このページではニコン「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」のレビューを掲載しています。
IKKOR Z MC 50mm f/2.8のレビュー一覧
- ニコン NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビュー 完全版
- NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビューVol.6 ボケ編
- NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビューVol.5 周辺減光・逆光編
- NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビューVol.4 諸収差編
- NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビューVol.3 解像チャート編
- NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビューVol.2 遠景解像編
- NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レンズレビューVol.1 外観・操作・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 安くはない | |
サイズ | 携帯性良好 | |
重量 | 携帯性良好 | |
操作性 | 必要最低限 | |
AF性能 | 爆速ではない | |
解像性能 | 非常に良好 | |
ボケ | 強みではない | |
色収差 | 非常に良好 | |
歪曲収差 | 非常に良好 | |
コマ収差・非点収差 | 隅にやや残存 | |
周辺減光 | 無限遠側で目に付く | |
逆光耐性 | 良好 | |
満足度 | お散歩マクロに最適 |
評価:
高性能お散歩マイクロレンズ
光学的な弱点はほとんどなく、Z MC 105mm F2.8のように高性能なマイクロレンズに仕上がっています。高性能ながら小型軽量で携帯性に優れていますが、妥協点として内筒が伸びる仕組みのフォーカスを採用。内筒の保護やワーキングディスタンスを理解して購入することで、満足のいくお散歩マクロ用レンズとなることでしょう。
被写体の適正
被写体 | 適正 | 備考 |
人物 | 距離感でのボケは得意ではない | |
子供・動物 | 接写時のAFが厳しい | |
風景 | 風景でも優れた解像性能 | |
星景・夜景 | 悪くはないがコマ収差・周辺減光に注意 | |
旅行 | 携帯性抜群だが内筒の保護は必要か | |
マクロ | 特化したレンズ | |
建築物 | 50mmの画角で問題なければ適しているはず |
Index
まえがき
2021年中ごろに登場したNIKKOR Z初となるマイクロレンズの一つ。もう一つのマイクロレンズである「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」とは異なり、非S-Lineの無印レンズ。手ごろな価格と携帯性の良いコンパクトなデザインで、扱いやすい標準画角をカバーした等倍マクロ撮影に対応。
概要 | |||
---|---|---|---|
レンズの仕様 | |||
発売日 | 2021年 6月25日 | 初値 | ?76,230 |
マウント | Z | 最短撮影距離 | 0.16m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 1.0倍 |
焦点距離 | 50mm | フィルター径 | 46 |
レンズ構成 | 7群10枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F2.8-5.6 | テレコン | - |
最小絞り | F22-F32 | コーティング | SSC |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ74.5×66mm | 防塵防滴 | 対応 |
重量 | 260g | AF | STM |
その他 | |||
付属品 | |||
キャップ・フード・ケース |
全長66mm、重量260gと小型軽量な標準マクロであり、一眼レフ用「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」と比べるとサイズ・重量(89mm・425g)がどちらも抑えられているのが分かります。携帯性の良いミラーレスカメラと相性の良いマイクロレンズと言えるでしょう。ただし、他のマイクロレンズと異なり、フォーカシングで内筒が前方へ延びる構造を採用しています。防塵防滴やワーキングディスタンスなどを含めて、取り扱いに注意しなければなりません。
価格のチェック
売り出し価格は7.6万円。「50mm F2.8」として、そして標準マクロレンズとしてはやや高めですが、一眼レフ用と比べて驚くような価格差はありません。あとは価格に見合うパフォーマンスを備えているかどうか、今後のレビューで確認していきたいと思います。
NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 | |||
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
NIKKOR Zシリーズらしく黒を基調として、ニコンらしい黄色を部分的に配色した個性的なデザインの箱。一眼レフ用レンズのデザインと比べると、シンプルでモダンなデザインになったように見えます。
