このページではシグマの交換レンズ「56mm F1.4 DC DN X-mount」のレビューを掲載しています。
56mm F1.4 DC DN Xのレビュー一覧
- シグマ 56mm F1.4 DC DN X-mount 徹底レビュー 完全版
- シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.6 周辺減光・逆光編
- シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.5 諸収差編
- シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.4 ボケ編
- シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.3 解像チャート編
- シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.2 遠景解像編
- シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.1 外観・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | かなり安い | |
サイズ | とても小さい | |
重量 | とても軽い | |
操作性 | 絞り環がない | |
AF性能 | フォーカスシフト注意 | |
解像性能 | 高い均質性 | |
ボケ | 滑らかで綺麗 | |
色収差 | 良好な補正状態 | |
歪曲収差 | 補正必須 | |
コマ収差・非点収差 | まずまず良好 | |
周辺減光 | 強制的に補正 | |
逆光耐性 | とても良好 | |
満足度 | コスパ抜群 |
評価:
コスパ抜群の優等生
手ごろな価格の小型軽量なF1.4レンズながら、良好な解像性能とボケを両立し、さらに諸収差の補正状態も非常に良好だ。絞りリングが無かったり、AFは爆速と言えず、フォーカスシフトについては注意が必要だ。とは言え、これと言って致命的な欠点は見当たらない、おススメしやすい中望遠レンズに仕上がっている。
Index
まえがき
「56mm F1.4 DC DN」は2018年にソニーE、マイクロフォーサーズ用レンズとして発売されたシグマ製のAPS-Cフォーマット対応の中望遠レンズだ。その1年後にキヤノンEF-MやライカL用が登場。しかし、その後の動きは無く、(要望はあったと思うが)富士フイルムXマウント用が登場することは無かった。
そんな状況が一変したのは昨年のこと。富士フイルムが閉ざしていたXマウントの情報を開示し始め、タムロンやコシナ製のレンズがXマウントに正式対応した。シグマのXマウントレンズも期待が高まるの中、満を持して2022年に登場したのが本レンズを含めた「F1.4 DC DN Contemporary」シリーズだ。
概要 | |||
---|---|---|---|
|
|||
レンズの仕様 | |||
マウント | X | 最短撮影距離 | 0.5m |
フォーマット | APS-C | 最大撮影倍率 | 1:7.4 |
焦点距離 | 56mm | フィルター径 | 55mm |
レンズ構成 | 6群10枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F1.4 | テレコン | - |
最小絞り | F16 | コーティング | SMC |
絞り羽根 | 9枚 | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ66.5×59.8mm | 防塵防滴 | 簡易 |
重量 | 280g | AF | STM |
その他 | |||
付属品 | |||
レンズフード |
レンズ構成は6群10枚で、そのうち1枚にSLDガラスを、2枚に非球面レンズを使用している。この価格帯のAPS-C中望遠レンズとしては本格的な光学設計だ。最短撮影距離は0.5mであり、中望遠レンズとしては寄りやすい仕様となっている。サイズは56mm F1.4としてはコンパクトで、重量も軽く、携帯性の良い。
このシグマレンズと競合する製品は以下の通り。
純正56mm F1.2(APD)をはじめ、同じ焦点距離にVILTROX・TokinaのF1.4レンズが存在する。どのレンズも絞りリングを搭載しており、Xシリーズの操作体系と相性の良いデザインだ。シグマレンズは絞りこそないものの、小型軽量なレンズサイズは間違いなく強みであり、最短撮影距離の短さや静かなステッピングモーター駆動のAFも魅力的である。
価格のチェック
