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銘匠光学 TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z 徹底レビュー 完全版

このページでは銘匠光学「TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z」のレビューを掲載しています。

このレンズについて

今回は発売前に焦点工房よりお借りしたレンズを使用してテストしています。今回のレビューにあたり、同社から金銭の授受はなく、レビュー内容に関する指示・規制も無し。ちなみに「レビューして欲しい」と言った話もなく、「使ってみる?」のみであることを先に明言しておきます。

TTArtisan AF 32mm f/2.8 Zのレビュー一覧

管理人の評価

ポイント 評価 コメント
価格 手ごろな価格
サイズ とても小型
重量 とても軽量
操作性 MFの精度が粗い
AF性能 十分な性能
解像性能 安定感のある画質
ボケ 滑らかな後ボケ
色収差 良好な補正状態
歪曲収差 良好な補正状態
コマ収差・非点収差 良好な補正状態
周辺減光 やや目立つ
逆光耐性 繊細な光でも影響あり
満足度 コスパ良好な32mm

評価:

手の届きやすい「32mm」と言う選択肢

同価格でニコン純正レンズ「Z 28mm F2.8」が存在するものの、諸収差の補正状態が良好で、総金属製外装のコストパフォーマンス良好なレンズだ。逆光耐性やMFリングの精度に難があるものの、競合レンズ不在で良好な光学性能を備えている。28mmよりも狭く、40mmよりも広い画角のコンパクトレンズを探しているのなら面白い選択肢となる。

被写体の適正

被写体 適正 備考
人物 ボケが綺麗
子供・動物 動体には不向き
風景 均質性の高い解像性能
星景・夜景 諸収差の補正が良好
旅行 良好な携帯性と画質
マクロ 最短撮影距離が長い
建築物 歪曲収差補正が良好

まえがき

フルサイズ用単焦点としては珍しい焦点距離「32mm」を採用した開放F値 F2.8の小型軽量なレンズである。そして、銘匠光学 TTArtisanとしては初となるAF対応モデルだ。2022年7月6日現在、日本国内では焦点工房の直販で入手することが可能となっている。

概要
レンズの仕様
マウント Z 最短撮影距離 0.5m
フォーマット 35mm 最大撮影倍率
焦点距離 32mm フィルター径 27mm
レンズ構成 6群9枚 手ぶれ補正
開放絞り F2.8 テレコン -
最小絞り F16 コーティング -
絞り羽根 7枚
サイズ・重量など
サイズ Φ63mm×50mm 防塵防滴 -
重量 約195g AF STM
その他
付属品

フルサイズ対応の広角レンズとしては小型軽量で扱いやすい。特にZマウントで携帯性の良好なレンズはまだまだ少なく、AF 32mm F2.8 Zは貴重な選択肢となる。似たような焦点距離の「NIKKOR Z 28mm f/2.8」を入手可能だが、28mmで画角が少し広いと感じたら、32mmの本レンズを検討してみても良いだろう。

レンズ構成は6群9枚で、そのうち1枚の低分散レンズと2枚の非球面レンズ、3枚の高屈折率レンズを使用している。フォーカスはインナーフォーカスタイプとなっているのでレンズ全長が変化することはない。フォーカス駆動にはステッピングモーターを採用しており、滑らかで静かなAFを実現。動画撮影でも滑らかなフォーカス移動を期待できる。注意すべき点があるとしたら最短撮影距離だ。広角レンズとしては最短撮影距離が0.5mと長く、当然ながら撮影倍率が低いので小さな被写体をクローズアップすることは出来ない。

価格のチェック

初回ロットは焦点工房の直販店にて24,999円だ。「NIKKOR Z 28mm f/2.8」と比べて、ほとんど価格差が無いので、特にこだわりが無ければニコン純正を選んでおいたほうが無難だと思う。ただし、このレンズにも長所があるので、もしもどちらを買おうか悩んでいるのであれば、このレビューを読み進めて欲しい。

TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z
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レンズレビュー

外観・操作性

箱・付属品

TTArtisanシリーズらしい黒を基調とした化粧箱にレンズが入っている。日本メーカーと比べるとデザイン重視の箱となっており、価格を考えると良好な質感だ。中には十分な緩衝材も含まれている。

