このページではシグマの90mm F2.8 DG DN | Contemporaryに関するレビューを掲載しています。
管理人の評価
ポイント | 評価 | コメント |
価格 | 安くはない | |
サイズ | 中望遠としては抜群 | |
重量 | 中望遠としては抜群 | |
操作性 | 静止画用としては良好 | |
AF性能 | 抜群ではないが不足なし | |
解像性能 | 接写時と像面湾曲がネック | |
ボケ | 接写時にとても良好 | |
色収差 | 完璧ではないが問題なし | |
歪曲収差 | 補正必須 | |
コマ収差・非点収差 | 良くもなく悪くもなく | |
周辺減光 | 無限遠で特に目立つ | |
逆光耐性 | まずまず良好 | |
満足度 | 携帯性の良好な中望遠 |
評価:
なんと言っても小型軽量が強みとなる中望遠レンズ。いくつかの収差が残存しているものの、補正可能だったり、許容できる範囲内に収まっている欠点が多い。手ごろな価格とは言えないが「コンパクトプレミアム」な中望遠レンズを探しているのであれば、ツアイスLoxiaよりも遥かに手ごろな価格設定。
Index
90mm F2.8 DG DN | Cのレビュー一覧
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー 完全版
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー 諸収差編
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー 周辺減光・逆光編
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー ボケ編
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー 遠景解像編
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー 外観・操作性・AF編
- シグマ 90mm F2.8 DG DN | C 徹底レビュー 近距離解像編
まえがき
2021年9月に発売されたシグマContemporaryライン「Iシリーズ」のレンズ。同シリーズとしてはこれで6本目となるレンズで、「24mm F3.5 DG DN」「45mm F2.8 DG DN」と並ぶF2.8系の小型軽量モデル。そして「Iシリーズ」としては現状で最も長焦点をカバーしている。
概要 | |||
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レンズの仕様 | |||
マウント | E/L | 最短撮影距離 | 0.5m |
フォーマット | 35mm | 最大撮影倍率 | 1:5 |
焦点距離 | 90mm | フィルター径 | 55mm |
レンズ構成 | 10群11枚 | 手ぶれ補正 | - |
開放絞り | F2.8 | テレコン | - |
最小絞り | F22 | コーティング | SMC |
絞り羽根 | 9枚 (円形絞り) | ||
サイズ・重量など | |||
サイズ | φ64x59.7mm | 防塵防滴 | 簡易防滴 |
重量 | 295g | AF | STM |
その他 | |||
付属品 | |||
レンズフード・レンズキャップ×2 |
開放F値は「F2.8」と中口径のレンズながら焦点距離が90mmと長いので、ある程度は背景をぼかすことが可能。APS-Cで言うところの「60mm F2」、マイクロフォーサーズで言うところの「45mm F1.4」に相当すると考えると分かりやすいかもしれない。
最短撮影距離が0.5mであり、中望遠レンズとしてはまずまず寄りやすいレンズに仕上がっている。撮影倍率0.2倍とそこそこ高く、接写性能を活かせば大きなボケを得ることも可能。
特筆すべきはそのコンパクトさ。開放F値が「F2.8」と大きく、決して大口径レンズとは言えないものの、90mmの焦点距離を考えるとサイズが非常に小さい。90mmの中望遠をこのサイズで携帯できるのは魅力的。ただし、サイズはサムヤン「AF 75mm F1.8 FE」と比べてそう大きな差が無いので、焦点距離やビルドクオリティ、光学性能を加味したい。
レンズ構成は「10群11枚」でそのうち5枚にSLDガラスを使用。この価格帯でこれほど特殊ガラスを使用しているレンズは珍しい。例えばFE85mm F1.8はEDレンズを1枚、AF75mm F1.8 FEでも3枚しか使用していない。それだけに、シグマの90mmには高度な色収差補正を期待したいところ。
