このページではキヤノンの交換レンズ「RF85mm F2 MACRO IS STM」をEOS R5と組み合わせて、様々な被写体相手に実際に使ってみた体験談を掲載しています。
まえがき
レンズのおさらい
レンズ概要
- 2020年10月22日発売
- 商品ページ
- データベース
- 管理人のFlickrアルバム
- レンズ構成:11群12枚
- 開放絞り:F2
- 最小絞り:F29
- 絞り羽根:9枚(円形絞り)
- 最短撮影距離:0.35m
- 最大撮影倍率:0.5倍
- フィルター径:φ67mm
- レンズサイズ:φ78.0×90.5mm
- 重量:500g
- ステッピングモーター
- 光学手ぶれ補正:5段分
- レンズフード別売り
キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」シリーズに対応する「RFレンズ」の一つ。高価な「ラグジュアリシリーズ(Lシリーズ)」に属さず、手ごろな価格と小型軽量なサイズを実現した単焦点レンズに仕上がっています。
同クラスは最初に「RF35mm F1.8 Macro IS STM」が登場して、このレンズが2本目。さらに2020年末に「RF50mm F1.8 STM」も登場しています。どのレンズも「ショートバックフォーカス・大口径マウント」を活かしたレンズ設計となっており、小型軽量やマクロ性能、光学性能の向上などに一役買っています。
このRF85mm F2 MACRO IS STMも一眼レフ用の「EF85mm F1.8 USM」と全く異なる光学設計・特性のレンズです。特筆すべきは最短撮影距離。EF85mmで「0.85m」だったものが、RF85mmでは「0.35m」まで短くなっています。この際の撮影倍率は「0.5倍」のハーフマクロを達成しており、レンズに「マクロ」を冠するのも自然な流れと言えるでしょう。
レンズ構成は従来の「7群9枚」から「11群12枚」まで複雑化しています。構成中にはUDレンズを一枚使用し色収差を効果的に補正しています。さらに最大5段分の光学手ぶれ補正ユニットを搭載。EOS R5やR6のボディ内手ぶれ補正との連携が可能で、この際は最大8段分の補正効果を得ることができると言われています。
注意すべきはレンズのフォーカス駆動形式。
EF85mmはリングUSMを使用したリアフォーカスのため、レンズ全長に変化は無く、素早いAFを期待できます。
RF85mmはステッピングモーター駆動を使用。RF24-105 STMのように静かなステッピングモーターではなく、RF35 STMのように駆動音の大きなステッピングモーターです。さらに、前群繰り出し式のフォーカスを採用しているので、ピント距離によって内筒が大きく前方へせり出す仕組みとなっています。AFの静粛性や高速性はあまり期待しないほうが良いでしょう。
価格のチェック
EF85mm F1.8 USMと比べるとかなり高価なレンズです。手ぶれ補正や接写性能、そして最新の光学設計が価格を押し上げていると思われますが、EF85mmとの価格差ほどの価値があるか、今後のテストでチェックしていきたいと思います。EF85mmと異なり、レンズフードが付属していなので注意。
Index
RF85mm F2 MACRO IS STM 第一印象
ビルドクオリティ:
外装は主にプラスチックを使用し、マウントには金属を使用。キヤノンRFレンズらしい作りであり、期待以上でも期待以下でもありません。
外装はマットグレーの塗装が施され、指紋や傷には強いほうだと思います。
抜群の高級感がある外装ではないものの、特にこれと言って不満はありません。敢えて言えばプラスチックのつなぎ目が明らかに残っているのが残念。
防塵防滴には対応しておらず、他社では当たり前となりつつあるマウント部のシーリングすらありません。非Lレンズとは言え、せめてマウント部くらいはなんとかして欲しかったところ。
このレンズはフォーカシングで内筒が前方へ繰り出すタイプです。繰り出し量は最長で約3cmほど。伸ばした状態でもガタツキはほとんどありませんが、硬いものにぶつけないように気を付けたいところ。
