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シグマはfp / fp Lが動画向けだと誤解させてしまった

DPReviewがCP+2023におけるシグマのインタビューを公開。Lマウントシステムについて、一眼レフの行く末、fpのコンセプト(not ビデオカメラ)について、光学的に不完全なレンズについて、などなど。

DPReview:CP+ 2023: Sigma interview - 'I think people's demand for lenses is unlimited'

写真業界全体について

  • 今年は北米やヨーロッパなどの市場における景気後退やインフレの影響で、厳しい状況になると思われる。
  • また、消費者は商品の購入よりも旅行や食事にお金を使うかもしれない。
  • パンデミックによる市場縮小は早く底を打ってほしいものだ。

世界的なパンデミックでどのような変化が必要だったか?

  • 実は、我々はパンデミックの影響をあまり受けていない。
  • 他の企業は、巨大なグローバルサプライチェーンを構築していたため、工場の操業が困難だった。
  • シグマは、日本に1つだけ工場を持っている。仕入先はすべて北日本にある。
  • 電子部品やガラス素材は海外から調達しているが、それ以外の部品の仕入れ先はすべて日本国内だ。
  • また、都市部の閉鎖的な状況もなく、工場を継続的に稼働させることができた。
  • 工場で働く人たちの規律正しさは格別で、感染予防のために毎日マスクをつけて頑張ってくれた。

以前からインタビューでも述べているように、シグマの工場は会津にあり、サプライチェーンを構築する多くの要素は国内にある模様。他社は供給停止や価格改定が相次いでいることを考えると、シグマは非常に安定して製品を供給することが出来たようです。むしろ輸出企業として、円安が良い影響を及ぼしたかもしれませんね。

Lマウントアライアンスはもうすぐ5年目

  • カメラシステムにとって5年というのは、決して長い時間ではない。
  • システムを使うことのメリットを示すには、5年という時間が必要だ。
  • Lマウントシステムのメリットを、お客さまに理解していただけるようになると思う。
  • ライカ、パナソニック、シグマのカメラを選び、それぞれのシステムからレンズを選ぶことができる。
  • また、Leitz CineやDJIもLマウント製品を作っている。

Lマウントの提携によって予期せぬチャンスは?

  • 当初は、フルサイズミラーレスカメラ用の新しいマウントを独自に開発する予定だった。
  • 最終的にはライカとパナソニックと協力することにした。お客様にとって大きなメリットがあるので、良い判断だったと思う。

ほとんどのメーカーがフルサイズシステムを重視している中、APS-Cはどの程度重要か?

  • APS-Cにはまだ大きなメリットがある。
  • フルサイズでケラレずに中心から隅々まで良好な性能を発揮するレンズを作るのは難しい。
  • しかし、APS-Cであれば、それなりの大きさと重さで優れた性能を持つレンズを作ることが可能だ。
  • 画質とシステムの大きさ・重さのバランスを気にされる方にとっては、APS-Cは優れた選択肢となる。
  • フルサイズセンサーを搭載したカメラボディは非常にコンパクトにできるが、レンズをコンパクトにするのはまだまだ難しい。

Lマウント始動から5年が経過し、ようやくレンズラインアップも充実してきましたね。パナソニック側も汎用性の高いズームが出そろい、あとは望遠域をどうするのかと言ったところ。今のところシグマの望遠ズームがいくつかリリースされていますが、望遠単焦点レンズはこれから取り掛かるのでしょうか?

APS-C用レンズは近日登場と噂の単焦点レンズがあり、18-50mm F2.8に続くズームレンズにも期待。とは言え、Lマウントには存在しないAPS-Cカメラ用のレンズに対し、どのくらいのリソースを割り当てることができるのか気になるところ。富士フイルムXマウントやソニーEマウントに加え、ニコンZマウントのAPS-Cシステムが賑わうと良いですねえ。

レンズマウントの種類を増やすことで、設計や製造工程にどのような影響があるか?

  • レンズの設計に影響を与えることはない。常に、各レンズと各システムで最高の光学性能を実現するよう心がけている。
  • 例えば、センサー前のフィルターなどの違いにより、レンズの微調整が必要になることもある。システムごとにレンズ性能を最適化する必要はあるが、光学設計には影響しない。
  • しかし、工場や製造工程の効率には影響し、製造コストは増加する。
  • 可能性がある限り多くのシステムをサポートしたい。しかし、需要が限られていたり、数量が少ないマウントをサポートすると、製品全体のコストが上がってしまう。
  • 残念なことだが、よりマイナーなマウントを見送らざるを得ない。

