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IRがオリンパス「M.ZUIKO 150-400mm F4.5 IS PRO」開発者インタビュー記事を公開

IMAGING RESOURCEがオリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」関連のインタビュー記事を公開。高性能な手ぶれ補正実現の裏側や、大口径EDA実現へ道のりなどなど。

M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO

IMAGING RESOURCE:A deep look at the tech behind the Olympus 150-400mm super-tele zoom (Engineer interview!)

軽量化に力を入れていたようだが、鏡筒にはマグネシウム合金、フードにはカーボンファイバーを使用している。カーボンファイバーは従来の素材と比べてどのくらい軽量化できたのか?また、マグネシウム合金はアルミよりも軽いが、硬い素材だ。マグネシウム合金を使うことで、メカ設計に根本的な違いが出てきたのか、それとも重量を削っただけなのか。

レンズフードに必要な特性の一つとして、製品自体の重さ、加えられる外圧、手で支えたときのたわみを防ぐための剛性などが組み合わさった「壊れにくさ」がある。この観点から、強度と剛性の高いカーボンファイバーを最適な素材として選定した。

同強度・同剛性の他の素材と比較して、200g以上の軽量化を実現しており、フードを装着した状態でも非常に軽く、機動性を高めている。

マグネシウムは軽量化だけでなく、部品の薄型化や部品間の隙間を少なくすることで小型化にも貢献している。

E-M1 IIIやE-M1X装着時の8段分の手ぶれ補正効果は際立っている。これは主にジャイロ技術のさらなる向上の賜物なのか?

E-M1Xで初めて搭載した高精度ジャイロセンサー(セイコーエプソンとの共同開発)を搭載し、望遠用にアルゴリズムを最適化することで、従来製品を上回る性能を実現している。また、光学手ぶれ補正のストローク(補正範囲)を従来品よりも大きく設計し、8段分の性能を実現した。

(編集者談)オリンパスがセイコーエプソンと共同開発したE-M1Xのジャイロがそのまま使われている。ここ数年、手ぶれ補正システムの性能が向上しているのは、ジャイロ技術の進歩が大きな要因だ。性能向上の鍵は、出力信号の "ノイズ "を減らすことと、長期的なドリフトを抑えることにある。

基本的に、ジャイロをテストベンチに固定しても、その出力信号はある程度ランダムに前後へ変動し、また、ある方向または別の方向へゆっくりと回転しているかのようなドリフトを示す。ジャイロが動いていないとき、カメラにドリフトを伝えないことが重要だ。ジャイロ信号は、最長の露光時間と同じくらい長く安定した状態を維持する必要がある。セイコーエプソンは、世界有数のMEMSジャイロメーカーであり、オリンパスは彼らと協力して、これまでの技術を超える技術を開発した。

手ぶれ補正は2000年半ばに発売された超望遠ズーム「C-2100」をはじめ、オリンパスが得意としてきた技術だ。

2016年に、300mm F4 IS PROは、シンクロISで6段分の補正効果を実現するため、厳選されたジャイロセンサーを使用していた。それがE-M1Xでは、セイコーエプソンとの共同開発により、標準的な生産部品で7.5段分のISを実現している。これが絶対的な限界かと思われたが、それをさらに押し進めたようだ。これがどれだけ気だった性能かと言うと、8段分の補正効果は通常で「1/1000秒」で撮影する必要がある状況で、「1/4秒」でシャープな結果を得ることができることを意味している。(編集者談:終)

E-M1Xが発表されたとき、7.5段の手ぶれ補正効果は地球の自転によって制限されていると言われていた。それをどうやって克服したのか?

地球の自転の影響を排除することはできていないが、高精度ジャイロやアルゴリズムの最適化により、他の誤差を最小限に抑えることで高い性能を実現している。詳細な情報は提供できない。

E-M1XやE-M1 IIIと組み合わせた場合は8段分の補正効果だ。しかし、E-M1 IIやE-M5 IIIと組み合わせた場合の補正効果はどうなるのか?