レンズフードを装着することで伸びる内筒を保護することが出来ます。しかし、レンズフードは同梱していないので、別売りアクセサリーとして購入する必要があります。
2021年3月現在、本体のみならずフードも品薄が続いています。純正にこだわりが無ければ社外製フードも検討してみましょう。内筒保護のためにもフードは必須だと思います。
携帯性:
フルサイズミラーレス用としては比較的大きく重い85mm F2ですが、光学手ぶれ補搭載と考えるとこんなものでしょう。EOS R5との組み合わせでバランスは良好です。
操作性:
フォーカスリング・コントロールリング・AFリミッター・AF/MF切替・手ぶれ補正の5系統の操作に対応しています。このクラスとしては充実しており、過不足のないコントロール。
フォーカスリングとコントロールリングは電子制御式です。フォーカスリングはカメラ側で「回転量に応じた移動量」「回転速度に応じた移動量」の2種類から好みの操作性を設定可能。「回転量に応じた移動量」でもピント全域を移動するには3回転ほど必要です。微調整がとても簡単ですが、フルマニュアルで操作するにはワンアクションでの移動量が少なすぎます。
コントロールリングは他のRFレンズと同じ操作性です。1回転で60クリックほどで操作可能。
オートフォーカス:
ギア式のステッピングモーター駆動を採用しています。ナノUSM駆動やリニア式ステッピングモーター駆動と比べると応答性・高速性が低い。動体への追従性は期待しないほうが良いでしょう。特にフォーカスレンズの移動量が増える近距離は絶望的。
サーボAFが全くアテにならないわけではありません。しかし、一度AFが迷うと復帰まで時間がかかります。AFリミッターを活用したとしても、迷うと遅い。
EOS R5と組み合わせる限りピント精度に問題はありません。低照度AFも良好に動作しますが、近接時はT値が低下するので注意が必要です。
動画撮影時は異音が発生しないように滑らかさ優先の動作となります。ただし駆動速度が著しく低下するので、素早い被写体相手には無力です。
マクロ
「85mm F2」レンズながら、最短撮影距離が0.35mと非常に短いです。この際の撮影倍率は×0.5と高い倍率を実現しています。接写でも収差変動が少なく、キレのある撮影結果を得ることが可能。ハーフマクロレンズと呼んで差し支えの無い性能です。
APS-Cクロップを利用することで(実質的な)撮影倍率が0.8倍まで向上します。実用的なマクロレンズとして利用できるのは思っていた以上に便利。
注意点として、マクロ撮影時は画角が狭くなり、実効F値も上昇します。体感ですが、画角は135mmとなり、F値(この際は光量として)は「F3.2」程度となります。手ぶれが発生しやすく、ISO感度やシャッタースピードに影響があることは覚えておきたいところ。(「マクロ・実効F値」などで検索すると理解が深まると思います)
手ぶれ補正:
補正効果5段分の光学手ぶれ補正を搭載しています。85mm F1.8クラスのレンズに手ぶれ補正を搭載するのは珍しいですね。フルサイズミラーレスの85mmで手ぶれ補正を搭載しているのは他に「Batis 1.8/85」くらいでしょうか。特にこのレンズはEOS R5やEOS R6のボディ内手ぶれ補正と組み合わせることで最大8段の補正効果を得ることができます。
とは言え、実際に8段分の補正効果が得られるかと言うとそうでもありません。特に近距離の撮影ではあまり期待しない方がいいでしょう。無限遠側でもシャッタースピードは長くて1/5秒くらいに抑えるのがおススメ。
解像性能:
無限遠側では絞り開放から大部分でシャープな結果を得ることが出来ます。ただし、四隅のみ像が甘くなるため、全体的にシャープな結果を得たい場合はF5.6?F8までしっかり絞ると良いでしょう。
絞り開放からコントラストが強く、ポートレートで使うには少しパンチが強すぎるかもしれません。動物や自然風景用として使うぶんには打ってつけだと思います。
マクロなど、近距離でも大きなパフォーマンスの低下はありません。レンズ名に「マクロ」と冠しているのは伊達じゃない。
