このページではシグマ「35mm F2 DG DN」のレビューを掲載しています。
ダイジェスト
- 頑丈で質感の良い金属外装・金属フード
- 少し癖があるものの静かで高速なAF
- 接写以外は良好な光学性能
- Contemporaryラインとしてはやや高め
まえがき
レンズのおさらい
レンズ概要
- 2020年12月18日 発売
- 商品ページ
- データベース
- 管理人のFlickrアルバム
- レンズ構成:9群10枚
- 開放絞り:F2
- 最小絞り:F22
- 絞り羽根:9枚(円形絞り)
- 最短撮影距離:27cm
- 最大撮影倍率:1:5.7
- フィルター径:58φmm
- レンズサイズ:φ70mm × 67.4mm
- 重量:325g
- 簡易防塵防滴
- ステッピングモーター駆動
2019年に発表した「45mm F2.8 DG DN」を含め、今回発表した3本のレンズ「24mm F3.5 DG DN」「35mm F2 DG DN」「65mm F2 DG DN」と合わせて「Iシリーズ」と呼ばれるレンズ群の一つです。
「Iシリーズ」は今のところContemporaryシリーズに属する一つの製品群であり、小型軽量ながら優れた光学性能とビルドクオリティ、操作性を兼ね備えたレンズを目指しているとのこと。(詳しくはIシリーズ紹介ページを参照)
この35mm F2は小型軽量ながら、頑丈な金属外装に加え、9群10枚のうち非球面レンズ3枚・SLDレンズ1枚を使った複雑な光学設計を採用しています。ソニー純正「FE35mm F1.8」が9群11枚に非球面レンズ1枚のみ使っていたことを考えると贅沢な仕様ですね。
フォーカス駆動にはステッピングモーター駆動を採用したインナーフォーカス方式を採用。静かで滑らかな動作と高速AFが期待できます。
敢えて妥協点があるとすれば、最短撮影距離が27cmと平凡であること。ソニー純正ほど寄れず、サムヤンAF35mm F1.8と同程度です。さらに、価格設定は7万円と比較的高く、ソニー製レンズと比べてアドバンテージはありません。同価格にも関わらず、敢えてサードパーティ製レンズであるシグマを選ぶ理由があるかどうか、これから見ていきたいと思います。
価格のチェック
前述した通り、売り出し価格は7万円前後です。ショッピングモールなどで購入すると実質6万円前半となるかもしれませんが、ソニーFE35mm F1.8と比べて大きな価格差はありません。
35mm F2 DG DN Leica L | |||
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35mm F2 DG DN Sony E | |||
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35mmの明るいAFレンズで言えばサムヤン「AF 35mm F1.8 FE」やYONGNUO「YN35mm F2S DF DSM」が比較的手ごろな価格で入手可能。明るさを犠牲にすることでタムロン「35mm F/2.8 Di III OSD M1:2」がシグマの半値に近い価格で入手可能。正直に言ってソニーEマウントの35mmは激戦区です。
レンズレビュー
Index
外観・操作性
箱・付属品
シグマGVSでお馴染みの白と黒を基調としたデザインの箱にレンズは入っています。かなりシンプルなデザインであり、レンズ構成や外観の描写はありません。プレミアムでもチープでもなく、「シグマらしい」箱と言えるでしょう。
内容物は以下の通り。
- レンズ本体
- 前後レンズキャップ
- マグネット式レンズキャップ
- 説明書
- 保証書
Artシリーズでは無いのでしっかりとしたレンズケースは付属しません。面白いアイテムとして、新開発のマグネット式レンズキャップが付属します。高級感のある金属製キャップですが、使い勝手には癖があります。(後述)
外観
切削アルミニウムを使った頑丈な金属外装です。従来のContemporaryシリーズとは一線を画すレンズの作りであり、正直に言えばArtレンズよりも優れた質感。レンズマウントからレンズの先端であるフィルターソケットまで金属製という徹底ぶり。
全体的に黒を基調としたマットな塗装が施されているものの、フォーカスリングと絞りリングの間に存在するカバーリングのみ光沢のある塗装となっています。
フォーカスリングと絞りリングの間に配置されたカバーリングには、Artラインの後部筒にも採用されているヘアライン加工を施しています。このカバーリングの存在がレンズ自体に表情を与えると共に、レンズ着脱時の指がかりとしても機能します。
