このページではキヤノン「RF100mm F2.8L MACRO IS USM」のレビューを掲載しています。
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | EF比で非常に高価 | |
サイズ | 長所では無い | |
重量 | 長所では無い | |
操作性 | 充実している | |
AF性能 | 電光石火 | |
解像性能 | とても良好 | |
ボケ | 汎用性高し | |
色収差 | ほぼ問題ナシ | |
歪曲収差 | 良好 | |
コマ収差・非点収差 | 良好 | |
周辺減光 | 無限遠で少し目立つ | |
逆光耐性 | 垂直光でゴースト | |
満足度 | 高価だが価値のあるレンズ |
おススメ&注意点
- 電光石火のAF性能
- ピント全域で良好な解像性能
- ピント全域で良好なボケ
- ×1.4倍のクローズアップ性能
- 効果的な手ぶれ補正
- SAコントロールによる球面収差の操作が可能
- EFレンズ比で非常に高価
EFレンズ比で非常に高価なマクロレンズとなってしまったものの、「×1.4倍」「SAコントロール」「デュアルナノUSM」などが光る。特に電光石火のAFは必見。
Index
まえがき
2021年4月に正式発表されたキヤノンRFシステム初となる本格的なマクロレンズ。EFマウントの「EF100mm F2.8L IS Macro USM」に相当するレンズであり、比較して「×1.4の撮影倍率」「SAコントロール」「NanoUSM駆動のフローティング構造」に対応しているのが特徴。
概要 | |||
---|---|---|---|
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レンズの仕様 | |||
マウント | キヤノンRF | 最短撮影距離 | 0.26m |
フォーマット | フルサイズ | 最大撮影倍率 | 1.4倍 |
焦点距離 | 100mm | フィルター径 | 67mm |
レンズ構成 | 13群17枚 | 手ぶれ補正 | 5.0段 ハイブリッドIS |
開放絞り | F2.8 | テレコン | - |
最小絞り | F32 | コーティング | フッ素 |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ81.5mm×148mm | 防塵防滴 | 対応 |
重量 | 約730g | AF | NanoUSM フローティング |
その他 | SAコントロールリング | ||
付属品 | |||
レンズキャップ・ポーチ・フード |
撮影倍率が1.0倍を超えるマクロレンズでAFに対応している珍しいモデル(MFレンズではいくつか存在します)。特にミラーレス用のAFレンズとしてはこのレンズとオリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」くらいでしょうか。
インナーフォーカスにはフローティング構造を採用しており、撮影距離に応じた適切な収差補正を実現。これにより、×1.4倍のマクロ撮影で収差変動を抑えた高い光学性能を期待できそうですね。
2つのフォーカスレンズ群は駆動系にナノUSMを使用。振動エネルギーを使って直進運動を実現した革新的なAFアクチュエーターであり、静止画・動画での滑らかで静かなAFを実現しているものと思われます。
操作部は従来通りのコントロールリングやフォーカスリングを搭載しつつ、新機能である「SAコントロールリング」を搭載。球面収差を調節することでピント面の滲みや後ボケの描写を変えることが出来ます。過去にニコンが「DC NIKKOR」をリリースしてから久しく新製品を見ていなかったテクノロジーであり、まさか令和の時代にミラーレス用レンズで復活するとは思っていもいませんでした。どのように機能するかは、実際にレンズを使って試してみたいと思います。
フルサイズミラーレス用の100mmマクロレンズとしては珍しく、公式三脚座に対応。別売りなうえに機能性のわりに少し高めですが、三脚座が用意されているのは嬉しいですね。
EFレンズと比べて若干のサイズ・重量増ではあるものの、小型軽量なEOS Rシステムと組み合わせることで総合的なシステムサイズは抑えられていると思われます。基本仕様が似ているものの、最短撮影距離はより短くなり、撮影倍率が向上しています。
RF100 | EF100 | |
焦点距離 | 100mm | 100mm |
レンズ構成 | 13群17枚 | 12群15枚 |
開放絞り | F2.8 | F2.8 |
最小絞り | F32 | F32 |
絞り羽根 | 9 | 9 |
最短撮影距離 | 0.26m | 0.3m |
最大撮影倍率 | 1.4倍 | 1.0倍 |
フィルター | 67mm | 67mm |