一眼レフ用レンズは既にペンタックスKマウントやソニーAマウントのレンズがディスコンとなっています。また、大きなシェアを持つキヤノンEFやニコンF用のレンズもAPS-C用を中心としてSGV世代が生産完了。後述する「一眼レフは今後3~5年で…」という数字は自社レンズの需要衰退からくるリアルなものと思われます。
また、噂の新しいDC DNレンズはマイクロフォーサーズ用が用意されていない可能性あり。規模の小さな会社として、需要が見込めないマウントは諦めるしかなさそう。

逆に、シグマはニコンZマウント用APS-Cレンズの投入を先月に発表。と言うことは、この層で需要が見込める(ユーザーが増える)と判断したのでしょうか。確かに、一眼レフから移行するユーザーも一定数いると思われ、DX Zレンズはまだまだラインアップが不足しているのでチャンスと言えそう。あとはキヤノンRFマウントの動向が気になるところ。

デジタル一眼レフカメラの比重が小さくなったことで、より管理しやすくなったか?

  • デジタル一眼レフ用のレンズは別物だ。一眼レフ用レンズを開発するには、別のリソースが必要だった。
  • 今は、ミラーレス用レンズの開発にのみ注力している。
  • 一眼レフ用レンズの生産も続けているので、両方のレンズを多種類作らなければならない。製造工程は大変だ。

デジタル一眼レフカメラの市場はいつまで続くか?

  • 100%の確信はないが、もし新しいデジタル一眼レフカメラが市場に投入されなければ、デジタル一眼レフは3~5年で置き換えられるかもしれない。
  • ただ、デジタル一眼レフ用レンズについては、需要がある限りは作り続ける。
  • 写真に関しては、今でも優れた画質だ。

一眼レフ用の新レンズは期待できない模様。需要のあるレンズは生産が続くものの、4~5年のうちに徐々に消えてゆくのかもしれません。欲しいレンズがあるのなら、早めに入手しておくのが良いでしょう。既に生産完了となったSGVシリーズもいくつか存在します。ミラーレスでもアダプター経由で需要の高いEFマウント用は最後まで生き残るかもしれませんが、それでもネイティブレンズが増えることで必要なくなる可能性が高い。

手頃な価格で高品質のレンズを作る秘訣は?

  • 2つの方法がある。
  • 会社の規模を非常に小さくし、無駄のない組織体制にすること。財務、人事、マーケティング、営業といった管理部門を小さくして、巨大な研究開発チームと工場チームを持つ。我々の哲学は「小さなオフィス、大きな工場」だ。
  • 2つ目の理由は、日本に非常に効率的な工場を持っていることだ。非常に複雑な部品やガラスを、高い精度と効率で作ることができる。
  • 簡単な部品だけをサプライヤーから調達し、複雑な部品は自分たちで加工する。そうすることで、コストを下げることができる。
  • もし、複雑な部品をサプライヤーから調達すれば、コストが上がってしまうだろう。

今後のラインアップ

  • 人々のレンズに対する要求は無限大だ。
  • 今後は、今市場にないユニークなレンズや革新的なレンズが発売され、将来的にはユニークなレンズの需要も生まれてくると思う。

レンズの技術的な完成度と個性について

  • メーカーとして、できる限り最高の光学性能を達成したい。それが我々の使命だ。技術に投資し、最高の性能を実現しようとする。しかし、お客様からは個性的なレンズの要望があることは承知している。
    訳注:ここでいう「個性的」とは、完璧な光学性能のレンズに対して、収差を残した味のあるレンズを指しています)
  • そのようなお客様の好みを調査したところ、本当に求められているのは、ある程度の球面収差があるレンズであることが分かった。我々はすでにそのようなレンズを提供しており、45mm F2.8 DG DNは比較的球面収差が大きいレンズだ。
  • 45mm F2.8 DG DNはシャープなレンズだが、特に近距離では少しハロっぽくなるが、その見た目を評価する人もいる。
  • カメラは現在、似たようなセンサーを搭載しているので、カメラ側の個性はあまりあない。どれもコントラストが高く、彩度の高い色が得られるので、現代のレンズをつけると、どの映像も似たり寄ったりになってしまう。
  • 不完全なレンズを使うことで、独自性を出すことができる。
  • このような製品を作ることもあるが、我々は出来る限り最高の光学性能を実現することに重点を置いている。
  • 将来的にこのようなレンズの需要が高まれば、発売することもあるかもしれない。

シグマ I Seriesは接写時に球面収差が増大するレンズがいくつかあり、私が使った中では45mm F2.8や24mm F3.5が強烈でした。接写時の柔らかい後ボケはおススメです。今後もI Seriesではこのようなレンズが登場するかもしれませんが、最初から味付けを狙っていたのか、小型軽量で手ごろな価格を実現する過程の副産物なのかは不明。

ユニークなアプローチのカメラデザインについて

  • 主要なカメラメーカーのカメラは非常に優れた性能を持ち、多くの顧客の要求を満たしている。
  • しかし、中には既存のカメラに満足できず、何かユニークなものを求めているお客様もいる。そのようなお客様をサポートすることが、我々の使命だと考えている。
  • 大手メーカーと同じようなカメラを作っていたら、誰も買ってくれないだろう。

fpとfp Lの位置づけは?