とのこと。
確かに指がかかりやすい形状となっています。ただし、光沢塗装は指紋が付きやすいのが難点。
レンズの表示は全体的にプリントです。長期的な使用でプリントが剥げてくるかどうかはまだ分かりません。個人的に絞りリングくらいは刻印のほうが良かったです。
ハンズオン
コンパクトなレンズですが、金属外装ということもあり、325gと程よく重量感があります。
決して操作性を損なうような重量感では無く、プレミアムな質感を演出する上での重厚感と言ったところ。
前玉・後玉
58mm径の金属製フィルターソケットはしっかりとした作り。凹型の前玉ですが、レンズ周囲はマグネット式レンズキャップに対応するためか少し盛り上がっています。このため、厚みのあるフィルターを装着すると、干渉する可能性あり。一般的なプロテクトフィルターやNDフィルターであれば問題ないと思いますが、凹凸のあるクローズアップレンズなどは気を付けたほうがいいでしょう。
前玉にフッ素コーティングが施されている記述はありません。水や汚れの付着が想定されるシーンではプロテクトフィルター装着がおススメです。
真鍮製レンズマウントは4本のビスで固定。マウント周囲は簡易防塵防滴用のガスケットを備えています。後玉はマウント面からわずかに奥に隠れた所で固定されています。内部は密閉されており、外側から内部へ異物が混入する機会は少ないはず。
フォーカスリング
1cm幅の金属製フォーカスリングは滑らかに回転し、程よい抵抗量で動作します。ピント移動量はフォーカスリングの回転速度に依存しますが、素早く回転してもピント全域で180度程度の回転角が確保されています。ゆっくり回転すると約720度の回転が必要となり、非常に高精度でのピント合わせが可能です。
絞りリング
5mm幅の金属製絞りリングも滑らかに回転し、十分な抵抗量で動作します。1/3段ごとにしっかりとしたクリックストップが発生するため、静止画撮影に最適です。85mm F1.4 DG DNのように、クリック解除機構はありません。
スイッチ
「AF/MF」スイッチを搭載していますが、光軸に対して垂直にスライドする珍しいタイプのスイッチです。左手をレンズに添える際、自然と触れることが出来る位置にあるため操作しやすいと感じます。程よい抵抗量があるため、誤操作の心配は少ないでしょう、
レンズフード
レンズ本体と同じ質感の金属製フードが付属します。外側には滑り止めの加工が施され、内側には反射防止用の加工と塗装が施されています。VILTROXの金属フードにも感心しましたが、さらに上を行く質感と実用性と言えるでしょう。
ただし、比較的高価なレンズフードのため、紛失したり破損した場合に追加購入する場合は1万円弱ほど必要です。
マグネット式レンズキャップ
普通のプラスチック製レンズキャップに加え、金属製のマグネット式レンズキャップも付属しています。質感は非常に良好でしっかりとした作り。キャップの裏側にはフェルト生地が張り付けられ、レンズ外装などを傷めないような工夫が施されています。
キャップをレンズに被せるだけでピッタリと装着可能。脱落しにくく、外しやすい、程よい匙加減となっています。ただし、フィルター類を装着すると使えなくなります。
さらにレンズフードを装着するとマグネット式レンズキャップを摘まんで外せなくなります。実質、レンズフード・フィルターなしで運用が必要。使用時の保護性が皆無であり、やや心もとない。
外したマグネット式レンズキャップは別売りのキャップホルダーに装着可能。カラビナ付きのため、ベルトやカメラバッグに取り付けておくと便利かも。実用性はありそうでなさそう。
装着例
コンパクトなα7Cと組み合わせても違和感の無いレンズサイズです。フロントヘビーとはならず、片手でも操作可能。鏡筒が太くないため、グリップとレンズの間の空間に余裕があるのもGood。
AF・MF
フォーカススピード
決して爆速では無く、ソニーFE35mm F1.8と比べるといくらか遅いです。とは言え、一般的な撮影で十分なフォーカススピードであり、高速スナップや近距離のアクション撮影でもしない限り不満はありません。
AF-S時は合焦前に少しハンチングする傾向があり、スナップ撮影などでは気になるもたつきとなるかもしれません。また、合焦時にレンズの歪曲収差補正が一時的に切れるため、四隅が一瞬だけ歪んで見えるのは気が散るかも。
ブリージング