サイズ | φ81.5×148mm | φ77.7mm×123mm |
重量 | 730g | 625g |
手振れ補正 | 5.0段 | 4.0段 |
AF | NanoUSM×2 | リングUSM |
エクステンダー | 非対応 | 非対応 |
価格のチェック
売り出し価格はネット最安値で「163,350円」。EF100mm F2.8L IS Macro USMの売り出し価格が「113,398円」だったことを考えると1.5倍近く高価なレンズです。もちろん、×1.4の撮影倍率やSAコントロール、最新の光学設計を考慮すると避けられない値上がりかもしれませんが、これからRFシステムを導入しようとしている人は手を付けにくい価格設定と言えそうです。(ニコンやソニーの同クラスよりも高い)
RF100mm F2.8 L MACRO IS USM | |||
楽天市場 | Amazon | キタムラ | Yahoo |
ソフマップ | e-BEST | ノジマ | PayPay |
ビックカメラ | ヤマダ | PREMOA | |
キヤノン リング式 三脚座E(B)? | |||
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ソフマップ | e-BEST | ノジマ | PayPay |
ビックカメラ | ヤマダ | PREMOA |
このレンズに1.5倍近い価格上昇ぶんの価値があるかどうか、これからじっくりと確認してみたいと思います。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
キヤノンRFマウントらしい黒を基調としたデザインのシンプルな箱です。レンズは発泡スチロールの仕切り板で固定されています。
レンズ本体の他にレンズフード、レンズポーチ、保証書が付属します。三脚座は別売りとなるため追加費用が発生。シンプルな三脚リングながら2万円は正直に言って高すぎると思います。
キヤノン リング式 三脚座E(B)? | |||
楽天市場 | Amazon | キタムラ | Yahoo |
外観
他のRFレンズと同じく外装は高品質なプラスチック製。頑丈な作りだと感じますが、金属製鏡筒と違って外装に継ぎ目が見えるのはやや残念。コントロールリングはローレット加工を施されたプラスチック製で、フォーカスリングとSAコントロールリングは表面をゴムで覆われています。
外装にはレンズのロゴの他にSAコントロールリングの目盛りや各種スイッチを搭載。裏面にはCEマークや製造国の表示がプリントされています。ちなみに製造国は日本。
ハンズオン
レンズの重量は730g。EF100mm F2.8L IS USMと比べて少し重く、手に取ってもそれなりの重量感があります。とは言え過度な重さではなく、EOS R5など、しっかりとしたグリップのカメラに装着した際のバランスやハンドリングは良好。
前玉・後玉
凹型の前玉にはフッ素コーティングが施されているため、水や油汚れに強く、メンテナンスは比較的らくちん。とは言え、×1.4の接写撮影時は被写体との距離がグッと縮まるので、前玉保護の観点からプロテクトフィルターの装着をおススメします。
後玉はRFマウントのショートバックフォーカスを活かすようにレンズマウントギリギリ一杯まで後ろに配置されています。後玉はこの位置で固定され、フォーカスはレンズ内で完結するため、空気の出入りは最小限。レンズマウントのゴムシーリングに加えて防塵防滴仕様はしっかりとしています。
フォーカスリング
24mm幅のゴム製フォーカスリングは適度な抵抗を伴って滑らかに回転します。電子制御で動作し、カメラ側で「回転速度に応じた移動量」「回転量に応じた移動量」の設定が可能。どちらにせよ近距離から無限遠までは最低でも1.5回転程度のストロークがあり、十分な精度で操作が可能です。逆にフルマニュアルで使うにはストロークが少し長すぎると感じるかもしれません。
コントロールリング
キヤノンRFマウントではお馴染みの10mm幅のコントロールリングを搭載。一部のLレンズはマウント付近に配置されていますが、このレンズは大部分のRFレンズと同じくレンズ先端に搭載。程よい抵抗量で滑らかに回転します。動作には1回転で60回程度の間隔のクリックが伴います。これを自前で解除することは出来ません。
SAコントロールリング
10cm幅(ゴム部分)のSAコントロールリングを搭載。これはRF100mm F2.8 L IS MACRO USMで初めて実装した機能であり、リングを操作することでレンズの球面収差を調整することが可能。リングは基本的に無段階で動作しますが、中央のニュートラル部のみ軽めのクリックが発生。これにより、ファインダーを覗いたまま操作してもニュートラルに戻したり、現在のポジション把握がしやすくなっています。
リングの目盛りを中央に合わせると球面収差の補正が最適な状態となり、一般的なマクロレンズとして使用することができます。