公表していないが、手ぶれ補正性能はE-M1XやE-M1 Mark IIIとほぼ同等だ。

レンズ内蔵のスイッチ式テレコンバーターがとても気になる。レンズをスイッチで光路に出し入れできるようになっているのか?使わないときのテレコン用レンズはどこに行くのか?

内蔵テレコンバーターのスイッチングレバーと内蔵テレコンバーターのレンズ群は機械的に接続されている。機械的な接続は、直線的な操作性と壊れにくい信頼性を確保するために重要だ。

内蔵テレコンバーターOFF時には、内蔵テレコンバーターのレンズ群が光軸から機械的に外れた位置へ移動する(レンズマウント側から見て左下に膨らんだ外観の部分)。

製品説明会では、このレンズを作る上でのポイントの一つとして、今までよりも大きなEDレンズを使ったが挙げられている。大型のEDレンズを作る上での制約と、それをどのように克服したのか?

EDAレンズ(Extra-low Dispersion Aspherical lens)は、従来よりも大口径のレンズを使用したことで、小型化・高性能化に大きく貢献した。EDAレンズの非球面加工は、金型を使ってプレス加工を行い、ガラスが軟らかくなる高温でプレス加工を行うため、加熱・冷却のコントロールが重要になる。

また、EDAレンズに使用されているガラス素材は、通常のガラス素材に比べて熱膨張係数が2倍(熱変化による形状変化が2倍)の特殊低分散ガラスを使用している。そのため、EDAレンズは大口径になるほど、プレス加工時の温度変化(加熱→冷却工程)により割れが発生しやすくなる。

当社では、強力な加熱・徐冷(訳注:ガラスをゆっくりと冷ますこと)機能を備えた独自の成形機により、数百度の金型を±1度の範囲内で精密にコントロールし、割れの問題を解決し、高い非球面精度を確保している。

(編集者談)非球面成形の厄介な部分は、ガラスが冷えると収縮することだ。これは、いくつかのことを意味する。
まず、冷却して収縮した後、レンズの最終的な形状を正しく再現できるように金型を設計しなければならない。レンズの厚い部分はより強く収縮するので、最終的に必要とするよりもはるかに厚い金型を要する。
第二に、プレスされた後のガラスの冷却方法について、細心の注意を払わなければならないということだ。特にレンズの薄い部分は厚い部分よりも収縮が小さく、その差はレンズが大きくなればなるほどさらに大きくなる。そのため、非常に大きな非球面レンズを成形することは難しく、EDガラスを使用した場合、冷却すると2倍に縮むためさらに難しくなる。

オリンパスのソリューションは、とても正確なコントロールが可能な温度プロファイルを持つ独自の成形機を設計することだった。(編集者談:終)

他にも、このレンズの開発に貢献した主な要因があれば教えて欲しい。珍しく発表から出荷までに時間がかかっている。製造上の課題はあったのだろうか?また、それはどのようなもので、どのようにして実現したのか。

我々は、このレンズのコンセプトを「圧倒的な自由度のある望遠」と定義している。被写体にピントを合わせるための操作性の良さと、どんな過酷な条件でも撮影できる信頼性を保証している。このレンズのコンセプトに込めた思いをお客様に感じていただきたい。両方で、圧倒的な望遠撮影体験を提供できるレンズの開発を目指した。1000mm相当のF5.6のレンズを開発しながら、信じられないほどコンパクトなサイズで高画質を実現することは、我々にとって大きな挑戦だった。

光学設計について、手持ち撮影時の重心位置の最適化も課題のひとつだ。インナーズームにすることで、ズーム時の重心位置の変化を抑えている。より効果的に重心の変化を抑えるため、ズーム時に動くレンズユニットはできるだけ小さいものを選んだ。また、重心位置をできるだけボディに近づけ、より快適な手持ち撮影ができるように光学系を設計した。