価格はVILTROXとTokinaの中間で、富士フイルム純正と比べると遥かに安い。買い方次第で3万円前半で購入可能であり、国産の大口径レンズとしてはコストパフォーマンスがとても良好だ。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
SIGMA GLOBAL VISIONシリーズらしい白と黒を基調としたシンプルなデザインの小さな箱。右上の「018」はエディションナンバーであり、発売された西暦の下三桁を表示。このレンズはもともとEマウント/MFTマウント用として2018年に発売したものであり、2022年に登場したXマウント用も「018」と表示されている。
レンズ本体の他に、レンズフード、説明書、保証書が付属。Artシリーズのようなレンズケースは付属していない。
外観
APS-C用の大口径レンズながら、手のひらに収まるコンパクトサイズ。Contemporaryラインながら、外装は金属パーツとプラスチックパーツを組み合わせたしっかりとした作りだ。手ごろな価格だが、安っぽさは全く感じられない。
コントロールは幅広のゴム製フォーカスリングのみ。
マウント付近の外装にはレンズ名やSIGMAのロゴの他、ピント範囲がプリントされている。
ハンズオン
全長59.8mm、重量280gと小型軽量な大口径レンズだ。カメラに装着して一日中持ち歩いたとしても、レンズの重量が苦になることは無い。価格を考慮すると質感は非常に良好。
前玉・後玉
前玉の周囲には反射を抑えた黒の塗装でレンズ名やフィルターサイズ、製造国(もちろん製造国は日本、さらに言えば会津製)が印字されている。フィルター装着時に白文字のプリントは反射で写りこみやすいので、黒のプリントはフィルターワークに配慮していると感じる。
使用するとフィルター径は55mmで、これはシグマだと一般的なサイズだが、他社では採用数が少ないフィルターサイズである。フルサイズを含めてシグマで統一するのであれば55mmでフィルターを揃えるのも一つの手だが、55mm径でフィルターワークをする機会が少ないのであれば、ステップアップリングも検討したい。
シグマらしく真鍮製レンズマウントを採用。周囲には簡易防塵防滴用のシーリングが施されている。
フォーカスリング
ゴム製フォーカスリングは適度なトルクで滑らかに回転する。ピントの移動量はカメラ(X-S10)側でリニア・ノンリニアに対応している。リニアの場合、無限遠から最短撮影距離まで4回転近くの操作が必要となり、高精度だが非常に手間がかかる。ノンリニアの場合、素早く回転することで1回転で操作可能だ。
レンズフード
プラスチック製の円形レンズフードが付属する。光沢を抑えたマットな塗装に加え、内面には切り込み加工で反射を抑えている。さらに外面はグリップを高めるためのゴムコーティングが施された立派なクオリティのフードだ。この価格帯のレンズに付属するフードとしてはトップクラスである。
装着例
X-S10に装着。バランスは良好で、F1.4大口径レンズながら長時間の撮影でも苦にならない組み合わせだと感じる。純正レンズやVILTROX・Tokinaレンズのような絞りリングを搭載していないが、X-S10の操作性であれば特に苦にならないと思われる。(シャッタースピード・ISO感度ダイヤルを搭載するXシリーズは操作性のギャップを感じるかもしれない)
レンズを組み合わせた時の外観はX-S10と相性が良く、サードパーティ製レンズと感じないほどマッチしているように見える。個人的にはVILTROXよりも好みの外観だ。
イメージサークルの確認
マウントアダプターでフルサイズミラーレスに装着した時のイメージサークルを確認した。
APS-Cサイズのイメージセンサーを十分にカバーしているのが分かる。ボケの口径食や周辺減光などで良い影響を期待できる。
AF・MF
フォーカススピード
このレンズはフォーカス駆動にステッピングモーターを採用。近距離から遠距離までのフォーカス速度は他のマウントと遜色ないように見える。お世辞にも爆速とは言えないが、F1.4のポートレートレンズとしては十分なフォーカス速度だと思う。残念ながら静止画時のフォーカスは動作が滑らかとは言えず、合焦前にフォーカスが瞬間的に止まったように引っかかる部分がある。撮影結果に問題は無いものの、少し目障りと感じる。
F1.4と最新センサー・プロセッサー・ファームウェアの組み合わせで、低照度でも良好にAFが動作する。稀にハンチングすることもあるが、静止した被写体であれば問題なくフォーカスできるはず。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。このレンズは過度な画角変化こそ無いものの、フォーカス操作で多少のフォーカスブリージングを感じるほどには残っている。
精度