レンズ本体の他にフードやキャップ、薄めのラッピングクロスが付属します。必要最低限ですが、レンズフードが付属するぶん、キヤノンよりも良心的。
外観
外装は全体的に頑丈なプラスチックパーツを使用し、フォーカスリングはゴム製。高級感はありませんが、信頼性を損なうような作りとは感じません。全体的にブラックの塗装で傷や指紋が付きにくい加工が施されています。
コントロールポイントはフォーカスリングとAFリミッター、そしてA/Mスイッチを搭載。外装の表示は全体的にプリントで、エッチング加工はされていません。側面にはピント範囲やCEマーク、製造国(中国)などがプリントされています。
前述したように、フォーカシングによって内筒が前方へ延びる構造を採用。風景など、撮影距離が長い場合はほとんど伸びませんが、0.5倍のハーフマクロから1.0倍のマクロ撮影時は最大で2.5cmほど伸びます。
ハンズオン
手のひらサイズと言うには少し大きいですが、マイクロレンズとしては非常にコンパクトで軽量。外装の質感はややプラスチッキーですが、軽量化を実現するうえで妥協できる範囲内に収まっていると感じます。
前玉・後玉
小さな前玉の周囲には46mmフィルターソケットを備えています。前玉にフッ素コーティングが施されている記載はないので、水滴や汚れの付着が想定される場合は保護フィルターを装着するのがおススメです。特に標準レンズの等倍マクロ撮影はワーキングディスタンスが短く、前玉を被写体にぶつけやすいので注意が必要です。
このレンズには46mmフィルターの他に62mm径のフィルターに対応するソケットがあります。ただし、62mm径のフィルターやレンズキャップは物理的に装着することが出来ません。あくまでも「フィルムデジタイズアダプター ES-2」用のソケットですが、市販のねじ込み式62mmレンズフードを装着することも可能です。伸びる前玉を程するには有効であり、追加で購入するのも一つの手。
後玉の周辺は不要な光の反射を抑えるための加工とマットブラックな塗装が施されています。
金属製レンズマウントは4本のビスで固定されています。マウント周辺は防塵防滴に配慮した設計で、鏡筒の随所にシーリングあり。
フォーカスリング
ゴム製の幅広いフォーカスリングを搭載。滑らかに回転しますが、個人的な好みからすると少し緩く感じます。応答性はノンリニアですが、素早く回転してもピント全域を移動するには一回転以上の操作が必要です。ただし、一般的な撮影で使用するのは多く見積もっても180度くらいで、以降はマクロ域で使用します。フルマニュアルでマクロから遠景までピント操作をしなければ、ストレスを感じることはないはず。
レンズフード
コンパクトな薄型レンズフードが付属します。46mmのねじ込み式フィルターに対応。携帯性や収納性を損なわない手軽なフードですが、伸びる内筒を保護する機能は無く、駆動する内筒を衝撃から守ることは出来ないように見えます。保護性を重視するのであれば、前述したように62mmソケットを利用したほうが良いかもしれません。ただし、62mmフードは逆さ付けに非対応で、収納性が著しく低下する点に注意が必要です。
装着例
Z 7に装着。
マイクロレンズとしては非常にコンパクトで、小さなカメラバッグやスリングバックにも収納可能。お散歩カメラとして気軽に携帯できる魅力的なシステムとなっています。フォーカスリングやスイッチ類の配置は良好で、コントロールに不満はありません。APS-Cボディと組み合わせるのも面白そうですが、手振れ補正を利用できない点に注意が必要です。
AF・MF
フォーカススピード
ステッピングモーターで繰り出し式フォーカスを動かします。電光石火からは程遠いフォーカス速度ですが、想像していたよりもキビキビと動作しているように見えます。一般的な撮影距離であれば「非常に高速」と感じる程度に快適です。マクロ域は流石に合焦速度が低下し、AF-Cで動く被写体を追従するのは難しいかもしれません。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。
マクロレンズらしく、フォーカスブリージングが発生しています。一般的な撮影距離での画角変化は目立たないとはいえ、他のNIKKOR Zレンズと比べると明らかに画角の変化があります。
精度
Z 7との組み合わせで大きな問題はありませんでした。
激しい動体追従は厳しいと思いますが、カジュアルに撮影する分には問題ないかと思います。
MF
前述したとおり、素早く回転しても1回転以上のストロークが確保されています。素早い操作には不向きですが、マクロ撮影で微調整するには十分と言えるでしょう。ノンリニアレスポンスですが、マクロ撮影時に不便と感じることはありませんでした。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:Nikon Z 7
- 交換レンズ:NIKKOR Z MC 50mm f/2.8
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」ほどずば抜けた解像性能ではありませんが、マクロレンズらしい高解像なレンズ。中央は絞り開放からピークの性能が続き、周辺部や隅もF2.8から良好なパフォーマンスを発揮。絞ると中央に近い性能となり、フレーム全域で均質性の高い結果が得られます。F11まで絞ってもフレーム全域で4000を超える非常に良好な結果を維持。
中央
少なくとも4000万画素クラスのZ 7では絞り開放からピークの性能であり、絞っても目に見える改善はありません。コントラストも良好で、被写界深度や露出の調整で絞りを操作すると良いでしょう。