メカ設計チームにとって、剛性を落とさずに小型・軽量化することが最大の課題だった。このレンズにはマグネシウム合金とカーボンファイバーが使われている。もちろん、品質や信頼性を犠牲にしていない。他のレンズで行ってきたテストよりも厳しい社内落下テストや製品寿命テストをクリアしている。

テレコンバーター内蔵の快適な操作性を実現することは、技術者にとって新たな課題だった。内蔵テレコンバーターを使うということは、まったく別のレンズを使っているのと同じことだ。そのため、カメラはレンズからの信号を読み取り、素早く設定を変更しなければならない。カメラマンに違和感を与えずにスムーズに行うことが、新たな挑戦だった。

このレンズは、最初の開発発表から販売開始までに時間がかかっている。必要な技術開発や完成度を高めるための試作検証には、長い時間が必要だった。また、光学レンズの製造工程の開発の難しさや、新しい機構部品の耐久性試験工程などにも時間がかかっている。また、試作検証のためにプロのカメラマンによるフィールドテストを何度も繰り返し、信頼性を可能な限り向上させた。

多くのカメラマンがこのレンズを必要としていることは承知しており、お待たせして申し訳ないがが、あらゆるタイプのカメラマンに魅力的なレンズを開発することができたと思っている。

(編集者談)私は、製造上の問題の原因が大口径のED非球面レンズだったのだと推測している。長年にわたる多くの工場見学で、非球面レンズ成形は常に第一の課題として描かれてきた。レンズが大型化するだけでなく、レンズの厚みのばらつきが大きい場合、そのコントロールは非常に難しいのが現状だ。
製造性と性能のバランスは常に難しいものだ。私が知っているレンズ設計の中には、単に製造が難しいという理由で、市場の需要を満たすのに十分な量を出荷しなかった例もあります。他にも、開発プロセスの段階で、十分な歩留まりで製造することができないと判断して中止された例を私は知っている。(編集者談:終)

反射防止のナノコーティングにはいろいろなアプローチがあるが、説明会で見せてもらったZコーティングの画像は、小さな球体でできているように見える珍しいものだった。これは以前のオリンパスの「ナノAR」のアプローチと実際には異なるものだなのか?Zコーティングの詳細や利点について何か詳細を教えてもらえるだろうか?

ZEROコーティングはダイクロイックコーティングという表面反射の少ないハードコートでレンズの外面に使用できるコーティングだ。Zコーティングナノはレンズ表面にナノレベルの微細な粒子を敷き詰めて表面反射率をさらに低減させ、超低屈折率素材と同じ効果を持たせたコーティングである。

おそらく他社のナノコーティングと構造や特性は似ているのではないかと考えている。しかし、Zコーティングナノは独自設計・製造方法で低反射性能と品質を確保している。

白い鏡筒は、赤外線をより効果的に反射し、鏡筒を冷たく保つための新技術を使用している。これについての詳細を教えて欲しい。下層部の赤外線反射性を高めるのは何か?このアプローチがオリンパス独自のものなのか、それとも他社も同じような2層設計を使っているのか?

赤外線反射の具体的な仕組みについて、詳しいことはお伝えできない。他社の取り組みについては不明だが、本製品は遮熱効果や強度等の信頼性の面で最適なコーティングを採用している。

直射日光が当たる部分でレンズの内部温度が局所的に(特定の部分だけ)上昇すると、その部分だけの熱膨張によりレンズ素子間の距離がわずかに変化し、球面収差が変化する可能性がある(実際には画質への影響はほとんどないと思うが)。そこで、画質への影響を最小限に抑えるため、レンズを白く塗装して表面温度の上昇を抑え、直射日光が当たる部分と陰になる部分の表面温度差が大きくならないようにしている。

寒冷地への対応についても同様だ。温度ムラが発生しないようにすることで、画質への影響を最小限に抑えている。本製品は他のPROレンズと同様に-10℃の耐低温性を有しており、雪中などの過酷な環境下でも安定した光学性能を発揮する。

新製品説明会の中でもう1つ言及されていたのが、AF速度の話の中で言及していた「レンズ間引き技術」だ。レンズの薄肉化技術とは何か、その鍵は何か。非球面レンズを作るときに、レンズ部分を非常に薄く成形できるということか?

