絞りリングがあるのは珍しいですね。
参考:VILTROX製AFレンズ
APS-Cでは「大口径の中望遠単焦点レンズ」というジャンルそのものが珍しく、競合レンズは富士フイルム純正2本とシグマ「56mm F1.4 DC DN」と一部のMFレンズのみとなっています。(F1.8を含めるなら「E 50mm F1.8 OSS」)
F1.4と大口径ながら、フォーカス駆動にステッピングモーターを使用しており駆動音は静かで動作は滑らか。特にDCモーターを使用している富士フイルムと比べると遥かに静かな動作と言えるでしょう。最短撮影距離は平均な数値で、小さな被写体のクローズアップには適していません。
レンズ構成は9群10枚、うちEDレンズとHRレンズを一枚ずつ使用しています。MTFではフレームの大部分が安定した描写であり、非点収差を良く抑えているように見えます。シグマほど高解像ではないようですが、まずまず健闘しているのではないかなと。
価格のチェック
Amazonにて3万円台中での出品を確認済み。F1.4と大口径のAFレンズとしては非常に安く、コストパフォーマンス良好と言えるでしょう。特に富士フイルム純正レンズと比べると半値以下。
レンズレビュー
Index
外観・操作性
箱・付属品
VILTROXらしい白を基調としたデザインの意匠が特徴的。富士フイルム純正レンズの箱と比べると遥かに小さく、捨てずに保管しておきやすい。レンズマウントの表示は右上にシールで張り付けられています。
- レンズ本体
- レンズフード
- ポーチ
- レンズキャップ
- 説明書
価格を考慮すると十分な付属品が同梱しています。
外観
全体的に金属パーツを使った頑丈な作りのレンズです。純正レンズも金属外装のレンズが多いものの、低価格でこのクオリティを実現しているのは凄い。
同社の「VILTROX AF 33mm F1.4 STM」のネームプレートが後付けの立派な意匠であったのに対し、56mmはプリントされたシンプルなデザイン。個人的には33mmのデザインが良かった。
ハンズオン
金属製外装を採用した大口径の中望遠レンズですが、290gと軽量で特に重いとは感じません。シグマ「56mm F1.4 DC DN」と同程度です。
全体的なサイズ・重量はVILTROX 23mm F1.4・VILTROX 33mm F1.4と同じであり、統一感のあるシリーズ。
前玉・後玉
前玉はこのクラスとして一般的なサイズの凸レンズ。フッ素コーティングの記述は無いので、水滴や汚れの付着が想定されるシーンではプロテクトフィルターを装着したいところ。
フィルター径は52mmで富士フイルムやシグマの競合レンズと比べて少し小さい。VILTROX 23mm F1.4・VILTROX 33mm F1.4と同じフィルターサイズで共有できるのがGood。
インナーフォーカスタイプのため前玉が回転したり、前後にシフトすることはありません。
金属製レンズマウントは4本のネジで固定されています。防塵防滴仕様のレンズではないため、ゴムシーリングは無し。
後玉はマウント付近に固定されているため、内部は密閉状態です。防塵防滴仕様ではないものの、比較的レンズ内部にゴミが混入しにくいタイプと言えるでしょう。
レンズにはファームウェアアップデート用のUSBポートを搭載しています。レンズにUSBケーブルは付属していないので別途用意しておく必要があります。
ファームウェアアップデートはとても簡単。最新ファームウェアはコチラで確認可能。ちょいちょい動作を改良しているらしく、アップデートの際はTwitterなどのアカウントで告知しています。主にAFの動作を改善しているので、出来れば最新ファームウェアを適用しておきたいところ。
フォーカスリング
幅35mmの金属製フォーカスリングは滑らかに回転します。抵抗量が小さく、僅かに緩いと感じるものの、特に大きな問題はありません。
MFではフォーカスバイワイヤ方式でステッピングモーターを制御します。ピント移動量は回転速度によって変化せず、リニアなレスポンスで動作。ピント全域の回転角は約540度と非常に大きく、精密な操作が可能となっています。その反面、素早い操作に適しておらず、フルマニュアルでは使い辛い。
絞りリング
6mm幅の絞りリングはフォーカスリングよりも抵抗量があるものの、滑らかに回転します。フォーカスリングと比べると、少しざらついた操作感ですが、絞りリングの誤操作を防ぐための抵抗感と考えれば程よい。