価格のチェック
売り出し価格は約7万円。正直に言えば純正「FE 85mm F1.8」よりも高く、サムヤン「AF 75mm F1.8 FE」や「VILTROX PFU RBMH 85mm F1.8」のほうが遥かに安い。コストパフォーマンスを考慮すると厳しい戦いが待っている。しかし「90mm F2.8」のサードパーティ製レンズとしては高く感じるものの、使用している特殊レンズの数や、精巧な作りの金属外装などを加味すると適切な価格設定と思われる。
90mm F2.8 DG DN Leica L | |||
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90mm F2.8 DG DN Sony E | |||
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レンズレビュー
外観・操作性
箱・付属品
SGV(Sigma Glovbal Vision)シリーズではお馴染みの白を基調としたシンプルなデザイン。シグマの社名にレンズのロゴ、そしてフィルターサイズやContemporaryラインであることが記されている。「Iシリーズ」に属するレンズだが、外箱からそれを伺わせるデザインは何もない。ちなみに右上の「021」はリリースされた西暦の下三桁を表している。
箱の中にはレンズ本体の他に金属製レンズフード・レンズキャップ・マグネティックキャップ・説明書・保証書が入っている。ArtやSportsラインのように頑丈なレンズケースは付属しないものの、必要十分の付属品と言える。
外観
外装は総金属製のしっかりとした作り。レンズ名や絞り値の表示が刻印ではないものの、絞りリングやフォーカスリングなどは丁寧に加工してある。外装のプラスチックパーツはAF/MFスイッチくらい。
手に取った際の質感はまさに金属とガラスの塊であり、「持つ喜び」を感じるには十分なビルドクオリティ。従来のContemporaryラインと言えばプラスチックパーツを採用した小型軽量なイメージがあるものの、この「Iシリーズ」は全く異なっている。
レンズデザインは従来の「Iシリーズ」と同じ。F2シリーズのようなデコレーションリングは付いておらず、どちらかと言えば24mm F3.5や45mm F2.8とよく似ている。製造国はもちろん日本(シグマの会津工場)。
ハンズオン
全長59.7mmのコンパクトなレンズながら、295gとそこそこ重量がある。例えば、似たような全長のソニー「FE 28mm F2」の重量(200g)と比べて約1.5倍。金属外装と10群11枚の密度の高さが重量に反映されている印象。手にしっくりと来る重さながら、決して辟易するような重量ではない。
前玉・後玉
レンズ前面について防汚コートが施されている記述は見当たらない。汚れの付着が予想されるシーンではプロテクトフィルターを装着をおススメする。
凸型の前玉はマグネティックキャップに対応するフレームに囲まれている。このフレームが前方へ少し突き出ているので、フィルターと干渉しやすくなっている点には注意が必要。一般的なプロテクトフィルターやC-PLフィルターならば問題ないものの、クローズアップレンズなど曲面があるフィルターを装着する場合を気を付けたほうが良いかもしれない。
真鍮製のレンズマウントは4本のビスで固定され、周囲は簡易防塵防滴用のシーリングあり。後玉はマウント付近で固定、周囲は反射防止のために黒塗りされている。
フォーカスリング
幅25mmの金属製フォーカスリングを搭載。適度な抵抗で滑らかに回転する。感触はとても良好で、グリップ・滑らかさ・抵抗量・使いやすさ、どれを取ってもケチのつけようがない。
ピント移動は電子制御で動作し、リングの回転速度に応じてピント移動距離が変化する。ゆっくり回転した場合は最短撮影距離から無限遠まで3回以上の操作が必要となり、非常に高精度なピント合わせが可能。接写時のみならず、無限遠側でも非常に高精度な操作に対応しているのがGood。
素早く回転した場合も180度ほどのストロークがあるので使いやすい。逆に、フルマニュアルで素早く操作したい場合はストロークが長すぎると感じるかもしれない。
絞りリング
F2.8からF22まで1/3段ごとにクリック感のある幅5mmの絞りリングを搭載。フォーカスリングと同じく、抵抗と滑らかさがとても良好。AポジションとF22の間はロック機構こそ無いものの、適度なストロークと抵抗で誤操作が無いように配慮されている。
絞りリングの搭載は歓迎できるものの、Artラインのように「クリック/デクリック」を切り替えることが出来ないのは人によってマイナスポイントと感じるかもしれない。