FE35mm F1.8と比べると目立ち、接写時は無限遠と比べて画角が少し狭くなります。
精度
今のところ特に大きな問題には遭遇していません。合焦前に軽度のハンチングがあるため、見切り発車でレリーズしてしまうとピントがずれる可能性があります。
MF
前述した通り、回転角が大きく扱いやすいマニュアルフォーカスです。素早い操作、精密操作どちらにも対応。
近距離解像力チャート
撮影環境
テスト環境
- カメラボディ:α7C
- 交換レンズ:35mm F2 DG DN
- パール光学工業株式会社「【HR23348】ISO12233準拠 8K解像力テストチャート(スチルカメラ用)」
- オリンパス HYRes 3.1 解析ソフト
- 屋内で照明環境が一定
- 三脚・セルフタイマー10秒・電子シャッター
- α7CのRAWファイルを使用
- ISO 100 固定
- Adobe Lightroom Classic CCでRAW現像
・シャープネス オフ
・ノイズリダクション オフ
・色収差補正オフ - 解析するポイントごとにピントを合わせて撮影
(像面湾曲は近接で測定が難しいので無限遠時にチェックしています) - 近接でのテストであることに注意(無限遠側はさらに良好となる可能性あり)
補足
今回はRAW出力を元にしてシャープネスをオフの状態で検証しています。ボディ出力のJPEGやRAW現像でシャープネスを整えるとより数値が向上する可能性があります。今回の数値はあくまでも「最低値」とお考え下さい。
テスト結果
中央
F2から良像と言える「2500」を超える数値ですが、遠景解像テストの結果と比べるとイマイチ。おそらく、ピント距離による収差の変動が大きく、特に接写時にパフォーマンスが大きく低下するのかなと予想。
絞ると急速に改善し、F4までにピークの「4180」を達成します。これは2400万画素センサーとしては限界となる数値です。単焦点レンズでもこのような数値となるレンズは多くありません。
さらに絞るとパフォーマンスは低下し、F16付近まで「3500」前後の良好な性能を維持しています。F22のみ絞り開放と同程度まで落ち込むので注意が必要。
周辺
絞り開放では良像を下回る結果となりました。ソフトな描写のため、良像を得るには2?3段ほど絞りたいところ。絞ると急速に改善し「3000」前後の良好な結果をF16まで維持しています。
四隅
周辺部と同じく絞り開放付近はとてもソフトな描写。絞っても改善速度が遅く、F8まで絞って許容範囲と言ったところ。以降はF16まで同程度の性能を維持し、F22のみソフトとなる。
全体
ピント距離によってパフォーマンスの変動が大きなレンズです。無限遠側では四隅まで非常に良好な性能を発揮しますが、接写時は周辺から四隅の画質が大きく低下します。接写時にフレーム全体の解像性能が必要となる場面は少ない(被写界深度が浅く、ピントを合わせづらいため)と思いますが、被写体を周辺に配置する場合は少し絞ったほうが良いでしょう。
この結果をどのように受け取るかは撮り方次第。ボケ描写ではプラスと働く可能性もありますが、マクロ撮影でシャープな描写を期待すると肩透かしとなる可能性もあり。ただし、中央に限って言えば接写でもかなりシャープです。
数値確認
中央 | 周辺部 | 四隅 | |
---|---|---|---|
F2.0 | 2920 | 1781 | 2095 |
F2.8 | 3510 | 2216 | 1816 |
F4.0 | 4180 | 2821 | 2095 |
F5.6 | 3742 | 3163 | 1867 |
F8.0 | 3468 | 2979 | 2474 |
F11 | 3413 | 3200 | 2474 |
F16 | 3495 | 2900 | 2425 |
F22 | 2810 | 2426 | 2095 |
実写確認
やはり絞り開放付近は像高5割あたりでも甘い描写であることが分かります。極端な像の乱れは無いので画像処理次第で実用的な画質となる可能性あり。
レンズの比較
絞り開放の性能はソニーFE35mm F1.8と同程度。周辺や四隅の解像性能はタムロンやサムヤンのほうが良好です。接写性能の高い35mmを探しているのであれば、タムロンのコストパフォーマンスが非常に高い。焦点距離が多少変わりますが、45mm F2.8 DG DNも良好です(球面収差が残存しているので少し滲みを伴いますが…)。
絞るとソニーはじわりじわりと改善しますが、このレンズは四隅がそこまで改善しません。24-70mm F2.8 DG DNのほうが良くなるほどです。