レンズ本体の他に、説明書が付属する。

外観

MFレンズのTTArtisanと同じく、総金属製のしっかりとした作りのレンズだ。ニコン純正の28mm F2.8が全体的にプラスチックパーツを使用していることを考えると立派な質感である。

コントロールはフォーカスリングのみ。AF/MFスイッチやAFLボタンなどは存在しない。外装の表示はすべてプリントで、エッチングは施されていないように見える。この辺の加工はVILTROXのほうが良好である。

前玉・後玉

前玉の周囲は内蔵のドーム型レンズフードに覆われている。このフードを簡単に取り外す方法は見当たらない。円形フィルターに対応しているが、サイズは27mmと非常に小さい。市販の最新フィルターで27mmに対応しているモデルは少ないものの、探せば手ごろな価格で見つけることが可能だ。C-PLフィルターも装着可能だが、ドーム型フードが邪魔をして操作し辛い点には注意が必要である。

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レンズマウントは金属製で、4本のビスで固定されている。防塵防滴用のシールが施されていないので、悪天候での使用は避けたほうが良いだろう。マウントにはファームウェアアップデート用のUSB-Cポートがある。

フォーカスリング

金属製のフォーカスリングは電子制御で動作する。完璧とは言わないが、この価格帯のレンズとしては滑らかで適度なトルク感と言えるだろう。ただし、肝心の精度は若干粗い。絞ってざっくり使う分には問題ないと思うが、拡大して微調整するにはステッピングモーターのステップが細かくなく、MF操作でピント位置がジャンプしているように見える。

レンズフード

前述したように、ドーム型のレンズフードは本体と一体型になっているので取り外すことは出来ない。フード使用時は前方に少しスライドして使うことになる。このレンズは状況によって内部反射が多くなるため、少しフレアっぽいと感じたらフードを伸ばすことで改善する可能性がある。

装着例

フルサイズのZ 7に装着した。28mm F2.8に負けず劣らず小型軽量で携帯性の良いレンズだ。片手で扱うのも簡単で、APS-Cミラーレスと組み合わせてもバランスは良いはずだ。大口径なレンズではないが、抜群の携帯性は日常的にカメラを使用したい場合に強みとなる。

AF・MF

フォーカススピード

電光石火のAF速度ではないが、素早く動く被写体を至近距離で追いかけなければ十分なフォーカス速度だ。中央でも隅でも、安定感のある合焦速度で動作する。

ブリージング

ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。

スライドショーには JavaScript が必要です。

フォーカスブリージングはゼロと言えず、近距離で画角が少し広くなり、無限遠で狭くなる。0.5mの比較的長い最短撮影距離を考えると、状況によっては少し目立ちやすい。

精度

Z 7との組み合わせで良好な精度で動作する。

MF

前述したとおり、操作性は良好だが微調整には適していない。使うとしたら、絞ってパンフォーカスがおすすめだ。と言ってもAFが普通に使えるので、あえてMFにこだわるシーンは少ないと思う。

解像力チャート

撮影環境

テスト環境

  • カメラボディ:Z 7
  • 交換レンズ:TTArtisan AF 32mm F2.8
  • パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)
  • オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
  • 屋内で照明環境が一定
  • 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
  • RAW出力
  • ISO 100 固定
  • Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
    ・シャープネス オフ
    ・ノイズリダクション オフ
    ・色収差補正オフ
  • 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
    (像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック)
  • 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
  • TTArtisan AF 32mm F2.8の最短撮影距離・最大撮影倍率の関係上、恒例の定型チャートを通常よりも距離を開けて撮影している

補足

今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。

テスト結果

いつもとテスト方法が違うとはいえ、基本的には近距離の解像力チャートを撮影していることに違いは無い。そのことを考慮したうえで結果を見ると、非常に良好な解像性能を備えているように見える、中央は絞り開放から4000を超える非常に良好な結果であり、周辺部や隅も3500?4000をキープするシャープな結果が得られている。中央は絞っても改善しないが、周辺部や隅はF2.8で中央と同じくらいシャープになる。それ以降に大きな改善は見られないが、回折の影響が見られるF11?F16まで絞ってもパフォーマンスの低下はほとんどない。