  • fpのコンセプトは、ユニークなカメラを求めるお客さまに受け入れられている。コンセプト的には最高だったが、改善しなければならない点もある。
  • まず、fp / fp Lが動画向けだと誤解されたことだ。実際には動画向けではないのだが、多くの人が動画向けカメラだと思い込んでいる。それは、マーケットとのコミュニケーションにおける我々のミスだ。
  • これらは、ストリートフォトに最適なカメラだ。個人的にfpとfp Lをストリートフォトに使っている。
  • fpをビデオカメラとして考えた場合、完璧なものではない。欠点もあることは認めざるを得ない。
  • 例えば、Log録画に対応していないこと。もし、アップデートしたfpやfp Lをリリースするのであれば、動画側の性能を強化する必要がある。
  • 小型軽量でありながら、静止画用の高品質なカメラを求めるスチルカメラマンとの接点をもっと増やしたい。

登場初期やファームウェアアップデートの傾向、長時間撮影のための放熱構造などを強調していたことから、私も動画を重視したカメラだと思っていました。シグマとしては、これがミスリードだったらしく、本来は(動画撮影もできる)ストリートフォトに最適なカメラのようです。あとはお写ん歩に適した小型軽量で組み合わせやすいレンズが増えると良いですねえ。

FF Foveonプロジェクトの進捗は?

  • センサー技術の研究は続けているが、まだフルサイズFoveonセンサーのプロトタイプが届いていない。2019年に既存プロジェクトを中止してゼロからスタートし、新しい画素構造へ取り組みを始めた。
  • 新しいセンサーウェハーの製造プロセスも開発している。センサーを試作するたびに技術的な問題が出てくるので、それを解決して絞り込んでいる。
  • まだいくつかの問題が残っている。近い将来、それらを解決して、最終的なフルサイズセンサーを作ることができればと思っている。

Foveonのフルサイズカメラを作りたいという思いはまだあるのか?

  • YES。お客様も楽しみにしてくれている。多くの課題を解決しなければならないが、挑戦は続けたい。

まだまだ課題は残っているらしく、近いうちの登場はあまり期待しないほうが良さそうです。

ここ数年、最も印象に残っている製品や技術は?

  • 最も感銘を受けた技術は、コンピュテーショナルフォトグラフィだ。スマートフォンの画質は、主にコンピュテーショナルフォトグラフィーのおかげで、ここ数年で劇的に向上した。
  • これは画像処理技術を変えるかもしれない。カメラメーカーやレンズメーカーは、そこから何かを学ばなければならない。
  • もちろん、我々はより大きなセンサーや優れた光学系など、はるかに優れたハードウェアを持っている。その技術をそのまま真似るべきではないが、そのようなソフトウエアは非常に強力だ。
  • カメラメーカーは、コンピュテーショナルフォトグラフィーの重要性を認識している。しかし、カメラやレンズのメーカーとして、とても熱心な写真家や写真文化の歴史を満足させる必要があると感じている。
  • 画像で遊びたいとか、アニメ調にしたいとかいうお客さんを満足させる必要はない。我々は、写真の伝統を踏襲しなければならない。我々は150年以上前から、写真の画質向上を追求してきた。
  • 写真文化を尊重しつつ、写真文化に貢献できるような画質向上技術があるのなら、それを使えばよい。使うべきだろう。

この四半世紀の間に写真界で最も大きな変化があったのは何か?

  • インターネットやソーシャルメディア、そしてもちろんデジタルイメージングだ。これらの技術は、写真を楽しみ、画像を共有する方法を変えた。
  • フィルム時代には、家族の行事や歴史、芸術を記録するために写真を使っていた。そして、この25年で我々は写真や動画をコミュニケーションに使うようになった。
  • アマチュアの写真家であっても、高品質な写真を撮ることができ、オンラインで作品を公開する場がある。すべての写真家がアーティストになる機会を生み出した。
  • かつては、プロの写真家になることは非常に困難だった。今は、アマチュア写真家が有名な写真家になるチャンスはたくさんある。

コンピューショナルフォトの存在を認識しつつ、写真産業としての伝統や矜持を重視しているようです。最近はディープラーニングによる高度な処理を被写体検出AFやホワイトバランス、露出に使用するカメラメーカーもあり、写真産業に活かせるコンピューショナルフォトもあるように見えます。特にソニーは以前からAIの活用を強調していましたね。

参考:シグマDNシリーズ一覧

DG DN
DC DN

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