遠景解像力
テスト環境
- 2020-12-18:曇天:微風
- α7C
- Leofoto G4
- Leofoto LS-365C
- 非圧縮RAWをAdobe Lightroom Classic CCで現像
・シャープネス0設定
・ノイズリダクションオフ
テスト結果
中央
絞り開放から非常に良好な解像性能を発揮。軸上色収差による滲みも見られず、これと言った問題点は見られません。「DG DN Art」と比べて突き抜けるようなヌケの良さではありませんが、非常に良好な性能には間違いありません。
F2.8まで絞るとコントラストが僅かに改善しますが、シャープネスにこれと言った改善は見られません。少なくとも2400万画素のα7Cでは絞ることによる画質改善効果が薄い。それだけ絞り開放から良好な光学性能と言うことですが。
F4まで絞るとシャープネスとコントラストが向上します。α7Cでは顕著な違いが見られないものの、より高画素センサーで使用した場合に違いが大きくなるはず。
F5.6~F8でコントラストが僅かに低下するものの、全体的に見てピークの性能を維持。F11~F16でさらに低下し、絞り開放よりも少しソフトに見えます。とは言え、実用的な画質と言えるでしょう。F22のみ、かなりソフトとなります。
周辺
中央ほどではありませんが、絞り開放から良好なパフォーマンスを発揮しています。この画角のレンズとしては良好に非点収差を抑えているように見えます。F2.8まで絞ると僅かに画質が安定し、F4まで絞れば非常に良好なピークの性能に到達します。
F8までピークは続き、F11で極僅かにコントラストが低下。F16でさらに低下し、絞り開放よりもソフトな画質となります。F22はさらにソフトですが、画像処理次第で使えなくもない印象。
四隅
中央や周辺と比べると、若干ですが像に乱れが発生しています。とは言え、このクラスの35mmとしては非常に良好なパフォーマンスです。F2.8?F4まで絞ると、残存していた収差が収束して非常に良好な結果を得ることが出来ます。
パフォーマンスのピークは概ねF4~F8。F11?F16でコントラストが僅かに低下しますが、絞り開放よりは安定した画質です。F22のみかなりソフトとなるので、出来れば避けたいところ。
全体的
中央や周辺はソニーFE35mm F1.8やサムヤンAF35mm F1.8とよく似た性能を発揮しています。さらに四隅はより良好なパフォーマンスを発揮しており、絞り開放から安定感のある結果を得ることが可能。絞った時の改善速度も速く、明るさを維持しながらシャープな結果を得たい時に重宝することでしょう。
実写で確認
撮影倍率
最短撮影距離は27cm、最大撮影倍率は1:5.7。
このクラスとしては平凡な性能であり、ソニーFE35mm F1.8やキヤノンRF35mm F1.8 IS、そしてタムロン35mm F2.8 DI III OSDなどと比べると見劣ります。サムヤンAF35mm F1.8 FEと同程度。
クローズアップ以外で困る撮影倍率ではありませんが、小さな被写体相手の場合だと「あとちょっと」寄り切れない感じがします。
倍率色収差
倍率色収差とは?
主にフレーム四隅に現れる色ずれです。絞り値による改善効果が小さいため、この問題を解決するにはカメラボディでのソフトウェア補正が必要となります。ボディ側の補正機能で比較的簡単に修正できます。
実写で確認
絞り値全域で特に大きな問題はありません。ソフトウェア補正を適用せずとも無視できる収差量に抑えられています。無限遠の解像性能テストの結果も併せて考慮すると、ピント全域で倍率色収差の問題は無いとみて間違いないでしょう。
軸上色収差
軸上色収差とは?
軸上色収差とはピント面の前後に発生する色ずれを指しています。手前側で主にパープルフリンジとして、奥側でボケにグリーンの不自然な色付きがあれば、その主な原因が軸上色収差です。簡単な後処理が難しく、できれば光学的に収差を抑えて欲しいところですが、大口径レンズでは完璧に補正できていないことが多いです。
実写で確認
65mm F2 DG DNと比べると絞り開放の軸上色収差が少し多めに残存しています。ハイコントラストなシーンでは少し目立つかもしれません。サムヤン「AF35mm F1.8 FE」よりも良好で、ソニー「FE35mm F1.8」よりも少し悪いように見えます。
絞ることによるピント山の移動(フォーカスシフト)はありません。球面収差による影響はなく、開放測距で問題ナシ。
前後ボケ
綺麗なボケ・騒がしいボケとは?