スイッチ
レンズ側面にはAF/MFスイッチを搭載。マウント付近に配置され、控えめなサイズとなっているので若干操作し辛さを感じる(指に感触が伝わりにくい)。
レンズフード
金属製の円筒型レンズフードが付属。国産AFレンズメーカーで金属製レンズフードを”付属品として”用意するのはシグマとパナソニックくらいのはず。(参考:別売り品としては富士フイルムやオリンパスも用意している)
しっかりとした作りのフードで、内側には反射防止用の切り込み加工があり、外側にもグリップを向上させるための切り込み加工が施されている。
レンズフードの全長が45mmもあるので、フードを装着すると全長が大きく伸びる。それでもコンパクトに違いないが、携帯性を最大限活かすのであればフードを外すか、別のフードを用意したい。
レンズフードは逆さ付けに対応しているが、この状態ではフォーカスリングと絞りリングにアクセスできなくなる。使用時は外すか、普通に装着したい。
装着例
α7R IVに装着。中望遠レンズとは思えないくらいコンパクトで、携帯性・収納性は非常に良好。もちろんカメラとのバランスは良好であり、片手での操作も可能。α7Cと組み合わせると、さらに機動力の高い中望遠システムとなり、おそらくAPS-C αカメラに装着しても普通に使うことが出来るはず。(何と言ってもサイズは「E 50mm F1.8 OSS」よりも小さい)
レンズの直径はマウント面からほぼ変わらないスリムなデザイン。グリップとレンズの間の空間には余裕があり、カメラ底面よりも下に突き出てしまう心配もない。
AF・MF
フォーカススピード
フォーカスレンズの駆動にはステッピングモーターを使用。他社が新レンズでリニアモーターを採用し、実際に高速AFを実現していることを考えると、少し見劣りするのは確か。しかし、このレンズのステッピングモーターは十分に速く、一般的な撮影距離でストレスが溜まることは無い。ただし、大デフォーカスからの復帰ではリニアモーターと比べてワンテンポ遅いように感じられる。
ちなみにEマウントにおけるサードパーティ製レンズはAF-SよりもAF-Cのほうが合焦速度が速い。サクサク撮影したいのであれば、AF-Cを常用するのも一つの手。
ブリージング
ブリージングとはピント位置によって画角が変化することを指す。画角の変化が大きいと、フォーカシングで画角が広がったり狭くなったりするので気が散ったり、AFが不安定化する原因となる。出来ればフォーカシングブリージングは無い方が良い。
今回はブリージングの影響を確認するために、レンズを最小絞りまで絞り、最短撮影距離と無限遠で撮影した結果が以下の通り。
中望遠レンズとしては驚くほどフォーカスブリージングが抑えられている。至近距離から無限遠まで画角の変化が目立たず、動画撮影時に違和感の無いピント送りを実現できるはず。
精度
このレンズは撮影距離によって球面収差が残存しており、ピント面が滲んでいる場合は精度が不安定となる場合あり。本当にピントの山で撮影したいのであれば、少し絞ってAFを動作させるか、拡大MFでしっかりとピントを合わせるのがおススメ。
MF
前述した通り、良好な操作性でストロークが長いので快適なMFが可能。特に球面収差でAFが不安定と感じる場合はお世話になる機会が多いかもしれない。
解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:α7R IV 6100万画素
- 交換レンズ:90mm F2.8 DG DN Contemporary
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- RAW出力
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ
・格納されたレンズプロファイル(外せない) - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェック) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性あり。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
中央
絞り開放から4000を超える非常にシャープな結果が得られる。近距離では残存している球面収差のためか、オートフォーカスでピントの山を掴みにくいので、ベストを尽くすのであればマニュアルフォーカスがおススメ。シャープネスを最大化すると、コントラストが若干低下するように見える。6100万画素のα7R IVで試した限りでは、絞り開放から絞っても顕著な改善は得られない。もしも「絞って改善した」と感じる場合はピントを少し外している可能性あり。