Z 28mm F2.8との比較(ただし、Z 28mm F2.8は定型チャートをより大きく撮影している)を見ると、中央のパフォーマンスはよく似ているものの、周辺部や隅はより良好となっているのが分かる。TTArtisanは隅に向かってコントラストの低下が見られるものの、少なくとも解像性能はとても良好のようだ。

数値確認

中央 周辺部 四隅
F2.8 4201 3828 3613
F4.0 4156 4451 4267
F5.6 4038 4179 4218
F8.0 4067 4147 4183
F11 4067 3797 4112
F16 4038 3828 3830

実写確認

実写を確認してみると、隅まで良好な解像性能を実現しているのが分かる。

遠景解像力

テスト環境

  • 撮影日:2022年7月5日 微風 くもり
  • カメラ:Nikon Z 7
  • 三脚:Leofoto LS-365C
  • 雲台:Leofoto G4
  • 露出:絞り優先AE ISO 100
  • RAW:Lightroom Classic CCで現像
    ・シャープネスオフ
    ・そのほかは初期設定

注意

このレンズは小絞り側の絞りが甘く、設定値通りに撮影すると露出オーバーとなる傾向が見られる。個体差なのか不明だが、撮影後に露出の平準化を手動で実施している点で従来のテストと少し異なる。

テスト結果

フレームの大部分はシャープであり、F2.8から実用的な画質を実現。2万円台の手ごろな価格の広角レンズとしては大いに評価できる性能である。

中央

F2.8から非常に良好な結果となり、絞っても目に見える改善は期待できない。開放からF8まで性能のピークが続き、F11~F16で回折の影響が僅かに強くなる。細かいことを抜きにしたら絞り値全域で実用的な画質だ。

周辺

中央と比べると僅かにコントラストが低いようにも見えるが、基本的には絞り開放から実用的な画質だ。F4まで絞るとコントラストが改善し、F5.6-F8でピークの性能に達する。F11もほとんど同じ結果を期待できるが、F16のみ回折の影響で僅かに低下する。

四隅

中央や周辺部と比べるとF2.8の画質はややソフトだ。極端な画質の乱れはないが、キレのある結果を得たいのであれば絞った方が良い。F4まで絞ると全体的に改善が見られ、F5.6-F8でシャープな結果を得ることができる。小絞り時の回折は見られるが、それでも絞り開放付近よりも良好な結果だ。小型軽量な広角レンズとしては評価できる解像性能だが、倍率色収差の影響が残っているので、ハイコントラストな領域では少し補正が必要となるかもしれない。

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。

無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。

参考:Wikipedia 像面湾曲

実写で確認

遠景解像テストのついでにチェックしたところ、特に大きな問題は無さそうに見える。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

完璧な補正状態とは言えないが、小型軽量で手ごろな価格の広角レンズとしてはよく補正されている。絞り値全体でほぼ一貫した収差量となっており、自動補正で簡単に修正が可能だ。「ボケ」の項目でレビューしているが、ボケへの色付きも軽微であり、大部分のシーンで問題とは感じない。

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。

軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

後ボケに薄っすらと色づきが見られるものの、滲むようなボケで色付きが分散して目立たない。比較して硬調な前ボケにもマゼンダの色付きは少なく、全体的に良好な補正状態である。

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。

描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。

実写で確認

前後のボケ質には顕著な違いがある。後ボケは滲むように芯が溶ける滑らかな描写だ。一方で前ボケは縁取りが強く非常に硬い描写となっている。これは球面収差が完璧には補正されていないことを意味する。「32mm F2.8」というスペックで前ボケが大きくなるシチュエーションが少ないことを考えると、利用機会が多い後ボケが滑らかで綺麗な描写である点は評価できる。後ボケには僅かに色収差の痕跡が見えるものの、滲む描写で目立ちにくくなっている。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。

逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。

実写で確認

口径食・絞り

絞り開放は綺麗な円形だが、隅に向かって口径食の影響が少なからず発生している。1段絞ると改善するが、7枚の絞り羽根が閉じると角ばりやすい点に気を付ける必要がある。と言っても、このレンズは最短撮影距離が長く、「32mm F2.8」というパラメータで大きな玉ボケを得る機会は多く無いため、ボケの角ばりが気になるほど大きなボケが得られない。