ボケの評価は主観的となりがちですが、個人的には滲むように柔らかくボケるのが綺麗と感じます。逆に、段階的にボケず、急にボケ始める描写を硬調で好ましくないと感じます。
実写で確認
小ボケ領域は前後の質感に違いはありません。ボケ量が多くなると、比較的後ボケのほうが少し滑らかな描写に見えます。
軸上色収差の補正が完璧ではないため、小ボケ領域に僅かな色づきが見られます。滑らかな後ボケでは目立ちませんが、やや硬調な前ボケではマゼンダの色づきが目に付く場面があると思われます。
ソニーFE35mm F1.8と比べると後ボケが滑らかな描写で、色づきも少ない。顕著な違いではありませんが、じっくり使い込むと少し気になる差と感じるかも。個人的にはシグマの滑らかなボケ描写が好みです。
実写で確認2
中央から像高7割程度は良好な描写に見えます。滲みを伴う柔らかいボケとは言えませんが、まずまず良好。周辺3割は口径食が強く、ボケが小さくなるため少し騒がしく見えます。場合によっては軸上色収差を伴ってより騒がしい描写となる可能性あり。F2.8まで絞ってもあまり改善しないため、しっかりと抑え込みたいのであればF4まで絞ると良いでしょう。
周辺のボケ描写はソニーFE35mm F1.8なども似たような描写となります。敢えて言えばソニーのほうが少し騒がしい。
拡大して確認すると、やはり中央は滑らかで柔らかい描写であることが分かります。高輝度で僅かな色収差の影響があるものの、特に心配するほどではありません。
その一方で四隅に木漏れ日などがフレームインすると騒がしい描写となります。絞ると口径食が改善するものの、ボケの縁取りが硬調に見えるのは残念。
実写で確認3
35mm F2で数m離れると十分なボケ量を得ることは出来ません。非点収差やコマ収差の補正が比較的良好であり、四隅まで顕著な描写の乱れがないのは評価できるポイント。
実写で確認4
被写体に接近するとボケ量が大きくなり、四隅のボケ描写が許容できるまでに改善。ただし口径食の影響は強めです。全体的に見ると、非常に滑らかで心地よい描写ですね。
実写で確認5
玉ボケ
口径食・球面収差の影響
口径食が強いと、四隅が楕円状に変形したり、部分的に欠けてしまったりします。これを解消するには絞りを閉じるしかありません。しかし、絞ると羽根の形状が見えてしまう場合もあるので状況に応じてF値を変化させる必要あり。
逆に口径食の影響が少ないと、絞り開放から四隅まで円形に近いボケを得ることが出来ます。これは玉ボケに限った話ではなく、一般的な四隅のボケ描写の質感にも繋がります。口径食が強いと、ボケ量が少なく感じたり、四隅のボケが荒れてしまう場合もあるため、口径食の小さいレンズが好ましい。
球面収差の補正が完璧では無い場合、前後のボケ描写に差が発生します。この場合はどちらかが滲みを伴う滑らかな描写になり、反対側で2線ボケのような硬い描写となってしまいます。
実写で確認1
極端な描写の差はありませんが、比較的後ボケが滑らかであることが分かります。
実写で確認2
屋外イルミネーションのテストは雨天決行。このため、前玉に水滴が付着してしまいボケの内側に不自然な点が写りこんでいます。今回はこの「点」を無視してご覧ください。
非球面レンズを3枚使用していますが、玉ねぎボケの兆候は見られません。玉ボケの内側のムラは避けられませんが、コントラストが高い背景でも悪目立ちすることは無いはず。
これまで見てきたように、口径食の影響があります。完璧に抑え込みたい場合は少なくともF4まで絞るのがおススメ。円形絞りのため、絞っても玉ボケが強く角ばることはありません。
歪曲収差
歪曲収差とは?
歪曲収差とは、平面上で直線的に写るはずが直線とならずに「歪む」収差です。特に直線が多い人工物や水平線が見えるような場合に目立ちやすい。主に魚眼効果と似た形状の「樽型歪曲」と中央がしぼんで見えてしまう「糸巻き型歪曲」に分かれています。
実写で確認
歪曲収差は僅かな糸巻き型です。補正オフの状態でも良好に抑えられていることが分かります。そのままでも問題なく利用できますが、ボディ側のレンズ補正をオンにすることでほぼ完璧に補正されています。
さて、普段なら歪曲収差のチェックはここで終了ですが…
このレンズは少し特殊な動きを見せたのでもう少しじっくりとチェックしてみましょう。
ひとまず周辺減光のテスト結果をご覧あれ。
周辺減光
周辺減光とは?