回転動作にクリックは無く、シームレスに回転します。ただし、絞り値の反映は1/3段で段階的に変化するので注意が必要。目盛りと実際の絞り値は非常に正確でズレはありません。
「A」ポジションを備えており、「F16」と「A」の間のみ弱めのクリックが発生します。
レンズフード
VILTROXらしい金属製レンズフードが付属します。金属製ながら、バヨネットタイプでしっかりと固定可能。さらにフード内側には反射を予防する切り込み加工が施されています。
純正レンズの金属フードでもマットな塗装やフェルト生地を使用しているモデルが多く、切り込み加工まで実施しているのはVILTROXくらいなもの。非常に良いと思います。(遮光性で効果的かは置いておくとして、工作物として満足度の高い作り)
フードはレンズにしっかりと固定でき、逆さ付けにも対応しています。
装着例
比較的コンパクトなカメラボディに装着してもバランスは良好。長時間の撮影でも苦にならないサイズ・重量です。
収納性はパンケーキレンズほどではありませんが、スリングバッグにも収納しやすいと感じます。
AF・MF
フォーカススピード
ステッピングモーターらしく、滑らかで静かに動作します。正直なところ高速AFとは言えませんが、大口径レンズの用途を考えると特に不満はありません。素早く動く被写体を追いかけるのは難しいと思います。
フォーカス時はいくらかハンチングが目立つものの、これはボディ側(X-T20)の性能も関係していると思われます。11月中旬に最新モデル「X-S10」が到着予定ですので、改めてチェックしてみたいところ。
ブリージング
最短撮影距離と無限遠を行きかう場合には少し目立ちます。ただし、中望遠レンズとしては一般的な変動量に見え、特にこのレンズだけ目立つというわけではありません。
精度
接写・無限遠で特に大きな問題ありません。
MF
前述した通り、約540度の回転角で正確な操作が可能です。素早い操作には不向きですが、三脚に載せて絞り開放の無限遠や接写時に役立つと思います。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:X-T20
- 交換レンズ:VILTROX AF 56mm F1.4 STM
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- X-T20のRAWファイルを使用
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェックしています) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証しています。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性があります。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
テスト結果
中央
絞り開放から「3000」を超える良好なパフォーマンスを発揮。実写を確認すると軸上色収差がいくらか残存しているのが分かりますが、解像性能の観点で言えば特に大きな問題はありません。
色収差は収束するかもしれませんが、絞りによる解像性能の改善は期待できないようです。しかし回折の影響を受けにくく、F16まで絞っても許容範囲内に収まっているように見えます。
周辺
絞り開放での落ち込みが激しいものの、1?2段絞ると急速に改善します。驚いたことにF4~F5.6のピークでは中央よりも良好。ピーク時は「3500」を超える非常にシャープな結果を期待できます。
四隅
思っていたよりも良好で、中央に近いパフォーマンスを発揮しています。絞りによる改善幅は大きくありませんが、絞り値全域で安定した描写性能と言えるでしょう。
全体
低価格の大口径AFレンズとしては安定感のある解像性能であり、特にこれと言って大きな問題点はありません。色収差によるコントラスト低下が気になる場合は1?2段絞って使うと良い感じ。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
---|---|---|---|
F1.4 | 3010 | 2076 | 2753 |
