このページではニコン「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」のレビューを掲載しています。
NIKKOR Z 85mm f/1.8 Sのレビュー一覧
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー完全版
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー Vol.6 周辺減光・逆光編
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー Vol.5 ボケ編
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー Vol.4 諸収差編
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー Vol.3 遠景解像編
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー Vol.2 解像チャート編
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S レンズレビュー Vol.1 外観・操作・AF編
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 85mm F1.8としては高級 | |
サイズ | やや長い | |
重量 | やや重たい | |
操作性 | 機能リングやFnボタンなし | |
AF性能 | 必要十分 ブリージングが目立つ | |
解像性能 | 撮影距離に関わらず良好 開放が適度に緩い | |
ボケ | 撮影距離に関わらず滑らかで綺麗 口径食あり | |
色収差 | とても良好な補正状態 | |
歪曲収差 | とても良好な補正状態 | |
コマ収差・非点収差 | とても良好な補正状態 | |
周辺減光 | 無限遠で適度な影響 | |
逆光耐性 | このクラスではとても良好 | |
満足度 | 高価だが最上の選択肢 |
評価:
高価だが最上の選択肢
オールラウンドに使うことができる85mm F1.8。
機能性を除けば高いだけのことはあるレンズ。もしも「F1.4」が必要なくて、これ以上迷いたくない85mmを探しているのであればおススメの一本。光学性能にこれと言った欠点が無く、ボケ質や逆光耐性なども良好。最近は安価な中国レンズメーカーも健闘するようになってきましたが、「純正品は格が違う」という印象。特に接写時の解像性能や撮影距離が長い場合の後ボケに強い。強くおススメできるレンズ。
If you don't need an F1.4 and are looking for an 85mm that won't leave you wondering any more, this is a lens that I can recommend. It has no particular drawbacks in terms of optical performance, and its bokeh quality and resistance to backlighting are also good. Recently, cheap Chinese lens manufacturers have also started to do well, but I get the impression that “genuine products are in a different class”. It is particularly strong in terms of resolution performance when shooting close-ups and in terms of background blur when shooting at long distances. A lens that we can strongly recommend.
Index
NIKKOR Z 85mm f/1.8 Sのおさらい
NIKKOR Zレンズの中では比較的早い時期に登場したS-Line単焦点レンズ。先立って登場した「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」に加わる新しいF1.8 S-Lineで、単焦点レンズとしては定番の焦点距離となる「三種の神器」が完成。販売価格はF1.8としてはやや高めながら「S-Line」らしい高い光学性能と堅牢さを特徴としています。
発売日 | 2019年 9月 5日 |
初値 | ¥92,846 |
レンズマウント | ニコン Zマウント |
対応センサー | フルサイズ |
焦点距離 | 85mm |
レンズ構成 | 8群12枚 EDレンズ2 枚 |
開放絞り | f/1.8 |
最小絞り | f/16 |
絞り羽根 | 9枚(円形絞り) |
最短撮影距離 | 0.8m |
最大撮影倍率 | 約 0.12倍 |
フィルター径 | 67mm(P=0.75mm) |
手振れ補正 | - |
テレコン | - |
コーティング | ナノクリスタルコート |
サイズ | φ 75mm × 99mm |
重量 | 約470g |
防塵防滴 | 対応 |
AF | STM |
絞りリング | - |
その他のコントロール | コントロールリング |
付属品 | レンズキャップ67mm LC-67B 裏ぶた LF-N1 バヨネットフード HB-91 レンズケース CL-C1 |
8群12枚のレンズ構成中には2枚のEDガラスを使用。一眼レフ時代の「AF-S NIKKOR 85mm f/1.8G」よりも力の入った光学設計となっています。MTFのピーク値が非常に高く、フレームの広い範囲で性能を維持しているのが特徴的。
価格のチェック
売り出し価格は9万円台で、現在は物価上昇の影響もあり10万円前後で推移。50mm F1.8Gの売り出し価格が5万円だったことを考慮すると倍近い値上がりとなっています。それだけのパフォーマンスを備えていると思いますが、手頃な価格の中望遠レンズを探している人にとって手を出しづらい値札であることは確か。
レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
NIKKOR Zらしい、黒と黄色を基調としたデザインの箱。2018年のZシステム始動時から変化はありません。85mm単焦点レンズとしては箱のサイズが少し大きめ。50mm F1.8 S-Lineと同程度。
レンズ本体のほかに、レンズフードとポーチ、通常のつまみ式キャップ、説明書・保証書が付属します。
外観
NIKKOR Z レンズとしては古い世代のレンズデザイン。「NIKKOR」「S-Line」のロゴはまとめて側面に配置され、レンズ上部には焦点距離とF値のみ掲載。独立したコントロールリングは存在せず、驚くほど幅広いフォーカスリングが鏡筒の大部分を占めています。
鏡筒の素材はフォーカスリングの前後にプラスチックパーツを使用、フォーカスリングやマウント付近には金属パーツを使用しています。質感は悪くなく、幅広いフォーカスリングの存在で「頑丈な金属鏡筒」のような印象を受けます。
一見するとシンプルでモダンな外観にも見えますが、「土管」とも揶揄されているデザイン。幅広いフォーカスリングは使いやすいものの、全体的に見ると野暮ったい見た目。
何が原因でそう見えるのか?