絞ると最大化したシャープネスに加えてコントラストが強くなるので、解像感は改善すると思われる。F4以降はシャープネス・コントラストについてこれと言った変化は無く、回折の影響が強くなるまでピークの状態を維持している。
周辺
中央と比べるとシャープネスはワンランク低下する。とは言え、絞り開放から安定感があり、絞り開放から十分以上に実用的な画質。2段絞ると「4000」を超える非常に良好なパフォーマンスを発揮し、中央と遜色ない結果を得ることが可能。隅は性能が大きく低下するので、被写体をシャープに写したいのであれば、この辺りまでを目安いにフレーミングするのがおススメ。
四隅
中央や端と比べると非点収差が目立ち、像がいまいち安定しない。それは数値にも表れているので、改善するためには大きく絞る必要がある。F8~11まで絞ると大きく改善するので、風景撮影などパンフォーカスでシャープに撮影したいのであれば積極的に絞っていきたい。ただし、今回のテストはあくまでも近距離でのテスト結果であり、このような撮影距離で隅のパフォーマンスが重要となる場面は少ないはず。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
F2.8 | 4338 | 3293 | 2671 |
F4.0 | 4747 | 3748 | 2563 |
F5.6 | 4508 | 4211 | 2993 |
F8.0 | 4645 | 4355 | 2987 |
F11 | 4664 | 4110 | 3812 |
F16 | 3996 | 3949 | 3438 |
F22 | 3297 | 3205 | 2966 |
実写確認
*中央は前述した通りピントの山を掴みづらかったので、何回か撮影しなおしています。この際に露出を合わせ損ねていた模様。
遠景解像力
テスト環境
- 撮影日:2021-09-27:晴れ・微風
- カメラ:α7R IV 6100万画素 圧縮RAW
- 三脚:Leofoto LS-365C
- 雲台:Leofoto G4
- 露出:絞り優先 ISO 100固定
- 現像:Adobe Lightroom Classic CC
・シャープネス 0
テスト結果
中央
6100万画素のα7R IVで撮影すると、絞り開放の無限遠はややソフトな描写。近・中距離では見られないようなソフトさがあり、これを改善するには1~2段は絞って使うのがおススメ。F4まで絞ると絞り開放のようなソフトさは無くなり非常にシャープな描写が得られる。
F5.6まで絞るとコントラストがさらに向上してピークの画質に到達する。風景撮影でベストを尽くすのであれば、少なくともF5.6付近までは絞りたい。F8まで絞ってもほとんど違いはなく、F11から徐々に回折の影響が強くなる。F16は実用的な画質を維持しているが、F22はかなりソフトな描写となるので、被写界深度が必要無ければ避けたい絞り値。
周辺
中央と同じく絞り開放は僅かにソフト。2400万画素~4200万画素であれば問題ないかもしれないが、6100万画素でシャープな結果を期待する場合は少し絞って使うのがおススメ。
F4まで絞ると絞り開放と比べてグッとシャープになり、F5.6で甘さの無いピークの画質に到達する。F8まで絞っても大きな変化は見られない。F11から徐々に回折の影響が強くなる。F16は実用的な画質を維持しているが、F22はかなりソフトな描写となるので、被写界深度が必要無ければ避けたい絞り値。
四隅
極端な甘さは無いものの、中央や周辺と比べて少し画質が低下する。F4~F8で改善するものの、中央や周辺部ほど劇的な改善は見られない。全体的なピークを考慮するとF5.6?F8を使うのがおススメ。
全体像
絞り開放「F2.8」からピークの性能とは言えず、レンズの明るさを活かした低照度撮影に適しているとは言えない。絞り開放の明るさと解像性能が必要な場合、サイズを許容できるのであれば、もう少しお金を積んで「85mm F1.4 DG DN」も検討しておきたいところ。
撮影倍率
最短撮影距離は「0.5m」で、この際の撮影倍率は「0.2倍」。90mmマクロレンズほどではないものの、一般的な85mm F1.8レンズよりも寄りやすく、小さな被写体を大きく写すことができる。小型軽量な90mm(それもインナーフォーカス)でこの接写性能はけっこう便利。ただし、接写時は球面収差の影響が強く出るので、シャープに写したい場合は絞る必要がある。
像面湾曲
像面湾曲とは?