内面の描写

残念ながら非球面レンズの研磨状態が良好とは言えず、同心円状のムラが少なからず発生している。お世辞にも綺麗な描写ではない。幸いにもボケが大きく無いので、同心円状のムラが目立つ機会は少ないと思われる。

色収差

絞り開放から良好な補正状態だ。軸上色収差・倍率色収差どちらの影響も目立たず、ボケの縁取りに強めの色付きは無い。

ボケ実写

至近距離

完璧とは言わないが、手ごろな価格の「32mm F2.8」としては非常に良好だ。まず第一に色収差の影響が少なく、中央・周辺部に悪目立ちする色付きが見られないこと。小型軽量な広角レンズは倍率色収差が残っていることが多く、周辺部のボケに色づきが見られる場合が多い。この点、このレンズはどちらの色収差も良好に補正している。第二に後ボケが滑らかで綺麗だ。残存する球面収差がうまく作用しているのか、中央と周辺部は芯が溶ける口当たりの良いボケ描写である。フレーム端や隅は少し非点収差のような騒がしさが見られるものの、それでも悪目立ちすることは無い。

近距離

撮影距離が長くなるとボケが少し硬く見えるようになる。コントラストが高い背景では騒がしい場合もあるかもしれないが、基本的には悪目立ちしない良好な描写だ。フレーム端や隅は口径食や非点収差のような騒がしさがみられるものの、色収差による不自然な色付きは無い。状況によって端や隅が騒がしくなる場合は1段絞ってみると良いだろう。

中距離

「32mm F2.8」であり、撮影距離が2mも離れるとボケがかなり小さくなってしまう。被写体を背景から分離するには十分なボケ量だが、状況によって背景が騒がしくなる可能性あり。特にフレーム周辺部は口径食などの影響で騒がしくなりがちだ。コントラストが強いシーンでは特に気を付けておきたい。1段絞ると改善するが、2段絞るとボケがかなり小さくなってしまう。

撮影距離

全高170cmの三脚を人物に見立て、F2.8を使って撮影した結果が以下の通りだ。

全身をフレームに入れた状態で後ボケは得られるがかなり小さく、被写体を背景から分離するには力不足と感じる。この際のボケは少し粗く、決して心地よい描写では無い。膝上、上半身まで近寄ると、十分なボケ量と滑らかな描写が得られる。ただし、それなりに接近して撮影することになるので、フラッシュなど光の当て方には気を配る必要がありそうだ。バストアップ・顔のクローズアップではさらにボケが大きくなり、心地よい描写だ。ピント面のシャープネスやコントラストも十分良好に見える。

球面収差

ボケのレビューでも指摘したように球面収差の補正状態は完璧ではない。前後のボケ質に違いがハッキリと現れている。絞ると若干のフォーカスシフトが見られるものの、ピント面が極端にズレるほどでは無い。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。

参考:Wikipedia 歪曲収差

比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。

実写で確認

 

スライドショーには JavaScript が必要です。

極僅かな樽型歪曲だ。そのままでも直線をフレーム周辺部に配置しなければ気が付くことはほぼ無い。補正が必要な場合、カメラで自動補正が適用されないのでRAW現像時に手動補正が必要となる。ただし、陣笠状の歪みを伴うので、手動のリニア補正では綺麗に修正するのが難しい。周辺部が過補正となるので、歪曲収差を補正せずにそのまま利用したほうが良さそうだ。

周辺減光

周辺減光とは?

周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。

ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。

最短撮影距離

小型軽量な広角レンズだけあって「F2.8」と言えども周辺減光はやや目だつ。ニコン「Z 28mm F2.8」ほど酷くはないものの、状況によっては現像時に手動補正が必要と感じる。絞ると多少の改善は見られるが、完全に解消することは無い。

無限遠

最短撮影距離と比べると強くなるが、極端に光量が低下するわけでは無い。影響する範囲も限定的で、やはりZ 28mm F2.8ほど広範囲で重めの光量落ちは発生しない。全体的に見て予想の範囲内に収まっている。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。