X-S10最新ファームウェアとの組み合わせで良好な精度で利用可能だ。カメラ側の性能が大きく影響していると思われるが、AF-Cでの動体追従も(極端な被写体でなければ)そこそこ頑張ってくれる。
MF
前述した通り、リニア設定の場合は操作量が非常に多くて厄介と感じる。おススメはノンリニア設定だ。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:X-S10
- 交換レンズ:56mm F1.4 DC DN X-mount
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 160 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・レンズプロファイルオフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
隅に向かってパフォーマンスは低下するものの、手ごろな価格のF1.4の大口径レンズとしては良好である。絞り開放からシャープな広い範囲でシャープな結果が得られ、隅も極端な低下がない。全体的に絞っても劇的な改善は無いが、絞り開放から良好な結果の裏返しと言える。
同じような価格帯のVILTROX AF 56mm F1.4 STMと比べると、絞り開放のシャープネスやコントラストはシグマが少し良好だが僅差にとどまる。VILTROXの周辺部はF1.4で落ち気味だが、実写で驚くほどの差はない。隅の本当に端の画質はもう少し差が広がるものの、実用的な画質は同程度と言える。VILTROX AF 56mm F1.4 STMもなかなか良いレンズだ。(ただし、遠景テストではVILTROXの周辺・隅が落ち込む)
中央
数値的に大きな違いは無いが、細部を確認するとF1.4とF2・F2.8以降でコントラストの改善がハッキリと分かる。ディテールを重視するのであれば、少なくともF2までは絞ったほうが良いだろう。
周辺
周辺も中央とほぼ同じ画質を維持している。ただし、絞った際の目に見える改善はF2.8まで待つ必要がある。ピークはさらに絞った時で、出来るのであればF4~F5.6まで絞りたい。
四隅
中央や周辺と比べると少しソフトな画質であり、この領域に被写体を配置するのであれば、少なくともF2.8くらいまで絞ったほうが良いかもしれない。改善速度は遅いが、さらに絞ることで良好な結果を期待できる。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.4 | 3379 | 3099 | 2803 |
F2.0 | 3255 | 3200 | 2821 |
F2.8 | 3283 | 3338 | 2949 |
F4 | 3521 | 3221 | 3038 |
F5.6 | 3749 | 3494 | 2925 |
F8 | 3311 | 3231 | 2852 |
F11 | 3255 | 3073 | 2730 |
F16 | 2746 | 2521 | 2340 |
実写確認
画質の均質性が高まるのはF4以降で、ピーク性能はF8付近まで維持できる。F11以降は回折の影響を避けられないものの、後処理次第でF16まで実用的な画質だ。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2022-04-14
- 天候:くもり 微風
- カメラ:X-S10
- 三脚:Leofoto LS-365C(3段伸ばし)
- 雲台:Leofoto G4
- 露出:絞り優先AE ISO 160固定
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC現像
・シャープネスオフ
・レンズ補正オフ(できる限り)
テスト結果
中央
ベストとは言えないが、絞り開放から良好なシャープネス・コントラストである。競合レンズである「VILTROX AF 56mm F1.4 STM」と見比べると、シャープネス・コントラストがどちらも少し優れているように見える(大差ではない)。絞ると少し改善するが、ピント固定で撮影する場合はフォーカスシフトの影響でF2.8付近が甘くなる。この際の結果はVILTROXよりも僅かにソフトだ。低照度や高濃度NDフィルター使用時にF1.4を使ってAFする場合は気を付けたい。もちろん、F2.8の実絞りAFを利用する場合はより良好な結果を期待できる。
パフォーマンスのピークはF4~F8だ。絞り開放と比べて顕著な画質差は見られないが、ベストを尽くしたいのであれば3段ほど絞ったほうが良い。
周辺
中央とほぼ同じシャープネス・コントラストを維持している。均質性の点で言えば非常に良好だ。この点でVILTROXよりも遥かに優れている。色収差も少なく、F1.4から実用的な画質である。