中央から四隅かけて、ピントが合う撮影距離が異なることを指す。例えば、1mの撮影距離において、中央にピントが合っていたとしてもフレームの端では1mの前後に移動している場合に像面湾曲の影響が考えられる。
最近のレンズで目立つ像面湾曲を残したレンズは少ないものの、近距離では収差が増大して目立つ場合もある。ただし、近距離でフラットな被写体を撮影する機会は少ないと思われ、像面湾曲が残っていたとしても心配する必要は無い。
無限遠でも影響が見られる場合は注意が必要。風景など、パンフォーカスを狙いたい場合に、意図せずピンボケが発生してしまう可能性あり。この収差は改善する方法が無いため、F値を大きくして被写界深度を広げるしか問題の回避手段がない。
実写で確認
軸上色収差のチェックついでに確認した限りでは、接写時に周辺部のピントが手前にシフトしている。この影響は遠景でも発生しており、中央と隅でピントの山がずれる傾向が見られる。これを回避するには絞るしかない。パンフォーカスを狙いたい場合、少し使い辛く感じるかもしれない。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれを指す。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要。ただしボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できるので、残存していたとして大問題となる可能性は低い。特にミラーレスシステムでは後処理に依存する傾向がある。
実写で確認
絞り開放付近でわずかに倍率色収差が残存している。問題視するほどの収差量ではなく、カメラ側の補正で画質へ大きな影響を与えることなく補正が可能。ちなみに絞ると倍率色収差が抑えられる。シグマは意図的に色収差はハッキリとした形で残すことで、カメラ側で補正しやすくしている場合もある。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指す。ピントの手前側は主にパープルフリンジとして、ピントの奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差と考えられる。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところだが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多い。
軸上色収差を完璧に補正しているレンズはピント面のコントラストが高く、パンチのある解像感を期待できる。
実写で確認
軸上色収差は良く抑えられているものの、皆無ではない。極端なコントラストでは色収差が目立つ可能性あり。とは言え、実写では逆光環境下でも良く抑えられているので、問題となる可能性は非常に低い。しかし、まぁ、SLDガラスを5枚使用していることを考えると、もう少し良好な補正結果を見てみたかった。
作例を見ると分かるように、接写時は球面収差が強く残っている。この影響で後ボケの色収差は滲んで目立ちにくいが、硬い前ボケは色収差の影響が目立ちやすい。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがち。個人的には「滲むように柔らかくボケる」描写が綺麗と評価し、逆に「急にボケ始めたり、ボケの輪郭が硬い」描写は好ましくないと感じる。ただし、感じ方は人それぞれなので、ひょっとしたら逆のほうが好ましいという人がいてもおかしくない。
参考までに「滲むボケ」「輪郭の硬いボケ」のサンプルを以下に示す。
描写傾向の違いは主に球面収差の補正状態によって変化し、前後どちらかのボケが柔らかい場合はもう片方のボケが硬くなる傾向がある。
特殊な方法として「アポダイゼーション光学素子」などを使って強制的に滲むボケ描写を実現しているレンズも存在する。
実写で確認
少なくとも近距離での撮影では球面収差が完全に補正されておらず、後ボケが滲みを伴う柔らかい描写。その一方で、前ボケが少し硬調な描写となっている。90mmの焦点距離だと、前ボケを入れる機会も多く、場合によっては少し騒がしいと感じる場面があるかもしれない。特に硬い前ボケは高コントラストな領域では残存する軸上色収差が目立ちやすいので気を付けたい。
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
ここで言う「口径食」とはレンズ口径がボケへ影響していることを指す。
口径食が強いと、フレーム四隅のボケが楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりする。この問題を解消するには絞りを閉じるしか方法が無い。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来る。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がる。口径食が強いと、ボケが小さく感じたり、場合によってはボケが荒れてしまう場合もある。