一つの原因は「くびれ」が無いこと。85mm F1.8と言えば大口径で直径が大きく、レンズマウントに対して先端が大きくなる傾向があります。しかし、Zマウントは直径が大きく、レンズ先端に向かってサイズを大きくする必要がありません。結果的にずん胴のような見た目となってしまったのかなと。敢えてフォーカスリングに凹凸をつけても良かったのでは?と思うところ。
焦点距離やF値の表示のみ加工され、その他の表示はプリントでレンズ下部に記載。製造国は中国。
ハンズオン
サイズ | φ 75mm × 99mm |
重量 | 約470g |
一般的な85mm F1.8と比べると全長が長く、やや重たい。レンズ構成枚数が多く、防塵防滴のプロ仕様と考えると妥協できる範囲内。驚くほどの重さではありません。
前玉・後玉
85mm F1.8らしい大きな前玉で、このクラスでは一般的な67mm径の円形フィルターに対応しています。前玉がフッ素コーティング処理されている記載がないため、水滴など汚れが付着しやすい環境ではプロテクトフィルターを装着したほうが事後のメンテナンスが楽。
金属製レンズマウントは4本のビスで本体に固定。マウント周辺に防塵防滴用のシーリングあり。後玉はマウントから少し奥に配置、周辺は不要は反射を抑えるために黒塗りされています。
フォーカスリング
金属製の幅広いフォーカスリングを搭載。滑らかに回転しますが、期待よりも少し緩め。応答性は機種によって変更でき、リニアレスポンスで操作角度の調整が可能。変更できない機種はノンリニアレスポンスで、リング回転速度に応じで90-360度くらいのストロークで操作可能。
ここまで幅の広いフォーカスリングは冗長と感じますが、厚手のグローブを装着しても握りやすいのは確か。他のコントロールが無いので誤操作の心配もありません。ただ、個人的には独立したコントロールリングやFnボタンを配置してほしかったところ。
スイッチ類
左側面にはA/Mスイッチのみ搭載。
前述したようにFnボタンなどはありません。
レンズフード
円筒形のレンズフードが付属。機能性のないシンプルなデザインで、野暮ったい鏡筒のデザインをさらに強調する結果となっています。フードを逆さ付けにした状態でもフォーカスリングを操作できるほど幅広いのは、このデザインで唯一の救い。
装着例
Z 8 に装着。レンズの見た目はともかく、バランスは良好。ボディが大きいので特に問題はありません。ただし、比較的コンパクトなZ 7 / Z 6 やAPS-Cに装着する際は少し大きめと感じるかも。ボディがそもそも大きく、レンズの全長は長いため、収納性が良いとは言えません。
レンズとグリップの間には余裕があり、前面Fnボタンは操作しやすい。幅広いフォーカスリングに触れてしまいそうですが、マウント付近でに僅かな「くびれ」があるので、ここに指をひっかけておくことが可能。
AF・MF
フォーカススピード
ステッピングモーター駆動のマルチフォーカス方式を採用。
リニアモーターを使った電光石火のAFと比肩する性能ではないものの、このレンズを必要とする撮影には十分な速度。近距離の動体撮影で使う場合は力不足と感じるかもしれません。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指します。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となります。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離・無限遠で撮影した結果が以下の通り。
公式では「フォーカスブリージングを抑制」とありますが、少なくとも最短撮影距離と無限遠では画角に大きな違いがあります。
精度
Z 8との組み合わせで大きな問題はありませんでした。
MF
前述したように、フォーカスリングは少し緩めで滑らかに回転。
機種によっては応答性を調整できるため、好みの操作性で利用することが可能。
撮影倍率
最短撮影距離 | 0.8m |
最大撮影倍率 | 約 0.12倍 |
一眼レフ時代と同程度の数値であり、大きな変化はありません。他社の85mm F1.8も同程度であることが多く、一般的な仕様。キヤノンRF85mm F2のようなハーフマクロには非対応。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:Z 8
- 交換レンズ:NIKKOR Z 85mm f/1.8 S
- パール光学工業株式会社
「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」 - オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・レンズプロファイル オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
収差が変動しやすい近距離でもフレーム全域でF1.8から良好な結果。安価な社外製AF 85mm F1.8が苦手とする領域であり、特に周辺や隅のパフォーマンスはNIKKORが圧倒的。絞っても大幅な改善はありませんが、F1.8から実用的な良像をフレーム全域で得ることが出来ます。
中央
遠景と比べると収差が若干目立つものの、それでもF1.8からシャープでコントラストの高い結果が得られます。少なくとも4500万画素のZ 8では絞っても大きな改善はありません。