F2.0 | 3093 | 3157 | 2937 |
F2.8 | 3440 | 3427 | 3117 |
F4.0 | 3232 | 3653 | 3194 |
F5.6 | 3214 | 3616 | 3168 |
F8.0 | 3176 | 3200 | 3117 |
F11 | 3065 | 2773 | 3040 |
F16 | 2595 | 2505 | 2450 |
実写確認
前述した通り、絞り開放で色収差が発生しています。気になる場合は最低でも1段は絞りたいところ。
遠景解像力
テスト環境
備考
- 2020年11月5日 晴天・微風
- Leofoto LS-365C
- Leofoto G4
- FUJIFILM X-T20
- RAW
- Adobe Lightroom Classicで現像
- シャープネス「0」
テスト結果
中央
F1.4は少し低コントラストですが、まずまず良好なパフォーマンスを発しています。1段絞ると大きく改善し、F2.8で非常に良好なピークに達します。色収差を徹底的に抑え込みたいのであればF4からF5.6を使うのがおススメ。F8まで絞るといくらか回折の影響が見られ、F11、F16で少しずつ低下してゆきます。
周辺
中央と比べると絞り開放は甘さが目立つものの、1?2段絞ることで急速に改善します。この時点でパフォーマンスは中央と同等、やはり色収差を抑えたいのであればF4~F5.6まで絞るのがベストです。ピークはF2.8からF5.6にかけて、F8?F16で徐々に回折の影響で低下します。
四隅
低価格な大口径レンズとしては、F1.4から良好なパフォーマンスを発揮しているように見えます。もちろん、色収差やシャープネスが完璧とは言い難いので、少なくともF2.8まで絞ると良いでしょう。中央や四隅の切れ味ほどではありませんが、安定した解像性能だと思います。F8でも回折の影響が非常に少なく、F11からF16でいくらか低下が見られます。
像面湾曲
特に問題ないように見えます。色収差が気にならなければ解像性能も悪くありません。コマ収差次第で夜景や天体の撮影にも使えるはず。
全体的に見て
絞り開放付近ではいくらか甘さが残っているものの、F2.8からF4でフレーム隅までシャープな画質はコストパフォーマンスの良さを感じます。ポートレートなど近距離の撮影のみならず、自然風景などでも使いやすい。ただし、パンチのあるコントラストを求めると少し物足りないかも。
実写
マクロ解像力
撮影倍率
最短撮影距離は0.6m、最大撮影倍率は0.1倍。中望遠レンズとしては一般的なスペックであり、クローズアップには不向き。クローズアップフィルターや接写リングを使うことで面白い使い方もできますが、光学性能に著しく影響を及ぼし、撮影距離も限定的なので本格的なマクロ撮影には不向き。
接写でも絞るとフレーム端までシャープに写ります。0.1倍の撮影倍率で問題ないのであれば、画質面で大きな問題は感じません。
倍率色収差
倍率色収差は四隅でも良好な補正状態です。ソフトウェア補正の必要性はほとんどありません。
軸上色収差
レンズには1枚のEDレンズを使用していますが、軸上色収差の補正は完璧とは言えません。絞り開放ではピント面前後に目立つ色づきが発生します。撮影シーンによっては、これがコントラスト低下の原因となる可能性あり。
F2まで絞っても多くが残存しているものの、F2.8まで絞るとほぼ解消します。
フォーカスシフトの影響はほぼありません。よく観察してみると、僅かに遠側へ移動しているようにも見えますが、大きな問題はなし。
前後ボケ
後ボケが滲みを伴う柔らかい描写であるのに対し、前ボケはいくらか騒がしい描写となっています。基本的に後ボケが重要となるシーンが多いと思うので、このバランスは個人的に評価したいポイント。ただし、軸上色収差の影響でボケに色づきが発生している点は少しマイナス。
玉ボケ
口径食の影響は間違いなくあるものの、F1.4のレンズとしては比較的穏やかに見えます。VILTROXはレンズに非球面レンズを使わない傾向があり、このレンズも内側が綺麗で滑らかに描写されています。
F2まで絞ると口径食の影響はかなり緩和されますが、F2~F2.8で絞り羽根の影響が出始めるので注意が必要。
歪曲収差