できれば口径食の小さいレンズが好ましいが、解消するには根本的にレンズサイズを大きくする必要がある。携帯性やコストとのバランスを取る必要があり、どこかで妥協が必要。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生する(前後ボケのレビューで示した通り)。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまう。
実写で確認
玉ボケは内側がとても滑らかで綺麗。非球面レンズを一枚使用しているものの、玉ねぎボケの兆候は見られない。絞り羽根は9枚円形絞りを採用しており、絞っても玉ボケが角ばりにくいのはGood。
その一方、F2.8レンズとしては口径食が大きく、F2.8の隅でボケが大きく変形する点には注意が必要。玉ボケが歪む他、場合によっては描写が騒がしくなったりする。口径食を抑えるには2段絞る必要がある。
ボケの縁取りは強くないが、高コントラストな状況では残存する軸上色収差によりボケの縁取りが色づいてしまう。色づきは僅かで大きな問題とはならないが、大きくクロップする際は気を付けたほうが良いかもしれない。
球面収差
軸上色収差や前後ボケの項目で指摘したように、このレンズは球面収差を敢えて残した状態となっている。このため、前後のボケ質に違いが発生したり、ピント面の滲みにつながっている。
点光源を発生させる特殊なLEDライトであえて玉ボケを発生させ、前後のボケ質を見比べたのが以下の作例。
ご覧のように、極端な違いはないものの、前ボケのほうが少し硬い描写で、僅かに同心円状の痕跡が見える。特に前ボケは縁取りが少し強め。
ボケ実写
接写
接写時はピント面も少し滲むような柔らかい描写。背景は溶けるようにボケるので、輪郭が残りにくい。実にIシリーズらしいボケ。ピント面が少し甘いと感じた場合は1段絞ると良い感じ。ボケとのバランスも良い。F5.6まで絞るとシャープな描写だが、後ボケが少し硬くなるので好みは分かれるかもしれない。接写時でもF8~F11までは被写界深度が浅く、大きなボケを作りやすくなっている。
近距離1
撮影距離が少し離れても滑らかなボケは健在。ピント面とのバランスも良く、絞り開放から心地よいボケを得ることが出来る。F5.6-8でボケが騒がしくなるものの、使えない描写ではない。
近距離2
さらに撮影距離を長くすると、球面収差が小さくなるためか、ボケ質が大きく変化する。絞り開放の滑らかな描写は目立たなくなり、やや硬調となる。と言っても目障りと言うほどでもなく、色収差の影響も見られない。
撮影距離による変化
全高170cmの三脚を人の代わりに撮影。フレームの全身を入れる場合でも背景をボケすことは可能。と言っても開放F値は「2.8」と中口径で、F1.4レンズのようなボケはひっくり返っても得られない。膝上まで近づいても恩恵は少ない。バストアップ程度まで近寄ることで被写体を背景から分離することが可能。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに歪んでしまうことを指す。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれる。
比較的補正が簡単な収差だが、「陣笠状」など特殊な歪みかたをする歪曲は手動での補正が難しい。この場合はレンズに合わせた補正用プロファイルが必要となる。
実写で確認
「85mm F1.4 DG DN Art」と同じく、光学的にはやや強めの糸巻き型歪曲が発生している。この歪曲を残したままだと、違和感が強いのでレンズ補正は必ず適用しておきたい。ボディ内補正を適用すると、綺麗に補正可能。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な光量落ちを指す。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となる傾向。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生する。
ソフトウェアで簡単に補正できる現象だが、露出不足を後処理の補正(増感)でカバーするため、ノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合はノイズが強く現れる可能性あり。
最短撮影距離
最短撮影距離で周辺減光の影響が最小限となるものの、それでも絞り開放F2.8では光量落ちの影響が見られる。極端に目立つわけでは無いが、光学的に改善する場合はF5.6まで絞りたいところ。絞ると綺麗に改善するので、小絞りで問題となることは無い。
無限遠
無限遠で周辺減光の影響は最も強くなる。この際の絞り開放は周辺減光の影響が非常に強く、このまま使うには少し癖が強い。カメラ側でのソフトウェア補正を利用可能だが、減光量が大きいぶん、補正時はノイズが発生しやすい点に注意が必要である。特に天体・夜景など、F2.8の明るさを活かしたい場合に気を付ける必要がある。
絞ると改善するが、完全に光量落ちを抑えるためにはF11まで絞る必要がある。ある程度はソフトウェア補正に依存するのであればF5.6~F8でも問題ないと思う。
コマ収差
コマ収差・非点収差とは?