「ー」方向に回転すると球面収差によりピント面が滲み、後ボケが柔らかく、前ボケが硬くなる。
「+」方向に回転すると球面収差によりピント面が滲み、後ボケが硬く、前ボケが柔らかくなる。
レンズ左側面にはSAコントロールリングをニュートラルで固定するスイッチを搭載しています。SAコントロールリングはフォーカスリングと間違えて操作しやすいので、使わない時は固定しておくのがおススメ。
スイッチ類
レンズ右側面にはAFリミッターとAF/MFスイッチ、手ぶれ補正スイッチを搭載しています。手ぶれ補正にモード設定は無く、オン・オフの切替のみ対応しています。
レンズフード
円筒形のシンプルなプラスチック製レンズフードが付属。C-PLフィルターの操作窓は無く、バヨネットの固定解除用ボタンのみ。EFレンズのフードと比べると少し浅底のように見えます(×1.4倍の短いワーキングディスタンスに対応するためだと思われます)。
装着例
EOS R5との組み合わせでバランスは良好。少し重たく感じますが、フロントヘビーとは感じません。グリップとレンズの間の空間には余裕があり、厚手の手袋を装着しても普通に握ることが出来るはず。レンズの全長が少し長いので、カメラ装着時は小さなカメラバッグに収納し辛いかもしれません。
AF・MF
フォーカススピード
デュアルNanoUSM駆動のAFは非常に高速。さらにEOS R5のAF性能と組み合わせると至近距離から無限遠まで一瞬で移動し、迷いなく合焦するのは心地よい。同時期に購入した「Z 7+NIKKOR Z MC 105mm F2.8 S」と比べると雲泥の差で、圧倒的な撮影体験。これは実写でも同じで、特に低照度やマクロ撮影時の合焦スピードで圧倒的な差を感じます。(ニコンは最新ボディのZ 7IIで改善するのかもしれませんが…)
ちなみに動画作例を用意し忘れましたが、SAコントロールで球面収差を発生させた状態でもAFは動作します。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指しています。最小絞りまで絞り、最短撮影距離から無限遠まで撮影した結果が以下の通り。
マクロ域はマクロレンズらしくブリージングが強く発生するものの、一般的な撮影距離のフォーカスブリージングは良く抑えられているように見えます。静止画だと分かりづらいかもしれないので以下に動画を用意しました。
ちなみに,SAコントロールリングを操作すると少し目立つブリージングが発生します。「フォーカス」では無いので、「SAブリージング」と言ったところでしょうか。影響を考慮すると、SAコントロールリングを操作後に構図を合わせると良い感じ。
精度
EOS R5と組み合わせる限りでは精度に問題を感じません。近距離でのサーボAFでも良好に追従します。
MF
前述した通り、少なくとも1.5回転の長いストロークでMF操作が可能です。EOS Rのフォーカスアシストなどを利用するとMFで簡単にピント合わせが可能。ただし、SAコントロール使用時のアシストはあまりアテにしないほうが良いかも。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:EOS R5
- 交換レンズ:RF100mm F2.8L MACRO IS USM
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェックしています) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証しています。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性があります。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
中央
絞り開放からこの解像力チャートで測定できる上限値に近いピークの数値を発揮。絞ってもこれ以上の改善は見られず、パフォーマンスはF8まで維持される。F11以降は回折の影響で急速に性能が低下するので注意が必要。
周辺
中央ほどでは無いものの、絞り開放から4000を超える非常に良好なパフォーマンスを発揮。細かいことを言わなければ中央とほぼ同じ画質。ただし、よく見ると倍率色収差が発生しているので、これを補正する過程で細部の画質が僅かに低下する可能性あり。
全体的な傾向は中央と同じで、F8までピークの性能を維持し、F11以降で急速に低下する。
四隅
マクロレンズらしく、隅まで中央とほぼ同じ画質。とても良好だと思います。周辺と同じく、わずかとはいえ倍率色収差の影響があり、細部の画質や数値で現れるテストでは目に見える影響があるかもしれません。
やはりF8までピークの画質を維持し、F11以降で急速に低下する。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.8 | 4310 | 4254 | 4273 |