周辺
F2.8のみ、中央と比べて僅かにソフトですが、F4以降はほぼ同じパフォーマンスを発揮。どちらが中央なのか見分けるのは難しいほど均質性が良好です。
四隅
数値上は性能が低下するものの、実写で見る限りでは良好なパフォーマンスを維持しています。F5.6やF8まで絞ると中央と見分けがつかない程度まで改善。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.8 | 4728 | 4019 | 3495 |
F4.0 | 4688 | 4286 | 3446 |
F5.6 | 4632 | 4401 | 3962 |
F8.0 | 4497 | 4459 | 4076 |
F11 | 4324 | 4286 | 4057 |
F16 | 3663 | 3771 | 3436 |
F22 | 3039 | 2907 | 3027 |
実写確認
Z MC 105mm f/2.8との比較
Z MC 50mm F2.8も決して悪くないパフォーマンスですが、フレーム全体の均質性は105mmが圧倒的。アポクロマート設計のようなマイクロコントラストも得られるので、価格差以上にパンチのある解像感が得られると思います。本格的なマクロ撮影であれば105mmがおススメです。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2022年12月21日 くもり 無風
- カメラ:Nikon Z 7
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:絞り優先AE ISO 100
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・レンズ補正 オフ
テスト結果
絞り開放からフレーム全域で良好な解像性能を発揮しています。隅に向かってコントラストが僅かに低下するものの、顕著な解像性能の低下は見られません。絞りによる大幅な向上は見られませんが、ピークはF5.6?F8となっています。
中央
絞り開放から十分に良好な性能ですが、F5.6からF8まで絞ると僅かに改善が見られます。以降は回折の影響が強くなるものの、F11くらいまでは許容範囲内。F16-F22はパフォーマンスが大きく低下するので、必要でなければ避けたほうが良いでしょう。
周辺
中央と同程度の良好な性能を発揮。ただし、コマ収差が残存しているためか、コントラストの低下が見られます。周辺部まで明瞭な結果を得たいのであれば、少なくともF4まで絞るのがおススメ。理想はF5.6からF8まで絞りたいところ。
四隅
フレーム隅でも顕著な画質低下はありません。良好な解像性能を維持しています。周辺部と同じくコントラストの低下(周辺減光ではない)が発生しているので、ベストを尽くすのであればF5.6からF8まで絞りたいところ。絞った際の結果は中央と見比べても悪くなく、均質性の高いマクロレンズらしい性能と言えるでしょう。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。
実写で確認
中央と隅にそれぞれフォーカスしてF2.8で撮影。結果を見比べても差がなく、遠景の撮影でF2.8を使ったとしてもフレーム全体にピントを合わせることができます。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。
実写で確認
とても良好な補正状態で、問題はありません。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。
軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。
実写で確認
倍率色収差と同じくとても良好な補正状態。皆無ではありませんが、このレンズでパープルフリンジに悩まされる機会はほとんどありません。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。
実写で確認
前後のボケ質にほとんど差が見られない、非常にニュートラルな傾向を示しています。滲むようなボケは期待できませんが、どちらも滑らかで使い勝手の良いボケを得ることができます。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。
実写で確認
中央は円形ですが、隅に向かって口径食の影響を受けているようです。角のある楕円形となるので見栄えはよくありません。また、玉ボケにはやや強めの縁取りがあり、内側には非球面レンズのムラと思われる内輪(玉ねぎボケと言われています)あり。極端に悪くありませんが、単焦点レンズとして極上のボケとは言えません。
ボケ実写
接写
接写時に球面収差は目立たず、コントラストの高いピント面と滑らな描写の後ボケが得られます。玉ボケをよく見ると僅かにアウトラインが入っていますが、実写で目立つシーンは多くないはず。どちらかと言えば、隅に向かって口径食の影響が強いので、状況によっては少し絞ったほうが良いかもしれません。1~2段絞りくらいであれば、自然なボケが得られます。
近距離
接写時よりも玉ボケのアウトラインが目立つものの、全体的に見て見栄えの良い結果が得られます。色収差の影響は少なく、F2.8からコントラストの高いパンチのある描写。口径食が気になる場合は絞りによる調整が必要ですが、ボケのサイズとバランスを取る必要があります。
近距離2