周辺
中央とほぼ同じ結果。全く見劣りしない画質であり、部分的に切り取った画像を見比べても中央なのか周辺なのか判断が付かないほど。やはり絞っても改善が見られないほど、F1.8からシャープ。
四隅
驚いたことに、隅もほとんど落ち込みがありません。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F1.8 | 4063 | 4008 | 3474 |
F2 | 3865 | 3694 | 3744 |
F2.8 | 4361 | 4302 | 3725 |
F4 | 4322 | 4227 | 3847 |
F5.6 | 4362 | 4073 | 3482 |
F8 | 4576 | 3790 | 3501 |
F11 | 4184 | 3623 | 3167 |
F16 | 3369 | 3225 | 3058 |
実写確認
競合製品の比較
Zマウントで利用できる社外製の中望遠レンズと比較。(テストモデルがソニー機 6100万画素のため参考までに)
どの製品も遠景では良好な結果が得られていますが、近距離では絞り開放の中央解像が低下したり、周辺や隅の性能が大幅に低下しています。近距離で安定した結果が得られるのはNIKKORのみ。もしも、撮影距離が短いシーンが多く、開放でシャープな結果を得たい場合はNIKKORを強くおススメします。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2024.8.23 無風
- カメラ:Z 8
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:SUNWAYFOTO GH-PRO II
- 露出:ISO 100 絞り優先AE
- RAW:Adobe Lightroom Classic CC 現像
・シャープネスオフ
・ノイズリダクションオフ
・レンズ補正オフ
テスト結果
近距離の解像性能テストと同じく、遠景でも非常に良好、隅まで安定した結果。
これと言って指摘するポイントがなく、書くことがありません。
中央
よく見るとF1.8-2.0は細部が若干ソフト。気にならない程度ですが、Z MC 105mm F2.8 VR S ほど分かりやすい切れ味ではありません。残存する球面収差と思われる僅かなハロがあります。ポートレートレンズと考えると、絶妙なさじ加減。ただし、F2.8まで絞ると状況は一変し、細部までシャープでコントラストの高い結果。
周辺
非常にシャープで良好なコントラスト。それ以外に言いようがありません。
四隅
周辺減光の影響はあるもののF1.8から良好な結果。中央や周辺と比べると若干の性能低下が見られるものの、それでも4500万画素の大幅なクロップとしては非常に良好な結果。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指しています。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の可能性あり。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合があります。と言っても、近距離でフラット平面の被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要はありません。
ただし、無限遠でも影響がある場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がありません。
実写で確認
無限遠側ではF1.8から目立つ像面湾曲はありません。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレームの周辺部から隅に現れる色ずれ。軸上色収差と異なり、絞りによる改善効果が小さいので、光学設計の段階で補正する必要があります。ただし、カメラ本体に内蔵された画像処理エンジンを使用して、色収差をデジタル補正することが可能。これにより、光学的な補正だけでは難しい色収差の補正が可能で、最近では色収差補正の優先度を下げ、他の収差を重点的に補正するレンズも登場しています。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向あり。
実写で確認
Adobe Lightroom Classic CCでRAWの倍率色収差に補正が適用されていないか確認することは出来ません。少なくともレンズ補正をオフの状態で確認してみたところ、絞り全域で大きな問題はありませんでした。補正時に現れるコントラストの低下もないため、光学的に良好な補正状態だと思われます。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれ。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられます。F1.4やF1.8のような大口径レンズで発生しやすく、そのような場合は絞りを閉じて改善する必要があります。現像ソフトによる補正は可能ですが、倍率色収差と比べると処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えておきたいところ。ただし、大口径レンズで軸上色収差を抑える場合は製品価格が高くなる傾向があります。軸上色収差を完璧に補正しているレンズは絞り開放からピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できます。
