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銘匠光学 TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z 徹底レビュー Vol.4 ボケ編

銘匠光学「TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z」のレビュー第四弾を公開。今回は前後のボケ質差や玉ボケの形状と絞り羽根の影響、撮影距離を変化した場合のボケ質などをチェックしています。

このレンズについて

今回は発売前に焦点工房よりお借りしたレンズを使用してテストしています。今回のレビューにあたり、同社から金銭の授受はなく、レビュー内容に関する指示・規制も無し。ちなみに「レビューして欲しい」と言った話もなく、「使ってみる?」のみであることを先に明言しておきます。

TTArtisan AF 32mm f/2.8 Zのレビュー一覧

前後ボケ

綺麗なボケ・騒がしいボケとは?

ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。

描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滑らかなボケ描写を実現しているレンズも存在する。

実写で確認

前後のボケ質には顕著な違いがある。後ボケは滲むように芯が溶ける滑らかな描写だ。一方で前ボケは縁取りが強く非常に硬い描写となっている。これは球面収差が完璧には補正されていないことを意味する。「32mm F2.8」というスペックで前ボケが大きくなるシチュエーションが少ないことを考えると、利用機会が多い後ボケが滑らかで綺麗な描写である点は評価できる。後ボケには僅かに色収差の痕跡が見えるものの、滲む描写で目立ちにくくなっている。

玉ボケ

口径食・球面収差の影響

ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。

逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。

球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。

実写で確認

口径食・絞り

絞り開放は綺麗な円形だが、隅に向かって口径食の影響が少なからず発生している。1段絞ると改善するが、7枚の絞り羽根が閉じると角ばりやすい点に気を付ける必要がある。と言っても、このレンズは最短撮影距離が長く、「32mm F2.8」というパラメータで大きな玉ボケを得る機会は多く無いため、ボケの角ばりが気になるほど大きなボケが得られない。

内面の描写

残念ながら非球面レンズの研磨状態が良好とは言えず、同心円状のムラが少なからず発生している。お世辞にも綺麗な描写ではない。幸いにもボケが大きく無いので、同心円状のムラが目立つ機会は少ないと思われる。

色収差

絞り開放から良好な補正状態だ。軸上色収差・倍率色収差どちらの影響も目立たず、ボケの縁取りに強めの色付きは無い。

ボケ実写

至近距離

完璧とは言わないが、手ごろな価格の「32mm F2.8」としては非常に良好だ。まず第一に色収差の影響が少なく、中央・周辺部に悪目立ちする色付きが見られないこと。小型軽量な広角レンズは倍率色収差が残っていることが多く、周辺部のボケに色づきが見られる場合が多い。この点、このレンズはどちらの色収差も良好に補正している。第二に後ボケが滑らかで綺麗だ。残存する球面収差がうまく作用しているのか、中央と周辺部は芯が溶ける口当たりの良いボケ描写である。フレーム端や隅は少し非点収差のような騒がしさが見られるものの、それでも悪目立ちすることは無い。

近距離

撮影距離が長くなるとボケが少し硬く見えるようになる。コントラストが高い背景では騒がしい場合もあるかもしれないが、基本的には悪目立ちしない良好な描写だ。フレーム端や隅は口径食や非点収差のような騒がしさがみられるものの、色収差による不自然な色付きは無い。状況によって端や隅が騒がしくなる場合は1段絞ってみると良いだろう。

中距離

「32mm F2.8」であり、撮影距離が2mも離れるとボケがかなり小さくなってしまう。被写体を背景から分離するには十分なボケ量だが、状況によって背景が騒がしくなる可能性あり。特にフレーム周辺部は口径食などの影響で騒がしくなりがちだ。コントラストが強いシーンでは特に気を付けておきたい。1段絞ると改善するが、2段絞るとボケがかなり小さくなってしまう。

撮影距離

全高170cmの三脚を人物に見立て、F2.8を使って撮影した結果が以下の通りだ。

全身をフレームに入れた状態で後ボケは得られるがかなり小さく、被写体を背景から分離するには力不足と感じる。この際のボケは少し粗く、決して心地よい描写では無い。膝上、上半身まで近寄ると、十分なボケ量と滑らかな描写が得られる。ただし、それなりに接近して撮影することになるので、フラッシュなど光の当て方には気を配る必要がありそうだ。バストアップ・顔のクローズアップではさらにボケが大きくなり、心地よい描写だ。ピント面のシャープネスやコントラストも十分良好に見える。

まとめ

最短撮影距離が長く「32mm F2.8」というスペック上、ボケを大きくすることは難しい。しかし、上品な後ボケは多くの撮影シーンで悪目立ちすることが無く、気兼ねなく32mm F2.8の描写を楽しむことができる。玉ボケに非球面レンズの研磨ムラと思われる粗があるのは残念だが、イルミネーションのようなシーンで玉ボケを大きくしない限り目立つことは無い。

 

悩ましいのは競合レンズの存在だ。特にニコンZマウントには同価格帯で接写性能の高い純正レンズ「NIKKOR Z 28mm f/2.8」が存在する。多くの人はTTArtisanではなく、NIKKOR Zレンズを購入することだろう。個人的にも、NIKKOR Zを選んで間違いは無いと思う。ボケ質に関してTTArtisanと大きな違いは無く、非球面レンズの研磨状態はより良好だ。背接写性能が高いので、小さな被写体をクローズアップ時にはボケを大きくすることもできる。

それでも、個人的には32mm F2.8も一つの選択肢だと考えている。28mmと比べると画角が狭く、どちらかと言えば35mmに近い使い勝手となる。構図を整理しやすく、被写体を同じサイズで撮影する場合には32mm F2.8のほうがボケは大きい。28mm F2.8と比べて写真にボケを入れやすいレンズだ。もしも純正品にこだわりが無く、広角レンズにボケを求めるのであれば32mm F2.8も面白い選択肢になると思う。

購入早見表

TTArtisan AF 32mm f/2.8 Z
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