絞ると徐々に改善し、やはりF4~F8でピークの解像性能が得られる。画角が少し狭くなるマイクロフォーサーズで使うとフレーム全域で非常にシャープな結果になると思う。
四隅
中央や周辺と比べると非点収差の影響が見られ、少しソフトな画質である。絞ると急速に改善し、F2.8付近で良好な結果が得られるようになる。F5.6前後まで絞ればベストな画質だ。この際はフレームの隅から隅までシャープな結果となる。VILTROXも絞れば良好となるが、絞り開放付近の画質はシグマに軍配が上がる。
全体像
全体的に見て、この価格帯のF1.4レンズとしては非常に良好な解像性能である。絞り開放から大部分が問題ないと言えるが、隅まで切れ味を求めるのであれば、F4~F8まで絞るのがおススメだ。
遠景撮影において像面湾曲の極端な影響は見られない。ただし、前述したようにフォーカスシフトの影響が発生するため、マニュアルフォーカスでの撮影時は注意が必要だ。また、高輝度の場合はAF時も少し絞って測距される場合があるので気を付けたい(F1.4設定でもフォーカスシフトが発生するF2.8で測距してしまう可能性あり)。
撮影倍率
最短撮影距離は50cm。70cmのXF56mmF1.2や60cmのVILTROX AF 56mm F1.4と比べると寄りやすく、撮影倍率も高い。接写時でも像面湾曲の影響は小さく、良好な解像性能を期待できる。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。
実写で確認
像面湾曲について、接写時でも特に顕著な問題点は見当たらない。敢えて言えば像高7割から外側でピントが遠側に移動しているように見えるが、接写時でこのような傾向が問題となるケースは少なく、遠景のテスト結果でも大きな問題は見られなかった。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。
実写で確認
上に掲載した写真はRAW Therapeeでレンズプロファイルを適用せずに現像した際の結果だ。この場合は隅に僅かな倍率色収差を確認できる。それでも実写で問題と感じるケースは非常に少なく、心配する必要は無い。Adobe Lightroomや純正現像ソフトなど、プロファイルが自動適用される場合、倍率色収差は強制的に補正され、目視で確認する機会はない。以下は通常の現像方法でテストした結果である。(Adobe Lightroomで補正のチェックボックスを外した状態)
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。
軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。
実写で確認
完璧な補正状態では無く、F1.4でピント面前後に僅かな色付きを確認できる。とは言え、F1.4の手ごろな価格のレンズと考えると、非常に良好な補正状態だ。実写でも絞り開放を安心して使うことができ、パープルフリンジやボケの色付きを心配する必要は無い。この点でVILTROXやTokinaなど競合レンズよりも遥かに優れている。
余談として、F1.4でピントを固定した状態で絞りとを閉じるとピントの山が遠側へ移動する(フォーカスシフト)。この影響はF1.4からF2に絞った際に顕著で、それ以降に大きなフォーカスシフトは見られない。絞り開放で測距後にピントを固定して絞り操作する場合には注意が必要だ。
球面収差
点光源に対して前後のボケを撮影した結果が以下の通りである。
前後のボケを見比べた際、極端な描写の違いや輝度差は見られない。基本的に良好な補正状態に見える。しかし、よく見ると後ボケは中央から周辺に向かって少し輝度が低下しているように見える。この結果が前後のボケ質の違いに現れているのかもしれない。
玉ボケの表面を見てみると、僅かに同心円状のムラを確認することができるが、非球面レンズを使用した光学系のボケとしては良好に見える。ただし、非球面レンズを使用していない滑らかな玉ボケの描写(VILTROX・Tokina)と比べると、(特にコントラストが高い状況では)わずかに騒がしいと感じるかもしれない。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。
実写で確認
微ボケから大ボケにかけて、後ボケが比較的柔らかい描写となり、反対に前ボケが少し硬い描写だ。これは球面収差が完璧な補正状態では無いことを示している。球面収差で後ボケを綺麗に描写するため意図的に残しているのか、それともContemporaryラインだからなのかは不明。どちらにせよ、後ボケは非常に良好である。