極上のボケとは言えませんが、球面収差や色収差の影響が少なく、まずまず見栄えの良いボケを維持しています。ただし、口径食の影響がさらに強くなり、状況によっては渦巻いているように見えるかもしれません。気になる場合は1.5段絞りくらいが丁度いい感じ。
中距離
さらに撮影距離が長くなると、フレーム周辺部のボケについて騒がしさが増しているように見えます。極端に悪目立ちするわけではないものの、特に強みと言える描写ではありません。
撮影距離
全高170cmの三脚を人物に見立てて、F2.8を使って撮影した結果が以下の通り。
全身をフレームに入れて背景から分離するには苦しいものの、上半身くらいまで近寄ることで十分なボケのサイズとなります。満足のいく質感を得るためには、さらにバストアップくらいまで近寄ると良いかもしれません。
球面収差
前後のボケ質に大きな変化はありません。球面収差は良好に補正されており、軸上色収差のテスト結果からも分かる通り、フォーカスシフトの影響も皆無。(輝度差は露出固定で撮影したために発生した実効F値の違いです)。非球面レンズの研磨状態が悪いのか玉ねぎボケの兆候が見られますが、これは」「ボケ編」で指摘したいと思います。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。
比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。
実写で確認
NIKKOR Zレンズは補正プロファイルが内蔵されており、Adobe Camera RAWなどでは強制的に収差がソフト補正されます。ただし、このレンズは自動補正を利用できない現像ソフトでも近側・遠側どちらのピント位置も歪曲収差は良好に補正されています。光学的にしっかり補正されていると見て間違いないでしょう。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
絞り開放から周辺減光の影響はほとんどありません。光量は無限遠と比べて2段ほど低下しますが、中央から隅にかけてフラットな光量で撮影することができます。
(注意:便宜上、作例で表示している絞り値は「F2.8~F22」ですが、ニコン機は実効F値である「F5.6~F32」と記録されています。あと、最小絞りの撮影を忘れていました。)
無限遠
最短撮影距離とは打って変わって、絞り開放における周辺減光が目立ちます。1段絞ると大幅に改善し、2段絞るとほぼ解消。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。
実写で確認
フルサイズ隅を確認すると、点光源が変形していることが分かります。NIKKOR Zレンズとしては目立つほうで、価格を考慮するともう少し良好な結果を期待していました。2段くらい絞ると改善します。
逆光耐性・光条
中央
センサー面の反射と思われるRGBのゴーストが発生する以外に大きな影響はありません。絞ってもフレアやゴーストはよく抑えられています。逆光耐性は良好と言えるでしょう。
隅
光源の位置を隅に移動してもフレアやゴーストの影響は目立ちません。
光条
F4くらいから光条が発生しはじめますが、F11くらいまでは分散して先細りしないタイプの描写が続きます。綺麗な光条を得たい場合はF16~F22を使う必要あり。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 小型軽量
- 防塵防滴(に配慮した設計)
- 62mmフィルターソケット(鏡筒固定)
- 一般的な撮影距離でキビキビと動くAF
- 全体的に優れた解像性能
- 良好な色収差補正
- 接写時に滑らかなボケ
- 歪曲収差の補正状態
- 逆光耐性
- 光条
S-Lineの105mm F2.8ほどではありませんが、さすがのマイクロレンズらしい高い解像性能を発揮するレンズです。色収差や球面収差が良好に補正され、F2.8からコントラストの高いピント面を得ることが可能。ボケは滲むような描写ではないものの、多くの状況で悪目立ちすることなく、使い勝手の良いボケを得ることができます。光学性能について弱点はほとんどない良いレンズに仕上がっています。
悪かったところ
ココに注意
- フォーカスで鏡筒が伸びる
- 中距離以降でボケにアウトラインあり
- 無限遠側の周辺減光と口径食
- コマ収差がやや目立つ
光学的に注意すべき点があるとすればフレーム隅に向かって少し目に付くコマ収差。と言っても問題にすべきほど目立つ欠点でもなく、大部分の撮影では無視できる範囲内に収まっています。さらに周辺減光や口径食もいくらか見られますが、Z MC 105mm F2.8よりも控えめ。
最も気を付けるべきは内筒が伸びること。標準マクロの性質上、被写体との距離を取りづらく、伸びた内筒と接触する可能性は否定できません。62mmフィルターソケットに社外製のフードを装着するなどして内筒を保護する仕組みが欲しいところ。
総合評価
満足度は90点。
満足のいく光学性能と携帯性を兼ね備えた日常的に使える標準マクロレンズに仕上がっています。小型軽量なミラーレスの良さを活かすことができるレンズ。価格差を考慮すると、本格的、かつ最上の光学性能を備えたマイクロレンズを探しているのであれば「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」がおススメですが、日常的に使えるお散歩レンズとしてはZ MC 50mm F2.8がおススメです。
購入早見表
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作例
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