F4.0 | 4310 | 4098 | 3971 |
F5.6 | 4408 | 4044 | 4217 |
F8.0 | 4349 | 4060 | 3971 |
F11 | 4018 | 3795 | 3440 |
F16 | 3541 | 3431 | 3289 |
F22 | 2882 | 2819 | 2811 |
F32 | 2243 | 2095 | 2098 |
実写確認
F4.0以降は周辺減光の影響も弱まり、どこをクロップしたのか分からなくなるほどには全体的にシャープ(倍率色収差の影響を除く)。
競合レンズ比較
最大のライバルは発売日も近いニコン「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」でしょうか。テスト機の「Z 7」が解像性能の高いローパスフィルターレス仕様と言うこともありますが、それにしても解像性能はキヤノンと比べて少し良好。顕著な違いではありませんが、シャープネス・コントラストが優れ、何より倍率色収差が徹底的に補正されています。
また、F11における性能の落ち込み方はニコンの「Z MC 105mm F2.8 S」よりも早い。ただしF16以降で絞ると同程度となる。
「RF70-200mm F4 L IS USM」は近距離での解像性能低下が顕著で、RF100mmとの差は大きい(遠景は絞った場合にほぼ互角)。正直に言うと比べるような性能では無いので、近距離での解像性能を重視する場合はRF70-200mm F4 L IS USMよりもRF100mm F2.8 L IS MACRO USMがおススメ。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2021-07-15:晴天・無風
- カメラ:EOS R5
- 雲台:Leofoto G4
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 露出:絞り優先AE ISO 100
- 出力:RAW
- 現像:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネス オフ
・その他初期設定
テスト結果
中央
絞り開放から非常にシャープでコントラストも良好。ハイライトとシャドウの間に色ずれの兆候は見られず実用的な画質。F4まで絞っても顕著な改善は期待できませんが、細部のコントラストが僅かに改善します。それ以降は画質にこれと言った変化は無く、F8?F11で回折の影響があり、コントラストが徐々に低下する。F16はまだ許容範囲と感じるものの、F22?F32はソフトな画質となるので、被写界深度がどうしても必要な場合は避けたいところ。
周辺
基本的に中央と同じ画質であり、絞り開放から非常に良好。やはり1段絞ると細部のコントラストが僅かに改善し、それ以降はF8までほぼピークの性能を維持。F11?F16まで許容範囲の画質となり、F22?F32で回折の影響が強くなる。
四隅
中央や周辺と比べると若干ソフトと感じるものの、それでも非常に良好な画質。僅かに倍率色収差の影響が見られるものの、ほぼゼロに近い無視できる影響量。1段絞ると光量落ちが改善し、シャープネスとコントラストが改善。F5.6?F8でさらに少し改善しピークを迎える。F11?F16も許容できる画質となり、F22?F32で回折の影響が強く避けたい画質。
同時期に登場したニコン「NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S」と比べると倍率色収差が僅かに発生しており、絞り開放付近のシャープネス・コントラストで僅かに劣る。
実写で確認
全体的に見て、マクロレンズらしい良好な均質性を発揮。絞り開放から快適に使える画質ですが、ベストを尽くすのであればF5.6?F8まで絞るとフレーム全体で一貫した画質を得ることが出来る。
SAコントロール「ー」全振り
参考までにピントを固定してSAコントロールリングを「ー」方向へ回転させた状態で撮影。球面収差を敢えて発生させることが出来る機能であり、当然ながらピント面にも影響が発生。絞ると徐々に収差が落ち着くものの、中央付近は像が乱れます。小絞りを使ってもSAコントロールがニュートラルな状態の時ほどシャープとはならないので、風景撮影時はSAコントロールをニュートラルで固定しておきたいところ。
撮影倍率
このレンズの最大撮影倍率は「1.4倍」。つまり、イメージセンサーに対して1.4倍大きく撮影することが可能。EOS R5のイメージセンサーの横幅は「36mm」なので、被写体を横幅「約25mm」までクローズアップすることが可能。フルサイズ対応のAFレンズでこれほど撮影倍率の高いレンズは他にありません。