超望遠ズームレンズが素早く静かにAFを駆動するためには、AFを司るレンズ群(以下、フォーカスレンズ群)の軽量化が必要だ。設計当初から、このレンズ群の体積を減らして軽量化する構成を考え、取り入れている。実際にフォーカスレンズ群に使用されるレンズは、高精度を確保しながら極限まで薄く磨き上げ、軽量化を実現している。

説明会では、300mmよりもAF速度が速くなるように「他のパラメータをチューニングする」ことにも言及していた。これは一体何を意味しているのか。

AFスピードで300mm PROレンズを超えるように設計した。
AFスピードを速くするためには、フォーカスレンズユニットの軽量化と移動距離の短さが重要だ。これらに関連して、AF速度を速くするために考慮しなければならないパラメータがたくさんある。例えば、レンズユニットの重量だけでなく、ストローク距離、レンズを支える部品の重量、素材の剛性、レンズユニットの移動速度、位置決め精度など。これらすべてのバランスを取る必要がある。ベストバランスを見つけるために、設計の初期段階から、担当の異なる複数のチームが緊密に連携して作業を進めた。

そこにはいくつかのトレードオフがある。フォーカスレンズユニットの移動距離を短くすると、より高精度の位置決めが求められる。要求される精度を実現するために、新たに移動機構と制御システムを開発した。
また、高い位置精度と高速AFを両立させるために、試作機でのテストを重ね、制御を細かく調整した。

具体的な撮影シーンにもよるが、モデル予想ではM.ZUIKO 300mm F4 PROレンズよりも20%速いAF速度を実現している。

対応するプロテクトフィルターが非常に高い(アメリカでは325ドル!)が、その理由は何か?ナノARコーティングが施されているのか?

このプロテクトフィルターに使用されているコーティングは、ZEROコーティングとアンチダストコーティングを組み合わせたものだ。Zコーティングナノは使用していない。

保護フィルターの大口径化は、ガラスの平面度を維持することが難しく、精度が光学性能に影響する。そこで、この95mm径の保護フィルターは、非常に高い平面度を全面的に均一に実現することが求められていた。このフィルターが150-400mm PROレンズで最高の性能を発揮できることを社内テストで確認している。

とのこと。
150-400mm F4.5 IS PROは開発発表から正式発表まで時間がかかり、正式発表後は予想を上回る注文で納期が非常に長くなっているマイクロフォーサーズ用の超望遠ズームレンズですね。フルサイズで言うところの300-800mmに相当する画角を「F4.5」の開放F値でカバーしています。スペックを考慮すると小型軽量なレンズであり、さらに内蔵テレコンで1000mmをF5.6でカバーできるのが凄い。

価格は80万円前後であり、マイクロフォーサーズ用としては飛びぬけて高価なレンズです。とは言え、大口径EDAレンズが出来るまでの過程や、考え抜かれたレンズ設計・筐体の構造などを考慮すると「お買い得とさえ感じる」とIMAGING RESOURCEのインタビュアーは最後に語っています。

生産が追い付いていないだけに(例えば、カメラのキタムラでは「予約しても2021年冬以降のお届け」と明記しています)、ネット上におけるユーザー投稿もまだ少ないのが現実です。しかし、Flickr上にはいくつかユーザー投稿が公開されはじめていますね。(中には本レンズで撮影していない投稿も混じっているので注意が必要です)その他、参考リンクをいくつか下部に掲載。

オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」交換レンズデータベース

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