周辺減光とは読んで字のごとく。フレーム周辺部で発生する不自然な減光のことです。中央領域と比べて光量が少なく、フレーム四隅で露出不足となっていることを指します。主に大口径レンズや広角レンズで強めの減光が発生、ソフトウェアで簡単に補正できる現象ですが、露出不足を増感でカバーするのでノイズ発生の原因となる点には注意が必要。特に夜景で高感度を使う場合にはノイズが強く現れる可能性があります。
実写で確認
レンズ補正をオフにすると絞り開放で目立つ周辺減光が発生します。絞るとある程度改善しますが、四隅の減光がしつこく残ります。無限遠と最短撮影距離における周辺減光の違いは目立たず、どちらもF4まで絞ると良好な状態へ改善。
既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、このレンズは無限遠と最短撮影距離では歪曲収差の形状が異なっています。
Re:歪曲収差
無限遠側では穏やかな樽型歪曲となり、最短撮影距離付近では中程度の糸巻き型歪曲へと変化。ズームレンズで広角側と望遠側で歪曲収差の形状が異なることは多々ありますが、単焦点レンズで歪曲収差の形状が変化するレンズは珍しい。
ボディ内「レンズ補正」ではピント距離に応じた歪曲補正が適用される模様。ただ、完全には補正しきれず、ピント距離によっては収差が残存してしまう可能性あり。とは言え、目立つ糸巻き型歪曲は近距離時のみ発生します。被写体と少し距離を開けると問題は小さくなるので過度に心配する必要は無いでしょう。
ただし、近接側から無限遠側へオートフォーカスした場合、合焦後に歪曲収差補正が切り替わるので少し不自然なライブビューとなるかもしれません。
また、撮影距離によって画角も大きく変化(フォーカスブリージング)していることが分かります。急なピント距離の変化で想定外のフレームアウト・フレームインが発生する可能性があります。
コマ収差
コマ収差とは主にフレーム四隅で点像が点像として写らないことを指しています。例えば、夜景の人工灯や星、イルミネーションなど。日中でも木漏れ日などが影響を受ける場合があります。後処理が出来ないため、光学的に補正する必要がある収差。絞ることで改善するものの、夜景や天体撮影など、シャッタースピードが重要となる状況では絞り開放のコマ収差補正が重要となります(絞るとシャッタースピードかISO感度に影響があるため)。
テスト結果
完璧ではありませんが、35mm F1.8クラスのレンズとしてはとても良好に補正されています。ソニーやサムヤンよりも優れた補正状態と言えるでしょう。おそらく四隅の安定感はこのあたりの収差を良好に補正していることから来るものと思われます。
逆光耐性・光条
フレーム周辺
65mm F2 DG DNと比べるといくらか悪く、絞り開放でも目に付くゴーストが発生しています。絞るとさらに隠れていたゴーストが顕在化し、数多くのゴーストが発生します。全体的に見てあまり良好とは言えませんが、ソニーはシグマ以上に目立ち、サムヤンはさらに悪い状態です。
光条はF8付近で発生し始め、F16?F22でシャープな描写となります。
フレーム隅
逆光が四隅にある場合も影響が少なからず発生します。特に絞った場合はゴーストが目に付きやすいので注意が必要です。
総評
肯定的見解
ココがポイント
- 適度なレンズサイズ
- 優れたクオリティの金属外装
- 金属製レンズフード・レンズキャップ
- 簡易防塵防滴
- 優れた操作性のフォーカスリング・絞りリング
- 使いやすい垂直式AF/MFスイッチ
- 静かな動作で適度に高速なオートフォーカス
- 無限遠でフレーム全域が安定した解像性能
- 良好な倍率色収差補正
- 良好な軸上色収差補正
- まずまず良好で柔らかい後ボケ
- このクラスでは非常に良好なコマ収差補正
- きちんとした逆光耐性
間違いなく強みとなるのは、頑丈で美しい作りの金属製外装。質感や見た目のみならず、フォーカスリングや絞りリング、そしてAF/MFスイッチの操作性も非常に良好です。
光学性能は遠景で安定した解像性能やコマ収差補正を得られる一方、接写では大部分で滑らかなボケ描写を実現しています。特に遠景でのコマ収差補正はソニーやサムヤンよりも遥かに優れており、夜景や星景で快適なF2を利用できると感じるはず。ボケも優れた描写ですが、四隅の騒がしさは他の35mmと似ており、「圧倒的有利」とまでは言えません。
批判的見解
ココに注意
- 平凡な最短撮影距離
- Contemporaryラインとしては少し高価
- 金属キャップ使用時はフード・フィルター使用不可
- フッ素コーティング非対応?