ちなみにEOS R5のライブビューに表示されている「×1.0」の表示でピントを合わせた際の倍率が以下の通り。
横幅36mmのセンサーに近い(つまり×1.0)撮影倍率であることが分かります。ライブビュー上の指標はまずまず正確なのかなと。
マクロ解像性能
撮影環境
- EOS R5
- Leofoto LS-365C
- Leofoto G4
- EOS Utility 3によるテザー撮影
中央
絞り開放から良好なシャープネスではあるものの、1?2段絞るとことでディテールがワンランク向上する印象あり。パフォーマンスのピークはF8まで続き、F11でシャープネス・コントラストが急速に低下する。F16まで許容範囲となるが、F22?F32はかなりソフトな画質となる。
隅
中央と比べると絞り開放はやや甘め。1?2段絞ると急速に改善するので、できれば絞って使いたいところ。画質のピークはF5.6からF8で、ここまで絞ると×1.4のマクロ撮影でも満足のいくシャープネスをフレーム隅で得ることが可能。F11以降は中央と同じくパフォーマンスの低下が早い。使うとしたらF16までかなと。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられます。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないと思いますが、近距離では収差が残存している場合もあります。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要です。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか手段がありません。
実写で確認
近距離でも像面湾曲の兆候は見られず、フレーム端までフラットなピント面に見えます。特に大きな問題はありません。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれです。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要となります。ボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できます。
実写で確認
極僅かに色ずれがあるものの、これが実写で大きな問題となる可能性は低い。徹底的に補正されているNIKKOR Z MC 105mm F2.8 Sほどではないものの、非常に良好な結果。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指しています。手前側で主にパープルフリンジとして、奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差です。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところですが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多いです。
実写で確認
絞り開放から問題の無い、色付きが皆無の綺麗な画質。細部を確認しても軸上色収差の痕跡は見られず、開放から本当に実用的に仕上がっている模様。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と感じます。逆に、「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写を好ましくないと感じています。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。また「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滲むボケ描写を実現しているレンズも存在します。
実写で確認
SAコントロールリングをニュートラルの状態に固定してチェック。この場合は僅かに後ボケが滑らかで、前ボケが僅かに硬調。NIKKOR Z MC 105mm F2.8 Sと比べると後ボケよりのチューニングが施され、小ボケ領域の背景はより滑らかな表現が可能となっているはず。ただし、ボケ質に差があるのは僅かな領域のみであり、特にボケが大きくなると前後の質感に差は無くなる。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、四隅が楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりします。これを解消するには絞りを閉じるしかありません。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来ます。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がります。口径食が強いと、ボケ量が少なく感じたり、四隅のボケが荒れてしまう場合もあるため、口径食の小さいレンズが好ましい。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