前ボケは場合によって少し騒がしくなると思うが、軸上色収差の影響が少ないので悪目立ちする機会は少ない。絞り開放から安心して使うことができるボケである。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。
実写で確認
F1.4の大口径レンズらしく口径食の影響は免れない。とは言え、コンパクトなレンズサイズを考慮すると口径食は小さく、少なくとも玉ボケが大きくなるようなシーンで心配する必要は無い。さらにF2まで絞ると大部分の領域で玉ボケが円形となる。もしも周辺のボケが騒がしいと感じたらF2まで絞ってみると良いだろう。非球面レンズを2枚使用しているが、玉ボケの表面は滑らかで綺麗だ。玉ねぎボケの兆候は見られず、軸上色収差などによる縁取りも目立たない。
9枚の円形絞りだが、F2.8まで絞ると僅かに絞り羽根の形状が現れ始める。ただし、さらに絞っても角ばることは無い。絞っても玉ボケの表面は綺麗な描写を維持し続けているように見える。
ボケ実写
撮影距離1
至近距離の撮影では背景のボケが大きくなり、輪郭が残らないほど滑らかに溶ける文句ナシのボケだ。前述したように前ボケが僅かに騒がしく見えるが問題とは感じない。さらに1段絞ると前ボケの騒がしさも収束する。
F2.8まで絞るとピント面のコントラストがワンランク向上しているように見えるが、同時にボケが騒がしくなる予兆を見せている。撮影距離と背景のコントラストによっては少し騒がしくなるかもしれない。F4以降の同じ傾向だ。
撮影距離2
被写体との撮影距離が長くなってもボケが大きいうちは同様の描写が続く。やはりF2.8まで絞るとコントラストが強くなるように見え、騒がしくなる。柔らかい描写が好みであればF1.4~F2の間を積極的に使うようにしたい。
撮影距離3
撮影距離が長く、ボケが小さくなったとしても、F1.4~F2を使えば背景は柔らかく、そして溶けるようにボケている。価格を考慮すると解像性能とボケ質のバランスは非常に優秀と感じる。
撮影距離ごとの比較
全高170cmの三脚を人物に見立てて、全身ポートレートの撮影距離から顔のクローズアップの撮影距離までをF1.4で撮影した結果が以下の通りだ。
フレームに全身を入れる様な撮影距離でも背景は滑らかにボケている。軸上色収差の影響も少なめだ。ピント面のコントラストも程よく維持されており、VILTROXやTokinaの56mm F1.4よりもしっかりと写る。撮影距離によって描写の変動が少なく、面白味は無いが、かなり使いやすい。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。
比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。
実写で確認
未補正の場合、目立つ糸巻き型歪曲が残っていることが分かる。このままでは直線的な被写体をフレームに入れた際に目障りとなるが、カメラ内現像や純正の現像ソフト、Adobe Lightroomなどで専用のプロファイルを使用して適切に補正することが可能だ。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
補正無しのRAW
収差の自動補正と同じく、RAWに組み込まれたレンズプロファイルにより、Lightroomなどの現像ソフトで処理すると周辺減光が自動的に補正される。この自動処理を回避するためにRAW Therapeeを使用した現像したのが上の作例だ。ピント位置に関わらず、F1.4では影響の強い周辺減光が発生している。
最短撮影距離
Adobe Lightroom Classic CCで現像すると、以下のように絞り開放から周辺減光が少ない結果を得ることができる。これは自動補正が適用されているからであり、Lightroomでこの補正を外すことは出来ない。自動的に補正してくれるので便利だが、周辺減光が役に立つシーンもあるし、高ISO感度使用時はわずかな増感によりノイズ増の原因となる。
無限遠
最短撮影距離と同じく、自動補正が適用され、絞り開放から何の問題もなく使用可能だ。高ISO感度使用時は周辺部が若干ノイジーとなる可能性があるので気を付けたい。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。
実写で確認
絞り開放付近の隅を確認すると、わずかにコマ収差の影響が残っていることが分かる。これを改善するには2~3段絞る必要がある。ただし、コマ収差の影響はごく限られたエリアの限られた収差量となっているので、全体像で見ると絞り開放から実用的な画質を実現している。隅まで点を点として完璧に撮影したい場合はF5.6~F8まで絞る必要がある。
逆光耐性・光条
光源中央