コマ収差・非点収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指す。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日など、明るい点光源で影響を受ける場合あり。この問題は後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある。
絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞ることが出来ず、光学的な補正が重要となる。
実写で確認
絞り開放付近でわずかにコマ収差のような影響が見られる。F4まで絞ると影響は最小限となり、F5.6で解消する。中望遠レンズとして、補正状態は良くも悪くもないように見える。少なくとも影響は軽微で、隅を大きくクロップしない限り収差は目立たない。
逆光耐性・光条
中央
小型軽量な中望遠レンズながら、レンズ構成は10群11枚と多く、例えばソニー「FE 85mm F1.8」の8群9枚構成よりも2枚レンズが多い。当然ながらレンズ面が増えることで逆光耐性は不利となる。いつものように、スマートフォンのLEDライトを中央と隅から照射し、その際のフレアやゴーストの影響をチェックしてみた。露出設定は他のレンズをテストする際とほぼ同じ。
フレアの影響はゼロと言えないものの、コントラスト低下は良く抑えているように見える。ゴーストの発生は不可避で、ゴーストの形状や色も好みが分かれそうな描写。絞っても状況はあまり変化が無く、小絞りではゴーストが増える。これを回避するには光源を中央付近から遠ざけるしかない。
補足しておくと、強い光源を正面から受けて、ゴーストやフレアが発生しないレンズは非常に少ない。また、90mmという狭い画角なので、光源を回避して撮影するのは比較的容易。
隅
露出設定は先ほどの作例と同じ。強い光源を隅まで避けることが出来ればフレアとゴーストの発生は十分に抑制できる。ただし、絞るとゴーストが徐々に発生するので、状況に応じて光源をさらに遠ざける必要あり。
光条
絞り羽根は9枚なので、絞った際に発生する光条の筋は全部で18本となる。光条がシャープとなるのはF11と比較的遅く、F8までの光条はあまり綺麗ではない。しかし、特にF16以降の光条はシャープな描写となる。
まとめ
良かったところ
ココがおすすめ
- 中望遠レンズとしては小型軽量
- 総金属製の高いビルドクオリティ
- 金属製のレンズフード・キャップ
- 簡易防塵防滴
- 使いやすいフォーカスリング・絞りリング
- 静かで滑らかなAF
- フォーカスブリージングが良く抑えられている
- 良好な最大撮影倍率・最短撮影距離
- 穏やかな倍率色収差・軸上色収差
- 滑らかな後ボケ
- 穏やかなコマ収差
- 小絞りの光条が綺麗
このレンズの強みはなんと言っても携帯性。中望遠レンズとしては非常に小さく、非常に軽い。その分、開放F値は大きめだが、焦点距離を考慮すると近寄れば十分なボケ量を得ることが可能。解像性能は必要十分であり、諸収差で残存しているカテゴリもあるが、後処理が難しい収差はまずまず良好に補正されている。オートフォーカスは滑らかで静かに、そして良好な精度で動作している。
悪かったところ
ココに注意
- 90mm F2.8としては少し高価
- 接写時の球面収差がAF精度や解像性能に影響する
- 接写時の周辺・隅の解像性能が低下する
- 遠景でも像面湾曲の影響が残っている
- 前ボケが硬い
- ボケに口径食が目立つ
- 目立つ糸巻き型歪曲が残っている
- 特に無限遠で周辺減光が目立つ
光学的な弱点として、接写時における描写の甘さ(特に周辺部)や像面湾曲による絞り開放付近の解像性能、口径食が強く現れるボケ描写などを挙げることが出来る。これらは絞ることで改善する問題だが、F2.8の明るさを活かしたい場合は注意したい欠点となる。レンズ補正が可能だが、周辺減光や歪曲収差も目立つ。
総合評価
満足度は90点。
中望遠レンズを”ポートレートでのみ”使うのであれば、一般的な「85mm F1.8」をおススメする。しかし、スナップやお散歩など、気軽に中望遠を使ってみたいのであれば、この「90mm F2.8 DG DN」は面白い選択肢になると思う。手のひらサイズで90mmの画角を扱うことができ、小型軽量ながら光学性能はバランスが良く、オートフォーカスは静かで滑らかに動作する。開放F値は大きいものの、被写体に近寄れば十分なボケを得ることができ、後ボケは滑らかで綺麗。いつかの欠点はカメラ側で補正することができ、最終的に対処すべき問題はボケに現れる口径食と、絞り開放付近での像面湾曲くらい。
価格は「90mm F2.8」としては少し高いと感じるものの、ビルドクオリティや抜群の携帯性に価値を見いだせれば安いと感じるかもしれない。今のところオンリーワンの存在。ただ、中望遠にボケやコストパフォーマンスを求めるのであれば「AF 75mm F1.8 FE」「VILTROX 85mm F1.8」なども要検討。
購入早見表
90mm F2.8 DG DN Leica L | |||
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90mm F2.8 DG DN Sony E | |||
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作例
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