わずかな糸巻き型歪曲です。このままでも直線的な被写体以外では大きな問題となりません。手動でのソフトウェア補正も簡単ですが、VILTROXは公式ウェブサイトでPhotoshopやLightroomで使用できるレンズプロファイルを公開しています。
周辺減光
大口径レンズながら周辺減光はほとんどありません。イメージサークルがかなり広いのかもしれませんね。フレーム端におけるわずかな減光も1?2段ほど絞れば解消します。
コマ収差
中望遠レンズとしてはコマ収差が強めに残存しています。これが絞り開放付近の解像性能に影響を与えていると思われます。幸いにも1段絞ると大きく改善し、F2.8でコマ収差の問題は無くなります。
逆光耐性・光条
お世辞にも逆光耐性が良好とは言えませんが、壊滅的にフレアが発生するわけでも無し。コントラストの低下も良く抑えられていると思います。と言っても、光源が直接フレームに入るような状況では、不快な形状のゴーストが発生するので、臨機応変なフレーミングが重要となります。
このような光源では小絞りでも光条はシャープになりません。
総評
肯定的見解
ココがポイント
- 手ごろな価格設定
- 富士フイルムでは貴重なサードパーティ製AFレンズ
- 金属製のしっかりとした鏡筒とレンズフード
- 同シリーズで統一されたフィルター径
- インナーフォーカス
- USB経由でレンズのファームウェアアップデート可能
- リニアな操作性のMFリング
- 静かで滑らかなAF
- 絞り開放から広い範囲で良好なシャープネス
- 良好な倍率色収差補正
- 滑らかな後ボケ
- 滑らかな玉ボケ
- まずまず良好な歪曲収差補正
- 影響がほぼみられない周辺減光
富士フイルムXマウントでは珍しいサードパーティ製のAFレンズであることに加え、比較的手ごろな価格設定で優れた光学性能を実現しています。完璧なパフォーマンスとは言えませんが、良いレンズだと思います。レンズの作りも良く、金属製のしっかりとした鏡筒に加え、しっかりとしたレンズフードが付属しているのもうれしいポイント。
オートフォーカス速度は期待しないほうが良いものの、VILTROXはファームウェアアップデートを繰り返しており、比較的安定した性能が期待できます。
批判的見解
ココに注意
- 無段階でやや緩めの絞りリング
- 防塵防滴非対応
- ブリージングが目立つ
- 絞り開放の四隅がややソフト
- 平凡な最短撮影距離
- 軸上色収差が目立つ
- 前ボケが少し騒がしい
- コマ収差が目立つ
- 逆光耐性
色々と短所を挙げてみたものの、手ごろな価格や大口径レンズであることを考慮すると妥協できるポイントが多いと思います。
注意するとしたら逆光耐性。光線の状況によって低コントラストになったり、ゴーストやフレアが発生する可能性が比較的高いです。フラッシュを使った撮影やライブ会場などでは逆光耐性が気になるシーンがあるかも。
コーティングの問題かは不明ですが、絞ってもパンチのあるコントラストではありません。比較的アッサリ系の描写ですので、ポートレートに適している印象。
総合評価
欠点もありますが、コストパフォーマンス良好で全体的にうまくまとまっているレンズだと思います。ポートレートなど開放付近のボケ描写を重視するのであればおススメの一本。夜景や天体撮影に使う場合、コマ収差や軸上色収差が問題となるかもしれません。
購入早見表
VILTROX AF 56mm F1.4 STM |
|||
Amazon(PERGEAR) | |||
楽天市場 | Amazon | キタムラ | Yahoo |
ソフマップ | e-BEST | ノジマ | PayPay |
ビックカメラ | ヤマダ | PREMOA |
作例
関連レンズ
- E 50mm F1.8 OSS
- XF50mmF1.0 R WR
- XF50mm F2 R WR
- XF56mmF1.2 R
- XF56mmF1.2 R APD
- 60mm F2.8 DN
- 56mm F1.4 DC DN
- 50mm F1.2 AS UMC CS
- Touit 2.8/50M
- 7artisans 50mm F1.1
- KAMLAN FS 50mm F1.1
- KAMLAN 50mm F1.1 II?
- YN50mm F1.8S DA DSM
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