非球面レンズを使用しておらず、玉ボケの描写は滑らかで綺麗。ボケの縁取りは僅かで、これが問題となることは少ないはず。口径食の影響は少なく、少なくともNIKKOR Z MC 105mm F2.8 Sよりも良好。口径食はF4.0まで絞るとほぼ解消し、F5.6まで絞ると完璧。円形絞りを採用しているので、小絞りを利用しても玉ボケの角張は目立たない。
SAコントロール(-4 - 0 - +4)
SAコントロールリングによる玉ボケの影響は大きい。まず第一に、マイナス側へリングを操作すると画角が広くなり、口径食が非常に強くなる。ボケは滑らかとなるものの、癖が強いのは悩ましい。
逆にプラス側へ回転すると、画角が狭くなり、口径食の影響が小さくなる。ボケは強い縁取りを伴う「バブルボケ」となり、こちも癖の強い描写。
どちらもF4?F5.6で影響は徐々に小さくなり、F5.6に到達するころにはSAコントロールリングの影響が極小となる。SAコントロールリングを活かしたボケを作りたい場合は絞り開放付近がおススメ。
ボケ実写
その1
SAコントロールリングを使わなくても後ボケは滑らかで綺麗。この描写に不満が無ければSAコントロールリングは誤操作を予防するためにもロックしておきましょう。
F2.8からF4までは輪郭が溶けやすい滑らかな描写となり、F5.6まで絞ると背景のコントラストがハッキリとしてくる。F8からF11まで絞ると場合によって騒がしいと感じるかもしれません。
その2
撮影距離が長くなると、わずかに口径食が目立つようになる。それでも全体的なボケ描写は滑らかで綺麗に見えます。色収差による色づきは皆無で、高コントラストによる悪目立ちはしない模様。
その3
撮影距離が長くなっても、マクロレンズとしてはまずまず良好なボケ質を維持。小ボケの表現は良好で隅の騒がしさも目立たない。やはり色収差補正は良好でボケの縁取りに色付きは無し。1段絞るとボケは小さくなるものの、隅まで描写が安定する。F4のほうが好みという人もいることでしょう。
SAコントロールによるボケ質の変化
その1
マイナス側は後ボケが滑らかとなる一方で、口径食やコマ収差が目立つ。特に強烈な効果を狙う必要が無ければ1?2目盛りを使いたいところ。2目盛りの場合はピント面のコントラストに悪影響があるので、全体的なバランスを考慮すると1目盛りで抑えておくのが良し。プラス側も同様のことが言える。
その2
やはりSAコントロールで強烈なコマ収差が発生するの強効果は使いどころを選ぶ。±1に抑えておくのが無難。
その3
接近時はコマ収差や口径食の悪影響が目立ちにくいので、SAコントロールリングの効果を楽しみやすい。とは言え、ピント面への影響を考慮すると±1に抑えるのが無難な選択肢。単純にソフト効果を得たいのであれば、後付けソフトフィルターやブラックミストをおススメします。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに「歪む」収差です。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
実写で確認
極僅かな糸巻き型歪曲。直線を入れても目立ちにくい程に抑えられているものの、完璧を目指すのであればレンズ補正を適用しておきたい。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な減光のことです。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となっていることを指します。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生、ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を増感でカバーするのでノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合にはノイズが強く現れる可能性があります。
実写で確認
最短撮影距離
絞り開放から周辺減光の影響はほとんど無く、心配する必要はない。ただし、無限遠と比べて実効F値が大きく、同じ露出結果を維持するためには無限遠で「1/4000秒」のところを最短撮影距離は「1/800秒」までシャッタースピードを抑える必要がある。
無限遠
最短撮影距離と比べて周辺減光が目立つ。過度な暗さではないものの、光量落ちが気になる場合は絞るか後処理が必要となる。F4・F5.6まで絞ると概ね改善し、F8で解消する。
コマ収差
コマ収差とは?