参考:Wikipedia コマ収差

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。

実写で確認

完璧ではないが、F2.8からほぼ問題ない程度に良く抑えられている。それでも気になる場合は1~2段絞ると改善する。

逆光耐性・光条

中央

このレンズの欠点を指摘するならば、間違いなく逆光耐性である。強い光源をフレームに入れると構図に関係なくフレアやゴーストが発生し、弱い光源でも何故かフレアが発生する不思議なレンズだ。このような描写を個性的と捉えて強みにすることも出来ると思うが、意図しない、制御し辛いフレアやゴーストはやはり欠点と感じる。絞っても改善する傾向は見られないので、フレアを回避するためには構図を大胆に変更するしかない。本体に内蔵しているレンズフードを伸ばしても効果は限定的だ。

光源をフレーム隅に配置すると筋状のフレアが盛大に発生する。影響はフレーム全域に及び、コントラストの低下どころか被写体を認識するのも難しくなる。絞ると改善するかと思いきや、状況がさらに悪化する。ここまでくると逆に清々しいくらいだ。何か活用方法が無いかと考えるのが楽しくなる。もちろん、おススメはできないが…。

光条

TTArtisanとしては珍しい「7枚」の絞り羽根を採用している。絞った際の光条は14本の筋状となる。光条はF8以降で徐々に筋状となり、F11~F167でシャープな描写が得られる。形状は均質で綺麗だが、先細りせずに分散するタイプだ。悪くは無いが、前述した通り逆光耐性が酷く、そもそも論として強い光源をフレームに入れるのは避けたほうが良いだろう。

まとめ

良かったところ

ココがおすすめ

  • 競合不在の32mmレンズ
  • 手ごろな価格
  • レンズフード内蔵
  • 金属製のしっかりとした外装
  • 特殊なフィルター径
  • ファームウェアアップデート対応
  • 電子接点によるAF/AE対応
  • 小型軽量
  • 一貫性のある解像性能
  • 倍率色収差が無視できる程度
  • 軸上色収差が無視できる程度
  • 滑らかな後ボケ
  • 穏やかな歪曲収差

まず特徴となるのがレンズの焦点距離だ。「32mm」と特殊な焦点距離と画角のレンズは他に無く、28mmだと広すぎて、35mmだと狭すぎる人に丁度良い画角のレンズとなる可能性がある。開放F値はF2.8と大きめだが、28mm F2.8よりも画角が狭くぼかしやすい。35mmほど画角が狭くないので、風景写真などで広い範囲をフレームに収めやすいのもメリットと感じるだろう。

価格はニコン純正品である「NIKKOR Z 28mm f/2.8」と同程度だ。同価格帯ならニコン純正を選ぶのが自然だが、32mmの焦点距離や、より良好な歪曲収差・コマ収差の補正状態に勝機を見つけることが出来る。周辺減光も比較的穏やかで、無補正のRAWでも扱いやすいのは強みと言えるだろう。

Z 28mm F2.8と比べて解像性能やボケ質に関してアドバンテージがあるわけでは無いものの、見劣りしない均質性の高い解像性能と、滑らかな後ボケが得られる。特に28mm F2.8よりもボケを得やすいので、綺麗なボケ質は強みと感じると思う。

悪かったところ

ココに注意

  • フォーカスリングの精度が粗い
  • やや目立つフォーカスブリージング
  • 非球面レンズの研磨が粗すぎる
  • フレアやゴーストの影響が強い

最も注意したいのは逆光耐性だ。影響する範囲や条件が幅広く、フレアやゴーストを抑えたい撮影では選択肢から外した方が良い。レンズフードを内蔵しているが、アテにするべきではない。さらにMFリングの精度が粗く使い辛い点や、玉ボケに非球面レンズの粗が写りやすい点にも注意が必要だ。

総合評価

満足度は90点。
個人的には「NIKKOR Z 28mm f/2.8」よりも好みのレンズだ。32mmの画角が使いやすく、安定感のある解像性能や後ボケも強みと感じる(逆光耐性は本当に注意だが)。MFリングの精度が粗いのは明らかにマイナスだが、Z 7との組み合わせで、基本的に常時AFで問題は感じない。Z 28mm F2.8を押しのけて購入を検討するレンズとはならないかもしれないが、個人的にはおススメできるレンズだ。

併せて検討したいレンズ

NIKKOR Z 28mm f/2.8

TTArtisanと比べて接写性能やMFリングの操作性、マルチフォーカスのAF速度などが優れている。解像性能は互角だが、周辺減光や歪曲収差には注意が必要である。

購入早見表

TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z
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作例

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