- フォーカスブリージングが目立つ
- 極まれにAFでピントを外すことがある
- 最短撮影距離付近では特に四隅の性能が低下する
- 口径食が強く、四隅の小ボケが騒がしくなりがち
- ピント距離で変化する歪曲収差
- 逆光で絞るとゴーストが出やすい
最も注意したいのはオートフォーカス。一般的な撮影距離であれば快適に利用できますが、接写から無限遠を行き来する場合はブリージングが目立ち、変則的な歪曲収差と遅延が見られるライブビュー補正が気になります。
また、無限遠では安定した解像性能が期待できるものの、最短撮影距離付近では周辺の描写に大きな低下が見られます。ピント距離による収差変動は大きいと見ておいたほうが良さそう。
総合評価
完璧に近いビルドクオリティと安定した無限遠の解像性能は間違いなくおススメポイント。その一方で接写時の周辺解像や変動が激しい歪曲収差、目立つブリージングがあるAFなどは好みが分かれるかも。その上で、ソニー純正に近い価格設定で競争力を維持できるかどうか判断が付きません。
シグマ「35mm F2 DG DN | Contemporary」交換レンズデータベース
購入早見表
35mm F2 DG DN Leica L | |||
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併せて検討したいレンズ
Sony FE 35mm F1.8
シグマと比べて強みとなるのは、より短い最短撮影距離と高速AF。絞りリングこそ無いものの、AFLボタンを搭載しているので、使い勝手は好みが分かれそう。スナップシューターや動きものを撮影するのであればシグマよりコチラがおススメ。歪曲収差も光学的に補正されています。
その一方で、コマ収差の補正状態が悪く、場合によって四隅がかなり騒がしくなります。口径食も強いのでボケは比較的騒がしく見えます。このレンズでボケを滑らかに見せるためには最短撮影距離を活かした接写が重要。
Samyang AF 35mm F1.8 FE
このクラスでは最も低価格で軽量な35mm F1.8のAFレンズ。接写時の光学性能は3本で最も安定しており、コストパフォーマンスは非常に良好。コマ収差の補正状態はソニーに近いうえ、逆光耐性は3本中で最も悪い点には注意が必要です。
さらに、レンズ外装はプラスチック製で非常に安っぽい作り。コストパフォーマンスは良いものの、この質感に妥協できるかどうかは人次第。特にレンズフードの質感はもう少しなんとかしてほしかったところ。
サムヤン AF 35mm F1.8 FE 交換レンズデータベース
TAMRON 35mm F2.8 Di III OSD
開放F値が1段暗いものの、実売3万円台と非常に安く、0.5倍のハーフマクロや防塵防滴に対応した面白いレンズ。光学性能は非常に良好で、特に接写時に四隅まで安定した解像性能を得たいのであれば要検討。コストパフォーマンスは間違いなく高い。外装はプラスチック製ですが、サムヤンほど安っぽく感じない頑丈な作りです。
犠牲となっているのは主に足回り。OSD駆動のオートフォーカスは動作がぎこちなく、駆動音も聞こえます。ブリージングも目立つので動画撮影にはおススメできません。
タムロン35mm F/2.8 Di III OSD M1:2 Model F053 交換レンズデータベース
作例
関連レンズ
- Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA
- FE 35mm F1.8
- Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA
- 35mm F1.4 DG HSM
- 35mm F1.2 DG DN
- 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2
- AF 35mm F1.4 FE
- AF 35mm F1.8 FE
- AF 35mm f/2.8 FE
- Loxia 2/35
- Batis 2/40 CF
- NOKTON 35mm F1.2 Aspherical SE
- NOKTON classic 35mm F1.4 E-mount
- 7Artisans 35mmF1.4
- ANTHY 35mm F1.8
- YN35mm F2S DF DSM
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