コマ収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指しています。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日などが影響を受ける場合があります。後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある収差。絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞り開放のコマ収差補正が重要となります(絞るとシャッタースピードかISO感度に影響があるため)。
実写で確認
絞り開放から良好な点像再現性であり、コマ収差・非点収差の影響は極僅か。僅かに残存する収差はF5.6までに綺麗に収束し、非常に良好な再現性。絞り開放から夜景や星空の撮影もやぶさかではない。
SAコントロール
±1の状態まで良好な補正状態ですが、±2以上の調整値では目立つコマ収差が発生しています。これは点像再現性に影響を与え、当然ながら解像性能も低下する。解像性能や点像の再現性を最優先するのであれば、SAコントロールは「ニュートラル」で固定しておくべき。誤操作でズレることがあるので、スイッチでしっかりとロックするのがおススメ。
逆光耐性・光条
中央
完璧と言うにはほど遠く、光源がフレーム中央付近にある場合は目立つゴーストが複数発生する。光源周辺のコントラストは良好に維持されている印象あり。絞っても全体的な状況には変化なく、ゴーストが顕在化するだけ。
隅
光源が中央付近にある場合と打って変わって良好な逆光耐性。絞り開放はフレア・ゴーストがどちらも抑えられた良好な画質。絞ってもゴーストは極僅かで、光源付近に発生するので問題ナシ。
光条
光条はF4で既に発生し始め、F5.6からF11にかけて徐々にシャープな描写へと変化する。F16からF22で切れ味が増し、F32は回折の影響が強いのか少しソフトな描写。絞った際の光条はとてもシャープで個人的に好み。
SAコントロール
操作性
外観・操作性の項目でも解説したように、このレンズは球面収差(Spherical Aberration)をコントロールすることが可能です。球面収差は主に「前後のボケ質」「ピント面のシャープネスやコントラスト」に影響する収差であり、高解像なレンズは球面収差を徹底的に補正しているレンズが多い。この場合は前後のボケ質に偏りが無く、安定した描写となる。
この収差を良好に補正した状態から敢えて収差を大きくすることで前後のボケ質に変化を付けるのがSAコントロール。
「ー」方向にリングを回転すると、後ボケが柔らかくなり、前ボケが硬くなる。
「+」方向にリングを回転すると、後ボケが硬くなり、前ボケが柔らかくなる。
SAコントロールリングはニュートラルで軽いクリックが発生する以外は無段階で滑らかに回転します。メカニカルな構造であり、収差に影響するレンズをリング操作でダイレクトに操作することが可能。
SAコントロールリングはフォーカスリングと隣接しており、不意に誤操作してしまうことがある。これを防ぐために、レンズ右側面にはSAコントロールリングの誤操作を防ぐロック機構を搭載。ロック機構はSAコントロールリングがニュートラルな状態でのみ動作します。
ブリージングの発生
SAコントロールリングを操作すると画角に大きな変化があります。
- 「ー」方向にリングを回転すると画角が広くなります。
- 「+」方向にリングを回転すると画角が狭くなります。
ニュートラルでピントを合わせてからSAコントロールリングを操作すると意図しない物体がフレームに入る可能性があります。
ピント面の移動
ニュートラルな状態でピントを合わせて固定。この状態でSAコントロールリングを操作したのが以下の通り。
「ー」では後ボケが柔らかくなり、「+」では前ボケが柔らかくなっているのが分かります。逆に「ー」は前ボケが硬くなり、ピント面が手前に移動したかのように錯覚してしまいます。しかし、じっくり確認してみると、ピントの芯はニュートラルな状態のピント位置で固定され、大きく移動していないように見えます。
ピント面のにじみ
「ー」「+」どちらも同程度の滲みが発生します。これと言った差はありませんが、どちらもニュートラルな状態と比べてコントラストが大幅に低下しています。
SAコントロールの影響量
後ボケ
後ボケはマイナス方向へ調整することで滑らかな質感へと変化。玉ボケを確認すると、アポダイゼーション光学素子を使ったかのようにグラデーションを描いていることが分かります。1目盛り程度で大きな変化はありませんが、2?4目盛りで徐々に影響が強くなる。
プラス方向へ調整すると縁取りを強調するようなボケ質へと変化し、特に目盛り2?4では非常に騒がしいボケ質となる。玉ボケはいわゆる「シャボン玉」と呼ばれる独特な描写となるので、これはこれで面白い。
前ボケ
基本的に後ボケとは真逆の傾向を示し、マイナス方向にリングを回転させるとボケが騒がしくなり、プラス方向に回転すると滑らかなボケとなる。目盛りごとの影響は後ボケと同様。
絞りの影響とフォーカスシフト
「ー」