実写で確認
完璧では無いものの、F1.8からほとんど目立たない程度に抑えられています。高輝度の領域では状況によって目につくかもしれませんが、それでも軽微な問題と感じるはず。
軸上宇色収差以外の問題点として、F1.8から絞り込んだ際にピントの山が遠側へ移動していることが分かります。これは球面収差の影響ですが、ニコンZシステムはF5.6まで実絞り測距(絞った状態でAF)を導入しているため、基本的にフォーカスシフトの影響は心配せずとも良いでしょう。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうこと。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすく、魚眼効果のような「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
比較的補正が簡単な収差ですが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となります。
実写で確認
直線的な被写体をフレーム端に配置しても歪みの影響は目立ちません。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないこと。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要あり。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる場合もあります。
実写で確認
フレーム隅で極わずかな影響のみ。特に心配する必要はありません。
球面収差
前後のボケ質にほとんど変化がありません。良好な補正状態を実現しています。ただし、軸上色収差のテストから、近距離時はフォーカスシフトの影響がいくらか発生するようです。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくない(もしくは個性的な描写)と定義しています。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人もいることでしょう。参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルが以下のとおり。描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によるもの、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向があります。
後ボケ
ニュートラルなボケ質ですが、縁取りが弱く、少し柔らかい印象。
前ボケ
後ボケと比べると僅かにボケの縁取りが硬いように見えます。並べて見ないと分からない程度。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまいます。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法がありません。しかし、絞るとボケが小さくなったり、絞り羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じて口径食を妥協する必要あり。
口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが可能。できれば口径食の小さいレンズが好ましいものの、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要があります。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認
口径食の影響は強いものの、玉ボケは綺麗。悪目立ちするボケの縁取りや色づきは無く、内側も滑らか。
F4までしっぼるうと口径食の影響が無くなります。ただし、絞り羽根の影響で僅かに角ばった描写となる。
ボケ実写
至近距離
ポートレートレンズと考えると少し硬めの描写ですが、接写時はボケが大きく問題ありません。近距離でもピント面のコントラストは高く、シャープな描写で被写体が浮き上がっています。
近距離
ボケが少し小さくなる撮影距離でも同じ傾向。質感の変動は少なめですが、口径食の影響が目立ち始めます。
中距離
さらにボケが小さくなると、小トラストが高い背景では少し騒がしい。ボケ質は綺麗なので悪目立ちする要素は良く抑えられています。
ポートレート
全高170cmの三脚を人物に見立て、絞り開放(F2.8)で距離を変えながら撮影した結果が以下の通り。
全身をフレームに入れるような撮影距離でも後ボケは綺麗。騒がし要素はほとんど無く、むしろ柔らかく滑らか。フレーム周辺部まで良好な画質を維持しています。比較的安価なレンズと差が出るポイントであり、このレンズの描写は流石のS-Lineと言ったところ。
周辺減光
周辺減光とは?
フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ち。
中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となります。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景や星空の撮影などで高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
過度ではない、F1.8らしい、ある程度の減光効果があります。F2.8まで絞るとほぼ解消。
無限遠
近距離と比べると強めの減光が発生します。それでも絞れば急速に改善します。
逆光耐性・光条
中央
完璧ではないものの、フレアやゴーストはとても良好に抑えられています。このようなポートレートレンズとしては非常に良好で、逆光に強いNIKKOR Zの印象をさらに強化するもの。
隅
光源がフレーム隅に移動すると、全く問題ありません。
光条
F5.6からシャープな光条で、F11くらいまで絞ると明瞭で先細りする光条となります。非常に綺麗。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- しっかりとした作り
- 防塵防滴
- 至近距離の解像性能
- 遠景の解像性能
- 倍率色収差が皆無
- 軸上色収差が僅か
- 歪曲収差が穏やか
- コマ収差がほぼ皆無
- 撮影距離に関わらず滑らかなボケ質
- 逆光耐性
- 光条の描写
S-Lineらしい光学性能が得られる優れた中望遠レンズ。撮影距離に関わらず、良好な解像性能とボケが得られます。どちらかと言えばボケを重視したレンズで、絞り開放の解像性能は硬すぎない程度に緩くなっています。ポートレートに使うことが多い焦点距離と考えると上手いさじ加減だと思います。
もちろん絞れば緩さが無くなり、自然風景などで隅までシャープな結果を得ることが可能。F1.8の絞り開放も諸収差が良く抑えられているため、都市風景や夜景に使える性能となっています。
悪かったところ
ココに注意
- 85mm F1.8としては高価
- 野暮ったい外観
- コントロールが少ない
- フォーカスブリージングが目立つ
- 一般的な最短撮影距離
- 近距離でわずかなフォーカスシフト
挙げるべき光学的な欠点はほとんど無く、S-Lineらしい優れた光学性能です。敢えて言えば、現在の基準としてはコントロールが少なく、幅広いフォーカスリングが鏡筒の大部分を占める野暮ったいデザインがマイナスポイント。価格設定も考慮すると、せめてL-Fnボタンやコントロールリングを追加してほしかった。
結論
オールラウンドに使うことができる85mm F1.8。
機能性を除けば高いだけのことはあるレンズ。もしも「F1.4」が必要なくて、これ以上迷いたくない85mmを探しているのであればおススメの一本。光学性能にこれと言った欠点が無く、ボケ質や逆光耐性なども良好。最近は安価な中国レンズメーカーも健闘するようになってきましたが、「純正品は格が違う」という印象。特に接写時の解像性能や撮影距離が長い場合の後ボケに強い。強くおススメできるレンズ。
購入を悩んでいる人
NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
使用経験が無いのでノーコメント。価格とサイズが大幅に異なるので、併せて検討する人は少ないはず。もしもF1.2が気になるのであれば、F1.2を購入しなければ気は晴れないと思います。
7Artisans AF 85mm F1.8
Zマウントでも利用できる手頃な価格の中望遠レンズ。純正の半値で入手することができ、光学性能はNIKKOR Z比で70-80%と言ったところ。NIKKOR Z 比で主な弱点は接写時の解像性能と逆光耐性。ただし、ポートレートレンズとしては十分に役目を果たすことが出来る製品。NIKKORにはない絞りリングやFnボタンを搭載。
TTArtisan AF 75mm F2
NIKKORの半値以下で入手可能。手頃な価格に加え、サイズがコンパクトで携帯性・収納性に優れています。焦点距離は75mmとやや短め。光学性能は7Artisansとよく似ていますが、後ボケが少し硬め(綺麗ではある)。
購入早見表
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作例
関連レンズ
- NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
- TTArtisan AF 75mm F2
- 7Artisans AF 85mm F1.8
- VILTROX PFU RBMH 85mm F1.8
- YN85mm F1.8S DF DSM
- AstrHori AF 85mm F1.8