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シグマ56mm F1.4 DC DN X-mountレビューVol.5 諸収差編

シグマ「56mm F1.4 DC DN X-mount」のレビュー第五弾を公開。今回は色収差や歪曲収差など、光学性能に影響を与える様々な収差に焦点を当てたテスト結果を公開しています。

56mm F1.4 DC DN Xのレビュー一覧

像面湾曲

像面湾曲とは?

ピント面が分かりやすいように加工しています。

中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。

最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。

無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。

参考:Wikipedia 像面湾曲

実写で確認

像面湾曲について、接写時でも特に顕著な問題点は見当たらない。敢えて言えば像高7割から外側でピントが遠側に移動しているように見えるが、接写時でこのような傾向が問題となるケースは少なく、遠景のテスト結果でも大きな問題は見られなかった。

倍率色収差

倍率色収差とは?

主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

上に掲載した写真はRAW Therapeeでレンズプロファイルを適用せずに現像した際の結果だ。この場合は隅に僅かな倍率色収差を確認できる。それでも実写で問題と感じるケースは非常に少なく、心配する必要は無い。Adobe Lightroomや純正現像ソフトなど、プロファイルが自動適用される場合、倍率色収差は強制的に補正され、目視で確認する機会はない。以下は通常の現像方法でテストした結果である。(Adobe Lightroomで補正のチェックボックスを外した状態)

軸上色収差

軸上色収差とは?

軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。

軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。

参考:Wikipedia 色収差

実写で確認

完璧な補正状態では無く、F1.4でピント面前後に僅かな色付きを確認できる。とは言え、F1.4の手ごろな価格のレンズと考えると、非常に良好な補正状態だ。実写でも絞り開放を安心して使うことができ、パープルフリンジやボケの色付きを心配する必要は無い。この点でVILTROXやTokinaなど競合レンズよりも遥かに優れている。
余談として、F1.4でピントを固定した状態で絞りとを閉じるとピントの山が遠側へ移動する(フォーカスシフト)。この影響はF1.4からF2に絞った際に顕著で、それ以降に大きなフォーカスシフトは見られない。絞り開放で測距後にピントを固定して絞り操作する場合には注意が必要だ。

球面収差

点光源に対して前後のボケを撮影した結果が以下の通りである。

前後のボケを見比べた際、極端な描写の違いや輝度差は見られない。基本的に良好な補正状態に見える。しかし、よく見ると後ボケは中央から周辺に向かって少し輝度が低下しているように見える。この結果が前後のボケ質の違いに現れているのかもしれない。
玉ボケの表面を見てみると、僅かに同心円状のムラを確認することができるが、非球面レンズを使用した光学系のボケとしては良好に見える。ただし、非球面レンズを使用していない滑らかな玉ボケの描写(VILTROX・Tokina)と比べると、(特にコントラストが高い状況では)わずかに騒がしいと感じるかもしれない。

歪曲収差

歪曲収差とは?

歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。

参考:Wikipedia 歪曲収差

比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。

実写で確認

スライドショーには JavaScript が必要です。

未補正の場合、目立つ糸巻き型歪曲が残っていることが分かる。このままでは直線的な被写体をフレームに入れた際に目障りとなるが、カメラ内現像や純正の現像ソフト、Adobe Lightroomなどで専用のプロファイルを使用して適切に補正することが可能だ。

コマ収差

コマ収差・非点収差とは?

コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。

参考:Wikipedia コマ収差

絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。

実写で確認

絞り開放付近の隅を確認すると、わずかにコマ収差の影響が残っていることが分かる。これを改善するには2~3段絞る必要がある。ただし、コマ収差の影響はごく限られたエリアの限られた収差量となっているので、全体像で見ると絞り開放から実用的な画質を実現している。隅まで点を点として完璧に撮影したい場合はF5.6~F8まで絞る必要がある。

まとめ

価格を考慮すると非常にバランス良くまとまった大口径レンズだ。大口径レンズでしばしば問題となる軸上色収差は良く抑えられ、遠景で問題となる非点収差やコマ収差は光学的によく抑えられているように見える。なんの心配もなく絞り開放から使えるレンズだ。

特に軸上色収差の補正状態がとても良好であるのには驚いた。
完璧ではないにしても、同価格帯のVILTROXやTokinaよりも遥かに良好だ。絞り開放を積極的に利用し、なおかつ色収差による色づきを好まないのであればシグマがベストな選択肢となる。富士フイルム「XF56mmF1.2 R」は使用経験が無いものの、海外のレビューおよび作例を見る限りではシグマのほうが良好な補正状態に見える。

光学的に最も目立つ問題は歪曲収差だが、これはカメラや現像ソフトで簡単に補正可能である。レンズプロファイルに非対応の現像ソフトでは手動補正が必要となるが、少なくともAdobe Lightroom Classic CCであればボタン一発で補正可能と確認している。

問題とならない人もいるだろうが、頭に入れておきたいのはフォーカスシフトの影響。
このレンズはF1.4からF2に絞る際にピントの山が遠側に大きく移動する。これは遠景でも影響を受ける可能性がある。通常は実絞りでAFが動作するので問題ないが、絞り開放でピントを合わせた後に絞るような撮影方法をとる場合は注意が必要だ(高濃度NDや夜景はF1.4のAFを利用する場合があると思う)。

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作例

オリジナルデータはFlickrにて公開。

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