前述したように、ピントの芯はニュートラルな状態と変わらない。SAコントロールリングによって前ボケが硬くなると、ぱっと見のピント位置は手前側にありますが、絞ると徐々に通常のピント位置に収束する。概ねF5.6までにSAコントロールリングの影響は解消し、F8以降で前後のボケ質差は最小限となる(ゼロではない)。
「+」
基本的に「ー」とは逆方向に作用し、絞り値ごとの影響は同じ。やはりF8以降もわずかにSAコントロールリングの影響を受ける。
解像性能への影響
SAコントロールリングを使用すると、絞り開放でピント面が低コントラストとなり、ぱっと見のピント位置が手前・奥へ移動する。絞るとF5.6までに球面収差がほぼ収束するものの、フレーム周辺部・隅の解像性能はニュートラルな状態まで戻ることは無い(最小絞り以外)。風景撮影など、全体的な解像性能を重視する場合はニュートラルで固定しておくのがおススメ(誤操作を予防するためにスイッチで固定したほうが良い)。
ただし、これはあくまでもSAコントロールリングの調整幅を目いっぱいに使った際の結果であり、ニュートラルに近いほど全体的な影響量は少なくなる。
総評:高価だが楽しく撮影できる最新マクロレンズ
肯定的見解
ココがポイント
- 別売りながら三脚座に対応
- 頑丈で防塵防滴仕様の鏡筒
- 豊富で充実のコントロール
- 応答性の高いフォーカスリング
- SAコントロールによる球面収差の調整が可能
- 電光石火のAF
- 一般的な撮影距離で良く抑えられたフォーカスブリージング
- フレーム全域・絞り値全域で均質的な解像性能
- ×1.4の最大撮影倍率
- 像面湾曲の影響が小さい
- 倍率色収差・軸上色収差の影響が少ない
- 滑らかで適度な口径食のボケ
- 穏やかな歪曲収差
- 良好なコマ収差補正
- 綺麗な光条
最も強くおススメできるのはデュアルNanoUSMによる電光石火のAF。EOS R5・R6など最新EOS Rボディと組み合わせることで、ピント全域で高速かつ高精度のオートフォーカスを実現。実際に使ってみると非常に快適で、マクロ域でもサーボAFで被写体を追いかけ続けることが可能。
SAコントロールは癖が強く、おススメできると一概には言えない。しかし、描写の癖に慣れてくると適度に調整して滑らかなボケや輪郭のあるボケを意図して作ることが出来るようになる。マストな機能ではないが、写真を彩る一つのアクセントとして活用可能。
そして最大撮影倍率「×1.4」のクローズアップ性能は決してお飾りではなく、開放から中央はシャープで、1?2段絞ればフレーム全体でシャープな結果を得ることが可能。また、基本的な光学性能も非常に良好で、SAコントロールを使わなくとも良好なボケを得ることができる。
批判的見解
ココに注意
- EFレンズと比べてかなり高価
- EFレンズと比べてサイズ・重量増
- 最短撮影距離付近の隅におけるF2.8が少しソフト
- 無限遠で周辺減光が少し目立つ
- 逆光耐性が完璧ではない
- SAコントロールの癖が強い
・コマ収差が強く現れる
・絞っても画質の均質性が悪い
・「ー」側で口径食が強い
・撮影後にデータとして残らない
このレンズを検討する上で最も障害となるのが価格設定。売り出し価格で15万円を超え、10万円以下で購入できるEF100mmマクロとの価格差は1.5倍以上。この価格差を正当化できるかどうかが鍵となる。レンズサイズや重量もEFレンズと比べて増えているものの、大幅な価格上昇を考えると軽微な問題。
光学性能で言えば周辺減光と逆光耐性でいくらか気になる点があるものの、許容範囲内であり、問題視するほどの欠点ではありません。
価格を正当化する上で一つのポイントとなる新機能「SAコントロール」は描写の癖が非常に強く、好みが分かれること必至。あくまでもおまけ機能と割り切って購入したほうが良いかもしれない。
総合評価
マクロ域を含めて電光石火のAFは必見。同時期に購入したニコンのマクロシステムと比べると雲泥の差となり、非常に快適で楽しい撮影体験を得ることができる。基本的な光学性能は良好で、マクロ・風景・ポートレートなど汎用性の高い描写傾向がGood。さらに1.4倍の撮影倍率や少し癖のあるSAコントロールを加味すると、価格上昇分の価値はあるかなと。それでも少し高く感じますが…。
購入早見表
作例
関連レンズ
一眼レフ用(アダプター必須)
- EF100mm F2.8L マクロ IS USM
- EF100mm F2.8 マクロ USM
- 70mm F2.8 DG MACRO
- SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1
- SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD
- SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD
- Milvus 2/100M
- Laowa 100mm F2.8 Ultra-Macro APO
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