絞り開放はフレア・コントラストを良く抑えた良好な逆光耐性である。光源周辺のフレアはセンサー面の反射なので回避するのが難しい。絞ると隠れていたゴーストが目立ち始めるが大きな問題とはならない。
光源隅
光源を隅に配置した場合、絞り値全域で良好な逆光耐性だ。フレア・ゴーストともに良く抑えられている。
光条
F5.6付近から光条が徐々にシャープとなり、F11~F16でピークとなる切れ味の良いシャープな光条へと変化する。とても良好な光条に見え、これと言って欠点は見当たらない。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 手ごろな価格設定
- しっかりとしたレンズの作り
- 簡易防滴
- 小型軽量
- 滑らかなフォーカスリング
- 静かで程よく速いAF
- 適度なフォーカスブリージング
- 絞り開放から広い範囲で良好な解像性能
- 競合他社よりも良好な接写性能
- 像面湾曲の目立つ影響なし
- 穏やかな倍率色収差
- F1.4としては良好な軸上色収差
- 滑らかな後ボケ
- 穏やかな口径食
- 穏やかなコマ収差
- 良好な逆光耐性
光学性能に関して言えば、(デジタル補正を加味すると)特にこれと言った欠点がない優れたレンズである。撮影距離に関わらず、フレーム全域で安定感のある結果をえることができる。絞ってもレンズの描写に大きな変化がないので扱いやすい。敢えて言えば絞り開放付近でコントラストが少し低いものの、極端な変化は見られない。敢えて言えば、ふんわりやわらかい描写を楽しむには程よいコントラストの低下だ。
4万円前後の価格設定を考慮すると、コストパフォーマンスは抜群で、同価格帯のVILTROXやTokinaと比べておススメやすくなっている。
悪かったところ
ココに注意
- 絞りリングがない
- AF/MFスイッチがない
- 絞っても隅は大きく改善しない
- フォーカスシフトが目立つ
- 強制的に補正される周辺減光と歪曲収差
光学性能に関して批判すべき点はほとんど無い。周辺減光や歪曲収差はミラーレス用レンズらしく自動的に補正されるので心配する必要は無いだろう。ただ、富士フイルムのコマンドダイヤルは使い辛いモデルが多く(押し込みボタン内蔵)、日ごろから絞りリングを常用している人にとっては受け入れがたいレンズデザインかもしれない。私はX-S10と組み合わせているので不満は無いが、X-E4などグリップ性の悪いカメラでは操作し辛いかもしれない。
そして気を付けたいのがフォーカスシフトやAFの精度だ。フォーカスシフトが影響する撮影シーンは限られていると思うが、絞り開放でピントを固定しなければならない状況では少し厄介な問題となる。また、これはカメラ側の問題もあると思うが、遠景撮影時にピントの山を外すことがしばしばあった。「ここぞ」と言うときには撮影結果をしっかりと確認しておきたい。
総合評価
満足度は95点。
AF精度・フォーカスシフトが少し気になるものの、全体的に見てコストパフォーマンスの高いレンズに仕上がっている。良好な光学性能ながら、富士フイルム「XF56mmF1.2 R」の半値以下で手に入り、「XF50mm F2 R WR」と比べても安い。突き抜けた官能描写とは感じないが、程よく柔らかい絞り開放の描写を気に入る人は多いと思う。特にこれと言った癖が無く、初めの大口径レンズ(ボケが大きなレンズ)に適している。絞りリングや完全な防塵防滴仕様ではない点が気にならなければおススメしやすいレンズだ。
同価格帯の「VILTROX AF 56mm F1.4 STM」や光学系が同じと言われている「atx-m 56mm F1.4」はどうか?比較してシグマよりも絞り開放の周辺解像性能が悪く、撮影距離が離れた際のボケが騒がしくみえる。軸上色収差も目立つので、シグマと比べると「ハマる」シチュエーションが限られてくる。それに逆光耐性もお世辞にも良いとは言えず、状況によってはフレアでコントラストが大幅に低下することがある。ただし、それらを加味しても個性的でふんわりとした結果が得られることがあるのはVILTROXだ。被写体やタイミングによって当たり外れが大きいと感じる。さらに、ハイクオリティな金属鏡筒や金属製レンズフードは高級感があり、絞りリングまで搭載しているので所有欲を満たしやすい。
購入早見表
作例
オリジナルデータはFlickrにて公開。
関連レンズ
- XF50mmF1.0 R WR
- XF50mm F2 R WR
- XF56mmF1.2 R
- XF56mmF1.2 R APD
- atx-m 56mm F1.4
- 50mm F1.2 AS UMC CS
- TTartisan 50mm f/1.2
- KAMLAN 50mm F1.1 II?
- VILTROX AF 56mm F1.4 STM