前述した通り、近距離では画角が狭くなります。このためか、近距離ながら画質の均質性が高く、良質なマクロレンズとして使うことが出来るように感じます。
像面湾曲:
無限遠のテストした限りでは問題ありません。
ボケ:
2線ボケや色づきの少ない、綺麗なボケ描写です。ただし、球面収差がしっかりと補正されているので、滲むような柔らかいボケではありません。このため、ピント面からデフォーカスまでのグラデーションが少し硬い。これを良しとするか悪しとするかでレンズの評価は分かれるはず。
補足しておきますが、綺麗なボケに違いありません。85mm F1.8クラスのレンズは四隅のボケが荒れやすいものの、このレンズは全体的に安定したボケ質。ただし、色収差の補正が完璧ではないため、輝度差のある背景では四隅のボケが少し騒がしくなる可能性あり。特に全身ポートレートのような撮影距離では注意が必要。
近距離でも球面収差は綺麗に補正されています。滲むような描写は皆無です。とは言え、ボケが大きくなるのが早いので、中距離ほどボケの硬さは気になりません。
色収差:
倍率色収差は綺麗に補正されています。ソフトウェア補正では無く、光学的に良く補正されています。
軸上色収差は完璧な補正状態と言えず、コントラストが高いシーンで僅かに色づきが見られます。とは言え、全体像で目立つ機会は滅多になく、高解像なEOS R5で大きく拡大すると色づきに気が付く程度です。小ボケに色が付く場合があるため、必要に応じて絞ったほうが良い場面もあります。
球面収差:
前述した通り綺麗に補正されています。フォーカスシフトの影響も無さそう。
歪曲収差:
僅かな糸巻き型です。手動でも簡単に修正できる収差ですが、レンズプロファイルが用意されているので積極的に活用したいところ。
周辺減光:
絞り開放で重めの光量落ちが発生しますが、85mm F1.8クラスのレンズとしては良い方だと思います。特に近距離では画角が狭くなることもあり問題が発生しにくくなります。
コマ収差:
テストを実施できていません。今後テスト予定。
逆光耐性:
フレア耐性は良好ですが、光源がフレーム内に入るとゴーストが発生します。最悪の場合はフレアも強く発生するので注意が必要。
今回のまとめ
化けの皮をかぶったマクロレンズ
ポイント
- 85mm F1.8クラスとしてはやや高価
- レンズフード別売り
- 防塵防滴非対応
- 実用的なハーフマクロ性能
- 光学手ぶれ補正搭載
- AFは遅くて煩い
- 撮影距離を選ばず高解像・高コントラスト
- ボケは少し硬いが綺麗
- 諸収差はまずまず良好に補正されている
ポートレート用ではおススメしないものの、マクロ用としては買うなら面白いレンズ
優れた解像性能を発揮する85mmです。フレームの大部分はF2からシャープで、均質性がとても高い。コントラストも高く、パンチのある画質を期待できます。その反面、人物撮影用としては少し硬めの描写となり、ふんわり柔らかい描写を期待しているとパンチが強すぎると感じるかもしれません。また、動体を追従し続けるほど高性能なAF駆動ではない点にも注意が必要。動き物が中心の撮影だとイラっとすること間違いなし。
個人的に自然風景や動物、マクロ撮影に適したレンズだと考えています。防塵防滴仕様では無かったり、レンズフードが付属しない点が残念ですが、0.5倍の撮影倍率と近距離時の高い解像性能はこのレンズの強みとなることでしょう。
将来的に「RF100mm F2.8L マクロ IS USM」のように本格的なマクロレンズが登場するかもしれません。とは言え、ハーフマクロ撮影で問題なければ、画角が広く、1段明るいこのレンズのほうがカジュアルに使えるはず。
購入早見表
作例
関連レンズ
- RF85mm F1.2L USM
- RF85mm F1.2L USM DS
- EF85mm F1.8 USM
- EF85mm F1.4L IS USM
- EF85mm F1.2L II USM
- 85mm F1.4 DG HSM
- SP 85mm F/1.8 Di VC USD (Model F016)
- AF 85mm F1.4 EF
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